第3話(9)

エピソード文字数 1,988文字

 あっ。もしかして、シズナを大人しくさせる方法を捻り出してくれてるのかな? そうなのかな?

「にゅっ、にゅむっ。育月ちゃんっ」
「よかったら、このピーマン先生をワシらぁに売って欲しいがよ。それは可能やろうか?」

 うんわかってた。違うんだろうって。

「英雄――じゃなくてワシらぁの友達に、野菜が大好きな先生がおるが。それでその先生は丸ごとかぶり付きたい人やき、そのままのを欲しいがよ」
「いっつも探し求めてるから、食べさせてあげたいのっ。いーかなー?」
「わりぃ二人とも。そういうのはできないんですよ」

 あのキャラだと断るのに時間が掛かるし、ないとは思うが――従妹に悪印象を抱かれるのは嫌だからね。優星兄様(奴隷)が代弁した。

「『できるだけ多くの人に、平等に味わって頂きたい』って想いがあって、家を訪ねてきた人は勿論、親戚であっても優遇しないようにしてるんだ。ここにあるのだって味見用に採ったヤツで、俺も滅多にお会いできないんだよ」
「にゅむ……そっかぁ。ワガママ言って、ごめんなさい」
「育月先生。困らせてスマンぜよ」

 二人は手を合わせ、心の底から謝る。
 以前断わられた人が怒鳴り散らしたことがあって、心配してしまったんだけど――。やっぱしこの子達は良い人で、杞憂だったな。

「でもお二人さん、悲しまなくていいですよ。ゲットできるチャンスがありますからな」

 諦めなくても、いい。いいんだにゅむ。

「にゅむ? にゅむむ?」
「俺も手伝うことになってるんだけど、明日南国市のスーパーで販売会をするんだよ。なので、そこに行けば買えるんですよ」

 ある理由で、育月は積極的に販売会を行っている。これはチラシにも載ってる情報なので、発表しました。

「おおっ、それは僥倖ぜよ! 販売会は何時スタートで、どのくらい前に並べば買えるがっ?」
「私は、午前六時と見たわ!」
「販売会は、正午からなんで……そうだな……。伯父さん、明日は何袋用意してますか?」

 数によって、完売の時刻が変わる。これを確認しとかないとね。

「今回は、いつもと同じだよ。そうだったね、育月?」
「は……はぃ。そう……です」
「ん~、だとしたら…………一時間半前だね。十時半に並んどけば、間違いなく購入できるよ」

 一時間前だと、確実とはいえない。数はそれなりにあるんだけど、どっさり押し寄せるんだよねぇ。

「ぉぉっ! それやったら、本人先生が来れる時間やねっ。シズナ先生、連絡してあげてつかぁさいっ!」
「……嫌。従兄くんが、優しくしてくれたらやる」

 シズナはプクッとほっぺを膨らませ、俺の脚をギュッと抓った。
 おいおいおいおい……。今日のコイツ、ホント面倒臭いな。

「従兄くん。私に、そのカツオの天ぷらを食べさせてください」
「だ、駄目……ですっ。兄様、それは……だめっ」

 ああもうっっ! シズナのせいで、その気もないのに育月が張り合いだしちゃったよ!

「し、師匠、友達先生のタメやきっ。あーん、をやっちゃってや」
「にゅむっ、お願いゆーせー君。どーしても、食べさせてあげたいのっ」
「い、いけません、兄……様っ。そういうのは、早い……ですっ」

 コイツは俺を微塵も好きではないので、『だったらわたしも、あーんを』とは発しない。そのため止めさせる行動しか取らないから、余計にややこしくなるんです。

「私…………従兄くんが食べさせてくれないと、いや。連絡してあげないもん」

 シズナ、絶賛ダダコネ中。退くことはまずないだろう。

『おいどうする? その親友とお前は無縁だから、拒否っとくか?』

 英雄には最強決定戦の時に出場を辞退してもらって、お世話になってるからね。それはしないよ。

『じゃ、どうやるんだ? どんな風に、プチ修羅場を乗り切るよ』

 謎の声。こういう時は、あれだろ?


 誰かが犠牲になれば、大抵は丸く収まるんだよ。


(シズナ、今晩たっぷり怒ってあげる。だから、へそを曲げないでくれ)
(…………布団の中で、私の太腿を撫でながらなら許す)

 なにソレ! ヘンなオプション付けないで!

(そ、それは……。その、だね……)
(従兄くん。出来、ないの?)
(……………………承知しました。お望みの行動をやりますよ)
(そうっ! なら至急連絡するわね!)

 魔法使い魔王は異様に嬉々として席を外し、襖の向こう側へ移動して魔法を発動させる。
 ほーらねー謎の声。あっという間に解決さ。

「ぇと、兄……様? 今、何をお話しして……ました?」
「些末事だよ。ささっ、食べよう食べよう」

 俺はにこやかに返事をして、心中では頭を抱える。
 ど、どうしよう……。今夜布団の中で、太腿を撫でてたっぷり怒らないといけなくなっちゃった……。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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