求道
文字数 2,731文字
わが魂はあなたの救を慕って絶えいるばかりです。わたしはみ言葉によって望みをいだきます。わたしの目はあなたの約束を待つによって衰え、「いつ、あなたはわたしを慰められるのですか」と尋ねます。
(旧約聖書『詩篇』119編81節)
2人は電車に揺られる。
幸音が躊躇いつつ口を開く。目は真っすぐ陽太を見つめている。
しかし、そんな陽太の想いは届かず、幸音はかえって不安げな表情を見せる。
どんどん暗くなっていく幸音の表情。救いを切望しているように見える。
宗教に戻ってもらいたくないという思いとは裏腹に、ついフォローしてしまう陽太。
幸音が陽太に期待していたのは、宗教を否定することではなく、神の愛を肯定することであったようだ。複雑な気持ちになる陽太。
一方幸音は、神の愛を信じるべきか否かで揺れている。陽太の腹の底など知る由もなかった。
再び幸音の表情が暗くなる。神が自分を愛してくれているかどうか、確信が持てないため、周囲の人間の言動を頼りにしているようである。それ故に、陽太の発言に過剰に影響される。
神の不在を示唆すれば表情が暗くなり、神の愛に言及すれば表情が明るくなる。他者の言動に心理状態が左右される一方で、神の愛を信じたいという願望を抱いていることは、陽太の目に明らかであった。
これ以上無神論を推すのは厳しいかもしれない。陽太は幸音に”近く”にいてもらいたいが、幸音が慕い求めているのは神の愛であった。急に幸音が遠くなったように感じる。まるで好きな人を奪われたような感覚。
こうして波乱万丈の1週間が過ぎ去った。