木曜日

文字数 7,818文字

 7時です、おはようございます。
 ワンルームに鳴り響く目覚ましのベル。と言っても、それは携帯の電子目覚ましの音だ。
 俺の家には昔から目覚まし時計というものが無い。携帯内蔵の目覚まし機能で事足りる俺にとって、あの殺人的な金属音は全くもって不要だった。むしろあんな音を毎日聞くなんてことになれば、仕舞には体調を壊してしまうだろう。というわけで、携帯の目覚まし機能は俺にとって精神衛生上、非常に有用なものだった。
 昨日の休日は思いがけないレクリエイションとなったが、本日は夜勤である。夜勤となるので、出勤は20時からだ。そういうわけで、何も7時なんていつもどおり起きる必要はない。なんとなれば、通勤時間ギリギリまで寝ていても問題ないのである。そして、いつもはそうしている。
 にも拘わらず、なぜ今日は早起きすることにしたのか。なぜでしょう。俺も聞きたい。俺は俺に激しく詰め寄り、一体なぜなんでしょう、と強く問うてやりたいところなのですが、そんなことする必要もなく、自分の頭でハッキリと分かっていることなのであった。
 つまりは昨日の出来事だ。コーヒーカップセットを買いに行ったり、川下りをしたり、観覧車に乗ったり。そういうことを一緒にした女の子が原因なのである。美佐という女の子。


 昨日の色んな出来事は一体何だったんだろう。
 マスターの突然のリクエストでコーヒーカップセットを買いにいくことになったが、気が付くと美佐とデートをしていた。いや、デートすること自体はまぁ良いのだが、信じられないのは、月曜にあったばかりの女の子、一体どういう素性なのかも碌に知らない女の子に、俺は年甲斐もなく心を揺さぶられてしまったということだ。で、更に不思議なのは美佐の方もまんざらでもなさそうだということ。
 俺は夢想家のようにロマンチックなんて信じていない。運命の人と出会えて恋に落ちるなんて腹の底が痒くなってくるが、でも事実、今の俺は美佐のことが気になってしまうという気分になっていた。そして、それが本日夜勤にも関わらず、7時に目を覚ました理由だ。
 アルルカンのマスターは仕事が好きだ。
 アルルカンの営業時間は7時から20時だから、単純に毎日12時間労働だ。俺のところでも残業はあるが、毎日で12時間も働かない。一度疲れないの?とマスターに聞いたことがあるが、マスターはそんな質問どこ吹く風。仕事が遊びみたいなもんや、と笑いながら言った。まぁ俺みたいな衰えた身体に鞭打ってノルマをこなすって仕事と違って、喫茶店みたいな仕事はお客に憩いの場を提供するのが仕事みたいなものだ。そういう場所では、マスターが笑って仕事してくれるから常連客も癒されるんだろうなと思った。
 そういうわけで、アルルカンは7時から開店している。開店しているということは美佐も働いているということなので、俺はなんだか心がふわふわと落ち着かなくなって、昨日食べれなかったモーニングでも食べに行こうかな、と思った。


 服を着替えたりなんだかんだしてたら日本橋のマンションから出たのが8時半。それからぼちぼちアルルカンまで歩いていくと、店についたのが9時前だった。
 いつも通り、骨董品のような重たいドアを開けると、そこにぶら下がったこれまた年代物のベルが面倒臭そうにガランと音を鳴らした。
 「ういっす。」
 なんだろう。いつも通りアルルカンに入ったつもりが、なんだか自分の中で酷くぎこちない。恥ずかしいような気がして少し俯きがちになる。
 「いらっしゃいませ!」
 昨日、散々自分の隣で聞いた声。本日も元気に仕事を始めているようだ。そういや今日で出勤4日目か。
 「あ、隆志!」
 「いらっしゃい。」
