2020年4月25日

文字数 843文字

 私は映画『007』シリーズのファンで、きっかけは親友Sがファンだったこと。彼の影響で『007』のみならず映画を観るようになって、年末にはその年の映画ベストテンを披露し合うのが恒例でした。私とSは映画の趣味が違うので、彼の好きな映画を私が観ていなかったり、その逆もあったりで、お互いに刺激しあっていました。映画の趣味は合わないけど、ものすごく気が合うので、彼となら何時間でも話をできました。コロナ禍に入ってから、そのような機会はめっきり減ってしまいました。
 2020年4月10日は、007シリーズ最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の、元々の日本公開日でした。もちろん映画の公開は延期、今でも公開日未定です。ずっと難病で長期入院していたSは、007の公開日を目標に、治療とリハビリに励んでいました。退院したら二人で、フォーマルスーツに蝶ネクタイでバシッと決めて観に行こうと約束していました。
 2020年4月25日。Sは急死しました。ノー・タイム・トゥ・ダイ(死んでる暇はない)じゃないのかよ、と突っ込みたくなりましたが、彼は007の新作を観ることなく逝きました。
 私はしばらくショックで何も手につきませんでしたが、あの世で心配かけるのも申し訳ないし、Sが酔っ払った時に何度か言っていた「お前の書く小説を読んでみたい」という言葉が引っかかって、文章を書いて人様にお見せするということに挑戦することにしました。元々文章を書くことは好きだったのですが、怠け者なのでずっと先延ばしにしていた挑戦。彼は文章を書くのが好きな私の背中をずっと押してくれていたのですが、鈍感な私は彼の死までそのことに気づかなかった。その後悔は、おそらく生涯つきまとうでしょう。
 天国のSに心配をかけないように。自分の文章が、誰かの心に少しでも楽しさを与えられるように。そして、自分が死んだ後、天国でSに自分の人生を自慢できるように(間違って地獄に行かないように気をつけます)。これが、私がコロナ禍で頑張っていることです。
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