epilogue jinx (8)

文字数 761文字

 わたし達は席に腰を下ろす。

 陸くんは興奮冷めやらぬようで、ずっと拳を握っている。

 ゆっくりと館内の照明が照度を落とし始めた。

 非常口の照明だけがいやに目立つだけで、もう闇の世界に住んでいるような気分になった。これが昔の映画館なんだ。なにかドキドキする。

 それからスクリーンに大きく『3』の数字が現れた。続けて『2』『1』とカウントダウンしてる。まさか爆発とかしないよね。

 映像が映ったと同時にオーケストラのような重厚なメロディーも聞こえ始めた。体じゅうで音を受け止めたように、わたしの中でずっと残響してる。

 制作会社のロゴが次々と映り、否応なしに物語が始まる気分にさせる。もう非常灯の明かりも目に入らない。

 部屋全体が360°全て映画の世界になるハウスシアターとは全然違う。レトロなシステムだけど、ミストレスが言った臨場感というのが少しわかるような気がした。

 わたしはあっという間にその映画館の世界観にぐいぐいと引き込まれた。

 映画はもうすっごく良かった。ラストは大号泣して、ハンカチ絞ると水滴が垂れるくらいだった。

 わたしのあまりの泣きッぷりに、陸くんは顔をひきつらせていたけど。

 映画館を出るとき滝川さんは、またお越しください、と丁寧に頭を下げてくれた。

 うん!来ます!絶対来ます!

 最初はジンクスに頼って来たけど、いまはもうそんなのどうでもよくなっちゃった。

 とっても美味しい珈琲の喫茶店に、重厚な雰囲気のレトロが魅力の映画館。

 こんな素敵な場所に出会えたのが、なによりの収穫だよ。

 とっても素敵な一日に、わたしは心がとっても気持ちよくなった。

 今日という日をわたしは生涯忘れない。

 そして、わたしはそれからも足繁く、未来と恋坂に通うことになる。

 それから、いずれわたしが『未来』の三代目を継ぐのは、また別のお話。

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