第1話

文字数 92,722文字

闇に眼が慣れて来た。暗く垂れこめた雲が、月を隠していた。前方に人影が三人、旧六本木シティー街を、歩いて来る。銃を肩から吊った兵士の様だ。米田は手に持っている日本刀・関ノ孫六、二尺六寸を右手から鞘ごと、左手に持ち替えた。闇夜の中の警備兵だろうか?そんな事はどうだって良い、一刻も早く奴らの体から吹き出る血が見たい。兵が何かを感付いた様に、肩に吊ってある、M16A2カービンを右手に持ち、前を伺いながら急に足音を殺して接近してくる。米田は核ミサイルで廃墟と化したビルの隙間から兵士を又もや覗き見る。3人の兵は米田の前方約2,5メートル程に近づいてきた。米田は鯉口を切り、二尺六寸関ノ孫六を、スラリと抜いた。一瞬闇夜に月が出て、関ノ孫六の刀身がピカリと光った様に見えた。
 青白く光った刀身は、米田が軽く前へ突き出しただけで、ズブリと一番右側の兵士に刺さった。兵士は何が起きたか分からずに、一声も上げずに、クタリとその場に倒れた。兵士たちの互いの距離は、5メートル間隔と少し離れていた。異変に気付いた真ん中の兵士は、慌ててマグライトを倒れた兵士の方へ向ける。
 「オイ、大変だ、ジェームスが倒れているぞ」
 真ん中の発見した兵士は大声で叫ぶ。
 「何だって?オイ、ジェームス?」
 左方を見回っていた、兵士は走り寄ってきて、倒れて喉から血を流してる男、ジェームスに近づき怯えて後ろを振り返る。
 振り返ると、顔面に血糊をこびりつけて、ニタリと笑う東洋人が立っていた。立っていたというのは僅かな間で有った。男は、ヒュッと横薙ぎに一刀一閃させると、兵士の喉元に赤い筋が走り、持っていたM16A2アサルトライフルを、使用も出来ずにあの世に旅立って行った。
 その間2人を殺害するのに、僅か2分で有る。もう一人の兵士は、余りの突然の事で、唖然と立ち尽くし、震える両手で、アサルトライフルを、構えようとしていた。
 その殺戮者米田は、スッと立ち上がり、腰に吊ってある44オートマグショートバレルカスタムを、素早く抜いて、見当を付け、兵士の胴体を狙い撃つ。兵士は逃走に掛かろうと後ろ向きになり、44オートマグのマグナム弾が、背中から左肩に掛けての、肩甲骨を撃ち抜く。兵士の左肩がその直後、弾丸が着弾して、消失してしまう。
 米田は、3人の死骸に近付き、M16A2アサルトライフルを、3丁頂戴し、弾薬3カートン、胸に吊って有る手榴弾6個を、奪い、真夜中の六本木の街を、歩き去る。
 米田はの、今夜のヤサは、廃墟と化した六本木の街に黒く佇む様に建っている、旧六本木アークヒルズ、アーク要塞と現在では、呼ばれている。米田は、左腕に嵌めている、カシオのGショックの日付を見ると、本日は、西暦1993年8月3日だ。時刻は、午前4時32分。アーク要塞地下3階へ歩いて入る。今、愛車にしている、レガシーツーリングワゴン。これが、取り敢えずの米田の寝床だった。
 レガシーのコクピットに入り、バックヤードを開ける。バックヤードに、本日収穫した、M16A2アサルトライフル3丁、無煙手榴弾6つを、大きなジュラルミンの箱に入れ、M16、2丁を分解し、畳んで仕舞う。
 バックヤードに、ブルーシートを被せて、残ったM16アサルトライフル一丁と、スペアの弾丸を、リアシートに置き、コクピットに着き、ドアーをロックする。燃料はまだ半分有る。
 米田は、辺りを見回し、人気の無い事を確認して、腰のポーチから、注射器を取り出して、昼間渋谷の闇市で買った、白い粉を、ペットボトルに、少量残ったお茶を中に入れ、良く掻き混ぜて、注射針で吸う。腕に注射器を刺し、液体を注入し、一息つく。
 「フゥ~」
 思わず溜息が出、眠気が襲ってくる。股間が、はち切れんばかりに疼き、車から出て、アーク要塞の避難民キャンプ、の有る、3階へ向かう。3年前の突然空から襲ってきた、中華人民共和国からの、核ミサイル攻撃により、アークヒルズは半壊し、ビルの上階は、殆ど吹き飛ばされてしまっていた。窓ガラスも、鉄筋の壁も、所々穴が空き夜風が吹き付けてくる。
 米田は、3階まで歩き、一つのテントを、目指していた。テントの中には、中年の女が3人寝て居、一番右側の簡易ベッドに、寝ている女に近付く。
 指で女の頬を突くと、目をパチリと開け、女は米田を認めると、安心した顔で、半身を起こし、脇に置いて有る、茶碗の中のミネラルウォーターを飲む。
 「お兄ちゃん、こんな夜中に何?」
 妹ヤヨイは、32歳、3年前の中華大戦の折、六本木の地下鉄の駅に居て、難を直接は逃れた。2年前、米国ハワイ州から、帰国した米田は、3ヶ月掛けて、妹の所在を突き止め、アーク要塞に避難していた事が分かり、米田も、アーク要塞に越してきたのでだった。
 「ヤヨイ、俺の物を鎮めてくれ」
 米田は、徐に戦闘服のズボンを引き下げ、パンツも脱ぎ、勃起した一物を、闇夜に曝け出した。ヤヨイは、ゴクリと唾を飲み、兄で有る、米田一仁のペニスを、両の手で掴み、扱き出す。口の中に、はち切れんばかりの一仁のペニスを飲み込み、激しく首を振りスラストさせる。米田一仁は、1分で妹の口の中に射精する。
 翌日、米田は愛車レガシーツーリングワゴンで、渋谷の街へ出た。旧東急映画館の、跡地へ出来た、日本に進駐して来た、共産軍の残党、黒白会の前に車を停める。
黒白会は、中華大戦の折り、核攻撃が終了した際、上陸して来た、宗少将率いる、約一千名の、独立部隊の、残党で有った。宗部隊は、九州に上陸した、第二共産軍の旅団から別れて、特殊任務に就いた、独立部隊で東京に進出してきた際、米軍第四十二陸戦隊と、戦闘をし、その大多数の兵士を失い、約二百五十人が生き残り、渋谷の東急映画館跡地に、陣を引き、日米の陸戦隊を三度蹴散らし、黒社会の組織の様に、渋谷のブラックマーケットを取り仕切る、ヤクザ組織に、落ちぶれた。
 黒白会のメンバーは、残った武器弾薬で、日本の自衛隊及び、米陸軍の混成部隊・JA治安部隊、市民からの愛称はマッドポリス、の攻撃を再三退け、独立ヤクザ組織として、渋谷のマーケットを、牛耳っていた。
 米田は、旧東急映画館の前へ、レガシーツーリングワゴンを、路駐し、M16A2アサルトライフルを、右手の脇に抱え、正面玄関から中へ入ろうとすると、立哨に立っていた、中華軍の残党兵士、今はヤクザ組織黒白会の、見張りとして、玄関に立っていた。米田は、合言葉を言う。黒白会の人間は、母国に帰る術がなく、日本に永住する積りで、日本語を必死で覚え、日本語を解する様になっていた。
 「北京の血は何色だ?」
 立哨に立っていた男は、顔見知りの米田とは言え、律儀に決まりを守り、同じ合言葉を又もや言った。
 米田は答えた。
 「黒く赤い血の色は、天安門で燃えた」
 それだけ言うと、玄関口から中へ通された。玄関口から中へ入ると、非常階段で三階の、フロアーへ昇る。中では50人程の中共軍の残党が、タバコを吹かし、通路脇で、アサルトライフルを、米田へ向け、にやけて居たり、麻雀の卓を囲んでいたりしていた。米田は、腰に吊って有る、関ノ孫六の柄を軽く握りしめて、三階の奥の事務所へ行く。
 コンコンと、2回ノックをし、中から用心棒の男が顔を出す。用心棒の名は、確か、民・青海、出身は、今は核攻撃で壊滅した、香港自由貿易都市の出身であったか。米田は、このナイフ使いの男に少々怯え、身をすくめて事務所の中へ入る。
 事務所の中で、ソファーを背にして、足を机の上に投げ出して、笑っている、元中共軍・元少将が葉巻を、燻らせていた。米田を認めて声を掛けて来る。
 「米田さん、今日は何か?」
 「買って貰いたい物が有る」
 米田は、M16A2アサルトライフルを、宗の前の机に置き、マガジンを抜く。
 「ホウ、これは、M16A2ですな、何丁有りますか?」
 宗は、顔を綻ばせて更に、
 「後、弾薬はいか程?」
 「M16、3丁に、弾薬カートリッジ3カートン、それに米国製手榴弾6個だ」
 米田は、腰のポーチから、手榴弾のサンプル一個取り出して、宗の前に置く。
 「これね、無煙手榴弾デスね、で、何と交換なさいますか?」
 宗は、髭を少し指で揉み、現金、日本円の束を机の下から取り出す。
 「いや、現ナマは要らん、ヘロイン1㎏と、注射器を、セットで交換してくれ」
 「ハハハハ、今時現金は、使い物にならないですからネ、ヘロ500㎏ならイイね」
 米田は、不承不承、承知し、路上に止めている、レガシーツーリングワゴンまで、用心棒、民と降りる。
 二人は無言で作業し、路上に停めて有る、レガシーの近くで、浮浪児達が、遠巻きに、車を見つめている。三人程の子供が、車に近づき、フロントガラスや、リアウィンドウを、汚いウェスで拭い、手を出してきた。
 用心棒の民は、ポケットから、ガーバーのナイフを出し、右へヒュッと一薙ぎする。手を出してきた、少年の右手を、スパリと斬り、パカリと開いた傷口から、血が噴出して、少年は、涙顔になる。遠巻きにしていた浮浪児の一団は、民に憎しみの眼を向け、それでも何も出来ない自分達を、呪った。
 米田は、M16、3丁と、手榴弾6個、M16のスペアカートリッジ、3カートンを、宗に差し出し、ヘロイン500㎏を、交換して、レガシーに戻り、発信させる。
 旧渋谷駅西口の、瓦礫の間をすり抜けて、渋谷最大のブラックマーケット・トーキュウに向かう。
 ブラックマーケット・トーキュウは、西口、旧JR南改札から、旧バスターミナルから広がり、道玄坂下の交差点までエリアを持つ。主に食料品、医療品、衣服、酒、そして、破壊されたデパート群から持ち出された、物資を、商っていた。
 その日は、雨がシトシト降り、人出が少なく、西口ロータリーの、駐車スペースは、空いていた。普段なら、生き残って破壊を免れた、車で渋滞していたが、本日は、毒の雨、東京レインが降り、赤や黄色の水滴が降り注ぎ、人出は疎らで有った。
 駐車スペースに車を入れると、米田は、群がって来て、車をウェスで拭く、少年少女達に、ポケットから、チョコレートと、ガムをチップとして渡す。
 バッグに、ヘロイン500グラムの袋を入れて、ブラックマーケット内に消える。
 西口から、駅舎へ入り、井の頭線乗り場へ歩く。途中、一件のバラックが建っており、ノックをし、その中へ入る。
 中は、六畳程の広さが有り、簡易ベッドが奥に置いて有り、ベッドの手前には、テーブルが一つ置いているだけの部屋で有った。
 ベッドには、1人の男が寝そべって居、此方を、じろりと睨んだ。
 「ㇸロ500グラム持って来たぜバイパー」
 バイパーと呼ばれた男は、年の頃は40代中半、目の色は灰色に青み掛かった瞳で、肌の色は、青白く、上半身に、ダウンベストを、着込み、ヨレヨレのジーンズを履いた巨漢の白人である。
 井之頭線通路は、半壊し、屋根も壁も所々核の炎で、溶け落ちて、コンクリや鉄骨が、剥き出しになっていた。そんな駅舎には、バラックやテントが立ち並び、ゴザを敷いて、物品を、物々交換をし、その日を凌いで商っている者も多い。
 そんな中の一人が、このバイパーと呼ばれる、怪し気な男である。バイパーは、米国籍の人間であるとしか語らず、一体何をしに、日本に来ているか不明である。
 米田は、ボストンバッグから、ヘロイン、500グラム出して、バイパーの小屋に有る、机の上に乗せる。バイパーは、面倒臭そうにベッドから起き、ヘロインの袋を小さなハサミで切り、人差し指入れて、一口下で舐めて、顔をしかめる。
 「ヘイ、米田、コレは一体どこから仕入れたブツだ?」
 「ウム、黒白会から、今朝の取引で、貰った物だが、何か問題でも有ったか?」
 米田は、ブラックマーケットで何時も仕入れている、今は手に入れるのは困難な洋モク、マルボロを懐から出して、ジッポーで火を点ける。細く紫煙が棚引き、部屋の空気を濁らす。
 「フム、このブツは、調べて見ないと分からないが、可成り純度が落ちているぞ」
 バイパーは、金貨を3枚出して、米田に手渡す。
 「オイ、バイパー、少なくねーか?、純度が低くても金貨5枚が相場だろう?」
 バイパーは、嫌な顔をして、残りの金貨2枚を出して、米田に手渡す。米田は、金貨を貰うと、後ろを見せずにバイパーの住むバラックから出て行く。
 米田は、渋谷駅の西口改札から出て、ロータリーに有る、ブラックマーケットを、冷やかして歩いていた。後ろから2人組の背の低い男が付いて来る。米田は尾行されていることに気付き、レガシーの置いて有る、駐車場まで足早に歩く。
 相変わらず、東京レインと呼ばれる原爆雨が、シトシト降り、足元を濡らしている。駐車スペースに近付くと、尾行人数が二人から六人に増え、前から、二人、後方から四人の、サングラスにスーツを着た男達が、米田を挟むようにして近付いて来る。夏だと言うのに、スーツにコートを羽織っているのは、89年以来の、核攻撃により、異常気象で、夏の時期でも、雪が降る程寒い日が続き、人々は、地軸が狂ったのじゃないかとさえ思い、そんな噂が飛び交う程冷たい日本の、気候で有った。
 米田は、半壊したビルの隙間の路地へ、サッと身を翻して入る。尾行者六人は、走って来て、懐から自動拳銃を取り出して路地へ入る。 
 先頭になった男が、「ギャッ」と悲鳴を上げる。
 関ノ孫六二尺六寸が、ヒラッと閃き、先頭の男の首筋に突き刺さる。刺さった刃を、左足を踏ん張り、引き抜く、二人目が、直ぐ後ろで発砲して来た。米田は、立ったまま、死亡している、先頭から来た男を、盾にし、銃弾を躱す。死骸から血を噴出し、後方から来た男に浴びせる。米田は、二人目の男に、刃を向ける。又一突きだ、男は、胸元を一突きにされて、もんどりうって、後方から来た残り4人に突っ込む。後ろ4人は、慌てふためき、返り血を、避ける様に後退して、体勢を立て直そうとする。関ノ孫六は、容赦せずに、3人目の男の血を吸う。3人目の男は、後方から、発砲して来た、味方の銃弾を浴び、背中に2発、孫六は喉に刺さり、これも又、血を吐き、直ぐに絶命した。米田は、孫六を刺さったまま放り投げて、懐から、44オートマグ・ショートバレルカスタムを、早抜きして、残った3人に向けて撃ち込む。銃弾は、一人に当たり、右腕を吹き飛ばす。残った2人は、慌てて路地から出て行き、1人出口で転ぶ。そいつを、44オートマグで、後頭部を狙い、3発速射する。背中に2発は入り、即死した。路地で、関ノ孫六を拾い、男から抜いた。孫六を抜くと、白い脂肪が見え、傷口から見て骨まで達していた。
 うつ伏せで死亡している男を、蹴り上げて上向きにして、懐を探る。内ポケットから、J・A治安部隊の証明書が出て来て、米田は、5人の死体から、銃と身分証を奪う。ボストンバッグに詰めて、レガシーの止めて有る、西口ブラックマーケットの駐車スペースまで戻る。
 米田は、コクピットに座り、JA治安部隊の身分証をポケットから出し、じっくりと見る。
 「マッドポリスがこの俺の事、嗅ぎ付けやがったな」
 一人毒付き、車をスタートさせる。
 米田一仁は、今年で36歳になる。3年前の、1989年、中華人民共和国主導の、核戦争が勃発した折り、米田は、陸上自衛隊の、レインジャー部隊の教官として、米国ハワイ州の、特殊部隊キャンプに、留学し、レインジャーの勉強をしていた。
 そして、中国が取り入れた、ICBM核弾頭が米国本土に着弾したその日、米田はホノルルの射撃場で、訓練を行っていた。
 ミサイルが発射されたとき、ラジオで臨時ニュースが流れた。アナウンサーは、興奮し、仕切りにワシントン壊滅、ニューヨークも壊滅、日本も沈没したと連呼していた。
 「一体なぜ日本まで・・・・・・」
 米田は絶句し、絶望を味わった。
 米国本土に着弾した、ICBM核弾頭が発射されて、20分後、ハワイオアフ島沖、十五海里付近にも一発、核ミサイルが放り込まれたが、奇跡的にハワイは助かった。
 日本列島は、南九州、北九州、中国四国、関西圏、中京地帯、そして特に関東地方が集中的に核ミサイル、そして、爆撃機による核攻撃が行われ、各主要都市は、壊滅的打撃を受けた。政府首脳及び天皇家は、核シェルターで助かり、無傷で有った北海道に急ぎ避難し、北海道札幌に臨時政府を、起こした。
 東北の青森、秋田が幸いにも無傷で残り、天皇家は五稜郭に本拠を移した。
 そして、核攻撃を行った中国は、陸戦隊3個師団を、沖縄、九州に、上陸させ、日本本土占領を企てた。
 しかし、中華人民共和国本土にも、アメリカ、イギリス、フランスに依る核攻撃に晒され、チベット地区以外は、灰燼に帰した。
 一方、ロシアは中立を保ち、国内クーデターに備えた。しかし、旧ソからの軍人が軍閥が台頭し、内乱の様相を呈していた。
 そんな中米田は、パールハーバーから、米原子力潜水艦で、半年後帰国した。
 横須賀は、壊滅的打撃を受け、寄港するのに船の残骸が多く、三日掛かった。
 三日後、米横須賀基地の跡地に踏み入れて、米田は国が滅んだ事を初めて実感した。
 折しも、南洋の哨戒任務から寄港していた、米空母ホーネットの、乗組員から、食料を分けて貰い、虎口を凌いだ。
 米海兵士官からの話によると、日米両軍が、富士宮で侵略して来た、中共軍を、撃破し、戦闘は一時終了したと見ても良いとのこと。日米の軍が連携し合い、生き残りの自衛隊員、米陸軍が、東京、神奈川、埼玉、千葉で、新組織、J・A治安部隊を結成し、本土の治安を維持することになった。
 しかし、日米両軍の士気が、著しく低下して、軍規は乱れ、下級兵士達は、焼け残った東京の街で、暴力を振るい、民間人を苦しめた。その人気は一気に落ち、蔑称として、マッドポリス、汚い奴等と言われ、生き残った市民から忌み嫌われていた。
 その中でも特に、六本木を警備する、第一連隊は、黄金と女、そして、土地の占拠そして、住民を圧迫し続けていた。
 米田は一仁は、帰国して、妹を探した、街には、ケロイドを負った市民の生き残りが多数いて、人心は荒廃し、暴力、麻薬、SEX、殺人が、東京の巷に氾濫していた。
 米田は、妹と母を探して、実家のある、新宿区の、下落合に、歩いて出掛けた。
 下落合の自宅には、黒焦げになった、母の死骸と、犬小屋が溶けて、ペシャンコに潰れていた。妹のヤヨイの姿が見当たらず、母の死体を庭に埋めて、手を合わせた。
 米田は、3カ月、住居も定まらず、新宿から六本木に掛けて彷徨った。
 妹のヤヨイと再会したのは、そんな頃であった。ヤヨイは、六本木アーク要塞と呼ばれている、旧アークヒルズビルに、隠れる様に住んでおり、主婦仲間2人と、テントを張り、暮らしていた。
 アーク要塞は、ビルは半壊した物の、そのセキュリティー関係は健在で、自家発電で電気も空調も、補っていた。そんなアーク要塞に、米軍主導の、JA治安部隊に反対し不満をつのらせた、自衛隊・市ヶ谷駐屯地の、有志300名が、立て籠もり、鎮圧に来た、マッドポリスを、、何度かにわたってこれを撃退し、アーク要塞の自治権を、獲得し、自他ともに認める、軍事要塞権、避難民のコロニーとして、現在存続していた。
 しかし、厚木に在る、JA治安部隊本部は、これを認めず、何れここを陥落し、六本木周辺を完全に掌握しようと、企んでいた。
 妹ヤヨイと、再開する一週間前、米田は、群馬県太田市に飛んでいた。目的は、破壊されたスバル太田工場の、モータープールの下に在る、地下貯蔵施設に有るであろう、生き残った乗用車を、鹵獲しようと、この話の提案者、六本木界隈に、巣食っていた、不良グループ、虎舞羅会の、リーダー滝本の誘いが有ったからだ。
 滝本は、どこからともなく、4トンキャリアカーを、持ってきて、滝本の子分、2人と同乗し、群馬県までの悪路と化した、国道407号線を、急いだ。一行は、所々破壊された、市街地を抜け、水爆を一発浴びて、廃墟と化した太田市へ乗り付けた。
 全く、何処もかしこも、核で粉砕されていて、目も当てられない惨状が続き、米田は、吐き気が襲ってくるのを堪えた。
 一行4人は、スバル・富士重工の太田工場の正門の前に、4トンキャリアカーを止め、破壊されて跡形もなくなった、スバルの正門から中へ入って行く。
 案の定、鉄くず泥棒達の、巣になっており、米田は闇夜の中で、横田基地の米兵を殺して奪った、M16A1アサルトライフルを、フルオートでぶっ放し、屯っていた、不良外国人、ヤクザ者を、片端から片付けて行った。仲間3人の虎舞羅会の連中も殺人を楽しむように、マシーンピストル・モーゼルミリタリーで、虐殺して行った。
 最後の一人まで狩り尽した米田は、地下貯蔵庫の扉を手榴弾で爆破し、地下の奥へと進んだ。奥に、一人の戦災難民と思しき、少女が、住んでいた。米田達を認めると、徐に、服を脱ぎ棄て、全裸になり、無抵抗で大股を広げた。
 虎舞羅会のリーダー滝本は、何も言わず、少女の頭部へ、銃弾を喰らわせ、ドサリと倒れた少女を跨いで奥へ入って行く。