 美佐の快活な声の後から、マスターのいつも通りの何気ない声。マスターの声は、あからさまに客を出迎えるわけでもなく、かといって突き放すような言い方でもない、本当にいつも通りと言った声をかけてくれる。俺みたいな気持ちがいつも後ろ向きな人間にとっては、そのマスターの距離感がとても有難かった。
 「おはよ。働いとるねー。」
 俺は美佐のみならず、マスターにも極力そわそわ感を気づかれないように美佐に軽口を言った。美佐はカウンターを拭いて片付けをしているところだった。
 店内には一人客がいたが、丁度勘定をして出ていくところだった。常連の山喜さんだ。
 「お、隆志。おはよ。またな」
 「ういっす。山喜さん、仕事いってらっしゃい。」
 店にくる面子は皆名前が割れていて、お互い面識がある。というか、こんなに小さな店、嫌でもお互い知り合いになってしまう。普段だったら俺はそういうコミュニケーションは一番嫌いな人種だったはずだが、なぜだかここに居ついてしまった。でも、それがなぜなのか、理由はもう分かっている。つまりアルルカンに集まってくる人種なんて、皆そんな奴ばかりなのだ。同じ人種。同じ価値観で同じ距離感を抱えた人間。そういう人種で作った場所だから、そりゃ居心地が良いに決まってるのだ。
 俺はドアを開けながら、山喜さんが財布に金をしまって出ていくのを待った。有難うという代わりに俺の脇腹をぽんっと触ってから、山喜さんは出て行った。ドアを閉めたと同時に、美佐が俺に声を掛ける。
 「あれ、今日仕事は?」
 「今日は夜っ勤。」
 言いながら、いつもの奥の席に陣取る。美佐がすぐにおしぼりと水を持ってきてくれる。俺の顔を見てから、彼女が嬉しそうな顔をしている気がするのは、ちょっと自意識過剰すぎるかもしれない。
 テーブルに置かれたおしぼりを開けて、とりあえず顔を拭く。水に口をつけたところでマスターが言った。
 「夜勤の朝にこんな早う来るんなんて、お前珍しいな。」
 「早うって、9時やし、そんな早ないやん。」
 やっぱりいつもと違う行動をしているから、マスターには気が付かれる。なんだか恥ずかしい。そわそわを押し殺しながら、何か良い言い訳ないかなと考える。
 「昨日モーニング食べれんかったから、リベンジ。」
 うん。俺にしては良い口実だ。案の定マスターは、あっ、と思い出したような顔をしながらおでこを一つ叩く。
 「あ、それな。すまんすまん。後からな、可哀そうなことしたなって思っててん。」
 「それ、いつ思ってん」
 「美佐ちゃんからコーヒーカップセット受け取った後」
 「昼過ぎてからやんな。大分遅ない?」
 「悪かったな。でもそのおかげで、ホレ。」
 ホレ。と言いながら、マスターは食器棚を開けて中に自慢げに陳列してあるコーヒーカップセットを俺に紹介した。
 「コーヒーカップは見せる物ではなく、使う物やと思いますけどねぇ。」
 「もう暫く目で愛でるんですっ」
 マスターは心から嬉しそうな顔をしながら、食器棚を注意深く両手で閉めた。何かの神様を信仰でもしているかのような手つきだ。
 「はいはい、そうですか。それは良かったねぇ」
 「夜勤の日はいつも夕方まで寝てるん?」
 美佐が唐突に聞いてくる。なんだろ。マスターに怪しまれたくないから、そろそろ別の話題に移りたいなーなんて思ってるんですが。
 「うーん、そうかなぁ。自分ではよう分からんけど」
 「そうやで、美佐ちゃん。こいつが早起きなんかする訳がないやん。機敏に動いてるところなんか見たことないような奴やねんで。ナマケモノかこいつかってくらいやねんから」
 「いやいやいや、そんなことないですから。」
 「どうせ、美佐ちゃんがおるからやろ。分かってるねんで。」
 ドキッ。
 口から心臓の音が飛び出るところだった。
