2020年3月28日

文字数 1,543文字

2020年3月28日
 I open the window in the Saturday morning. Coffee smells and I look around the scene of Tokyo. No one walks. I slightly smile. “Tokyo…shit…”

 朝になると、咳こむが、呼吸が苦しいほどではない。ただ、痰が出る。眼が今日も痛い。体温は37.7度ある。平熱が37度半ばなので、一般の人の36.7度くらいだろう。

 小池百合子東京都知事による休日の外出自粛要請は、人が動き、集まることで感染拡大を招くことを警戒してのことだろう。確かに、それは日本の古典にも認められる。

 『徒然草』50段に鬼騒動と疫病をめぐる次のような話がある。

 応長の比、伊勢国より、女の鬼に成りたるを率て上りたりといふ事ありて、その比廿日ばかり、日ごとに、京・白川の人、鬼見にとて出で惑ふ。「昨日は西園寺に参りたりし」、「今日は院へ参るべし」、「たゞ今はそこそこに」など言ひ合へり。まさしく見たりといふ人もなく、虚言と云う人もなし。上下、ただ鬼の事のみ言ひ止まず。
 その比、東山より安居院辺へ罷り侍りしに、四条よりかみさまの人、皆、北をさして走る。「一条室町に鬼あり」とのゝしり合へり。今出川の辺より見やれば、院の御桟敷のあたり、更に通り得べうもあらず、立ちこみたり。はやく、跡なき事にはあらざンめりとて、人を遣りて見するに、おほかた、逢へる者なし。暮るゝまでかく立ち騒ぎて、果は闘諍起りて、あさましきことどもありけり。
 その比、おしなべて、二三日、人のわづらふ事侍りしをぞ、かの、鬼の虚言は、このしるしを示すなりけりと言ふ人も侍りし。

 話の概略はこうだ。1311年3月の頃、伊勢の方から女が鬼に化けて京に入ったという噂が流れる。20日ほど経つと、京都や白川の人々の間でこの話題が沸騰する。ところが、誰も見た者はいない。ある時、「一条室町に鬼がいる」と四条通りから上の方の住民が大勢で騒ぎながら、北へ向かって走っていく。人がごった返ししていて、通る隙間さえない。日暮れまで大騒ぎも続き、しまいにはケンカを始める連中まで現われる。しかし、結局、鬼を見た者はいない。その後、感染症があちこちで流行するようになる。詳しい記述はないけれども、発症すると、2、3日ほど寝込む症状の疾病のようだ。症状が軽いようなので、疫病と言っても、天然痘を始めとする致死率の高いシビアな疾病ではないだろう。巷では、鬼がこの感染症の前触れだったと言う人もいる。

 鬼が疫病の予兆だったと言うよりも、その騒動に伴い大勢が移動したり、密集したりしたために、感染症の流行につながったと理解すべきだ。これは今日にも通じる。人の移動を制限し、社会的距離を取れば、感染拡大が抑制ないし鈍化できる。

 日本の歴史において疫病と言うと、天然痘や麻疹、赤痢、インフルエンザ、コレラなどが知られている。疫病は大陸との関係が拡大した奈良時代より記録に現われる。これは大陸から感染症が伝播したからだけではない。中国に倣って律令制を整備、保健衛生の記録を取るようになったためでもある。以後、さまざまな史料に疫病の記述が見られるようになる。ただ、今日と違い、疫病が流行しても、症状が詳しく記録されているとは限らず、この『徒然草』50段のように、それがどのような疾病であるのか判断しかねる場合も少なくない。

 夕食はジャスミン米にインド風チキンカレー、ゆで卵、ポテトのヨーグルトサラダ、野菜サラダ、食後はコーヒー。屋内ウォーキングは10447歩。都内の新規陽性者数は63人。

参照文献
吉田兼好、『新訂 徒然草』、岩波文庫、1985年
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