 奥には、滝本の読み通り、レガシーツーリングワゴンが、眠っていた。米田は、一台、キィーの付いたレガシー深緑色の奴を、鹵獲し、東京へ戻った。
 そして1993年当時に戻る。
 米田は、返り血を、手拭いで拭いながらレガシーツーリングワゴンを、アーク要塞を、通り抜け、坂の上のホテル・オークラの、残骸の残る、第二爆心地と呼ばれる地点に車を停める。陽は少し傾き、辺りは薄暗く闇に覆われて来た。原爆雨、東京レインは、執拗に体を濡らす。マッドポリスのパトロールの車が、通りを行き過ぎる。時計を見ると、午後6時24分。
  通りを、一台ののVIP専用の、トヨタセンチュリーが走って来る。この時代、爆撃が激しかったこの地点は、路面が非常に荒れ、都内を走る車両は、良く凹凸でスタックし、難渋したので有った。トヨタセンチュリーは、路面を選び選びしながら、ゆっくりと、こちらに近付いてきた。米田は、一台がやっと通行できる幅の路面へ、爆撃で向けて溶けかけた、アスファルトの残骸を、センチュリーの前へ投げ付ける。外務省ナンバーの、そのセンチュリーは、フロント下部を、アスファルトの残骸に乗り上げて、ガリっと音をさせ、オイルパンにヒビが入り止まる。センチュリーから、一人の屈強そうな、白人の、運転手が出て来て、フランス語で何か罵る。
 後部座席には、オールバックの中年の紳士と、15、6歳の少女が乗り合わせ、心配そうに前方を見つめていた。米田は、口笛を吹きながら近付いてきた。手には、何時の間にかショルダーホルスターから抜いた、44オートマグが握られている。
 「オイ、どうした?」
 米田は、車を必死にジャッキアップしている、運転手に声を掛ける。運転手は振り向きざま、目を剥いて、ホールドアップする。米田は、運転手を殴りつけて、車のキィーを奪う。後部座席から、少女と白人の男が出て来て、口をポカンと開けて米田を見据える。
 「オイ、君、乱暴は止めたまへ」
 白人の男は、シュルダーホルスターから、小型のS&Wの、リボルバーを抜く。米田はしたりと笑い、空かさず44オートマグを、6,2メーター程の距離で、2発速射する。白人の男も、一拍遅れて発砲する。
 「オワ~」
 白人の中年の紳士の、右肩に2発着弾する。右腕が肩から消失し、回転しながら5メートル程吹き飛ぶ。少女は、縮こもり、地面へ伏せて、フランス語で何か泣き叫ぶ。
 米田は、少女の長いブロンドの髪の毛を掴み、引きずってセンチュリーの後部座席に投げ入れる。車内に入ると、米田から生臭い、血の匂いが漂い、戦闘服のジッパーを降ろし、ベルトを緩める。少女は怯え切、体を固くし、内腿をギュッと締めて、米田を頑なに拒む。     
 「ノン、ノン、ノン」
 泣き叫ぶ少女に、米田は頬を2回張り、口元にペニスを、持って行く。少女は口に含み、哀れみの表情を浮かべ、命だけは助けてくれと言う。
 米田は、胸ポケットから、ゾーリンゲンのナイフを取り出して、少女の着ているブレザーの、胸のホックと、スカートを切り裂く。
 少女は、目に涙を溜めて、米田に懸命に奉仕する。5分程で、米田は、少女の頭部を激しく振り回しスラストさせて、イク。ドクドクと、溜まった物を少女の口の中に放出させ、次に少女のヴァギナに口を付けて、舐め回す。少女は、嗚咽を上げながら、次第に濡れて行く。
 5分後、米田は、挿入し、上や下へ敷いて、少女を激しく攻める。米田はディープキスを交わし、少女はアクメを、迎えて、上向きの体を仰け反らせて、大量に放出する。
 少女は失心したように放心して、リアシートで体を震わせる。米田は、軽く頬にキッスをして、ズボンを履き、車から外へ出る。
 先程、射殺した中年の男に近寄り、上着を脱がせ、懐から身分証と財布を頂く。身分証には、【フランス陸軍大佐・メル・マッケイン】と、記されてい、顔写真付きで有った。
 三日ほど経った。
 午後五時、六本木三丁目に、古くから有った、地下喫茶店、マリボーザ・の上階の焼け野が原に、少し生えて来た草地へ、米田は、レガシーツーリングワゴンを、頭から突っ込む。車から降りると、キィーをしっかり掛け、右手に関ノ孫六・2尺6寸の、太刀を掴み、左右をギョロリと見回して、地階に有る、喫茶へ入る。マスターは、50絡みの大男で、ケロイドで焼けた妻と一緒に、店を切り盛りしていた。米田を認めると、マスターの。大越実は、ニヤリと笑い、カウンター席に置いて有る、AK自動ライフルを、奥へ仕舞い、他に居残っている客へ、
 「もう閉店だから帰ってくんな」
 と、一言大声で言い、13人の客が順番に会計を済ましていた。勿論、日本円などでは無く、最近巷に流通している、金貨、宝石の類だ。中には、飲食料が払えず、顔パスでツケにして行く者も多い。
 米田はカウンターに座り、金貨を一枚出して、今最も、新鮮な魚、通称原爆マグロを、刺身にして貰い、物資欠乏で少ない、醤油と練わさびで、合成酒を頼み一杯やる。
 「米田さん、今夜は誰と待ち合わせで?」
 マスターの、大越は、大柄な体を、カウンター内で折り曲げる様にして、せっせと何かを造っている。チェルノブイリ近くから、輸入されて来た、安く買い叩き、客に出している様で有った。
 米田は、答える。
 「虎舞羅の、滝本達と、今夜有る用事でここで待ち合わせる約束なんだ」
 「ヘェ~そいつぁーどうも」
 大越は肩を竦めて、相槌を打つ。この店は、昭和の52年、つまり、1977年に、開店しており、当時大越は、手の付けられないワルで有って、この店で良く屯しては、警察の手入れを良く受けていた。そんな大越がマスター、前マスターに気に入られ5年前店を任せられる様になった。
 しかし、1989年のあの時、全日本、いや世界を覆った、核戦争の際、六本木、東京の大半が、核ミサイルと爆撃で灰燼と化し、店は幸いにして地下に有ったので、半壊にとどまり、いち早く復興の経営を始められた。しかし、3か月で、日本の物資、食料は、底を突き、米、英、仏も援助で、何とか持ち直したのが、半年余りの歳月が経った時で、それまで、店を閉めて、関東各地で、強奪合戦が繰り広げられて折り、大越もその仲間に入り、荒野で暴れてその日の物資を得ていた。そして、1年半で店を開店させて、闇物資で食料を、賄っていた。
 主にここの店は、米国、ウェンストン商会から卸される、食料を強奪して、自家発電で動く、大型冷蔵庫に入れて、保存されていた。米田は、そんな事は先刻承知で出入りしてるのであった。
 「少し早く来たかな?」
 米田は、独り言を言って、腕に嵌めている、カシオのGショックを見る。マスターの大越は、スパゲティ・ナポリタンを作り、米田の前に出す。米田は、貪り食い、1分で一皿食い、おかわりを注文した。
 「米田さん、余り食うと体に毒ですぜ、と言っても、放射能の無い食品はねぇーからな、アハハハ」
 大越は、豪快に笑って、もう一杯皿に大盛に載せて、スパゲティーを出す。
 小一時間米田は、人を待つ。午後7時34分ごろに、3人の男が雨合羽を濡らして、店へ入って来る。東京レインが、今夜も降り始めたらしい、全くしつこい原爆雨だと、マスターは笑う。
 中へ入って来た、虎舞羅(コブラ)の、リーダー滝本と、幹部の山下に大村であった。
 3人は、手に手にハンドガンを持ち、硝煙の匂いを漂わせていた。米田は、虎舞羅のリーダー滝本からマルボロ1カートンを貰い言った。
 「滝本君、発砲事件でもやらかしたか?」
 「いや、米田さん、そこの曲がり角で、マッドポリスの奴等に出くわしてな、3人でぶち殺して来たんだよ」
 滝本は、フンッと鼻を鳴らして、コルトガバメントの、自動拳銃を腰に吊ったホルスターに仕舞う。米田は、マッドポリスに、この店を突き止められて無いか心配になり、表に一度出て、辺りを確認した。滝本と山下、大村は大笑いして言った。
 「ハハハ、米田さん、心配性は相変わらずだな、ちゃんとマッドポリスの奴らの死体に火を放って燃やしたから当分大丈夫だと思うよ」
 「そうか・・・・・・」
 米田は、今夜襲う予定の物資搬入車の、10トントラックの事に思いを馳せた。
 今夜襲う予定の物資は、タバコ、塩、缶ジュースの入ったトラックで有ると、昨夜滝本に聞いた。今夜襲う、旧JT輸送トラックは、虎ノ門のJT元本社に搬入され、護衛は、北海道に有る、新規編成した、自衛隊、第6師団の、第3小隊、そして、東京で合流してくるマッドポリスの20名が相手だ。滝本は、虎舞羅のメンバー24名を選抜し、虎ノ門の辺りに配置していた。現地に今いる指揮者は、大手と名乗る流れ者の男だ。
 大手は、1年前、手下10名を連れて、東京へやって来た関西人である。手下は何れも、一癖も二癖も有る、犯罪者だ。噂によると、核で破壊された、広島の刑務所に居た、受刑者の生き残りだとか。米田は詳しい事は知らないが、24名なら出来ると踏んだ。
 虎舞羅の3人は、チェルノブイリから来た、パスタを食し、合成酒を飲んで、乾杯した。米田はレガシーツーリングワゴンから、自前の武器、M16A1カービンを出し、地階に有る喫茶、【マリボーザ】に戻り、店主の大越から、百発入りのマガジン5個を受け取る。米田は、M16を分解し、機械油で良く手入れをした。滝本、山下、大村も、金貨を払い、大越が奥から出してきた、M16A2アサルトライフルを、借り受け、一人に付きマガジン5個渡されて、腰のポーチや、上着のポケットに入れる。
 「米田さん、予定の時間より少し早いですが、現地に行きますか?」
 「フム、早い方が地形や人員配置の状況が見やすい行くか」
 4人は、表に止めて有る、元自衛隊の車両で有ろう、濃緑色に塗ってある、4トン車に乗り込み、虎ノ門へ走らせる。
 相変わらず、外は酸性雨と放射能が大気にまみれた、黄色と黒い雨、東京レインが降り注ぐ。コクピットに大村が座り、助手席に滝本が座る。山下と米田は、後部シートに座り、何時、如何なる時でみ飛び出せる様に、ライフルを握り締めて、中腰に屈んで待機する。
 車は20分程で、虎ノ門に着ける。国道1号線、虎ノ門の信号前は、滝本の手下によって、瓦礫や、土嚢を積んでバリケードをしていた。辺りは、街灯も無く、真っ暗闇で有る。指揮を執る大手は、人員を正面に10名、脇のビルの残骸に14名を配置して待ち構えていた。土嚢の上から、自衛隊から奪った物で有ろう、重機関銃が2丁、その銃身を、闇夜に光らせて、虎ノ門から侵入してくるだろうトラックを待つ。
 大手は、滝本のトラックを認めると、用意していたサーチライトを向ける。部下の3人の女兵士は、銃を構えて、ライフルを向ける。大手は、大声で3人の女兵士を怒鳴る。
 「撃つな馬鹿野郎、良く見ろ、アレはリーダーのトラックだ」
 「ハッ」
 3人の女兵士は、頭を下げ、銃を上に構えて、滝本の乗って来たトラックを、遠目に見る。トラックは近付いてき、大手の目の前で急停車する。フロントが軋み、コクピット上部が上下に大きく揺れる。
 コクピットと、助手席、後部ドアーが開き、4人が下りて来る。大手は、目を光らせ米田に銃口を向ける。
 「オイ、冗談はよせやい、助っ人に来て貰った米田さんだ。お前は前に一度会ってるだろう?」
 大手は、腰のマグライトで米田を照らす。米田は、ムッとした顔で、大手の前でM16A1カービンを上に向けてニヤリと笑う。
 「ああ、アンタが米田さんか、忘れてたよ、まだ生きてたんだ?」
 米田は、握手を求めて来る大手の右手をガッシリ握り、
 「生きてて悪かったな」
 耳元で言い、大手の右手を、捩じり上げる。大手は、顔を苦痛で歪めて、米田を睨み付ける。
 「フゥ~馬鹿力だけはイッチョ前だな」
 「ほんの挨拶だ」
 女兵士達は、米田の周りを取り囲むようにして立ち、銃のセーフティーを解除して、何時でも打てる状態を作っていた。
 「なぁ二人とも挨拶はそのくらいにして配置に着いてくれ」
 滝本は懐から、マルボロのメンソールを取り出して、一段高い土嚢の指揮席に座る。
 予定時刻では、午後10時に旧JT本社に10トントラック2台が、着く筈だ。滝本は、ロレックスの腕時計を見ると、9時42分、まだ時間が有る、大便でもしようと、瓦礫の暗闇に入って行く。
 5分程経過した。旧JTに搬入するトラックは、六本木通りを走り、溜池方面から進入して来た、まさに後ろから来たトラックを、自衛隊第六師団第三小隊の、大型二輪、そしてマッドポリス20人が乗る、輸送バスが、滝本率いる、虎舞羅のメンバーの後方を遮断する。
 米田はいち早く気づき、M16A1カービンをフル掃射しながら突撃する。
 後ろで大手率いる、正面警戒組の10名が、これに続く。
 赤坂一丁目の信号付近で、両社は激突した。米田は、元日本財団ビルの、残骸の方から銃火が閃くのを見て、JTの門に沿って暗夜を、身を縮めながら、中腰になり、小走りにビルに近付く。
 路上では、搬入の10トントラック2台が立ち往生して、止まり、マッドポリスの輸送バスから次々に兵が降りて、虎舞羅の24名と銃撃戦になる。
 米田は、密かに旧日本財団ビルに近付き、狙撃手の居る、上階へ上がって行く。
 2階へ上がると、暗闇の中から、人の気配がする。凶悪な程、生臭い悪臭を放ち、米田の後方から羽交い絞めをして来る。米田は両の手で持っていた、M16A1カービンを、手から落とし、その強烈極まる締め技を決められる。
 「ウグ~、死んで貰うぜ、アンタがどこの誰だか知らねーけど、楽にあの世に送ってやるぜ」
 男は大男で、手の剛毛が、米田の首に巻き付き、今米田を絞殺しようかと、手の位置も首に移動した。
 米田は、咄嗟に内ポケットからゾーリンゲンのナイフを取り出し刃を開く。
 男は、尚も力を掛けて、首を締めに掛かる。米田は手の届く範囲の、右足を狙いゾーリンゲンで一突きした。「ギャー」と、男は悲鳴を上げて、暗闇の中でノタウチ回る様が、ようやく晴れて来た空から零れ入る月明りに照らし出された。
 「オイ、おめーさんバイパーじゃ無いか、何だって俺を殺ろうとした?」
  その男、渋谷で巣食っている、通称殺人バイパーと言う米人の成れの果ての男で有った。
 「その顔は米田か、何だってあんな奴らとつるんで攻撃なんかした、痛てぇーアウッチ、止血してくれ」
 米田は、バイパーの右腿からゾーリンゲンを抜いてやり、応急キットをポケットから出して、取り敢えずの止血をし、包帯をグルグル巻きにしてやる。
 「オイ、間違いなく、お前の仲間は全滅するぜ、上階に3人スナイパーが居る、早く消しちまった方が良いぞ」
 米田は、頷き、上階へソロリソロリと静かに登って行く。
 外では、一人又一人と、虎舞羅のメンバーが倒れて行く。指揮を執る大手は、重機関銃の砲座に座り、保弾係と共に、バリゲートの上から、マッドポリスを打ち倒して行く。
 米田は、半壊したビルの6階まで登ると、ベースボールキャップを被った狙撃手が、10メートル間隔で、下での戦闘員を目掛けて、ボルトアクションの、狙撃銃を、発砲していた。米田は、一番右側に居る男を、、腰に吊った、日本刀、関ノ孫六2尺6寸で、首筋に一突き入れた。
 ズブリピシャッ。
 狙撃手は、最後の一発を、天井に向けて放ち、絶命した。
 まだ、他の二名は、米田の接近に気付かない。外の戦況を見て、重機関銃の台座に着いて、狙撃手が狙いを定めた時、又しても、関ノ孫六が一閃する。キラリと月光に、一瞬煌めいたかと思うと、伏せて射撃を続けていた真ん中の狙撃手の首から上が、コロリと落ちて、階下へ落下していく。
 この間、2分程の出来事であった。
 米田は、一番左側で、射撃に集中している狙撃手に、44オートマグ・ショートバレルカスタムを、そっと狙いを付けて、3発発砲する。物凄い反動が右腕に伝わり、銃口が一発撃つ度に、上へ上がる。米田は一発一発素早く、銃口を修正しながら、約10メーター程の距離にいる、狙撃手を撃ち抜く。
 銃弾は、2発外れ、1発、狙撃手の背中の真中に命中した。
 「ウゲボォ~」
 妙な声を上げて、最後に残った狙撃手が、腰から上を約40㎝消失して絶命した。
 米田は、サッと、44オートマグを撃つ際地面へ置いた、孫六を拾い上げて、刀身を油紙で拭い、鞘に納める。
 フッと後ろに気配がして見ると、バイパーが立ってみていた。
 「米田、外の戦況は思わしくない、早く行って助けてやれ」
 「しかし、何でアンタがここにいる?」
 バイパーは、米田に金貨の入った革袋を、見せて言った。
 「今夜ここで、闇取引が有った。そこの男にウィンチェスター3丁こいつらに、売ったのさ、しかし、お前さんが殺っちまったから、又、ライフルを回収して俺は、ブヤ(渋谷)のヤサにに帰るだけだ、アハハハ~」
 米田は、M16A1カービンを、肩に吊り、
 「又な」
 とバイパーに言って、戦場へ走って行く。
 戦況は思わしくなかった。滝本率いる、虎舞羅のメンバーは、残り12人に減って、挙句には、滝本は手榴弾を使い、一台10トン車を、吹き飛ばしていた。
 「一体何してんだ、大事な物資に・・・・・・」
 米田は、一人罵りながら、マッドポリスと、第三小隊の後方へ回る。
 一番後方で、第三小隊員、所山が、無線で指揮を執っていた。米田は手薄になった、後方から近付き、所山の口元を左手で塞ぎ、右手でゾーリンゲンの刃で、首筋をスッと左から右へ引き、喉をカっ切った。
 所山は、一瞬にして絶命し、一時指揮系統が乱れた。米田は、車両に隠れている、マッドポリスの兵員をM16A1カービンで、フル掃射し、後方から薙ぎ払う。手足が飛び、中には背中からミンチ状になり、五体が吹き飛び、気付いた時は、マッドポリスの兵員は、20名から6名に減っていた。
 「フンッ、マッドポリスの奴等ザマーネーゼ」
 前方では、勢いを取り戻した、虎舞羅のメンバーが、弾薬がほぼ尽きて、白兵の様相を呈して来た。
 米田は、M16A1カービンを、点射しながら至近距離にいる、第三小隊の兵を撃ち抜く。滝本は勢いに乗り、無銘の日本刀を振り回して、第三小隊の人員に斬り込み減らして行く。
 「おお、米田さん良くやってくれた、この分だと物資は、我が方の手に落ちたも同然、後5名だけ残っている筈だ」
  「OK俺に任せてくれ、残党を狩っている間、物資の積み替え頼んだぜ」
 その時、JTビルの正面付近から、銃火が閃いた。米田は、サッと伏せて、匍匐の姿勢で、正面前に、残った残党を、マガジンを替えた、M16A1でフルオートで、目暗撃ちした。
 正門前では、夥しい血が流れて、5人の兵が無残に倒されて行った。
 その間、虎舞羅のメンバーが積み荷を、隠していた10トン車2台に積み替え、指揮を滝本が執っていた。
 「フッ、右側のビルに居そうな気配がする、人の匂いがしやがるぜ」
 米田は、東京倶楽部ビルの残骸にひっそりと、入って行く。
 キラリと、何か光った気がした。右側の方から、西洋のサーベルが、ギラリと閃き、米田の頬にヒヤリと冷たいものが走る。その次の瞬間米田も、関ノ孫六二尺六寸の、太刀拵えの刃を抜き、右手の男の僅かに見える影に、一刀を入れる。
 ピシャズバ。と、手応えを感じた。次の瞬間には、兵士の右腕が地面に落ちた。
 背後に人の気配を感じた。女の匂いが、ムッとする、室内で漂う。殺気を含んだ、何かで、そちらの方へ近づき短刀を持った、大手の側近の女兵だと、月明かりで知れた。米田は、ホッと胸を撫でおろして、女に声を掛けた。
 「オイ、大手の確かサポートをしてた女だな、こんな場所で何している?」
 米田は、腰のベルトに刺している、大型のマグライトを、取り出して、女に向ける。女は、半裸の姿で呆然として立っていた。
 米田は、女の足元に何かいると感じて、足元から約17㎝の所を照らす。
 女の足元には、マッドポリスの死骸が転がっていた。死んだ兵士は、下半身むき出しにしてザーメンを垂らしながら、白目を剥いて絶命していた。女は、服を付け一言米田に言う。
 「今夜見たことは忘れてください」
 女は、それだけ言うと、暗闇に溶けて消えて行った。
 数日経った。
 米田は、レガシーツーリングワゴンを、渋谷駅西口に停め、ブラックマーケットの、入り口付近でボケ~と人待ち顔をしている、大柄な少年を見つけ、マルボロを一箱渡して、車の見張りをして貰う事にした。
 西口改札を、歩いて入り、旧JR線から、井之頭線、連絡用通路に有る、あばら屋の一軒のドアーをノックした。米田は、ノックを3回し、勝手に中へ入り、奥の簡易ベッドで横たわっている、殺人バイパーに声を掛ける。バイパーは、気怠そうにベッドから起き上がり、部屋の中央部に置いて有る、机の前の丸椅子に座り、眠い目で米田を見つめる。米田は、肩に担いでいた、大き目のボストンバッグを、机の上に置き、旧JTから強奪して来た、セブンスターを、10カートン程取り出す。バイパーは、無言で机の下の引き出しから、ズタ袋を出し、金貨を一掴みして、約10枚を、机の上にばら撒く。