 コップから水を飲む途中で、含んだ水を吹き出しそうなところをなんとか食い止めた。コップを咥えたまま固まった身体で、ゆっくり目だけを美佐の方にもっていく。
 美佐と目があった。
 マスターのやや後ろ、死角になったところで美佐が両眉を上げながら鼻の穴を膨らましている。どんな表情だ。子供か。
 「昨日きた客、皆、美佐ちゃん美佐ちゃんゆうてな。鼻の下伸ばして阿呆みたいや。ええ年したおっさんが気持ちが悪い顔してるで、ほんま。」
 ああ、そういうことか。マスターは常連の反応を見て、俺も同類かという話をしているようだ。美佐と俺の昨日からの雰囲気から何かを察したという訳ではないらしい。そりゃそうだ。マスターはそこまで敏感な方ではない。俺は密かに胸を撫でおろしながら、コップに残った水を飲みほそうとした。ところで、
 「昨日、船楽しかったもんね。」
 美佐が突然、昨日の川下りのことを言い出した。
 「ぶふッ!」
 俺は盛大に水を吹き出した。飲み込んでいた水が気管に入って激しくむせた。
 「おいおい、大丈夫か。調子悪いんか?」
 マスターがすぐに布巾でテーブルを拭いてくれる。美佐も水を汲み直したりといそいそと動いてくれる。
 「ご、ごめん。ちょっと気管に入った。」
 「ええな、道頓堀の渡し船乗ったんやってな。面白かったか?」
 マスターが笑顔をこっちに向けながら言う。
 「え、あ、ああ。そうそう、まぁ面白かったよ。」
 「めっちゃ面白かったわー。街の中を下っていくなんて、変な感じやった。」
 美佐が合いの手を入れる。
 「へー。それは面白そうやなぁ。」
 「マスターも奥さんと乗ってみたら良いやん。絶対、喜ぶと思うよ!」
 どうやら美佐は昨日、店に帰ってからマスターに船の話をしていたようだ。まぁ確かに、朝から買い物に出掛けたのに、戻るのが昼を大分過ぎていたのだから理由を問われるのも無理ないだろう。なんだか勝手に後ろめたい気分になって挙動っている俺は一体何なのか。自分より20個も下の女の子に手を出しているからか。え、あれ?なんか、21歳の子供に手を出したら捕まるんだっけ?法律に違反していましたっけ。うーん。もやもや。
 「何をぼーっとしてるん?気持ち悪いで。」
 必死で足りない頭を回転させている上から美佐の声が聞こえてきたかと思うと、目の前にアメリカンが静かに置かれた。出来立ての良い匂いがしてきた。
 「ちょっと考え事してたの。」
 「なんの考え事よ。そんなに考えることないやん、自分。そんで、モーニングやんな。」
 「どゆことよ!考えることくらいあるわっ。んで、うん。ハイ、モーニング。今日こそ、食べさせてもらいます。」
 俺は、昨日しくじったモーニングを今日こそは食べさせてもらいます、という決意と男気を見せるべく、眉間に皺を寄せて真剣な男らしい顔をして美佐を見上げた。しかし真剣な顔どころか残念な変顔にしかならなかった悲しい俺の顔を見て、美佐は手を叩いて大層笑った。


 「ああ、めっちゃ美味しいねぇ。目玉焼きとベーコン。お互いがお互いを助けあってるってゆうの?そういうの、俺好きだな。この一皿にはさぁ、壮大なドラマがあるよね。慈しみと助け合いと芳醇な味わいのミックスアップっていうかさぁ。それでいて、上品に盛られたサラダも良いアクセントを生み出していると思うよ、うん。キャベツの千切りとか丁寧な仕事、マジ神。ふわふわのトースト、このきつね色した焦げ目とか良いなぁ。」
 「… …美佐ちゃん、こいつどないしてん。」
 「どうしたんでしょ。いっつもこんな感じですか?」
 「なんでやねん。いっつもはこんなことゆわへん。やっぱり今日はなんかおかしいな、こいつ。え?隆志。なんやねん、お前。ごちゃごちゃゆわんと、さっさと食え。」
 マスターと美佐が不思議そうに俺の方を見ている。
