愛と、カレーは全ての罪をおおう

文字数 2,177文字

夕方になったので、そろそろ解散しようか、というころ、
タケばーちゃんが、でっかい鍋をもってあらわれた。
「あらあら、ほんと、この教会にこんなに若い人がいるなんて久しぶりねぇ。」
「な、見とるだけで気分が若返るじゃろ。」
「タケおばーちゃん、それ、カレー?」
「そうそう。おじーちゃんが、カレー、カレー、って何度もラインしてきてねぇ。」
・・・タケばーちゃん・・それ、トラじーちゃんのSOSだったんじゃない・・・?
「お家の人がよかったら、ですけど、よろしければ、皆さん一緒に
 晩御飯、食べて行ってくださいな。美味しいカレーですよ。」
 「ぼたん、たべたーい!(そして、さっきのカレーのこと忘れたーい!)」
 「私もたべたいです・・・(さっきのカレーの悪夢の記憶を改竄したい・・・・・)」
「わ、私、家に連絡してみます(あのカレーの匂いを上書きしないと・・・)」
「俺も家に連絡しとこー!(女の子と晩御飯だー!)」
 ・・・二か国語音声みたいにいろいろきこえたな・・・・

旧会堂で、俺、ダリア、ぼたんちゃん、ひまわりちゃん、ゆりさん、葉一、
トラじーちゃんと、タケばーちゃん、と食事のテーブルを囲んだ。
(ちなみに、さくらは塾があるから、と残念そうに帰っていった)
   
カレーが、いつもの色であることに、非常に安心を覚える・・・!

トラじーちゃんが、食前のお祈りをしたい、といった。
「このお祈りは、食事を主に感謝するものじゃから、ノン★クリスチャンの君たちは、
 聞いとるだけでええぞ。
 超・短く祈るから、わしの祈ったことに、“そのとおりだなぁ、”  
 と思ったら、“アーメン”と言ってくれたら嬉しいのぅ。
“アーメン”とは、“ザッツ★ライト”(そのとおり!)という意味じゃから、わしのお祈りに、“ザッツ★ライト”だったら、“アーメン”じゃ。」
そういわれても、『お祈り』という行為に、ゆりさん、葉一は緊張したようだった。
「天地万物の造り主、父なる神様、
この食事を、みんなで楽しく食べれることをありがとうございます!
この食事で、我らの全てを元気づけてください!
イエス様のお名前でおいのりします!アーメン!」
「「「「「「アーメン!」」」」」」
「ほんとに、あっという間のお祈りだったな・・・」
葉一が、つられてアーメン、といったあと、あっけにとられてつぶやいた。

なんだかんだで、教会に帰ってから随分時間がたったから、空腹だ。
全員、まずはスプーンを口に運ぶ。

ぱく。

・・・・・・・・
う、ううう、うーまーいーぞー!!!!
口から、光がほとばしるような!
まろやかでいてコクがあって、それでいてスパイシーで香高い、このカレーは!
「うんまー!」
「おいしいねっ!おいしいねっ!」 
「こ、こんなにおいしいカレー、初めて食べたかも・・・!」
「サイコーデス!!!!」
がつがつと食べる俺たちを、タケばーちゃんが、嬉しそうに、見ていた。
「タケおばあさん、このカレー、いつもよりおいしく感じます・・」
ひまわりちゃんが、おしゃれなゴスロリワンピを汚さないように気をつけながら、
ハイスピードでスプーンを口に運びつつ、言った。
「さすが、毎週礼拝のあとカレーをたべているとわかるのねぇ。
 ・・・・そのカレーは、樹(じゅ)太郎(たろう)がつくったのよ」
「え、あの、樹太郎君が・・・?彼、ご飯つくれたんですね・・・」
「そうなの。樹太郎はね、こういうことが、実は得意でねぇ・・・」
樹太郎?とダリアが首をかしげたのをみて、トラじーちゃんが説明した。
「樹太郎はな・・・都会に住んどる、わしらの娘夫婦の子でな、、、
 ・・いじめにあって、学校にいけなくなってしまってのぅ。
 いま、中学三年じゃから、娘も学校にいけない樹太郎が心配で心配で・・
 少し、環境をかえたほうがいいじゃろう、そういうことになって、
 わしらの家であずかってるんじゃが・・・」
「ほんと、いい子なんですよ・・料理が得意でねぇ。」
「彼、小学生のころ、何回か教会に来たことありましたよね」
「うーん、ぼたん、おぼえてない・・」
「俺も昔、樹太郎君と、何回か会ったことあるんだけど・・」 
あまり記憶にのこってない。
たまに、タケばーちゃんに『会ってくれないかしら?』といわれて、
家まで会いにいったけど、一度も玄関にでてきてくれたことがない・・・

「このカレーを作れる中学生、か・・・!」
ごくりと、葉一がつばをのむしぐさをした。
「キャンプのゴハンがオイシクナリマス・・・!」
「キャンプのご飯担当、ぼたんたちだけじゃ不安だよ・・・!」
「彼には、自分が役に立てるという経験が必要なのではないでしょうか・・・!」
「こ、このカレーと、彼の腕前を褒めてあげたら、自信がつくかも・・・!」
「じゅ、樹太郎がバイブルキャンプに参加できたら幸せじゃのう・・・!」
「樹太郎なら、三リットルでも、五リットルでも、カレーできますよ・・・!」

ということで、ご飯の後、みんなで樹太郎君に会いに行くことになった。
・・一人で会いに行っても出てきてくれない、シャイな樹太郎くんに
全員で会いに行く。
   ・・・鬼か。

   ・・・鬼か。(大事なことなので二回いう。)
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