 米田は、金貨を数えると、12枚、上々の実入りだ。笑顔になり、懐からマルボロを取り出し、ジッポーで火を点け、一吹かしする。
 「米田よ・・・・・・」
 バイパーは、声を濁らせ、一回咳払いをして、米田を見る。今日はヤケに真剣な面持ちで言葉を、選んでいる風にも見えた。
 「何だい?、言い掛けてダンマリはねーぜ」
 米田は、さっきブラックマーケットの屋台で買って来た、フランクフルトソーセージを一齧りして答える。
 「じゃぁ言うが、米田よ、素人で若くて良い女居ないか?」
 唐突のバイパーの問いに、米田は困惑し、少し考えてから答える。
 「え?若い女が欲しければ、街に幾らでも居るじゃ無いか、センター街の闇市の出入り口で、何時も立っている、好美とか、ナナとかまだ若い。バイパー位の暮らしをしていれば一緒に住んでくれるんじゃ無いか?」
 バイパーは、少しその青白い顔を、赤く染めて言う。怒っているのか、照れて居るのか、分からないが、バイパーは時折こう言った人間臭さを、醸し出して米田を苦笑させる。
 「そんな遊び人じゃ駄目だ、キッチリした女が欲しい、何処か心当たり無いか?」
 「そうか、年齢は何歳位が良いか?」
 「ウム、紹介してくれたら、金の延べ棒一本で、年齢は、18~25歳位が良い」
 米田は請け負ったが、知ってる女は皆30代で、商売女か、被爆のダメージで、体がヨレヨレの女しか、心当たりは無かった。
車は、新宿を過ぎ、破壊された大ガードを、潜り青梅街道へ入り、米田は、マルボロを咥え一本火を点ける。
 新宿界隈は、水爆の爆心地が有り、高層ビル群も、ほぼ消滅に近い形で、消失し、瓦礫と人骨の山が、所々に散見出来、見るも無残だ。
 そんな新宿を、米田はシケインの様に有る、瓦礫をすり抜けて、レガシーツーリングワゴンは、西へ車首を向けた。
 車は中野を過ぎ、高円寺に差し掛かる。
 この辺りも、核の爆風圏内により、ここも又、廃墟に帰していた。路上はゴミや瓦礫が散乱し、とてもまともに走れる状態では、無い。レガシーは、ゴミの山を4WDで乗り越え乗り越え、走破し、杉並区に入ったのは、午後4時を過ぎていた。
 杉並の荻窪付近で、路上を石で塞がれ、レガシーでもとても通れない状態の場所が有った。米田は、「チッ」とツバキを吐き、車を止めて、石を退かす為、降りた。石の塊を、一つ一つ手で退かす作業をしていると、辺りに、住民と思しきボロキレの様な衣服を纏い、手に手に、木刀や、金属バットを持ち、此方を藪睨みして、何か囁き交わしている。米田は、身の危険を感じ、レガシーの周りにも人が三人居て、ペタペタ車を触って、珍しそうに車の中を覗いていた。
 「オイ、何人の車触ってんだ?」
 米田は大声で怒鳴る。
 「コレはアンタの車かね?、治安部隊の方かね?」
 一人前へズイと中年の男が出て来て、問う。手には日本刀を引っ提げて、頭は半分白髪で、角刈りの様な髪型をしている。見るからに、筋骨逞しく、左頬に、刀傷が、有る。恐らく巷に横行している、野盗の類いであろうか?米田は思案するが、考えるのを止めて、答える。
 「俺は、米田って者だ、マッドポリスじゃねぇ」
 「これから、何方へ行かれるのですか?」
 中年の男は、治安部隊じゃないと分かると、刀を腰に帯刀し、ニコリと笑い、言う。
 「西の方へちょっと用が有ってな、何でアンタ等に、そんな事教えなきゃ何ねぇーんだ?」
 中年の男は、右手を出して、通行料を寄越せと言う。米田はタバコ3箱出して、渡すと、周りに居た約30名程の大人達が皆で一斉に、石を退け始めた。
 米田は、ここで1戦交えても良いと思ったが、旅はまだ始まったばかりで、弾薬の消費は惜しい。タバコ位で済むなら安い物だと考えて、此処は一つ妥協した。
 「私等は、此処の交通を見守っている、者でね、貴方方が何者か知らないが、今時車に乗って居るのは、要人かヤクザ位の者だ、後治安部隊を、アナタマッドポリスと呼ぶのは、都心部の人ですか?」
 中年の男は、自己弁護をするが如く、顔を歪めて話す。
 「ああ、六本木の方に居る米田って者だ、帰りも又宜しくな」
 「ああ、・・・貴方があの米田さんですか、噂は兼ねがね聞いています、一人で治安部隊と闘っているとか?」
 米田は、それには答えず、レガシーに乗り込み、石くれが、無くなった青梅街道を、武蔵野方面へ、急発進させ、ダートの様になっている、悪路をひた走る。
 米田は、ギアーを3速に入れっぱなしにし、て走る。時折、酷いギャップを乗り越え、車体が大きくバウンドする。その都度米田は、3点式シートべルトに助けられ、舌を噛まないで済んだ。車は、保谷を抜け田無の北原に着く。ここいら辺は、被爆の痕は、軽く、一般車が時折散見された。米田は、北原の手前で、右に折れ、路地に車を入れて、下りて見る。前方700メートル程先に、簡易バリケードを、発見する。バリゲートは、上下線にわたり道を封鎖し、マッドポリスの、ブルーの戦闘服姿の男と、2人の女兵士が、通行する車両を誰何する。
 米田は、M16A1カービンをバックヤードから取り出して、スコープを付けたそのライフルを、右手の脇で、ギュッと締めて、銃床を固定する。米田は、双眼鏡を、車から取り出して、マッドポリス・JA治安部隊の全容を確認する。
 北原の交差点に、5人、歩道に張ったテント内に6人、その内女2人の隊員が居る事を視認して、歩道を歩き、バリケードに近付いて見た。約、300メーター近付いた時、M16A1カービンを、肩付けで構え、先頭で指揮している男に、20発点射した。
 バララララ~。軽い炸薬音を発し、前に居た指揮官に、10発程命中する。突然の事に、マッドポリスの、メンバーは、驚き、皆、伏せの体勢を取る。米田はその隙を突き全速で走り近付く。
 M16A1カービンを、フルオートにし、マッドポリスのバリケート封鎖している路上を、全弾100発を一分で使い切り、車両や隊員にも、少なからず、被害が出た。米田は更に接近する。マッドポリスの、特殊車両、装甲車を、盾に向こう側から応戦してくる。米田はテント側に有る、人数6人に、胸に吊ってある、手榴弾を、投げ付けてこれを全滅した。現場は、阿鼻叫喚となり、マッドポリス側は、浮足立った。
 残るは6人、6人は、怯え切、米田に、目暗撃ちを演じて、地面や空中に、銃弾が飛んで行く。
 米田は、装甲車の手前に、煙幕を投げ付けて、黄色い煙が、充分空中を、覆うのを待ち構え、突撃した。
 装甲車の、陰に隠れていた、ブルーの制服を、見て、約2メートルの距離から、関ノ孫六二尺六寸の、名刀が、米田の腰に吊ってある鞘から、ピカリと奔る。
 至近距離に居たのは、女であった。孫六の鞘走った一刀を、もろに首筋に喰らい、皮一枚残して切断された。女は死んだのも気付かないで有ろう。首筋に手をやり、米田の姿を見つめて、瞳がブルー掛かって、ドサリと、その場に倒れる。米田は、目を見開いたままの女兵の隣で、着剣している、自衛隊の歩兵銃を持つ男に、2刀目を入れる。
 煙幕が晴れて来て、人の姿が、薄っすらと垣間見えて来た頃、米田は銃剣と対峙していた。一人に掛かっている時間が無い、2人目を、小手を狙い手首に一刀を入れる。
 男は、銃剣で米田の胸を狙い、突いて来た。カィン。と鉄と鉄の、弾ける音がして、米田の孫六の切っ先がブレた。男は銃床を、次に振り回し、米田の鳩尾に、食い込む。米田はうずくもり、マッドポリスの男の足を薙いだ。
 「ギャッイてぇー」
 孫六は、男の右足を切断し、男は地面へ倒れ、ビクビクと、地面を這い回る。
 後方に殺気を感じた。米田は振り向き様に、M16A1カービンを、腰溜めにして、フルオートで撃つ。後方に居た、マッドポリス隊員は、腸が飛び出て、手で腹を押さえる。米田は、マガジンを一個捨て、腰のポーチからもう一本のマガジンを装填する。
 「残るは、女一人か」
 右足を切断されて、のた打ち回る兵士の喉元に、孫六を突き入れ、止めを刺してやる。
 煙幕が晴れた。女は、20メートル程向こうの、長距離無線の効くで有ろう、指令車の方へ走って行くのが見えた。米田は、スコープで狙い、女の右腿を、点射して、着弾点を、徐々に上に上げ、3発ヒットした感触を得る。
 女は、指令車の手前で倒れて、右足を押さえて、身悶えしている。米田は、女に近付き、うつ伏せに倒れているのを、足で顔を確かめる。
 「ホウ、良い女だな、少し楽しませて貰うか」
 女は、顔を引き攣らせて、匍匐前進して、指令車の、ドアーまで這い上る。米田は、にやけながら見物し、女を指令車の、後部座席へ投げ入れる。
 「いやいや、辞めないと、重刑罪に処するぞ」
 女は、荒い息を吐き、足から出血する止め処もなく出る血を、手で押さえる。
 「ホウ、そんな状態で俺を逮捕出来るのか?」
 米田は、女の戦闘服のズボンのベルトを、強引に脱がせて、上にのしかかる。
 女の足から凄い出血が米田の、パンツを濡らし、赤く血に染まった、白い右腿に、ペニスを擦り付けながら、血と汗の臭いの中、米田は、女を犯す。女の血が、米田のペニスにこびり付き、米田は、血とザーメンに塗れた女を突き飛ばす。
 「生かしてやっても良いが、マッドポリスを、辞めるんだな、嫌ならこの場で射殺しても良いぞ」
 冷淡に笑いながら米田のペニスには、血と汗に塗れた、女の体臭を嗅ぎながら、大きく膨らんで行く。
 女は、徐に、腰のホルスターから、ポリス用ナンブリボルバーを出して、胸に当て、自らの命を絶つ。
 「フンッ、折角生かしてやると言ったのに、馬鹿な女だ」
 米田は、腰に吊ってある、44オートマグ・ショートバレルカスタムを抜き、女の死に顔に、一発銃弾を撃ち込む。女の首から上が、消失して、車内に肉が飛び散る。
 米田は、レガシーツーリングワゴンの、置いて有る地点に戻り、武器を、リアシートに乗せて、関ノ孫六を、取り、刀身を抜いて見る。
 刀身は、血と脂がのり、とても、次の戦闘では、使えそうも無い。車を降り、バックヤードに、積んでいる、ハイオクガソリンの、18リッター缶を出してウエスに、ガソリンを含ませて、刀身を良く拭う。これで応急の手入れは、終り刃こぼれが無いか調べてみる。
 切先三寸の所が少し傷んでいて、軽くサンドペーパーの2000番で研いで見る。
 孫六を鞘に納めて、再び車をスタートさせる。花小金井を、通り過ぎ、小平を難なく、クリアーして行く。久米川で又もや、バリケードが張って有るのを見る。
 バリケードに近付くと、パイロンの向こうに、Y31グロリアと、クラウン2,8ℓスーパーチャージャーが、道に縦に停めて有る。米田は、逆車線に出ようと試みたが、向こう側にもバリケードが、設えて有った。
 レガシーツーリングワゴンは、バリケードの手前で止まる。Y31グロリアの屋根の上で、自衛隊のアサルトライフルを、担いだ少年が座っていた。少年は、何か大声で怒鳴っていた。
 「オイ、そこのワゴン、車のエンジン切って出てこいや」
 米田は、胸に吊ってある、手榴弾を取り出して、バリケード内に、ピンを抜き投げ入れる。ボワ~ン。と物凄い、爆発音をと爆風が、飛び、10人程の人の体が吹き飛ぶ。Y31グロリアの上の少年も吹き飛び、居無くなっていた。米田は、バリケードを退かし、Y31グロリアの、コクピット内を見る。キィーは付けっぱなしだ。逆車線の方へ、Y31グロリアを走らせ、ATシフトDの状態で、ガードレールに突っ込ます。車は、グシャリとガードレールに刺さり、もう一個逆側のバリケードに、手榴弾を投げて、車の中へ入る。
 レガシーは、バリケードの向こうに居た若者たちを、踏み潰しながら、4WDの威力で乗り越えていく。
 東大和市へ入り、崩れ掛けた野口橋を渡り、フルスロットルで、武蔵村山市街へ入る。この辺は、福生の米軍基地への、核攻撃が有り、人家はその余波で、無残に吹き飛ばされて所々溶けて居た。
 車は、箱根ヶ崎まで順調に走った。16号線に交わる交差点で、1台の、横田基地所属で有ろう、マッドポリスのジープが、米田のレガシーツーリングワゴンを見付けて、脇道から飛び出し追い掛けて来る。米田は、サイドミラーで、視認して、悪路と化している、青梅街道を、80キロで飛ばす。
 瑞穂町を、60キロから80キロで走り抜け、長岡下師岡を走る。米軍御用達のジープは、しつこく追い掛けて来る。ギャップを乗り越え、障害物を避けて、素晴らしいスピードで悪路の青梅街道を追尾して来る。
 ジープは、路面の悪化に難渋しているレガシーの、後部バンパーに、強烈にキッスをして来る。米田は、ハンドリングを、上手く操作して、ともすれば、ガードレールに突っ込みそうになるのを、カウンターステアを当て、パワースライドを決めて、激突を回避した。ジープには、2人の米人が乗っており、機銃が装備されている。一人、助手席の兵士が、機銃に立ち乗りし、レガシー目掛けて掃射して来る。米田は、ジグザグに走り、機銃を回避する運転を試みる。レガシーの後部リッドに、銃弾が命中し始め、リアーガラスが、砕けて飛び散る。米田は、青梅の西東京ボウル跡の、廃墟の、駐車場内へ、車を突っ込ます。無人の駐車場内へ、ジープも入って来る。ジープは、機銃を反動で、上へ下へと、発射し、西東京ボウルの、看板を割る。レガシーは、逆の入り口から出て、街道をフルスロットルで駆け抜ける。リアーガラスが砕けて、路面の振動で崩れ落ちる。先の交差点で右へ曲がり、旧日立製作所の正門からパイロンの車止めを蹴散らして、進入していく。100メートルほど離れて、米軍のジープも中へ入る。機銃弾が、そこかしこに当たり、時折レガシーのリアゲートから、フロントガラスに命中し、米田はヒヤリとする。
 米田の、レガシーは、ゲートの開いている、作業所跡に、車を首から突っ込ます。
 ジープは、100メートル後方で停車した。2人の白人が、降りて来る。米田は、既に車から降りており、M16A1カービンと、関ノ孫六二尺六寸の、太刀を、腰に手挟み、作業所の奥へ入って行く。
 2人の米人は、M16A2アサルトライフルを、腰溜めにして、作業所の入り口付近に、壁に隠れながら、内部を覗く。ブーンバラバラバラ。と、作業所の中から、フルオートで、米田が撃つと、一回転しながら、前へ立つ米人が、逆側の戸場口に、移動する。米田は床に這い、肩付けした態勢から、M16を、狙い撃つ。銃弾は大きく外れ、外へ飛び出して行く。2人の米人は、英語で簡潔に会話をする。
 「ヘイ、ミゲル、俺が囮になるから、後ろから援護してくれ」
 「OK、奴は、奥に潜ったかも知れない」
 もう一人の米人、センサーは、息を吐き、一気に入り口から中へ入り、移動しながら、M16A2アサルトライフルを、目暗撃ちしながら、米田の居る方向を確かめる。
 曳光弾が、作業所内奥から光り、発射される。フルオートで撃ったその弾丸は、センサーの、腹辺りに命中する。ミゲルは、曳光弾が走った辺りに、見当を付け、M16A2アサルトライフルを、腰溜めで撃ち込む。
 米田は、激しい銃撃を避ける為、地階への入り口に足を踏み入れていた。こうなったら、籠城戦の構えだ、とばかり地階へ入る。
 「ヘイ、センサー大丈夫か?すぐ片付けて医者へ連れて行ってやる」
 センサーと言う男は、哀しそうに笑いながら傷を手で覆う。
 「済まんこの状況じゃ助からない、寒くて眠くなってきた、俺に止めを刺してくれ」
 ミゲルは、無言で頷きながらM16A2を一発センサーのコメカミに打ち込む。
 パラララーン。
 ミゲルは、薄暗い作業所の中へ入り、M16A2アサルトライフルを、もう一度、先程撃ち込んできた方向へ向け、フルオートでぶっ放す。作業台やビーカー、フラスコ、壁に銃弾が当たり、確実に仕留めた、とミゲルは確信し、奥の作業台の辺りへ行って見た。下に、地階へ通ずる通路を見つけたのは、5分程してからだ。マグライトの灯を頼りに、下へ下りて見る。下は意外に広く、幾重にも、扉が有り、実験室の様な跡が埃を被り、綺麗に残されていた。通路をミゲルが歩いていると、天井から水滴が垂れて来て首筋を濡らす。
 「ワァーオ」
 思わずミゲルは、悲鳴を上げて、その時に、しゃがみこんで込んだ。後方から同じタイミングで、関ノ孫六が、突き入れられたが、ミゲルは偶然に助かり、人の気配がし、振り向くと、米田が日本刀を引っ提げて立っていた。
 ミゲルは、驚き、良く見えない中、M16を下へ置き、腰に吊っている、マッドポリスが支給している、二尺のサーベルを抜く。
 米田は、ニヤリと笑い、暗闇に慣れて来た目を凝らしながら、パッと左手に持っている、小型マグライトを、ミゲルに浴びせる。ミゲルは、立ち上がりサーベルを振り被り、米田に一刀を入れ様とした。米田はミゲルの右肘を手で押さえ、足払いを掛ける。
 「クゥ~、チクショウ、俺を弄んで、弄り殺しにしようと言うんだな?、一思いに殺せ」
 「フハハハハ、お前など殺しても、銃弾の無駄で、一銭の価値にもならん、車のキーを渡して、即刻退去しろ」
 米田は、ミゲルの手を、腰に吊っている、ホルスターから出した手錠を構え、前でワッパを掛ける。ミゲルは、悔しそうな顔で地面にツバを吐く。
 「ヘイ、キィーは胸ポケットだ、お前があの有名な米田だな、クソゥ、取り逃がしたんじゃ治安部隊には帰れない、俺も連れて行ってくれ」
 米田は、無言でミゲルと地下から出て行き、上階へ上がり、作業所から外へ出る。
 月は、満点の星空の下、青白く輝いている。青梅のここいら辺りは、核の余波も少なく、東京レインと、呼ばれる、酸性雨と原爆雨も、少なく、人も多く住んでいた。しかし、、東京の都市機能が失われている現在、仕事も通勤の足も無く、人々は、地元でアルバイトをし、些少の小銭を稼いで、その日を凌いでいる。
 米田は、ジープを近づけて来て、レガシーツーリングワゴンから、武器弾薬を積み替える。M16をミゲルと、センサーの死体から取り上げ、体を探り、マグライトと、オルファーのナイフ、予備マガジンそして、ベレッタの米軍正式採用拳銃を、貰い受ける。スペアマガジン4つもだ。レガシーツーリングワゴンのガソリンタンクから、ゴムホースで、ガソリンをジープに移し、満タンまで入れる。少しガソリンが、タンクに残ったが、レガシーをここで諦めて捨てて行くことにした。
 ジープのエンジンを掛けてみる、軽く黒煙を吹き、軽快にエンジンが掛かる。
 「なぁ、米田、仕事の邪魔しないから、俺も連れて行ってくれ、アンタが信用するまで手錠は外さなくて良い」
 「フム、マッドポリスを止めてどうする?」
 米田は、懐から、マルボロの箱を取り出し、一本吸う。月明かりに照らし出されている、ミゲルの顔は、何処か少年の面影を残して居る様で、この男を殺害する気は失せていた。
 「ア、アンタの仲間にしてくれ、何でもやる、治安部隊、いや、マッドポリスの奴等も殺す」
 米田は、信用はしてないが、この男を、イザとなれば、盾にして、マッドポリスの包囲から逃れられると踏んで、手錠を外してやる。
 「センキュウ~センキュウ~」
 ミゲルは、仕切りに礼を言い、涙を浮かべて、ジープに乗り込む。
 米田は、コクピットに着き、ギアーをロウに入れて、クラッチを繋げ、トルクフルなスーパーロウで発進する。ガクッと車体が前のめりになり、すぐさまセカンドサードにギアーを入れて、旧日立製作所の工場から出て行く。新青梅街道は、スッカリ夜も更け、街灯も点いて無く、真っ暗闇だ。車は、河辺を過ぎ、新青梅街道を右折し、青梅線沿いを走る。
 東青梅を、過ぎた辺りでミゲルは、口を開いた。
 「米田、一体どこへ向かってんだい?」
 ミゲルは、腹が減ったと、仕切りに言い、米田の持っている携帯レーションを分けてやる。
 「奥多摩の向こうの、JA治安部隊・小菅コロニーだ、女を一人浚ってくる、ソレだけだ」
 「おー小菅か、アソコは何も無いが、フィッシングが出来る、女って宛てが有るのかい?」
 米田は、宛ては無いが、5体まともな女が、揃ってる居ると噂に聞いたので行くと言い、ミゲルは呆れて肩を竦める。
 車は奥多摩路を急ぐ。奥多摩に向かう青梅街道は、無傷で、路面も荒れて無く、スムースに通行が出来る。所々に、猪撃ちのハンターが、コンビニ跡の駐車場で焚火をして、鍋を煮込んでいた。米田は、そのハンターの集まっている駐車場に車を入れ、ライトとエンジンを切る。
 ハンター達は、全部で6人居る。米田の方を向き、ライフル弾を装填する。ミゲルは肩を竦めて、ジープの助手席に隠れる。
 「オイ、日本人だ猪を俺達にも分けてくれないか?」
 米田が声を掛けると、一人の年嵩の男が、笑いながら言う。
 「じゃぁよ~、何か物有んべか、そのジープでも良かんべ」
 米田は、セブンスター1カートンを出して、皆に渡す。ミゲルはそれを見て近付いて来て、皆の前でペコリと頭を下げる。