 そりゃ、俺もとっととモーニングを食べたいとは思うよ、うん。まさしく正論だね。だけどね、こっちにもこっちの事情っちうやつがあるのだよ。
 その事情っていうのはつまり、モーニングを食べ終わって一しきり休憩しながら、アメリカンを飲んでも、せいぜい粘れるのは二時間ということだ。アルルカンに滞在できる時間。滞在できる時間、すなわちそれがイコール美佐と一緒に居ることができる時間なのだ。夜勤は20時からで、アルルカンの営業時間も20時まで。つまり本日美佐と一緒に居れるのは、彼女がアルルカンに出勤中の今だけということになる。
 そういう訳なので、足りない頭でもって俺が考えた作戦は『モーニングに語り掛け出来るだけ時間引き延ばし作戦』だった。だが、一つの問題点があるとすれば、それはあまりにもその様子が奇怪極まりないところだ。
 「はよ食え!」
 マスターがその奇怪さに耐えかねて声を荒げる。
 「お、俺が頼んだモーニングを、俺がどうしようとも、マスターには関係ないことやろ」
 俺は俺のモーニング所有権を主張する。
 「うるさいわい!食べ物はな、語りかけるもんとちゃうわ。冷めてまうやろ。この!こうなったら、わしが食べさせたる」
 「ちょ!ちぇっ。や、やめろや!阿呆!」
 という、おおよそ通常の喫茶店では起こりえない事態が今、この喫茶アルルカンで勃発していた。
 マスターがカウンターから両手を伸ばし、俺の口に目玉焼きとベーコンを押し込んでいる。俺がもぐもぐと食ってる矢先にトーストが横から押し込まれる。マスターの顔は鬼気迫っている。その横からお腹に手を当てて爆笑しながら、美佐がアメリカンを俺の頬に押し付けている。


 平日の世間の移ろいは諸行無常で儚い。人の一生なんて宇宙の星々に比べてみれば一瞬の閃きだ。だからこそ僕たちは互いの存在を認め合い、手と手を取り合い助け合いながら、今という時代(とき)を抱きしめて生きていかなければならない。
 「今という時代(とき)を抱きしめて…」
 「なぁ、美佐ちゃん。こいつ、やっぱりなんかおかしいで。口の周りに食べカスいっぱいつけて、何かぶつぶつゆうてるで。アメリカン飲みながら。」
 「マスターが無理やりモーニング食べさしたからちゃいます?」
 「ほんまに頭おかしくなったんか?おい、隆志」
 「… …何い。」
 「お前、調子悪いんやったら、はよ帰れ」
 俺の目の前のテーブルに散乱したモーニングの皿を拾いながらマスターが言う。
 「ちょ、ちょっと待って!もうちょい、もうちょい居らしてぇな」
 やばい。ちょっとマスターに強引にやられたせいで、少し呆然自失となった少女の気分になってしまった。菩薩のような心が無になる境地だ。だが、そんな無我の境地のせいで事態がまずい方向に動いている。
 「いや、あかん。常連客の健康がアルルカンの第一方針なんや!お前の健康を害するようなことは、このわしが許さへん」
 「そ、そんなん、そんな健康的なアルルカンの方針、今まで聞いたことないけど」
 「今決めたんや!」
 今決めたんや!と大声で言うマスターの表情は割りと本気だ。ああ見えて結構真面目なマスターのことだから、俺の事を本気で心配してのことだろう。そんなマスターの気持ちを無碍にもできない俺は、分かったよ、と言いながら、とぼとぼと帰る用意を始めた。腕時計を見ると丁度11時を指していた。やっぱり2時間が限界か。
 「んじゃ、しゃあないから、帰ろうかなぁ。」
 「家帰って、よう休むんやで。仕事に影響でぇへんようにな」
 マスター、そういうんじゃないんだよ。もっとこう、メンタル的なわくわくというか。できれば、お店に居させてくれた方が元気が出るかもというか…。なんて、そんなことも言える訳でもなく。
 「えー、もう帰ってしまうん?」