 「アンタ、治安部隊の兵隊さんじゃねぇーか?」
 「いや、コイツは今日からマッドポリスを辞めてここまで来たんだ」
 米田が言うと、ミゲルは、治安部隊の階級章を、ビリリと破り、火の中へ捨てる。
 「ナハハハ、じゃぁ敵じゃねーな、これから何処へ行くんだ?」
 ハンターの中でも、体格の良い中年の男が米田の方を向いて問う。
 「小菅の、治安部隊のコロニーまで行く予定だ」
 「そーか、アソコは、深夜は通れねぇべよ、アッコに有るライフル一丁くれたら、何日でも家で泊めてやんべよ」
 先程から、ジープを気にしていた、体格の良い中年の男が、笑いながら言う。
 「フム、アンタの家を拠点にさせてくれるならお安い事だね」
 「治安部隊の奴等を、襲うなら、協力すんべよ、ウチの娘が治安部隊の兵に、嬲り者にされて、家から一歩も出なくなった」
 体格の良い中年の男の名前は、佐藤一平と言い、元は、3年前まで、ダンプの運転手をして居たと言う。娘が3人居て、上から20歳、17歳、15歳と、歳はまだ若い。米田は、猪鍋と、岩魚の串焼きを、食べながら焼酎で一杯やる。
 米田は、ジープの荷台から、M16A2アサルトライフルと、スペアマガジン4つを渡して、佐藤一平宅に、泊まる事にした。ミゲルも、頷きながら着いて来た。
 佐藤一平宅は、鳩ノ巣のトンネルを抜けて、500メートル程行った所の崖の下に有る。車を止める、駐車スペースは、5台分は有った。佐藤の乗って来た、パジェロの後方に着いて行き、崖の下へ左折してはいる。米田は、巧みにハンドルを操り、上手く崖の下の佐藤宅へ降りる。佐藤の駐車場には、3台の車が有り、何れも核で着いた煤が、こびり付いていた。
 佐藤宅へ入る前に、ミゲルと二人でジープの幌を張り、武器弾薬を、大き目のジュラルミンケースに、分解して仕舞い、3重の鍵でロックする。1通り作業を終えると、佐藤家の居間に通される。まだ真新しいその家は、4年前にリフォームし、風呂は大人10人は、入れる広さが有ると、一平は自慢した。居間は、大十畳有り、週末になると、地元猟友会の、有志が集まり、宴会を開く事がしばし有ると言う。
 佐藤一平の妻は、38歳、色白で気品のある顔立ちを、してい所作も何処となく、高貴な香りを漂わしせていた。米田の顔を見ると、首筋を朱に染めて、ニコリと笑い掛ける。
 「奥さん初めまして、私米田と言います、此方はミゲル、日本語が良く分からないので、私が通訳します」
 ミゲルは、ニコリと笑い、自己紹をした。2人は早々と、風呂に通されて、服を脱ぐ。米田はシャワーを浴びると、赤黒い血の塊が下水道に流れて行く。
 ミゲルは、米田の体を見て唸る。米田の体には、銃創と刀剣の痕が多く有り、青白いミゲルには、右の二の腕にドクロの、タトゥーが有るだけで有った。ミゲルは、飽く無く米田の体を眺めていた。
 「何を見ている、俺はホモの趣味は無いぞ」
 「ノー、米田、アンタを俺は見直したぜ。その傷は半端じゃ付かないな」
 「何を言ってるか良く分からないな・・・・・・」
 二人は、風呂を使い、米田にとっては十日振りの風呂で有った。二人は、奥さんに出して貰った浴衣を着て、一階の奥の部屋で寝た。
 明くる日、午前11時に起こされた。一平の姿が見えなくて、奥さんの美代に聞いて見ると、毎日猟三昧で、朝の5時から出て居ると言う。居間には、3人の娘が座り、マッドポリスに犯されたたと言う娘は、3女の美奈と言う娘であると、昨夜一平から聞いていた。成程、色が透ける様に白い美少女で有る。米田とミゲルは、3人に挨拶し、まず、長女の加代が、折り目正しく挨拶し、三つ指を突く。
 次に、次女の美名代が、挨拶する。ミゲルは、勃起してくる股間を両の手で押さえて、鼻息荒く、見つめている。三女の美奈は、ミゲルに怯え、ビクビクして、挨拶もそこそこ席を立つ。ミゲルは、気にして米田の顔を、伺う。
 「お前の顔が、相当恐ろしかったんだな、ちゃんと髭を剃って来い」
 英語で、二人はやり取りしていると、長女の加代が、ミゲルの顔を見て、クスリと笑う。ミゲルは、頭を掻き、洗面所に歩いて向かう。
 米田は、当たり障りの無い話をして、宛がわれた自室へ戻り、良く洗濯された戦闘服を着、ジープへ行き、幌を外し、機銃をセットし、ジュラルミンケースから、手榴弾と、M16A1カービン、関ノ孫六と、そして44オートマグショートバレルカスタムを、懐の、ホルスターにセットし、ジープのエンジンを掛ける。
 ミゲルが走ってやって来て米田に、置いて行くなと苦情を言う。
 二人は、見送りに出て来た、美代に礼を言い、ケーキの入った缶詰を4つ渡して、車を発進させる。途中悪路も無く、ジープは1時間半で、小菅村に着く。
 米田は、JA治安部隊の、別荘になっている、新築成った、ホテル・ニュージャージー・に車を入れる。
 このホテルは、マッドポリスの、隊員が宿泊する為に、1年半前から建築された、リゾートホテルで有る。この春、開業し、全205部屋の規模の一大リゾートホテルとして、関東各地から、JA治安部隊の幹部、隊員達が、余暇を利用し、泊まりに来る。
 屋上には、ヘリポートが、4つ設けられており、大型ヘリが、引っ切り無しに、離発着を、していた。
 米田は、ジープを、来客専用の、駐車場へ入れる。入り口で立哨している、兵士に、軽く敬礼し、中へまんまと入り、ジープのキーを、付けっ放しで、2人はホテルの受付を通らず、中へ入る。ボウイの青年が、早足で歩き去る米田と、ミゲルの様子が可笑し気なのに気付き、奥のトイレに入る2人を、着けて来る。
 米田は、一早く気付き、トイレに入って来たボウイが、英語で2人を誰何する声を聞き、関ノ孫六でイキナリ喉を突く。
 「う・・・ゲボボボ」
 ボウイは、血の塊を吐き、絶命していた。
 米田と、ミゲルは、ボウイを個室に入れて、ロックをし、ミゲルが上から這い出て来る。血の海になっているトイレ内を、用具入れから出して来た、ホースを使い、綺麗に洗い流す。2人は、非常階段で上へ上がり、2階の従業員控室と、書いて有る、区域へ入る。女子専用の、控室へ入り、女が一人で、仮眠ベッドで寝ていた。米田は、ミゲルに、見張りをさせて、ゾーリンゲンのナイフで、女の喉元を、ヒタヒタと触る。
 「あっ、・・・・・・・」
 女は、目が覚めて、絶句する。米田は女の名前を尋ねる、低く沈んだ声でだ。
 「ユミ、大月ユミ・・・・・・」
 女は、恐怖で声が擦れ、体の身動きが取れない。
 「年齢は?」
 「二十歳・・・ねぇ、アンタ達、治安部隊の隊員じゃないの?」
 米田は、腰のポーチから、クロロホルムの、瓶を、取り出して女の鼻先へ近付ける。
 女は、顔が引き攣り、身を、捩らせる。米田はゾーリンゲンのナイフが女の喉元を浅く引き裂くのも、構わずに、右手を女の口の中に入れ、水溶化した、睡眠薬を、喉に流し込む。女の眼は焦点が定まらなくなり、米田は、試みに腹に一撃パンチを入れる。
 女の反応は、無くなり、鼾を掻き寝入ってしまった様だ。米田は、ミゲルに目配せをし、女を担がせて、昨日鹵獲したベレッタの自動拳銃を、構えて、非常階段を、降りる。女は、小柄だったので、ミゲルは、軽々と担ぎ、米田の後に続く。フロアーに入る前に、ミゲルを待機させて、受付の男女に米田は近付く。
 「ハイ、何か?」
 フロアーの、男女がその時一斉に、米田の方へ向く。隠れていたミゲルが、男達にベレッタをフルオートで掃射する。フロアーに居た男達5人、そして、リゾートを楽しんでいる、マッドポリスの隊員3名が、連れていた、商売女達と共に、血を吹き倒れる。米田も、持っていたベレッタが火を噴き、受付の男女の頭部を右と撃ち抜き即死させる。
 「ヘイ、ミゲル脱出だ」
 「ラジャ」
 2人は警備兵が駆け付けて来る前にホテルのロビーを出る。
 米田は、行き掛けの駄賃とばかりに、胸に吊って有る、手榴弾を二個、ホテルのロビーに投げ入れて、足早に去る。
 駐車場では、ミゲルが、警備兵と銃撃戦を、繰り広げていた。ジープの陰に隠れ、M16A2アサルトライフルで、応戦していた。
 米田が、駐車場へ走って来ると、ホテルの、本館が大爆発をし、爆風で砂塵が此方まで、もうもうと飛んで来て、二人はゴーグルを付ける。米田は、その隙に、ジープの上に飛び上がり、機銃座に着き、集まって来た、ホテルの警備兵20人程に、銃撃を薙ぐ様にして10数名を殺害する。
 砂塵が止む前に、ミゲルは女を後部シートに投げ入れて、コクピットに座り、ジープを、発進させる。米田は、近寄る人影が有ると、機銃で掃射し、計30数名を、殺害し、血の海を残してジープは走り去る。
 空から、攻撃ヘリが迫って来る。木々が邪魔をして、中々低空を飛べない。米田は、機銃の残弾を、ヘリに向けて連射する。しかし、弾頭は空中でドロップして、空しく外れる。米田は、M16A1カービンでヘリに向けて点射する。弾はヘリに命中するが、走行に食い込み、ガソリンタンクに穴を開けるのが精一杯で有った。
 道が開けて来た、ヘリから人影がのめる様に出て来て、運転手のミゲル目掛けて、ライフルを撃つ。弾丸が、フロントガラスを叩く。
 「ワァ~オ」
 奥多摩湖に出ると、ヘリが低空で横に並んでくる。米田は、狙撃兵に向けて。M16を、フルオートでぶっ放す、同時に狙撃兵も、アサルトライフルを、フルオートで撃つ。幸いに、銃弾は、米田を逸れるが、後部リッドに2発命中し、跳弾が、ユミに突き刺さる。
 「ぎゃー」
 ユミは、断末魔の声を上げて、絶命した。
  「チックショウ、女が死んだ」
 米田は、絶叫し接近してくる、ヘリの後部で、ニヤケて居る、狙撃兵目掛けて、44オートマグ・ショートバレルカスタムを、5発連射する。約50メートル付近で、ヘリの胴体に、銃弾が5発命中し、コクピットの操縦者の頭をカチ割り、ヘリは、グラリとなり、湖に墜落して行く。
 米田は、悔しくてジープの後部で死亡している、大月ユミを、路上に投げ捨てて、走り去る。
 米田とミゲルは、車を、鳩ノ巣の、佐藤一平宅に着ける。米田は、Gショックを、覗くと、午後6時を、少し回っていた。2人は、命からがら逃げて来て、ジープの幌を掛け、機銃を、台座からラチェットで外し、ブルーシートを掛けて、カムフラージュの木々を、河原へ降りて、持ってき、車体を覆う。
 作業が終わった頃、一平の妻、美代が出迎えて、冷たいお茶を出してくれた。
 「今、お帰りですか?」
 「ああ、奥さん、一平さんは居るかい?」
 米田と、美代は互いに何かを感じ、米田は美しい美代の瞳を、見入る。美代は米田の逞しい、横顔にうっとりと見入り、二人は何処か怪し気な空気に包まれていた。
 「米田、腹が減ったミセス美代に、何か無いか聞いてくれ」
 ミゲルは、そんな空気も御構い無しに、空腹を訴える。
 「奥さん、何か食べ物無いかな?」
 「ハイ、今夜は、魚の移動販売が来てたから、夏ガツオの刺身に致しますわ」
 美代の話によると、核攻撃の有った、1989年のあの日以来、週に2日来ていた魚屋が、月一度に減り、更に物資欠乏の時代に入り、半年に2回来れば良くなった。
 日本銀行券の円は、その価値を無くし、ゴールドや、宝石、食料物資と言った物が、重宝され、物々交換の時代であった。幸いにして、佐藤家は、多摩川上流の、渓谷が、目と鼻の先に有り、夫である一平は、狩猟により、毛皮や肉と言った類を、売り捌き、虎口を凌いでいた。
 「夫なら、夜の10時頃帰って来ると申していましたわ、それまで、ゆっくり寛いで下さい」
 米田とミゲルは風呂へ通され、体の垢を落として、居間で復興が早かった、山梨県のUHFのTV番組を見る。NHKは、渋谷の社屋を諦め、社を、盗賊や暴力団に乗っ取られた形で、千葉の市川に移転し、再起を掛けていた。甲府のUHF派の、TVは、民法で有ったが、甲府には核が降らず、通常弾頭のミサイルが30発着弾して、街は半壊していたが、地方で有るので、野盗の数は少なく、復興は進んでいた。
 そんな、山梨のTVニュースを見て居ると、ホテルニュージャージー、爆破事件のニュースが、流れた、米田は目的が達成されずに、女を死亡させた事を、悔やんでいた。
 深夜遅く、佐藤一平は帰って来た。娘3人が出迎え、一平が担いで中へ入ってきた、見事な、鹿を見て、一同感嘆の声を上げた。
 「どうだべ、明日は、鹿肉で鍋にすんベ」
 一平は、居間にゴロリと転がり、新聞を読んでいた。米田は、それと無く一平に声を掛けて、娘一人の就職口を紹介すると言った。一平は、新聞を置き、身を乗り出して話を聞く、姿勢を取った。
 「何だべ、長女の加代に職を、紹介してくれるベか?」
 「はい、実入りの良い仕事で、雇い主は大変な金持ちです」
 一平は、少し考えてから、アサルトライフルの、銃弾を、もう少し譲ってくれればOKだと言う。
 「それにな、一人分の食い扶持が、減りゃー、こっちも大助かりだ、ライフルの銃弾を、少し分けてくれ」
 米田は、承知して、アサルトライフルの、弾を、ジープから出して来て、一平に渡す。
 その夜、一平は中半強制的に、長女加代の渋谷行きを、説得した。加代は都会に出られれば良いと、割り切って、喜んで承知した。
 その日の深夜、ジープで渋谷の松濤に有る、バイパーの接収したビルに、朝方になって着く。バイパーは、寝ない男として有名で、何時に訪れても起きていた。
 バイパーの家は、松濤ハイツと言う、昭和の時代から有る高級マンションで、建物丸々一個を占拠して、全室を、自宅として使っていた。建物は、半壊しているが、しっかりと残り、住むに不自由しない、高級マンションで造りが頑丈であった。バイパーのアジトで有った。
 米田は、車をハイツの駐車場へ入れると、後部座席に乗っていた、加代が車から降りて、珍しそうに辺りを見回す。
 「米田さん、本当にこんな場所に住めるの?」
 「ああ、そうだとも、安心して暮らしなさい」
 3人は、バイパーの居住する最上階の部屋へ昇り、ドアーを3回ノックした。
 中から青白い顔をしたバイパーが、煙管を吹かしながら出て来た。
 「バイパー、約束通り、女を連れて来たぞ、奥多摩の産で、健康的で被爆していない」
 「ふ~む、良い女だな、サッ中へ入れ」
 バイパーは、フリルの着いたドレスを、金庫から出して来て、加代に勧める。
 加代は受け取り、バイパーに礼を言い、バイパーにキッスされた。
 「やれやれ、バイパーは少女趣味だとはな」
 米田は、呆れながら今日の報酬を受け取る。金の延べ棒3本で有った。
 「多くないか?一本の約束だったけど、何の風の吹き回しか?」
 「ホテルニュージャージーを、爆破したお礼さ、さっさと仕舞って帰ってくれ」
 米田とミゲルは、肩を竦めて、ジープで米田のアジト、アーク要塞に帰る。
 埼玉県元庁舎に、インゴット、1トン分が眠っているとの情報を、得たのは、虎舞羅会のリーダー、滝本で有った。埼玉の元県庁舎は、浦和シティーに有った。浦和は、水爆の一撃を浴び、壊滅的状態に有ったが、生き残った市民達が、ボランティアで、貧しい人々や、家族を失った人々に、無料で朝晩炊き出しが実施されていた。
 そこを、JA治安部隊・第六部隊の、スザータ大佐が守備をしていた。1トン分のインゴットは、戦前、昭和の時代、県の振興の資金として、埼玉県が管理し又、埼玉県の資産で有った。
 そんな話を、9月の有る日、ミゲルと一緒に遊びに行った六本木の、ディスコ、【マロニア】で聞いた。
 「あのインゴットはよ、実質的には、スザータの物さ、アイツは、マッドポリスを、私兵の様に扱い、あの金塊に手を付けようと企んでいるって、専らの噂さ」
 滝本は、酔いに任せて、色々な事を話す。
 「インゴット1トン分とは、一体スザータ大佐は、何に使うのかな?」
 米田は、懐からマルボロを出すと、滝本の側近、山下が、カルチェのライターで火を点ける。滝本は続けて言う。
 「スザータは、私兵である第六陸戦部隊を、叩き台にして、治安部隊、いやマッドポリスの、中枢に食い込み、厚木の本部の指令になるとかの、専らの噂さ」
 ミゲルは以前、マッドポリスの、全体ミーティングで、スザータが、戦術論を、講演したのを見て居ると言う。滝本は、ミゲルの事を、米田に預からせて貰えないかと、聞き、米田はOKを出すが、ミゲルは、グズリ、米田の下から離れたくないと言う。その日は、そんな噂程度の会話で、分かれた。米田は用が有ると言い、ミゲルはジープで先に帰った。
 米田は、六本木のディスコ【マロニア】から、プラプラと歩いて、六本木通りを、麻布方面へ、フラリフラリと、酔いに任せて歩いて行く。
  ミゲルは、アーク要塞に5分で帰り付き、ジープを地階の駐車場に停めて、ダッシュボードから、白い粉を出して、酒を飲む、お猪口に水を入れ、白い粉を良くかき混ぜる。注射器で良く吸い、左腕の静脈に打つ。ミゲルは気分が良くなり、アーク要塞の3階に、崩れ掛けた非常階段で上がる。
 ミゲルは、一つのテントを目指していた。3階の端に有るテントに眠る、米田の妹、ヤヨイの肩を揺する。ヤヨイは、眼をパチリと開け、キャッと、少し驚き、
 「あら、ミゲルさん、こんな夜更けに何の用?」
 ミゲルは、ヤヨイの口を右手で塞ぎ、左手でパンティーの履いてない、クレバスを、指で揉む。ヤヨイは、抵抗せずに、ミゲルの右手をそっと外して言う。
 「ミゲル、したいならちゃんと言いなさいお兄ちゃんには内緒にしてあげるから」
 ヤヨイは、ミゲルの戦闘服のジッパーを、ソッと下して、いきり立つ物を、甘く握り、口に含む。ヤヨイはこう言った事には、慣れていた。ボランティアで行く、赤坂の戦災施設で、しばしば末期の原爆病に犯された患者の、性処理をしてあげるのも、ヤヨイ達、ボランティアの看護の人達の、仕事で有った。
 米田は、原宿まで歩いて来ていた。マッドポリスの、詰所が、旧JR山手線原宿駅前に有り、常々、そこに有る、マッドポリスの車両、ランドクルーザーに、眼を付けていた。
 マッドポリスの、車両だが、マーキングはされてなく、パトランプも装着されていない、ノーマル状態のボディーを、保っていた。
 米田は、詰所の前をそれとなく、通り掛かり、中を覗くと、マッドポリスの、隊員の姿は無く、中へ入って見る。元々は、警察の交番施設で有り、奥の控室を改装し、畳を取り外し、ベッドルームになって居ると、米田は知っていた。
 中へ入り、無線機の類いと、バズーカ砲と、アサルトライフルが散乱し、置いて有った。
 関ノ孫六をスラリと抜き、奥のベッドルームに入って行く。奥では、ベッドが4つ並べて置いて有り、中年の男と、中学生位の少女が、ベッドの上で奮闘していた。
 「オイ、今日の遅番はお前だけか?」
 米田は、孫六の切っ先を、中年の男に向けて構える。
 「ヒィー、お助け、何でも言う事を聞きます、命だけは取らないで下さい」
 男は、米田の人相を見て、直ぐにソレと気付き、驚きの余り、ザーメンをペニスから噴出させて、少女の陰に隠れる。
 「車の鍵を出せ、出したら命は取らないぜ」
 男は、禿げ上がった頭を、抱え込んで、米田に胸ポケットに入っていた、ランドクルーザーの、キィを出して投げる。
 男は、少女の陰に隠れ、脱ぎ散らかしている、ズボンに吊って有る、ホルスターから、ナンブのリボルバーを出そうとして、ゴソゴソと、動く。
 米田は、それを見逃さずに、男の首筋に、関ノ孫六、二尺六寸の、太刀を突き入れる。
 男は、少女を盾にして、一撃目を躱す。少女の、胸に孫六が突き刺さり、悲鳴を上げて、血を吹き出し、泣き喚く。男は、少女の脇から、ナンブ銃を突き出して、発砲しようとする。セーフティーが、掛かって居て、カチカチと、引き金を、ガク引きをする。
 米田は、男を見て、ニヤリと笑い、腰のホルスターから、44オートマグを出して、孫六を壁に立てかけて、両手でしっかり狙いを決めて、2発発射する。ドムドム。鈍く低い銃声が、室内に響き、一発は少女の頭を吹き飛ばし、2発目は、マッドポリスの男の左肩を、撃ち抜く。男は、左肩から下が消失し、涙を流してショック死する。
 米田は孫六を、スラリと鞘に戻して、44オートマグを、仕舞う。外へ出て、詰所から、ランドクルーザーの、停めて有る隣の敷地まで歩き、ドアーを開けて、キィーを挿してエンジンをスタートさせる。オートチョークが効き、アイドリングが高鳴る。
 黒煙をマフラーから吐く。
 ディーゼルエンジンらしい、米田は詰所に又戻り、ロケットランチャーや、バズーカ砲と言った武器を、ランクルの荷台に載せて、詰所に1個、手榴弾のピンを抜いて投げ入れて、全速で、原宿から去る。
 それから、一週間が経つ。
 米田とミゲルは、埼玉県浦和に来ていた。街角や、辻々に、マッドポリスの、立哨が立ち、米田は3度目の検問に打つかる。
 「はい、身分証明する物何かある?」
 米田は、渋い顔をし、偽造した免許証を出す。名前は、大杉連太郎と、書かれた免許を提示して、荷物のチェックもせずに、その場を、やり過ごす。荷物をチェックされたとしても、下水道工事の用具と、ジュラルミンケースが、1個入ってるだけで有った。
 治安部隊の隊員は、米田の顔と、免許証の顔写真が、一致しただけで、道を通す。
 浦和市は、浦和駅上空が爆心地で、半径15キロメートル水爆によって焼かれ、15㎞四方がクレータになっており、元有ったビルの残骸も疎らになり、生き残った市民は、三千人弱だと聞いた。
 そんな浦和市に、進駐して来た、JA治安部隊は、焼け出された市民を、国道17号線の向こう側に追いやり、駐留している部隊は、1500名、指揮官は、スザータ大佐、副官は一関次男大尉で有る。
 3年経った現在、東京都民が、入植し、人口は3万人まで回復していた。
 米田は、ランクルを、17号中山道を、北上し、島忠ホームセンターの瓦礫の中へ突っ込ます。島忠ホームセンターは、北浦和駅の近くに有った。今は建物は残らず、土台から上3メーター部分の、コンクリ部分が、疎らに残っているだけで有った。
 そこに、10人の浮浪者の集まりが住んでいた。滝本の手の者、虎舞羅会の、メンバーだ。
 男5人に、女5人、何れも20代後半の若者達で有る。リーダーは、山元初、虎舞羅会の、大幹部である。今は、テントで暮らしていた。
 山元は、ランクルに近付き、食糧支援物資を、貰い、皆に分ける。
 「米田さん、時間より少し早いですね」
 山元は、貰ったばかりの、チューインガムを、包みから出して噛みながら話す。
 「ああ、3回も検問に引っ掛かってな、警戒が厳重だな」
 山元が言うには、後3日程で、スザータ大佐が、厚木のJA治安部隊本部の、参謀補佐官に、就任し、埼玉県庁に在るインゴットが、厚木まで運ばれ、装甲車4台、護衛兵60人、機動隊の2輪10台の先導によって、ルートは、浦和所沢バイパスから、国道16号を使い、神奈川県の厚木まで運ぶ予定だと言う。
 「ほう、流石に、虎舞羅会の、諜報網は、大したものだな、俺とミゲルは何したら良い?」
 山元は、ガムを噛みながら、マルボロを一本取り出して、火を点ける。
 「米田さん達には、後方からインゴットの追跡を、お願いしたい、そのランクルが有れば大丈夫っしょ」
 ミゲルは、一人、ランクルからテントを降ろし、杭を打ちテントを二つ張る。
 「あ、その人がミゲルですか?、リーダーから聞いてるけど、使い物になりそうですね」
 山元は、10人の仲間を集めて米田とミゲルを、紹介する。米田にとって、顔馴染の連中で有った。
 一人特別な、思いの女が居た。以前、米田と組んで、滝本の仕事で横須賀に、潜入し、武器弾薬を、強奪した折り、2,3度肌を合わせた女であった。
 その時の事で、米田の子を、身籠ったと聞いたが、会うのはそれ以来で有った。名前は、加賀しのぶ、米田に近付いて来て、目を潤ませる。
 「久し振りだね、まだこの仕事を、続けていたんだ」
 しのぶは、24歳になるだろうか?、米田と組んだのは、1年と4カ月前、今は、何処で何をしているのか、滝本も教えてくれなかった。
 「久しぶりね、この子名前を、純と言うの」
 しのぶは、一枚のスナップ写真をだして、米田に見せる。ヨチヨチ歩きの元気そうな、男の子の、写真で有った。米田は、「ウム」と、頷いて、スナップ写真を手に取る。人の親になったと言う実感は、沸かない、むしろ、別次元の世界の、話しを聞いている様な気がして、心が体から離れる様な、錯覚に、捉われる様な気がした。
 「純て名前はね、アナタの純血の純って意味で、付けたの、今、八王子の元八王子って所に住んでいるの。この仕事が終わったら、来てください」
 しのぶは、女達の居るテントに向かい、歩み去って行く。米田は、フゥ~、と溜息を吐き、ミゲルの張ったテントに入り、トランジスタラジオを、点けて昼のニュースを、聞く。
 午後6時半になり、各々焚火を炊き、飯盒で今日米田が持って来た、米で白米を炊き、オカズは、鳥の串焼きを食べる。
 時折、マッドポリスのパトロールカーが、通り掛かり、島忠跡のテント村に停まり、その都度、山元がタバコを持って行き、何か囁き交わして、戻って来る。
 米田は、一度埼玉県庁の、下見がしたく、ミゲルと、歩いて見に行く事にした。17号線中山道を、二人はブラブラと歩き、旧浦和警察署、現在治安部隊の、バラックが建つ、第六部隊、浦和本部の前まで来ていた。
 山元の情報に依ると、此処の牢獄には、14歳~18歳までの未成年の少女や少年達を、近隣で補導と称して、拉致してきて、マッドポリスの、男兵士、女兵士の、夜の玩具にされて、挙句にヘロイン漬けにされ、逃げ出せない様にしていた。
 米田は、瓦礫の陰に隠れて、ミゲルと一緒に、マッドポリスの、制服に着替えた。米田の、携帯する武器は、44オートマグショートバレルカスタム、ゾーリンゲンのホールディングナイフだけで有った。
 二人は、正門から入り、立哨している兵と敬礼を、交わし、中へまんまと入る。
 治安部隊の、浦和本部は、プレハブが25棟立ち並び、兵士達は、外で車を磨いて居たり、中で博打をしたりして遊んでいた。
 米田と、ミゲルは、1棟1棟見て回り、取調室と書いて有る、プレハブ小屋に近付いて見る。表からでは中は見えず、控室の中へ入って見る。控室の中には人が居なく、取調室の中は暗幕で隠されていたが、カーテンを捲ると、マジックミラーで、仲が丸見えだった。中では、中年の太った兵士が、手錠を掛けられた、小学校高学年程の、少女、ロウティーンの少女の体を触り、スカートの中に手を入れられていた。
 「オイ、音声マイクがここに付いているぞ」
 米田は、横に有る、スピーカーフォンの、スイッチを入れて、ミゲルが聞き耳を立てる。
 (ハァハァ、お嬢ちゃん、オジサン君の可愛さにもう夢中なの、お名前教えてくれても帰さないじょ)
 少女は、身悶えしながら体を捩る。中年の男は、少女のパンティーを脱がせて、ジュルジュルとヴァギナに口を付けて吸う。
 「米田さん、あの男殺しましょうか?」
 ミゲルは、腰に吊ったベレッタの自動式拳銃の、銃柄を握りしめて、中へ突入しようとする。米田は静止し、
 「今ここで事を起こしたら作戦は台無しになる、此処は堪えろ」
 言ってもう少し様子を見る。
 (ハァ~もう堪らない~、オジちゃんの亀ちゃんの甲羅が取れちゃった)
 中年の男は、少女にディープキッスをし、中へ挿入する。
 (ぎゃ~ぎゃ~やめてあぅ~)
 少女の絶叫を聞き、米田はマイクのスイッチを切り、カーテンを閉めて、部屋から出て行く。
 二人はマッドポリスの浦和本部から出て、埼玉県庁に向かい歩く。
 県庁前まで来ると、マッドポリスの立哨が、多く立っていて、米田とミゲルは、治安部隊の制服を着ているので、誰も何とも思わず、誰何されなかった。米田は、県庁の正門から中へ入り、立哨に軽く敬礼し、ミゲルと共に中へ入って行く。
 夜になったと言うので、駐車場に並ぶ、ジープと、装甲車、4トン積みの軍事車両を確認して、再び外へ出る。米田は、装甲車の1台の下部に、三日後爆発する様セットした、時限爆弾を、貼り付けて、17号線に戻る。
 翌日、米田は、午前5時32分に目が覚めた。山元以下、虎舞羅会のメンバー達は、既に飯盒で、朝食のカレーを食べていた。ミゲルもその中に交じり、英語が出来るメンバーと打ち解けて、会話を楽しんでいた。
 米田は、ノソっと起きて来て、朝の一服マルボロを一本出して、一吹かしする。少し昨夜深酒をし、頭痛が残っているが、久し振りに抱いた、しのぶ、の体が思い出されて、朝から股間を膨らませていた。ミゲルは、米田を見て苦笑する。
 「お早うございます米田さん、今日と明日しか無いですが、我々の収入源の一つ、鉄屑のジャンク集めに協力してください」
 山元は、カレーを頬張りながらしのぶに、米田の分をよそおってやれと言う。
 「鉄屑のジャンク拾いって、埼玉エリアじゃまだやってんのか?、23区じゃ、もう鼻血も出ない程取り尽されて、何も無いんだぜ」
 山元の話だと、大宮駅のホームにまだ、余り荒らされてない、電車の車両が転がって居ると言う。大宮は核の余波は有った物の、直撃は逃れ、通常ミサイルが、30発撃ち込まれ、街は炎に包まれ、大半の市民が家を焼かれ、テント暮らしだと言う。因みに、此処には生き残った者、12万人居ると言う。しかし、駅前には、闇市が建ち並び、他所者がおいそれと、入れる状態じゃ無かった。大宮だけは、マッドポリスの、警察権が届かなかった。
 「で、誰か着いてきてくれるのか?」
 米田は、ジュラルミンケースから、米国製のサブマシンガンを取り出して、分解して有るソレを、組み立てる。
 腰のベルトに手榴弾を吊り、計10発の、手榴弾を携行し、44オートマグのスペアマガジンを、5つポーチに入れ、関ノ孫六2尺6寸の太刀を、右手で掴み、今日案内してくれる、高田と言う男と同乗することになった。
 高田は、2トン半のキャンターを、瓦礫の中から取り出して、島忠の残骸跡から、17号線へ出す。助手席には、米田とミゲルが座り、国道17号線を、与野を過ぎ、大宮駅の外れに有る、金網が破れた地点で車を線路内に乗り入れる。駅のホームに車を近付けると、ホームや線路上に列車が横転し、所々大破ないし中波し、金属を丸出しにして横たわっている。
 向こうには、重機と、2トントラックが止まっていた。どうやら先客が、居た様だ。
 米田とミゲル、高田の順でトラックを降りると、地面に銃弾が爆ぜて時折空中に、ハイスピード弾で有ろう、ライフル弾が通過して行く。
 米田は、サブマシンガンを、腰溜めに構えて、銃弾の飛んできた方向を見る。
 大破した、百系新幹線の窓から、3人の男が米田達に狙いを付けて、ウィンチェスターのライフルを構えていた。
 「オ~イ、同業者だ、ライフル仕舞ってくれ」
 高田が、大声で叫ぶと、窓から顔を出して居るライフルを持った男が、もう2発ボルトアクションで、連射してくる。
 空薬莢が、ピ~ンと宙空に飛び、新しい弾丸を手早く詰める。米田は、走って百系新幹線の中へ入り、中で座席を分解していた男に、サブマシンガンの一撃を入れる。点射し、30発程撃ち終えると、男は体中穴だらけの姿になり、血を大量に流して死亡した。ミゲルが、外で、ウィンチェスターの男と、M16A2アサルトライフルで応戦し、ウィンチェスターの男は、顔面に数十発喰らい即死した。
 ミゲルと、高田も、車両の中へ入り、一番ホームに近い、後部車両へ移動する。3人は、終始無言だ。最後列の車両に入ろうと、ドアーを開けると、拳銃を構えて、若い髭面の、男が立っていた。米田と鉢合わせて、2人ハッとなり、反射的に米田が44オートマグショートバレルカスタムを抜く。男は、一ぱく遅れてトリガーを引く、44オートマグは、轟音を残して、マグナム弾が射出される。
 男の左腕に、ヒットし大穴を開ける。
 米田は、銃弾が左肩を擦り、着ていたMA1ジャケットが、少し破れた。
 高田は、3人の男達の懐から、コルトパイソン、ベレッタクーガー、コルトコンバットコマンダーと言った、ハンドガンを、奪い、腰のポーチや内ポケットから、スペアマガジンを頂戴する。金目の物は、携行していなく、身分証明書も、持っていなかった。ミゲルは、男の奥歯が金歯なのに気づき、腰のポーチからラジオペンチを出して、金歯を一本抜いてビニール袋に入れ、ポケットに仕舞う。米田は、渋い顔をして、ミゲルを睨む。高田が、3トントラックから戻ってきて、2人に言う。
 「調度、表にユンボが有るから、それで車両破壊します、取れた鉄屑を、キャンターに運んで下さい」
 「OK、音が大きいと、闇市の連中に知れるぜ、大丈夫か?」
 「大丈夫です、来た時は、そのサブマシンガンで撃ち殺して良いですよ」
 高田は、爽やかに笑い、外に置いてあるユンボに、搭乗シに出る。
 米田とミゲルも表に出て、ユンボの動きを、見守る。ユンボには、キィーが付いていた。
 高田は巧みに操り、メキメキと新幹線の車両の装甲を捲っていく。
 新幹線は、その核の余波で剥げ落ちた塗装が、生地の鉄を見せて、ユンボのショベルで、粉砕されていく。米田と、ミゲルは、軍手を付け鉄片を2トンキャンターに運び、載せて行く。百系新幹線は、30分で最後尾の一両が、分解され、残ったのは車輪だけで有った。
 2トンキャンターの荷物一杯に、鉄屑を積み、3人は悠々と引き上げていく。
 2トンキャンターは、鉄屑を満載させて、ガタガタと爆撃で出来た悪路を北上する。
 鴻巣で左折し、川島町に入る。川島町の、越辺川の土手へ上がり、道場橋のたもとに有る、車のスクラップや、軍用車の残骸の有る小屋の前で車を停める。小屋の周りには、飛行機の部品や装甲車の機銃など、軍事物資も散見される。車から3人降りると、老年の男女が小屋から出て来て、右手に持っているライフルに、米田は喰い見る。
 小屋の看板は、大塚商事と書いてあり、ジャンク、中古車を、買い取ります。と示して有る。高田はその老人、松古井と言う社長に声を掛ける。
 「松古井爺さん、今日は2トン満載で鉄屑持って来たぞ」
 その老人は、目付き鋭く、高田の2トンキャンターの、荷台に飛び乗り物を、吟味し物色している。
 「何だこれは?、電車の部品か?2トンでこの位なら、50万と、行きたい所だが、新幹線のセンサーらしき物も入ってるから、色付けて55万だ」
  「OK、松古井さん、今から荷を、降ろすぜ」
 3人は、指定された川原の空き地に、ジャンクパーツや、鉄片を、降ろしていく。軍人で有った米田は、難なく降ろしていく。運動不足のミゲルは、10分で足腰に来て、息をゼェゼェと吐き、15分後にへたり込む。
 「何してんだ、働け、働け」
 松古井は言う。ミゲルは、ヨロヨロと立ち上がり、荷を降ろしていく。
 30分程で、荷が降ろされ、松古井の、小屋に入り、お茶としなびたミカンを、ご馳走になり、55万を受け取り、キャンターに乗り込み、帰途に就く。
 翌日は、何もせずに、テントで寝ていた。
 ミゲルは、暇になり、銃の手入れをしている。夕刻、米田は、関ノ孫六を、持ち出し、夕闇迫る廃虚の中で独り、剣の素振りをする。
 ミゲルは、米田の脇で、型を見様見真似で、立ち木を振る。
 米田の剣法は、無合念流剣術と言い、米田一仁17歳の頃、右翼の大物、笹沢信也と言う男から学んだ。
 笹沢信也は、亜細亜大道協和会と言う、右翼団体の会長で有った。当時55歳にして、剣法を、良く使い、そして、一面空手家でも有った。米田は、笹沢に、高校生の時弟子入りし、笹沢の編み出した剣法、無合念流を学ぶ。無合念流とは、古くから有る念流と、空手技をミックスした、新剣術で有った。
 米田は、此れを学び、自衛隊入隊後も、剣道、空手の精進を、怠らず、剣道5段、空手4段と言う高段位の保持者で有った。
 笹沢信也は、昭和58年、立山外務大臣を、弟子5人と共に襲い、暗殺未遂に終わり、懲役中、平成元年を、迎えた時、核戦争が起こり、東京の府中刑務所に於いて、行方不明になり、今も生死不明で有った。
 米田は、1日の汗を、流し取る為、千回、基本の型を、反復した。ミゲルは、百回でヘバリ、立ち木を投げ捨てて、その場で寝そべった。
 金塊移動の当日が来た。午後10時、埼玉県浦和の、守備指令委譲式が、埼玉県庁で、行われ、JA治安部隊800名が、見守る中、ジェットヘリに乗り、スザータ大佐は、厚木の空を目指して飛んで行った。
 米田とミゲルは、北浦和の駅の残骸跡に、車を隠し、ランクルをスタンバイさせた。
 午後1時、埼玉県庁から、先発隊、機動隊10台の、重装備を乗せた、YD250オフローダーが、露払いとばかり、先導した。
 続き、装甲車4台が、インゴット輸送用車両の、4トン車を、囲む様に走る。その後方から、陸戦隊60名を乗せたバス3台が続く。
 17号、北浦和を、右折した時、左前方を走っている装甲車から火が出た。次の瞬間、大爆音を残して、下部から装甲車の、車両が爆発した。輸送の指揮を、執っていた、本部厚木から、派遣されてきた、田沼五十六大佐は、全体を止めて、機動隊に周囲を哨戒させる。
 北浦和駅前にも、機動隊のYD250が、侵入して来た。米田は、ランドクルーザーに、備え付けてある、無線機のスイッチを入れ、バンドを、JA治安部隊に合わせる。
 無線機から、仕切りに田沼大佐の、怒鳴り声が聞こえて来る。
 (え~、此方機動一号、以上ありません)
 田沼は、それに答えて、(異常が有りませんじゃ無い、異常を作り出せぃ)
 30分、隊は、北浦和の、浦和所沢バイパスで、警戒態勢を、取っていた。
 (民間人5名程、怪しい物を逮捕しましたー)
 田沼は、留置所に、ぶち込んでおけと言って、隊を進発させる。
 輸送部隊は、45分足止めされて、所沢まで進んで行く。約1㎞後方を、米田の乗る、ランドクルーザーが、追尾して行く。部隊は無事に、所沢航空公園の、前に辿り着く。
 航空公園の、前に車線一杯にバリケードが、築かれて有った。バリケードの後方に、50人程の、戦闘服を着た、男女が潜んでいた。
 銃火が一筋閃いた。バリケードの上に、機銃が3門備えて有る。
 バリケードは、2メーター余り土嚢が積んであり、その後方に、大型トラックが、一台道幅一杯に縦に止まって居た。
 田沼は、顔が青ざめ、全員に一斉攻撃を掛けさせた。
 「突撃~、全員突撃しろ~」
 田沼は、トラックの上の指揮所から、マイクで叫ぶ。3台のバスから、60名程の、マッドポリスのコマンドが降りて来る。バスから降りると、重機関銃が唸りを上げて、集中砲火を、浴びせて来る。人の肉が飛び散り、バスは炎上し、土嚢の向こうから、虎舞羅会の、兵士、50人が飛び出してくる。その時、装甲車3両が、動き出す、火炎放射器が火を吹き、機銃が唸る。虎舞羅会の人数が、バタバタと、燃やされて、黒焦げの肉塊と化す。
 虎舞羅会のメンバーは、土嚢の向こうに一旦退避させて、装甲車目掛けて、手榴弾を投げるが、上手く当たらず土嚢を焼かれる。3台の装甲車と、40名程のマッドポリスの、コマンドが、一斉に土嚢を乗り越えて来る。銃剣と銃剣が火花を散らす。
 米田は、ゆっくりと、ランドクルーザーを、輸送用バスの後方に停める。M16A1ライフルで、指揮所のトラックの上で、指揮を執っている田沼大佐に向けて、フルオートでぶっ放す。ブーンブーンと、恐ろしい連続発射音を、残して、田沼にヒットする。田沼は、上半身を消失して、指揮所の上から崩れ落ちる。
 ミゲルもランクルから飛び出して、インゴットを守る、警備兵と撃ち合いになる。米田は、車両から車両の隙間を伝い、バリゲートを蹂躙している、装甲車両の、1台の後部に忍び寄る。胸に吊って有る、手榴弾を、1個ピンを抜き、装甲車の下へ、転がす。
 ドム。鈍い音を発して、装甲車の土台から下がせり上がり、コクピット内の兵は足から下が消失する。
 1台装甲車を潰した。米田は、更に、崩れた土嚢を、乗り越えて、M16A1アサルトライフルの先端に着剣してある銃剣で、マッドポリスの兵を1人後ろから突く。
 「ギャ、ウゲ~」
マッドポリスの兵は、下士官らしく、周りに6名程の兵が居た。米田は、銃剣を素早く引き抜き、右に居る女兵士に突き入れる。
 カィーン、と銃床で、薙ぎ払われ、地面に突然伏して、この攻撃を躱す。右と左の男は、同士討ちになり、胃に銃剣が刺さる。
 女兵士は悲鳴を上げた。
 「シンジィ~ア~ン」
 米田は、下方から女兵士の腹部を突く。女兵士は、泣きながら銃を放り出して何処かへ走り去る。
 更に、白兵が続く。米田は、中央分離帯を、乗り越えて、虎舞羅会の後方へ、回り込もうとしている、装甲車に、44オートマグを取り出して、至近距離まで近付く。5発、連続的に装甲車に、速射する。
 装甲車の車内で、マグナム弾が飛び交い、跳弾で内部のクルーが、皆殺しにされる。
 後方から、パラパラと、銃弾が降って来る。米田は、M16を拾い、後方を見る。残った装甲車が、米田目掛けて、機銃を放ってくる。米田は、走って居れ乱れて戦っている、土嚢内に一旦逃げる。その時上空からヘリ2機が、飛んで来て、機銃掃射をする。
 パパパパー、と地面に機銃弾が当たり、米田は10トン車の荷台に入って行く。
 中では、バッテリー駆動で、電球が点灯して有り、虎舞羅会の、リーダー滝本と、山下が、米田を見て笑顔を見せる。
 「米田さん、ご無事で何より」
 米田は、息を荒げて、滝本に言う。
 「ヘリが来た、何か飛び道具は無いか?」
 滝本は、クスリと笑い、アレは大手の乗って居るヘリだよと、返す。
 米田は、一服もせずに、又戦場と化した、浦和所沢バイパスに戻る。