 美佐が座ってる俺を見ながら言う。俺は慣れない笑顔、的な顔を彼女に向けて立ち上がった。
 「うん、また明日来るわ。マスター、心配してくれて有難う。ほな、また来るわ。ご馳走様」
 「おう。気いつけてな。」
 店の玄関を出る前に美佐とマスターに手を振ってから、俺はアルルカンを後にした。
 平日の昼間に特にすることがなかった俺は、時間を潰すためパチスロにでも行こうかと思って歩き始めると、ラインが入ってきた。
 美佐からだった。昨日、ひっかけ橋の上で交換したのだ。
 『家出るの何時?行く前にちょっと会おう』
 心臓が飛び出しそうに嬉しかったのは、内緒だ。やり取りして18時半に地下鉄の改札前で会うことになった。


 「おーい、隆志。」
 「よう、ミサミサ」
 地下鉄の改札前に行くと、真ん中の大きな柱のところに、既に美佐が立っていた。
 「ミサミサって何よ」
 「あだ名」
 「なんか、軟派な感じで嫌や」
 「そう?俺は気にいっとうけどな」
 「まぁ、別に呼び方なんか、どうでも良いけど。」
 そう言うと美佐は俺の服の袖を引っ張って、自分の右側に引き寄せた。そしてなんだか悲しそうに俺を見上げるので、昨日と同じような具合で軽くキスをした。
 「店はどうしたん?」
 「ちょっとだけ買い物しに行きたいってゆうて、出てきた」
 「サボったらあかんねんで」
 「サボらへんわ。」
 何が面白い訳でもないけど、俺と美佐は笑った。実際、本当に楽しかった。なんだか手持ち無沙汰だったので、手を繋いでみた。今までもやもやしていた気分がすっきりするような感じがした。
 「マスター、隆志の身体のこと、めっちゃ心配してたやん」
 美佐が思い返すように言う。
 「そう!そやねん、俺、どこも悪いところないっちゅうねん。どうやったら、アルルカンに長居できるかなっていうのを、一生懸命考えとった訳よ。どうやったら長くアルルカンに粘れるっちうか」
 「ちょ!ちょっと、もしかして、それでモーニング食べんとひたすら喋り掛けてたん?!」
 「そうやで」
 「うける!」
 うける、と言いながら、美佐は俺の胸の中にうずまりながら、しばらく笑っていた。俺はそのまま抱きしめて逃走したい気分に駆られたけど、寸でのところで理性を総動員させた。
 「あのさ」
 「うん?どしたん」
 「今から、休憩したいんやけど…」
 「え、あかんやん。今から仕事やろ」
 「うん。なので」
 俺は胸の中に小さく収まっている美佐を両手で割としっかりめに包んでみた。美佐が小さくあっと声をあげた。柔らかくて気持ちが良かった。人通りが多かったけど、そこら中にカップルなんていっぱい居るだろう。これも一つの風景だよ。誰も俺たちなんか見ていない。美佐は目を閉じたまましばらく動かなかった。
 そうこうしている内に、そろそろ時間となったので、俺は美佐を開放した。
 「名残惜しいけど、ほなそろそろ行くわ。」
 「うん。いってらっしゃい」
 イコカをかざして改札を通る。
 後ろを振り向くと、美佐がまだこっちを見ていた。俺はがらにもなく手を振ってみると、美佐も手を振った。今気づいたけど、遠目から見ると、デニムのジーンズが美佐に良く似合っていた。
可愛いな、と思って、立ち止まって少し見ていると、どうやら美佐の携帯に電話が掛かってきたようだった。美佐は電話に出ると、俺の方に背を向け話込み始めた。そのとき一瞬見えた彼女の表情が、なんだかとても驚いているように思えた。
 それから、いつまで経っても美佐の電話は終わる気配がなかった。もう一度、美佐の顔が見たい気がしたけど、俺は良い加減諦めて仕事に向かった。
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