 約100メートル程向こうでは、ミゲルが、輸送車両を守る、4人と銃撃戦を繰り広げていた。作戦は、輸送車を奪う事である。手榴弾は迂闊に使えない。ミゲルの弾薬は残り少ない、輸送車の影から撃って来る弾丸が、ミゲルの方へ段々近づいて来る。ミゲルは、後退し始める。米田は、輸送車に接近し、守備兵に、M16A1アサルトライフルを、フルオートでぶっ放す。2人倒れ、2人が米田に気付く。米田は、寄って来る装甲車に、阻まれ前に進めなくなる。火炎放射器が、此方に銃口を向ける。米田は、44オートマグを出して、火炎放射器の、銃の後端部分に狙いを定めて、3発撃つ。ドムドムドム。45口径のマグナム弾が、装甲車に吸い込まれるようにして、穴を開ける。装甲車は、沈黙し、米田は踵を返して、輸送車両に近付く。ミゲルはまだ、銃撃戦を繰り返していた。身を隠しながら、応戦する2人の守備兵の後ろへ回る。
 関ノ孫六・2尺6寸を、スラリと抜く。肩にスリングを掛けM16を担ぐ。一気に走って、気が付いていない2人の兵を、左右にバサリと、袈裟懸けに斬る。
 M16を空中に向けて撃ち、地面へ転がる。米田は、空かさず一人一人の、喉元へ一突き入れて、絶命させる。輸送車のコクピットに入り、ミゲルを手招きする。
 「ヘイ、米~田、やったな」
 「まだ向こうで死闘が続いている、俺は赤羽駅の、東和商会に予定通り車を付ける、ランクルで、後で迎えに来てくれ」
 「ラジャ、兄貴」
 米田は、輸送車を、Uターンさせて、走り去る。
  西武池袋百貨店は、嘗て西武百貨店の、本店が有り、大いに、賑わった時代も有ると言う。
 米田は、ズタ袋に、金品を詰め込み、担いで地階に有る駐車場へ歩いて向かう。
 駐車場に着くと、米田のランドクルーザーに、人影が近付いて、中を覗き込んでいる。米田は、咄嗟に物陰に隠れて、様子を見る。近くに、白と青の、ツートンカラーで、パトランプ、鷹のマークのエンブレムが入ったマッドポリスのパトロールカーが、止まって居た。
 「チッ、マッドポリスの警邏か・・・・・・」
 心の中で罵り、足音も無く2人のポリスの背後に回る。
 「イヤーエイ」
 関ノ孫六が、抜き打たれ、気合い声と共に、ピカリと刀身が走り、パトロールの、マッドポリスの、右側に立っていた男の、首筋を両断する。皮一枚残して、マッドポリスは、首がコロリと落ち、米田の首筋に返り血が掛かる。
 「う、うげ~げぇ~」
 もう一人の警官は、その光景を見て、嘔吐し、米田はソイツの喉元目掛けて、一刀突き入れる。
 「ゲボぼぼホぐぇ~」
 米田は、2つの死骸を打ち捨てて、ランクルの後部ハッチを、開けようとした時、後頭部にヒヤリと、殺気を感じた。
 「ツァーイ」
 米田は、反射的に身を屈めて、後方から来た切っ先を避ける。次の瞬間米田は、2刀目を鞘で払い、3刀目を、鞘で受ける。グリグリと、力任せに鍔迫り合いが続く。米田は、そのサングラスに、黒いスーツの男の顔を見た。何の覚えも無い相手であったが、今まで、数数え切れない程殺人をして来たので、身に覚えの無い復讐を受けるのは、何度もあった。
 「ウグ、オイ、一体誰の手の者だ?」
 米田は、鍔迫り合いの最中、男に問い質す。男は、ソレには答えずに、米田の首筋を目掛けて、力一杯押し込んでくる。
 米田は、力を少し緩め、刀身を横に躱す。男は、前に少しのめり、米田は、関ノ孫六2尺6寸を、鞘からスラリと出して、男に一刀突き入れる。男は、スと右足を引き、更に左足を引き、米田の必殺の一刀を躱す。
 男は、ニヤリと口元が笑い、刀身を下げて下段に構える。米田は、刀を上段に構え、男の胸元目掛けて、一刀振り下ろす。男は、下から掬い上げる様にして、関ノ孫六の刀身は切っ先三寸打ち入れる。
 ガツン。刃と刃が喰い合い、互いの刀を痛め、刃こぼれが生じる。
 「フフ、噂に聞いた関ノ孫六大した物だ、次はお前の命は無いと思え」
 男は、暗闇の中消えて行く。
 次の日も暗夜だった。米田は、渋谷の西口に、ランドクルーザーを入れ、ミゲルと共にズタ袋に入った物品、主に廃虚から奪った、盗品の山で有った。米田は、昨日池袋の西武百貨店の、残骸の中から、まだ誰も手付かづの、宝石店が有るとの情報を得、そこに侵入し、宝石の類を、ズタ袋一杯分奪って来た。そしてそこで、出会った日本刀で襲って来た男の事はもう忘れていた。
 米田と、ミゲルは、街灯の無い渋谷の街を歩く、マグライトで足元を照らし、西口改札口から、渋谷駅に入る。駅舎内は、真っ暗闇で足元に、一杯人が転がって寝ていた。
 2人は、井之頭線連絡通路を歩き、バイパーの居る、1件の小屋のドアーをノックする。トントントンと、ドアーを3回ノックして、中へ入る。中では、バイパーが、簡易ベッドに座り、蠟燭に火を点ける。
 ボッと、バイパーの顔が蠟燭の火に浮かび上り、米田の持っているズタ袋を、グイと取り上げ、葉巻に火を点ける。
 「米田、セキスイと言う殺し屋が、お前の命を取りたがってるぞ」
 セキスイと読んで、石水、新宿のゴールデン街跡に跋扈する、愚連隊・中西グループと言う暴力組織の用心棒として、人斬りを生業としている。斬った人数は40余名、その愛刀にしている、加藤国広2尺6寸は、刃こぼれ一つせず、手入れ不用刀と、自ら名付けていた。年はまだ若く、26歳位だとバイパーは言う。石水の出自は不明で、何処からか来た流れ者だと、噂されている。
 「フム、昨日後ろから襲って来た奴か、何れ決着着けさせて貰うよ」
 バイパーは、ズタ袋の中身を、一掴み取り出して、懐中電灯で照らす。一つルビーを出して、ニヤニヤ笑う。
 米田は、バイパーから車のキーを受け取る。
 「約束通り、レガシーの鍵返したぜ、お前のレガシー治すのに金貨を30枚使ったからな、アハハハ」
 そして、机の中からズタ袋を出して、金貨を一掴みして、ミゲルの前へばら撒く。ミゲルは机の上にばら撒かれた金貨を数えると、13枚何時もより1枚多い。
 「ヘイ、バイパー、1枚多いがどうしてだい?」
 「これだけ、宝石が有れば、スティーブンの奴も喜ぶ、マッドポリスを、スティーブン少将が握れば、この国も何れ豊かさを取り戻すぞアハハハ」
 バイパーは、終始上機嫌で有った。米田は、ミゲルと共に、バイパーの小屋を、辞した。
 渋谷駅西口改札を抜け、ブラックマーケット外れに有る空き地に、米田はミゲルと別れて向かう。暗闇に一人の人影が浮かび上がった。通りすがりに、喧嘩を売られ、命のやり取りする事は、しばし有る。男は、すれ違い様、コートから短刀を抜き、米田の脇腹に突き付けて来る。米田は、カっと目を見開き、右のポケットの中に入れた手を、男の脇腹目掛けて、突き出す。MA1ジャケットの、ポケットが千切れ破り、ゾーリンゲンの刃が、すれ違い様に襲って来た男の、右手を斬る。男は右の手から血を噴出させて、短刀を取り落とす。
 男は、悲鳴も上げずに、キッと米田を睨み付け、無言で全力で走って逃げる。米田は、男に見覚えが有った。新宿を根城にする、朱雀会の、若頭、南籐と言う男であると、思い出していた。
 米田は、歩いて10分の空地へ着く。旧センター街と旧パルコの近くに、ミサイルが着弾した地点が有った。そこは枯野と化し、今はバイパーのモータープールで有った。
 駐車場には、街のチンピラ佐野五郎が、見張りをしており、米田を見付けると、ニコリと笑い掛け、米田は、ポケットから、マルボロを2箱取り出して、投げて寄越す。
 「アハハハ、2箱もどーも、兄貴、ジュクの奴らしい男が、兄貴の事聞き回ってますぜ、マッドポリスより危険な奴等ですね」
 佐野は、地面に落ちた、マルボロ2箱を拾い上げ、早々封を切りライターで火を点ける。
 「無駄口は良い、俺のレガシー何処だ?」
 「ヘイ、アソコの一番奥で、ちゃーんと保管してますよ」
 米田は、レガシーの運転席のドアーを開けて、エンジンフードを開く。暗闇でも有り、マグライトを、バックパックから取り出して、エンジン内を点検する。スーパーチャージャーが一基付き、タワーバーが入った立派な装備になっていた。
 エンジン内に、爆弾が仕掛けられて無いのを確認して、米田は、エンジンフードを閉める。コクピットに座り、燃料メーターを見ると、残り少なくEMPTYの手前で止まって居る。
 「チッ、バイパーのケチが・・・・・・」
 エンジンを軽くレーシングさせ、駐車場からロケットの様に発進させる。
 西麻布に、元出光のガソリンスタンドが有った。そこは、今は、大道商事と言う、米田と取引している、石油ブローカーになっていた。
 大道商事は、中華戦争終結後、日系三世の、アーノルド・ダイドー・ヨコミチと言う、米本土から密航してき、米本土に有った、資産を投じて、米軍少将スティーブンの取り計らいにより、米国産油業とのパイプを持ち、小型タンカー3隻を買い取り、無政府状態と化した東京で、5店舗開業し、スタンドを商っていた。スタンドは、常時警備兵が3名常駐しており、腰にサブマシンガンを、吊っていた。そして、JA治安部隊のパトロールも有り、手厚く防備されていた。
 米田は、車を西麻布に走らせて、六本木通りの信号を、右折し、大道商事のスタンドに、車を入れる。
 「ハイオク満タン頼むぜ」
 米田の顔を見て、夜勤のスタッフは、面倒臭そうにレガシーのフロントガラスを、ウェスで拭く。米田は灰皿を出して、店員に洗浄して貰い、日本円で8千円払う。
 大道商事は、北海道の政府と繋がっており、東北、北海道では、まだ通用する円を用いている。
 米田は、アーク要塞に、車を走らせて、地階駐車場へ、車を入れる。
 隣に、ランドクルーザーが止まっており、その向こうに、治安部隊から失敬して来たジープも有る。
 ランクルの中で、見知らぬ女と、ミゲルは抱き合って居た、米田は眠りの前の、ヘロインを水で薄め、静脈に打つ。
 3階までフラフラと歩き、妹の眠るテントの中へ入る。
 妹を揺り起こして、米田はズボンを脱ぐ。米田は、妹ヤヨイの股間に手を這わせて、密壺の中に指を入れる。
 妹は、小さく喘ぎ、米田の一物を迎え入れる。米田は、妹にしこたま放出し、果てて、眠い頭を抱えながら、レガシーツーリングワゴンに、戻る。妹はどうやら孕んでいるらしい、まぁどこの男の子でも良い、米田は育ててやろうと、眠い頭で考える。
 翌朝、米田が起きたのは、午前6時、風呂へ入ろうと思い、六本木に有る、スパに向かう。此処のスパ、銭湯は、一週間前、ボイラーが復活して、通常営業を開始したので有った。スパの主人、近野三男は、営業が出来なくなり、一時、盗賊団の仲間になり、荒稼ぎをして、銭湯を復活させたので有った。
 アーク要塞から、歩いて谷崎JCの、瓦礫と化した石塊を歩き渡り、六本木一丁目の先を右折して、妙象寺の裏手に有る、スパセザンヌと描かれた看板を上目遣いに見て潜り戸を潜り、番台に米三日分に値する三合を入れたビニール袋を渡し、中へと入る。
 中には先客が5人居て、プレハブで作って、急遽拵えた、ヒノキ作りの湯船に浸かる。湯船には、垢が大量に浮かんでおり、シャワーもロクに付いて無いと言う有様だ。
 一人、弁天の入れ墨をした男が、後ろから入って来て湯を、ザブリと桶で被り、米田の隣に入る。
 「ちょっと失礼しますぜ」
 米田は無言で頷き、手に隠し持っている剃刀の刃を、手の中へ隠す。
 「いや~、銭湯が復活しましたな、東京もこれで、復興の兆しが出て来ましたな」
 弁天の入れ墨をした男は、米田に一瞥もくれないで大声で話す。
 「ええ、まぁ・・・・・・」
 「兄さんは何処の生まれですかい?」
 「ハイ、新宿の方です」
 「ピカドンが降ってくる前の、生業は何でございますか?」
 弁天の男は、鋭い目をして、天井を睨むが、直ぐに柔和な顔に戻り、米田に聞く。
 「はい、陸上自衛隊のレインジャー部隊に居て、ハワイで訓練をしていて助かりました」
 「ほう、それは幸運でしたね、しかし、最近所場荒しが増えて、ジュクの街が極道者で溢れ返ってますな、ジュクもブヤも、仲良くしないと、治安部隊に何れ潰されますな」
 米田は答えず、この初老の弁天の男が何者か、推察して見た、がすぐに考えるのをやめ湯から出る。
 「では、お先に失礼しますよ」
 米田は、ザブリと、湯船から出て、出口へ向かう。その背中に弁天の男は声を掛ける。
 「米田さん、ジュク、ブクロで仕事しない方が身の為ですよ、では、また会える日まで」
 米田は、弁天の男の視線を背中で感じ、背筋が冷たくなる思いをして、銭湯から出て行く。
 9月20日は、雪が降った。東京23区の積雪は、40㎝と深かった。米田は、レガシーツーリングワゴンに、チェーンを巻き、上げていたジャッキを降ろし、チェーンをタイヤが地面に降りた状態でビッシリと張る。
 雪が降る中、ヤヨイが、地階駐車場に、朝から顔を出した。手に、クッキーとコッペパンを持ち、支給品で有るバターを米田に手渡す。
 「何だ、今からボランティアか?早いな」
 ヤヨイは、小柄な体を青いダウンジャケットに、身を包み、息を白く吐き、ハァ~と一息付く。
 「うん、お兄ちゃん、最近怪し気な男が、お兄ちゃんの事聞き回ってるそうよ、気を付けてね。私の事愛してる?」
 米田は、コッペパンを受け取ると、車のダッシュボードの上に乗せ、ヤヨイの眼を見つめる。
 「何言っている、兄妹じゃ無いか、勿論愛してるよ」
 「私たちの関係って、そう言う物?女として愛して、アナタの子供が出来たみたい・・・・・・」
 ヤヨイは、下を俯くと、乾いた唇をペロリと舐め、米田一仁、兄の懐に入り、唇を突き出す。兄として、妹を守らねばならないと言う決意を、決める為、米田はヤヨイに深くディープキスをする。
 「うん、じゃー仕事行って来るわね、お兄ちゃん気を付けてね」
 ヤヨイは、早足に、アーク要塞から出て、歩いて赤坂の、戦災避難民病院へ向かう。
 朝10時になると、雪が少し止んで来た。積雪は深くなり、50㎝は行っただろうか?米田は、ミゲルに合図をし、レガシーツーリングワゴンで、桜田門方面へ車を走らせる。
 車はガタガタと雪道を走り、四谷旧JR駅前に着ける。新宿通り沿いの、空地へ深い雪の中、ザクリと駐車スペースに入れる。米田とミゲルは、麹町口の改札を潜り、1番ホームに降りる。四ツ谷駅屋根は、半分吹き飛び、雪がホームに零れ落ちて来ていた。一番ホームの特等席に、1件のバラックで出来た小屋が建っていた。小屋には、インタホーンが付いており、広さは中八畳は、有るだろうか、一人の中年の外国人が、電車から持って来たであろう、座席をソファー代わりにして座っていた。
 この男のあだ名は、JC、何故こういう名前か知らない。皆がJCと呼ぶからJCで有るらしい。
 米田は、JCと握手を交わし、JCは、右腰に吊って有る、関ノ孫六を、興味あり気に見つめていた。
 「ヨネーダさん、今日来てもらったのは、他でも無い、この宝石を、日本円に代えて来て貰えないか?」
 JCは、アタッシュケースを開けて、ルビー30個分、時価日本円にして、その時代の価値は、4000万円程の物を見せる。
 「オ~ウ、ビューティフル~」
 ミゲルは思わず感嘆の声を上げて、ルビーを手で触る。米田は、渋い顔をしてJCに問う。
 「JC、一体何でこんなブツを日本円なんかにするのか?」
 「フフン、北海道にソロソロ渡って、ビジネスをしたくなったのサ、向こうでは円が通用するからね」
 円は、関東から西では全く通用せず、北海道に帰還する軍艦で運んで貰い、株の相場で設ける者が多数居た。が、その半面、円を持ち逃げする者も多々居、余程信頼出来る人物を、見付けなければ、大金は任せられないと言った有様である。
 JCは、鼻でミゲルをあしらい、アタッシュケースを閉め、鍵を掛け、米田に預ける。
 「で、一体何処の誰と取引したら良いんだJC
?」
 米田は、吸っていたマルボロを、床に捨て、足で踏みにじる。
 「新宿の、宮原さんて人に、今日の午後4時に、ゴールデン街跡の、焼肉【ポン】で会って、お金を受け取って来て下さい。報酬はこのダイヤです、安物ですがどーぞ」
 JCは、ケースに入った32カラットのダイヤの指輪を、米田に渡し、葉巻を取り出して、棚に置いて有る、ワインを出して、3つグラスを用意する。3人はワインで乾杯し、JCは一杯で顔を赤く染めて、故郷スコットランドの歌を歌い出す。
 午後3時半、米田はレガシーツーリングワゴンを、新宿大ガード下へ路上駐車する。周りには、クラウン、メルセデス、ビュイックと言った、高級車が並んでいた。
 ミゲルを連れて米田は、大ガードを東へ歩き、核ミサイルで、壊滅した新宿歌舞伎町を、歩き、新宿区役所の、嘗て在った残骸の脇を抜ける。所々、飲食店が屋台で出来、ブラックマーケットの様相を呈していた。
 ゴールデン街の入り口で、シキテンを切って居る一人の男に声を掛けられた。男は、顔半分ケロイドで、サングラスを掛け、右腕の肘が溶けて無くなってい、骨が剝き出しになっていた。男はこの寒いのに、ランニングシャツに、腹巻をしただけの格好で有った。
 左手にハンドガンを、ぶら下げて、米田とミゲルを上目遣いに睨む。
 「オイ、お兄さん等何方まで?」
 米田は、フンと鼻を鳴らして、片腕の男にマルボロ1カートンをバッグから出してくれてやる。
 「ヘイ、有り難うやんんす、米田さんですね、宮原の親分は、もう店に来てますぜ、ご案内して差し上げます」
 男は、隻腕の政一と言い、この界隈じゃちょっとした顔役で、宮原の片腕として、ここのブラックマーケットを仕切っている。
 炉端で、チンピラ達が雪掻きを、して働いていた。米田を見ると皆一様に下を向く。バラックの屋根から、一人人が落ちて来てミゲルに当たる。
 「痛つぅー、てめーボヤボヤこんな所歩いてんじゃねぇーぜ」
 落ちて来た男は、ミゲルの胸倉を掴み、大声で怒鳴る。
 「てめえ、でぇーじな客人に何すんじゃオウー」
 隻腕の政一は、無抵抗の男を滅多蹴りにして、片腕で、スコップを上に上げ、一撃足を打ち据える。男はのた打ち回り、政一に詫びを入れて、ミゲルに頭を下げる。
 「オー、謝ってくれればOKさ、行きましょう政一さーん」
 政一は二人を連れ、ゴールデン街の奥に有る、焼肉【ポン】と看板が出ている店の地階に入る。1階は、カウンターになっており、椅子は無く、客が皆立って、炭焼きで肉を摘まんでいた。
 地階の入り口に、薄いブルーのサングラスをした、若い男が立っていた。政一は、頭をペコリと下げて、通して貰う様に言った。
 「誰でぃ、そこの二人は?」
 「ヘぃ、オヤッサンに今夜用が有ってきた米田さんです」
 男は米田の顔を、下から見て、フンッ、と鼻を鳴らす。
 「おめぇが米田か、まぁ入れや」
 男は、米田とミゲルを、連れ立って、地階の古いレストランと言った様式で、明かりが薄暗く点いている店内の一番奥の、テーブルに座っている初老の男の横に座る。
 「オヤジ、アイツが米田らしいぜ」
 若い男は、米田の腰の関ノ孫六を、店員に預けろと言う。
 「それが、礼儀ってモンだぜ米田」
 米田は、孫六に封印を掛けて手渡す。
 「これは米田さん、でコチラのお連れの人は?」
 宮原は、開口一番挨拶抜きで、ミゲルの事を警戒する目付きで米田に尋ねる。
 「ミゲルって言う私の助手です、初めまして米田と申します、以後お見知りおきを」
 宮原は、隣に座っている男を、長男だと紹介する。米田は、不快な心境を、表に見せず、宮原とまず乾杯する事にした。米田は、軽くウーロンハイを頼み、ミゲルは、マツコリを頼む。宮原は、ビールを大ジョッキで注文し、息子の方は、プイと何処かへ消えて行った。
 「さぁ、お二方、好きな物頼んで下さい、この店は、私の物でしてな、何でも有りますよ」
 3人は、酒と肉を楽しみ、米田は、腰の太刀が、カウンターの前に立て掛けて有るのを確認して話を切り出す。
 「JCからの話は伺って居ると思いますが、このルビーを見て下さい」
 宮原は、ルーペを使い、ルビーに懐中電灯の灯を当てて鑑定する。
 「フン、此れを30個と聞いていたが、20個までなら買おう」
 「それでは、JCとの約定を、違える積り何ですか、30個耳揃えて買って貰えないと困りますよ」
 奥のカウンターで、隻腕の政一が、懐からコルトのコンバットコマンダーを、出してマガジンを抜き、弾丸をチェックする。それを横目で見て、宮原は強気に出る。
 「じゃぁこのルビーの0,1ミリの小傷はどーしてくれる、こんな半端な不良品掴まされて、我々宮原商会の、信用に傷が付くじゃー無いですか?」
 米田は、この話を冷静に受け止めて、宮原の言い分は、尤もだと言う。
 「しかし、こう言った宝石類は、小傷位じゃ、値打ちが下がらないと思いますよ、JC約束通り、30個で日本円にして4000万耳を揃えて貰えないと私としては困る、ガキの使いじゃ無い、只で帰れなくなりますよ」
 横に座っていた、ミゲルが、懐からベレッタの自動拳銃を出して、テーブルの上にコトリと、置く。
 宮原は、青ざめた顔で、唇をワナワナと震わせて、JC組織力の、怖さを思い出す。しかし、極道者として、戦後の新宿でノシ上がった男だ、一筋縄で行かない男であった。
 「では、私のバックに有る、東光会と、一戦交えるとでも言うのですか?」
 10分程、押し問答が続き、カウンターに座っていた、政一が、横に座り一言言う。
 「親分、この御仁の言う通りですぜ、四谷と一戦交えるのは、吝かではないが、約定違反は、我々極道としては、恥になります、ルビーは、物品に代えられます、ケチケチしないで、約束通りにした方が、良う御座んすね」
 宮原は、顔が又もや青ざめて、唇をワナワナさせながら言う。
 「では、4000万耳を揃えて持って行ってくれ、東光会が、舐められてこのまま済むと思わないで下さい」
 米田は、提示されたアタッシュケースの中身を、ミゲルに数えさせて、4000万有ります。ミゲルに確認させて、アタッシュケースをテーブルの下へ置く。
 「オヤッサン、こんなハシタで、東光会は動きませんよ、それに、アンタの筋は通って無い、ルビーを売るルートを探した方が良いですよ」
 政一は、宮原に助言した積りで、チャカを懐に仕舞う。宮原は、顔を真っ赤にして政一顔面を殴りつける。5発は殴り付ける。
 「この野郎ー、人が下手に出てたら、この三下の使いッ走りの癖に、何寝言ホザイテルんじゃ、このこの」
 米田とミゲルは、それを止めずに見物していた。米田はこんな、小物が親分じゃ、早晩宮原は殺されると見て黙って席を立つ。
 夜も深まって来た、米田とミゲルは、風俗店が開店した、ゴールデン街を、足早に歩く。ゴールデン街入り口に、トランシーバーを持った、189㎝は有ろうか、ゴリラの様に厳ついジャージ姿の男が立って、米田が近付くのを睨みを効かせる居た。
 男は、スッと米田の前を、通せんぼする形で立ちはだかる。ミゲルは、懐からベレッタの自動式拳銃を、抜き男を射殺して歩き去る。男は、目を見開いて、口をポカンと開けて、一発右脳に銃弾を浴びせられて、絶命していた。
 「オイ、ミゲル、余計な事したな、後方を振り向かず早足で歩け」
 後方から5人若者が、黒いスーツにサングラスをして、2人を着けて来る。靖国通りへ出ると、雪がまだ大量に残ってい、少し車の轍が出来て、凍ってアイスバーンを、形成していた。米田は、サッと振り向き、紙のこよりで封印していた、関ノ孫六、2尺6寸を、力一杯鯉口を切り、スラリと抜き、後方2メーターを歩く、5人組の一番中央に居る男を斬り伏せる。
 「うわ、危ねぇ~いてぇ~」
 鮮血が迸り、白い雪の上に、男の肉片が落ち、袈裟掛けの一刀は、右肩から脇腹まで達していた。次の瞬間、ミゲルが、ベレッタを抜き、後ろ4人の男達は、ゴールデン街の路地へ走って逃げ込んで行く。死んだ男の体を、野良犬が3匹寄って来て、ピチャピチャと血を舐める。
 2人はゆっくりと、新宿ガード下へ向かう。新宿大ガードは、原爆によって破壊されており、上方の線路が崩れて瓦礫半分が地上に落ちて、見るも無残な形になっていた。
 レガシーツーリングワゴンの前に、一人男が立って、タバコを吹かしていた。向こう側を見ると、宮原の長男、確か、宗男と言ったっけ、そんな男が立って此方を見ていた。
 ミゲルは、男にマグライトを向け、顔を照らし出した。男は、ククッと笑い、切れ長の目を更に吊り上げて、左手に持っている日本刀、加藤国広、2尺6寸の太刀を、鯉口を切って、キラリと月光に光る刀身を、ウットリと眺めて米田の方へ歩む。
 「待ってたぜ、米田さんよ、この間の続きをしようじゃないか、えー?」
 「お前はセキスイとか言ったな、無駄に殺したくない下がっててくれ」
 2人は、約5メートルまで近付くと、米田は、鯉口を切り、だらりと下に刃を下げる。夜の新宿の浮浪者や、テキ屋、シキテンを切って居るヤクザ、夜の女達が騒ぎを聞き付け、見物人の輪が出来る。
 米田は、ダラリと垂らした刀身を、目にも止まらない速さで、セキスイの喉元目掛けて、掬い上げる。
 「てぇーい」
 一刀は、ガツンと、セキスイの加藤国広が受け止めて、米田の体を弾き飛ばす。予想外のパワーに米田は、少したじろぐ。セキスイは、吹き飛んだ米田の喉元目掛けて、突き入れる。米田は、反射的に体を右に開きこの突きを、躱す。米田の後方に居た、スーツを着て、眼鏡を掛けた、身なりの良い、区役所の職員で有ろう中年の男が、加藤国広の一突きを貰い、血を吹いて倒れる。
 次に、セキスイは、米田の首筋目掛けて上段から、振り下ろす。国広の太刀は、道の脇に飾ってある、女の裸像を真っ二つに割る。米田は、その素早い動きをよく見ており、次の反撃の備えを取る。
 「て~いや~」
 米田は、セキスイが撃ち降ろして来た、太刀を、右に躱し、セキスイの肩を浅く割る。
 その隙に、ミゲルはレガシーツーリングワゴンに乗り、エンジンを掛ける。米田は、次の攻撃を掛ける。セキスイは、振り向き様、米田の右胴を薙ぐ。  
 米田は、その一刀を孫六の中心部で受けて、これを躱す。
 その時。レガシーから、ミゲルがベレッタ自動式拳銃で、セキスイ目掛けて4発フルオートで撃つ。 
 空になった薬莢が、地面へ落ちる前に、2発セキスイの脇腹に食い込む。銃声に驚いた米田は、セキスイに止めを刺さずに、レガシーの助手席に乗り込み、雪の靖国通りをUターンさせて、四谷方面へ、60㎞のスピードで走り去る。
 「アハハハ、アンタでも米田を仕損じたか?」
 宮原の、長男がにやけながらセキスイの前から歩み去る。
 ー不覚だった、あの白人野郎殺してやる。
 セキスイは、復讐を誓う。
 米田とミゲルは、四谷駅前に車を止め、駅一番ホームのJCのバラックに、辿り着いた。バラックのインターフォンを、2回鳴らし、中へ入る。中へ入ると、蝋燭の火が3つ、机の上灯り、奥のソファーで、女が一人で寝ていた。女は年の頃は20歳前後で、少し日に焼けて、今時ここいら辺じゃ珍しい、健康的な艶やかな顔を、していた。
 女は、ミニスカートに、タンクトップ姿で、米田の持って来た、現ナマ4000万円を受け取る。中身を見て、「OK」と一言言って、米田とミゲルに、浄水器から水を汲み、マグカップへ注ぐ。
 「今時、生水何て無いからこれで我慢してね」
 女の名は、麻香、JCの代わりにこの小屋で、夜の番をしていた。米田は、会うのは3度目で、この女の暑がりには、苦笑させられていた。米田とミゲルは、車を、アーク要塞に向けて走らせる。20号半蔵門付近で、マッドポリスの検問が有る。この時間は、何時もここいら付近で、パトロールのダットサントラック、4WDで、道を張っていた。
 米田は、車中から、2台のパトロールのダットラを、視認する、人数は2人と読んで、強行突破は止めて、大人しく検問で止まる。夜も深夜11時になり、只でさえ少ない車は、更に減って、滅多に走ってこない。男女二人のペアの治安部隊のポリスで有る。
 「はい、免許証を見せて下さい」
 ポリスは、右手を差し出して、米田を怪しいと思い、誰何しようとした。不逞の輩なら本部に連れて行き、処刑して殺してしまえば、自分の成績になると思い、内心ほくそ笑んでいた。
 「はい、これ」
 米田は、44オートマグ・ショートバレルカスタムを、警官に突き付け、心に何の迷いも無く、トリガーを引く。ドム。一発で血飛沫が、レガシーのコクピットを濡らし、男の鼻の部分から穴が開いて、絶命した。
 ミゲルは、女警官を、後ろから押さえ付けて、大声で喚くのも構わずに、後ろ手に手錠をはめて、レガシーの後部座席に、一緒に乗る。
 「ギャー、アナタたち、何してると思ってるの?、私は刑事ヨ、只で済むと思って?」
 女は、喚きながら手足をばたつかせて、暴れる。
 車は、品川方面へ走り、晴海ふ頭の焼け野が原に、向ける。女は、暴れるのを止めて、大人しくなる。米田は、晴海ふ頭の、焼け野が原のスラム街に有る一軒の家の前に立つ。その家は、刀剣・米政屋と書いて有り、ドアーをノックもせずに、上がり込む。米政屋の作業場で、一人ポツンと老人が、日本刀を研いでいた。
 「何や、米田はんか?、今時分何の用でっか?」
 「ウム、孫六が刃こぼれをして、研いでくれないか?」
 「はぁ?、今この村正を研いでいるから次にしてくれまへんか?」
 米田は、硝煙の匂いのする服を手ではたいて、
 「では、明日中に頼む、何か一本良いのを、貸してくれないか?」
 一本、脇差の虎徹を用意してくれて、米田の孫六の目釘を外して、刀身を見やる。
 「ホナ、明日中に仕上げておきますさかい、何か置いてってんか?」
 米田は、胸ポケットから、赤く光るルビーを、一個取り出して、米政は、ウム、と頷き刀身を水の桶に浸ける。
 ミゲルは、女刑事の、アナルを執拗に攻める。女は、身を捩らせて、苦痛の表情から、次第に快楽へと変わって行く。ミゲルは、バックから女刑事を羽交い絞めして、締め付けて来る肛門にしこたま、白い液を放出する。終わった後女は、ミゲルのマラを、執拗に愛撫する。しかしミゲルは、回復しない、そこへ米田が、帰って来た。
 コクピットに座り、米田は放心している、ミゲルを横目で睨み、女を車から放り出す。米田は、後ろ手に手錠をはめている、女刑事の、制服を、虎徹で寸単位で切り裂く。胸元が開け女の露わになった、下半身を虎徹で突く。女の白い肌から、鮮血が迸る。近くで見ていたスラムの男達が、歓声を上げて、米田の後ろから女に抱き着く。女は、顔をしかめて男達に全身、舐めしゃぶられ、殴られて快感の悲鳴を上げる。
 米田は、フッと笑い、レガシーで晴海のスラムから去って行った。
 雪が降ってから二十日程経ち、残雪が有る銀座の街で、爆発が起きた。風は強く、深夜2時、銀座の宝石店マキの裏口が、小型爆弾によって、風穴が空けられた。
深夜と有って。周囲の住民が気付かず、窃盗団、5名が中へ侵入し、ショーウィンドウを、カチ割り、ズタ袋に宝石を追詰めて行く。
 警報機が鳴り響き、5名は走って裏通りに停めて有る、ハイラックスサーフに乗り込み逃走した。
 米田は、朝6時にレガシーツーリングワゴンの中で目が覚める。ダッシュボードの中から、ウヰスキーの小瓶を出して、ラッパ飲みをし、ゲップを吐く。朝のラジオニュースを聞き、兼ねてからバイパーに頼まれていた、銀座の宝石店のルビー・レッドスカイを、先を越されて、盗まれてしまった事を知り、ダッシュボードを、蹴り上げる。
 一体、何処のどいつだ見つけ次第落とし前を付けさせてやるー。
 米田は更にウイスキーを飲み、近くの公園に、洗面をしに行く。
 朝の公園は、静かで、近くに出来た、戦災避難民キャンプの娘らしい、16、7に見える少女が、シェパードを連れて散歩をしに来ていた。少女は、米田を認めると、軽く挨拶をして歩き去る。米田は、洗顔をすると、歯を磨き、マルボロを一服吹かしてベンチに座る。向こうで、先程行き過ぎて行った少女の大声の喚き声と、シェパードの唸り声が聞こえる。シェパードは、棍棒で打倒されて、この公園に巣食う、ホームレスのグループが、少女を押し倒し、スカートの中へ、男が一人顔を入れて、もぞもぞとしている。
 米田は、通りすがりに、ホームレス共に声を掛ける。
 「オイ、朝から詰まらない真似は止めておけ」
 ホームレスのグループのリーダー、朝田と言う男は米田を睨み、
 「しっかし、ワシ等、女に3年も有り付いて無い者でね、見逃してくれないか?」
 その隙に少女は、男共の手から逃れて、米田の後ろに隠れる。朝田は、米田を睨み恨みがましい目で歩き去って行く。ホームレスのグループ6人は、米田の足元に唾を吐いて言った。
 「米田さんとも有ろう人が、高々小娘一人を助けて、ヒーロー気取りかよ、お高く止まんな子の殺人鬼」
 米田は、シェパードを抱いてやり、瞳孔が開いてるのを見て、少女に首を振る、少女は、シェパードを抱いて、泣きながら歩み去って行く。米田は、フゥ~と、溜息を吐き、アーク要塞の方へ歩み行く。
 朝10時、米田とミゲルは、ランドクルーザーに乗り込み、渋谷を目指していた。途中新しく開業した、ラーメン屋、小泉と言う、店に寄り、朝食を済ます。核攻撃で、都市機能は、麻痺して久しく、ようやく23区内でも、千代田、中央、渋谷と言った、辺りに。電気が回復して来てから、2週間経ち、東京郊外からの、携行の効くプロパンガスが供給され、ボチボチ飲食店が、息を吹き返して来た。
 しかしまだ、政府の力が及ばず、無法地帯で有る事には変わりは無い。
 ミゲルは、久し振りに食べるラーメンに、ソースとマヨネーズを入れて、掻き混ぜて、ホークで食べる。米田は、気味悪そうに見て、チャーシューメンに、コショーを振り掛ける。2人は、20分掛けて、ラーメンを食べて、道路の真中に停めて有る、ランクルに戻る。因みに飲食料は、200円を払った。ランクルは、渋谷駅西口のブラックマーケットの脇の、空きスペースに停めて、近くに居た、フラフラしているチンピラに、セブンスター一箱やり、見張りに立たせて、旧JR南改札から、井之頭線連絡通路まで歩く。バイパーの小屋のドアーを、3回ノックする。米田は、勝手に小屋のドアーを開け、中へ入り、ズタ袋から、昨日銀行の輸送車から強奪して来た、金の延べ棒5本を出して机に並べる。
 銀行は、東京郊外の青梅の銀行から、輸送中の現金輸送車を、ミゲルと二人挟撃し、奥多摩の山中でマッドポリスの警備の兵を、5人殺害し、輸送車もろ共奪った物で、勿論バイパーからの依頼で有った。
 バイパーは、延べ棒に。軽く懐から出したナイフで、切れ目を入れて、削り取り、純金であることを確かめる。この事で、2人は、西東京の治安を管轄する、横田ベースの治安部隊から、賞金付きで、殺害指名手配を、受けていた。バイパーは、一言米田に言った。
 「サンキュウ米田、これでスティーブンの奴が、実権んを握った暁には、ステーツへの自由入国許可を、取り付けてやる。フロリダ辺りで自由に暮らすのが、お前の希望だったな」
 米田は、燻らせていたマルボロを、大きく吸い込み天井に向けて煙を吐く。
 「そうさな、スティーブン少将に会ったら宜しく言っておいてくれ・・・・・・」
 バイパーが、口を開く。今朝方何者かによって、銀座の宝石店マキ秘蔵の、ルビー・レッド・スカイが、盗まれた。出し抜居た奴は、新宿、中西グループじゃないかと言う。
 「しかし。証拠が無い、その事で、米田に頼みが有る、レッド・スカイは、今、時価2億円、此れを何処かへ売り捌いたら、俺の情報網に直ぐ引っ掛かる。今だ無いと言うことは、所蔵して、ホトボリが冷めるまで、隠しているのかも知れない、しかし、逃走に使ったハイラックスは、新宿の中西グループの物かも知れないと、情報屋からのタレコミが有った。中西グループをそれとなく洗って見てくれないか、奴等は、ここブヤのマーケットも、荒しに来ているらしい、調べて目途が付いたら連絡しに来てくれ、俺が直接中西を殺る」
 米田は、無言で頷き、パイプ椅子の背もたれに、大きく持たれる。ミゲルは、白い粉、ヘロインを、金貨3枚分買う。その場で水に溶かして、注射針で吸い込み、静脈に打ち、目がトロンとなり、眠そうな顔になり、何時ものミゲルの表情を形成する。
 午後6時、米田は、ミゲルを連れて新宿西口駐車場跡に来ていた。レガシーツーリングワゴン。ランドクルーザー、2台連れ立ち駐車場内へ入る。
 新宿駅西口駐車場は、嘗て、自動車380台、自動二輪車56台収容で来た、大規模な巨大パーキングで有った。1989年、日本は改元成って、平成の世に生まれ変わった時、Xデーと呼ばれたその日、突如日本上空を、中華人民共和国の、核弾頭の雨が降り、東京から九州まで、灰燼に帰した。正に日本列島が核ミサイルに依り、溶かされた形となった。
 そんな折り、新宿区は、原子力爆弾がミサイルに依り攻撃され、全区域、灰燼と化した。しかし、地下街や、地下道と言った施設は、瓦礫の下に埋まった物の、ほぼ無傷で残り、難民が雪崩れ込む様にして住み着いた。そして、西口駐車場も、地階は無事で済んだ物であった。
 西口駐車場は、闇市が立ち並び、アウトロウ達がそこを仕切り、中西グループも、その一角を縄張りとして持っていた。
 米田は、レガシーツーリングワゴンを、西口ロータリーの空きスペースに置き、ミゲルも後ろに倣って止める。車は、30台程ロータリーに溢れ返り、難民達が、足として使っている、これが邪魔で、米田はサイドブレーキを掛けて無い、前に止まって居る、プレジデントを、バンパーを当てて前に押し出す。
 2人は車から降り、米田は関ノ孫六をバックヤードに隠し、44オートマグだけ、懐に呑み、右腰にベレッタの自動式拳銃を吊り、西口駐車場避難民キャンプに、ミゲルと共に入って行く。避難民キャンプは、闇市の人息切れで、むんむんと、人々が二酸化炭素を吐き、少し息苦しい。米田は、闇市の一軒、ホルモン焼き屋の屋台に入り席に座る。店主がホルモンを串に刺して、炭火で焼いては、裏返していく。米田に店主は何も言わないのに、合成酒をコップに注ぐ。
 「オイ、酒など頼んでねぇーぜ」
 店主が、腕まくりした二の腕に、チラリと見える、入れ墨を、隠す様にして袖を垂らす。
 「ヘイ、お兄さん、お初ですねサービスです、以後ご贔屓に」
 米田は、出された酒を一気に飲み、中西グループの事を、それと無く尋ねる。
 「中西グループって最近良く聞く名だが、一体何を生業にしてるんだい?」
 米田は、ホルモンを、5本頼み、店主の顔をマジマジと見つめる。店主が言うには、中西グループは、西口東側の一角だけ、縄張りを認められて、15店舗程を、任せられている。裏には、新宿を根城にする、東光会と言う、古い任侠組織が、付いて居ると言う。
 「アッシ等テキ屋は、何時も任侠の奴らに上がりを持って行かれるんですよ」
 米田は、「ホウ」と頷き、もう一杯合成酒を頼み、良い女を紹介してくれる所が無いか聞く。ミゲルは、ホルモンを、気味悪がって一口付けただけで、コップ酒を煽る。
 「良い女っすか、旧ヨドバシカメラの有ったビル跡に、女買いする飲み屋が有りますぜ、俺も案内がてら一緒に行きましょうか?」
 米田はOKと言い、酒をもう一杯煽る。
 「オイ、かかあ、ちょっと出て来るから店番頼むぜ」
 向こうで客の開いてをしていたこの店の女房が、向こうからやって来て、忙しなく客たちに酒を出す。
 「あら、またお出かけ、良いわよ、5時までに帰って来てね」
 女は、手酌で自分の持っているコップに、酒を注ぎ足し、一気に飲む。
 店主は、着替えもせずに、ネジリ鉢巻きだけ取り、水道の水で顔を洗い、店の中から出て来た。
3人は、駅だった通路を通り、西口にある、ヨドバシカメラ跡に出来た、木造2階建ての小さな一軒家の前で止まる。小さな一軒家の看板に、【楽しくベッドイン・秘密の秘境】と出ており、家の前に客引きの男3人が東光会の、ハッピを着て、米田達3人を認めると、揉み手をして中へ通す。
 中では、5人の男達が、待合室で、本を読んでいた。米田は、順番を早くして貰いたく、マネージャーを呼び出して、マルボロを、3箱チップとして渡す。
 「フ~ン、マルボロ3箱じゃ、俺たちにとって珍しくもない代物だ」
米田は、持っていた日本円、3万円程渡す。
 男は言った。
 「今時、円何て紙くず同然だが、噂によると、近々北海道の政府が、東京に1個師団いや、2個師団かもしれないが、送り込んでくるらしいぜ。そん時円が役に立つかも知れねぇーってオヤッサンが言ってたぜ、まぁいいや、中に通してやるぜ、女は№1のスザンヌって女が相手するから、楽しみに待ってな」
 言って、マネージャーの男は、奥へ入って行く。
 ホルモン焼き屋の店主は、ズボンの上から自らの股間を摩り、男をいきり立たせる。
 米田の番は、5分後やって来た。奥の居間へ通されて、日本酒が運ばれて出て来た。その女スザンヌは、日米のハーフで、足がスラリと長く、色が白く、顔立ちは端正でいて、何処か幼っぽく見えた。 
 米田は、酒を一気に飲み干して、スザンヌが近寄って来て、米田の頬にキッスをした。米田は、スザンヌを押し倒して、スザンヌの体を舐め回す。男自身を、スザンヌの股を割り、力強く擦り付けて、5分後挿入した。スザンヌは泣き声を上げて喜ぶ。30分後、米田はスザンヌの体から離れ、タバコを一服吹かしてスザンヌにも一本分ける。
 「確か名前は、スザンヌと言ったっけ、スザンヌ、一度俺とデートしてくれないか?」
 スザンヌは、指に嵌めたルビーを、灯光に光らせ、「OK、でも一流の店しか私行かなくてよ」
 と、米田を牽制する。米田は、下を向きニヤリと笑い。
 「じゃぁ、君の推薦する店で良いよ「
 「私、この新宿嫌いなの、銀座の一丁目の、丸ビル跡の、【摩天楼】て、店で今夜10時に、秘密倶楽部があるの、私の顔パスでOKだから店の前で、9時40分キッカリに待ち合わせして下さる?」
 「OKだとも」
 スザンヌは、ワイングラスを傾け、少し酔いが回って来た顔で、米田にしな垂れ掛かる、少しだけ自分の生い立ちを語った。
 スザンヌは、本名・イブモンス・ステイレンと言うらしい。米田はこの娘のワインに、少量密かに、自白剤替わりの、精神薬を混入していた。米田の狙い通り、この女のプロフィールを垣間見た。
 イブモンス・ステイレンは、元々は、在日米軍の高級将校の家に生まれ、横須賀海兵隊の、イブモンス大佐の遺児で有った。1989年のあの日、横須賀は核ミサイル3発で、基地もろ共、角の爆発の熱で溶かれた。イブモンスは、当時16歳で、警戒警報と共に、一早く母と地下シェルターに避難した。
 ステイレン大佐は、その時、屋外で兵士、軍属を、シェルターに誘導しており、逃げ遅れて核の炎で焼かれ、その体を、近くの壁に影として焼き付いていた。
 その後、海兵隊の生き残り、マンダレー大尉と、恋仲になり、マンダレーは、軍を退役して、治安部隊には入らず、京都に向けてジープでイブモントと共に、東海道を西上した。その途上名古屋で、中華軍の残党兵士が、旅の二人を襲い、数十人の人民解放軍の兵士達に、マンダレーはなぶり殺しにされ、残ったイブモンスは、慰み者にされ、新宿まで連れて来られ、新宿を根城にする、黒白会に売り飛ばされて、娼婦としてスザンヌと名乗った。
 その後、東光会の代貸、山城に変われてこの店で働く様になったと言う。
 「フム、色々苦労が有ったんだな、今夜忘れさせてやるぜ」
 米田は、それだけ言うとロビーに有る、十畳程有る、待合室へ消えていく。
 やるの9時になった、米田は、大急ぎで車に乗り込み、レガシーツーリングワゴンを発進させる。燃料はまだ三分の二有る。給油の心配はない。都心の悪路を急ぎ、40分程か掛けて旧丸ビル前へ付ける。今夜ミゲルは同伴して居なく、米田一人でレガシーに乗り着けた。
 丸ビル前に、一人のミンクのコートに、クリーム色のドレスを着た女が立っていた。
 丸ビル跡の摩天楼の前には、一列に人が並び、レンガ造りで急ごしらえしたと思われる店内は、丸で、昔の鹿鳴館を思わせる佇まいで有った。
 2人は、店の前で待ち合わせ、レガシーはボウイがキィーを持って、約20メートル程離れた空地の、駐車場へ持って行かれ、すぐさま米田にキィーを返して来た。
 2人は腕を組み、紳士淑女に交じり、店内に入って行く。
 店内では、往年のアメリカン・リズム&ブルース、チャックベリーのキャロルのナンバーが流れていた。米田は、ブルゴーニュ産のワインを頼み、スザンヌは、レッドアイ・モアと言う、この店独特のカクテルを頼む。
 2人は、ムードを作り互いに眼を見つめ合い、テーブルの下で手と手を握り合う。
 「米田さん、ここの店のフルコースは絶品よ、私子羊のソテーがお気に入り何だ」
 「ヘぇ~そんなに痩せているのに肉好きなのかい?」
 「私の商売は顔と体が資本ですからね」
 米田は、奥の席に座る一人の白人の男を見る。白人の男は、アタッシュケースに入った、現金を受け取り、鞄の中から宝石を、10ケースばかり取り出して、迎えの男に手渡す。
 その顔は、良く知った四谷に居るJCと言う、スコットランドの白人で有った。
 何か二人の男は、小声で話し込んでいた。もう一人の男は、白いスーツに黒いスカーフを首に巻き、サングラスで面体を隠しているが、一目でヤクザ者と解る。左頬に刀傷か、銃弾が掠ったかした向こう傷を持っていた。JCは、それと無く現金の束を数えて、アタッシュケースに、鍵を掛けてテーブルの下に、隠す様に置く。
 米田とスザンヌは、食事を終え、酒を頼んで少し踊る事にした。レストランの中央部で、二人は踊る。米田は、ハワイ仕込みの、ステップを踏み軽やかに踊る。
 ホールの中央に、4組のカップルが踊り狂い、JCは、フッと米田の方を見た。
 米田も、JCの視線に気づき体をスザンヌから、離しJCの席の方へ近付いて行く。
 JCは、笑顔を作り米田と握手を交わす。
 「米~田さん、今夜はここに何をしに?、余りにも意外な場所で会ったから驚いたよ」
 「JCこそ何してたんだい、何か取引か?」
 米田は、JCの脇に座り、正面の男に軽くお辞儀をする。
 「この人は、元市ヶ谷に居た、自衛隊のソルジャー木下3佐と言うんだよ」
 「どうも、木下と言います宜しく」
 米田は、反射的に脇の下のホルスターから、44オートマグ・ショートバレルカスタムを抜き掛けて止める。代わりにこう言った。
 「お前、マッドポリスの犬か?そうだとしたら・・・・・・」
 「そうだとしたらどうするんですか?」
 「射殺する・・・・・・」
 JCは慌てて2人の中に割って入る。
 「米田、この人はマッドポリスじゃない、今は新宿のボス、ドン木下だ」
 木下はニヤリと笑い、米田に再び握手を求めた。40代中半と思しき、日に焼けた顔の中で、両目は鋭く光り、何時いかなる時でも、命を張って居る男の厳しさを感じさせた。
 JCは、米田の耳元で小声で囁く。
 「米田、実に困った事になった、先日ジュエリーのマキでの強盗事件知ってるか?」
 JCは、周りに目を光らせて、更に小声で囁く。
 「その強盗を、依頼したのは私だ、中西グループの奴等は上手くやったのだが、カスの様な宝石ばかりを寄越して、肝心の、ルビー・レッド・スカイを、横領し、知らん顔している、追及するとハンドガンを出して脅しやがる・・・・・・」
 JCは、その言葉の部分だけ、紳士の仮面を脱ぎ捨てて、犬歯を剥き出しにして憤る。
 「ホウ?中西グループね」
 「そこで、今、君に会ったが百年目だ、中西からルビー・レッド・スカイを、取り返して欲しい、金なら幾らでも出す、それより金貨30枚で頼まれてくれないか?」
 米田は、空ッとぼけて、手の指を5本出してJCに迫る。
 「金の延べ棒5本だ、それ以外受け付けないよ」
 JCは、少し考えてから、3本までと、米田に迫る。
 「分かった、俺が命を落とした時は、アーク要塞に居る、妹に金を渡して欲しい」
 米田はそれだけ言うと、スザンヌの待つ自席に戻った。
 雨が降って来ていた。東京レインは、鉄とコンクリートを溶かし、米田がテントを張った、新宿西口の、下等席とも言われる、地階一階を染み透った雨水が、テントを濡らしていた。ミゲルは、テント脇で仕切りにタバコを燻らせて、寒さに耐えていた。
 午前2時になると、寒さがピークを迎え、米田もミゲルも寝て居られなくなり、焚火の有る、西口ロータリー広場に出る。
 露店が、チラホラまだ営業しており、赤提灯の前で、人が屯している。米田はチラリと赤提灯の中を見ると、中西グループのリーダー、中西幸吉が、店を占拠して、一人呑んでいた。周りを、子分と思しきヤクザ者が、店に誰も入って来ない様、見張っている様だった。中西は中で、酒をちびりとやり、赤くなった顔と目を、ヒョイと米田の方へ向けて、ニヤリと笑う。
 「オウ、そこのザコ、ちょっと俺に酒を突き合え」
 米田は、取り巻きの男達に、腕を掴まれて、店内に、押し入れられる。ミゲルは、それを見て、焚火の方へ歩いて行く。米田は、マルボロを一本出して、火を点ける。店主は、駆け付け一杯だ、と言い、本式の地酒をだして、米田の前に置く。
 「名前、何てーんだ?」
 中西は、米田を誰何する風でもなく、ニヤケて問い質す。
 「米田だ、酒は、自腹で払う、オヤジ何か温かい物出してくれ」
 中西は、さも、自分は名乗らないのは、何も言わなくとも、知ってるだろう、と言った顔付で、米田の腰のガンベルトに吊って有るホルスターを手でパンパンと叩き、
 「お前、銃の方の腕は確かそうだな、一つ、俺と勝負しないか?、今夜は、寒みーから良い、今日の昼小田急デパート跡の、裏駐車場へ来いや」
 「で、何勝負だ、意味が分からない」
「人間狩りだ、小田急に居る、約400人の難民を、何人殺せるかだ、そして、生きてこの西口まで帰って来た方が勝ちだ、ナハハハ」
 米田はOKと言い、ルールを聞く。
 「ルールは、チャカ2丁まで使用、弾丸が尽きるまでだ、そして、小田急に居る奴等も丸腰ばかりじゃねぇ、散田グループ約35名が強敵だ、こいつ等と闘って生き残れたら勝ちだ」
 米田は、承知し、日本酒をカブリと飲んで、急に女が欲しくなり、股間が熱くなるのを感じていた。
 中西グループ、リーダー、中西幸吉は、この年で36歳。米田と同じ年だそうな。中華大戦以前は、居酒屋で板前をしており、それなりの腕前で有ったと言う。
 しかし、あの核攻撃の日、中西は、地下鉄の駅のホームに居て助かったが、中野区に住んで居た、妻と子が、丸焼けになり、中西が帰宅した10日後には、死骸しかなく残された次男は、小学校の体育館に居、直接の被爆は免れた。息子は、避難民キャンプに逃れており、重い原爆病を、患っていた。中西が、辿り着いた時には、次男は、ガリガリに痩せ、吐血し、福生の米軍関係の病院に、入院する事になった。しかし、中西は、蓄財が無く、入院費を捻出するため、悪い仲間と、銀行跡地に、強盗に入り、1千万からの金を、まんまと強奪した。
 そして、中西が、台頭したのは、1990年になる時の正月。その頃、新宿を仕切っていた、フェザー一家と言う、不良外国人の、ボスが率いる、約200名と、戦争になった時、中西は、小隊長として、約7名を率いて、東長崎に陣取る、フェザー一家のボス、アスラトン・フェザーの寝入りばなを強襲し、15名を殺害し、フェザーの首を取って帰って来た。その功により、西口を任され今は、10数人程のグループを形成している愚連隊のボスであった。
  米田は、焚火の方に歩み寄り、体を充分に暖めた。
 その日の午前10時、米田はミゲルに起こされ、自分のテントの中で目覚めた。難民達は、10時ともなると、店を開いたり、その日の食い扶持を求めて、街を彷徨う。米田とミゲルは、朝食を求め駅舎に有る、旧キオスク跡を、改装して、勝手に開いている、パン屋に向かい歩いて行く。パンは貴重物資で有り、朝食としては高価な買い物で有った。
 2人は、金貨3枚でフランスパンを買い求め、西口ロータリー前で、立ち食いする。その時、雑踏の中から、1人の腰に日本刀を、手挟み、黒いスーツにサングラスを掛けた、長身の男が歩み去って行く。
 「米田、アイツまだ生きてるよ、今殺してこようか?」
 ミゲルは、その男石水を見て急にいきり立ち、腰のガンベルトから、ベレッタを抜き、歩を進めようとして、米田に止められる。ミゲルは、残念そうな顔をして、西口駐車場の中へ入って行く。
 午後12時10分前、新宿小田急跡の瓦礫の中で、2人の男が、身を伏せて、弾薬のチェックをしていた。中西は、ベレッタの、米軍正式拳銃と、どこでどう手に入れたか、コルトパイソンのリボルバーを、入念にチェックしていた。米田の手には、ベレッタ・クーガー自動式拳銃、マガジン5個、ショルダーホルスターに、44オートマグ・ショートバレルカスタム、そして、腰に関ノ孫六2尺6寸の、日本刀を手挟んでいた。
 「米田、そのダンビラ使うのか?、ルール違反とは言わねぇが、接近戦で死ぬぞ」
 「ああ、心配無用だ・・・・・・」
 「米田、散田グループは、主に3階に居る、まずザコは放っといて、こいつ等から片付けてしまおう、ゲームはそれからだ」
 「俺も、その積りだだった、アンタが何を考えてるか知らんが、俺は勝つぜ」
 午後12時が来た。米田は、カシオGショックをチラリと見て、ビルの中へ歩んでいく。中西も続き、米田より3歩遅れて歩む。2人は、非常階段を昇り、3階ロビーまで辿り着く。
 散田グループは、一番奥の敷地に、バラックを、5棟並べて住んで居た。チンピラが10人バラックの前で、ゴザを敷いて花札をしていた。米田は、サッとベレッタを抜き、5人組の座るゴザの上に居る男達に、フルオートで連射する。5人は、首から上に着弾し、血を吹いて倒れる。ゴザの上は、血溜まりが出来、5つの死骸が横たわっていた。
 次の瞬間、中西が残る5人にフルオートで、ベレッタを放つ。5人は呆気にとられて、銃を抜く間もなく、体中に銃弾を貰い、もがき苦しむ。バラックの中から銃声を聞き付け、8人男が出て来る。皆手に手にハンドガンを持ち、何か喚いている。米田と中西は、サッと物陰に隠れ、半身になる。2人はその間に、銃のマガジンを交換して、バラックの前で、銃を構えて撃ち込んで来る男の胸元に、2発ベレッタから発射させる。トントン、と軽い銃声を残し、散田グループのチンピラの下半身に銃弾が入る。中西は、3人射殺した。奇襲が成功したと言っても過言では無かった。
 「米田、俺は8人殺った、お前は?」
 中西は、大声で約7メートル離れた、デパートの支柱の陰に居る、米田に言う。
 「俺は、6人だがまだまだ獲物が居るぜ」
 米田は、足元に集弾して来る銃弾を避けて、支柱から飛び出し、フルオートでベレッタを、5人固まって撃ち込んでくる男達に、狙い撃つ。弾丸は、2人の顔面に当たり、2人は血を流し蹲る。中西はその隙を突き、残った3人へ、コルトパイソンを、撃つ。充分に腰を沈め、両手で狙いを付けて、3人米田を狙っているのを確認して撃つ。ドムドムドム。3発、手応えが有った。中西は、会心の笑みを浮かべる。3人の右肩、そして、胸板、右足を吹き飛ばして、肉片が辺りに散乱する。3階に居た一般人達は、この騒ぎで上階と下の階に逃げ散った。
 米田と中西は、散田グループのバラックに入ると、女が3人だらりと放心した様な顔をして、寝ていた。
女は、3人共20代前半と思しき女達だ。
 「臭いな、この女達ヘロでもやってんじゃねぇーのか?」
 女の足を持ち上げると、ムッとした様な、尿の匂いと、生臭さで2人は咽る。中西は、コルトパイソンを、腰に仕舞い、ベレッタ自動式拳銃を取り出す。米田は、スラリと関ノ孫六を抜いて、中西を制止して、一人づつ女に刺す。ズブリ、ズブリ、ピシャリ。女達は、悲鳴を上げる暇も無く、絶命した。米田は、油紙の懐紙を出して刃を拭う。中西は、笑いだして言った。
 「アハハハ、どーだ米田、この俺と5分の兄弟分になってくれねぇーかなあおい」
 米田は、ストンと孫六を仕舞うと、中西の方を向いて笑う。
 「まだ獲物が外に居るぜ、殺っちまおう」
 2人はまず、上階に居る一般人達を撃ちに行く。米田は、屋上から攻める、中西は逃げてきた上階の人間を、狩る。米田は、一人、蹴躓いた、セーラー服の少女に眼をやる。
 米田が伸し掛かると、足をばたつかせ、思い切り抵抗する。一撃腹を殴る。少女は黄色い液を吐いて身悶えする。米田はそそり立つペニスを、少女のパンティーの脇から刺し、激しくピストンする。少女は、口から止め処も無く唾液と、黄色い胃液を吐き、苦しむ。
 「ア~ングェー辞めてぇ~、あああ~」
 「おう、一人で楽しむな兄弟俺にも分けてくれ」
 中西が来て、履いていたズボンを脱ぎ、少女の胃液だらけの口の中にペニスを突っ込む。
 「おう、中西、キツク締まって来たぜもう直ぐイク、ウウウウ」
 米田は、少女の中へ放出し、次に中西が少女の口から、ペニスを引き抜き、バックから攻める。ズブズブと、音を立てて少女の中へ見る見るペニスが埋まって行き、米田はズボンを履き、ニヤニヤしながら見物する。
 犬が一匹走っていた。野良犬じゃ無く、ここの誰かの飼い犬だろう。シェパードだ、米田が口笛を吹くと、近寄って来る。ポケットに有った、ビーフジャーキーを、一掴みして、リードの付いたそのシェパードを、手懐ける。
 少女は、苦しみ中西に放出されて果てる。
 「オイ、米田、このアマ具合が良いな、西口に持って帰って良いか?」
 「好きにしな、それよりこの犬俺が貰うぜ」
 米田は、足を舐めているシェパードの、リードを持ち下階へ降りて行く。
 2人は、約65名を射殺した。外に来ていた一台のベンツの中から、一人の老人が出て来て、死体の山を見て、ウンウンと、頷く。
 米田と中西は、ベンツの前に行き、恭しくお辞儀をする。
 「オヤッサン、小田急デパート占拠成功です、で、コイツが米田です」
 老人は、パイプを出してタバコの葉を詰める。米田は自己紹介した。
 「俺は、米田一仁って、アーク要塞から流れて来た者です、アナタは何者?」
 老人は、ハハっと笑い言う。
 「ワシか?、ワシは、東光会会長をしとる、門田ちゅーモンだ、米田とか言ったな、この小田急ビルは、来年を目途に新しく、東光会の娯楽施設を、営業するんじゃ、良くやってくれた、又後で、謝礼はするよ、アハハハ」
 米田は、一路、車を六本木アーク要塞に、向かって走らせた。午前1時、途中マッドポリスの検問も無く、スムースに車を走らせる。助手席には、昨日捕まえたシェパードと、M16A1カービンが乗って居た。
 「ヘイ、お前名前何てーんだ?」
 米田は、犬に向かって独り言を呟く。犬は、とても大人しく、何処かで訓練されたであろう、形跡を見せていた。
 「オイ、ワンともクンとも言わねーな、全く大人しい奴だ」
 車は、六本木旧市街に入り、谷崎JCの、落ちてきた残骸を避けながら、アーク要塞、旧アークヒルズ跡地の、地階駐車スペースに入って行く。犬は大人しく、車窓から見える景色をキョロキョロ見ていた。
 米田は、夜の散歩に連れ出して、近くの公園まで行く。シェパードは、喜んでリードを離すと走り回っていた。
 翌日の朝10時、米田はシェパードに顔を舐め回されて目が覚めた。米田は、犬を散歩がてら、旧TV東京本社の有った、現第一戦災避難民キャンプに足を向けた。数日前、近くの公園で、ホームレスに襲われた少女に会いに行く為だ。歩いて5分の場所にTV東京跡地、第一避難民キャンプは有る。米田はシェパードを連れて、約600名が避難している、キャンプの門に立つ。門の上には、赤十字の旗が棚引き、建物は、半分焼け落ちているが、プレハブの簡易宿舎が立ち並び、避難民は、そこで寝起きをしていた。米田は一階ロビーの受付に行き、白衣の中年の女に人探しを、頼んだ。
 「あの、ブルーのワンピースに、白い革のジャケットを着た女の子を探してるんですが」
 女は、眼鏡越しに米田を見て言う。
 「親御さんですか?、お名前はその子の、そして特徴はそれだけですか?、年齢は幾つくらいでしょうか?」
 「はい、名前は良く分かりませんが、年齢は、17歳から18歳くらいの娘です、これと同じシェパードを連れて居ました」
 女は、台帳を出して、一枚一枚捲って行く。15分程待たされて。
 「米田さん、該当するのは、三好直美さんですね、え~と、東側の宿舎、589号棟に住んで居ます」
 米田は、サッと謝礼にコーヒーの缶詰を出して、
 「コレは寄付ですどうぞ」
 白衣の女は、米田の手を握り礼を言い、米田の顔を見て笑う。
 米田は、東側宿舎に行き、5分でそこを見付ける。プレハブの戸口には、ブザーが付いており、これを2コール鳴らす。中から、身なりの良い紳士が出て来た。年の頃は米田より少し上で有ろうか?。
 「はい、三好ですが何か?」
 米田は、チョコンとお座りしているシェパードを目顔で見て言う。
 「直美ちゃんにプレゼント持って来ました」
 「はぁ、直美の誕生日はもう過ぎましたけど?」
 「実は・・・・・・」
 この間の、公園での経緯を、父親と思しきこの男に話、父親は、ウンウンと頷き、米田の手を取って涙を流しながら感謝をする。
 「で、この犬、躾が良く出来ていて、只者じゃない犬です。拠所無い所から連れて来たのです」
 「で、貴方は何処の何方なんですか?」
 米田は正直に言った。
 「アーク要塞に住んで居る米田と申します、直美ちゃんにこの犬を、プレゼントしたく・・・・・・」
 中から、直美が顔を出して、パッと米田を見て笑顔になる。
 「オジサン、この間は有り難うございます、ジェームスの仇取ってくれて・・・・・・」
 直美は、シェパードを見て、頭を撫でる。
 「直美ちゃんと言ったね、あの公園はもう行かない方が良い、散歩するなら旧アメリカ大使館から東京タワーの残骸の辺りで遊んでいると良いよ」
 「うん、有り難う」
 父親は、本当にこんな上品な犬、貰って良いか、米田に念を押す。米田は、プレゼントと言ってその場から立ち去る。
 ミゲルは、米田を新宿駅西口で、待って居た。今夜も東京レインが、降り注ぎ、ランドクルーザーのコクピットから、足早に歩く、中年のイカシタ女に、目を付ける。
 女は、ミンクのコートを着て、傘を差し、ベージュの色をしたドレスから、まだ若いハチ切れんばかりの、太腿を覗かせて、人待ち顔で、西口の正面入り口を見詰めていた。ミゲルは、車から降り、その女の近くを、2,3回行ったり来たりして見た。ミゲルは、女が娼婦じゃ無いと、看破して、女の後方から抱き着き。クロロホルムの染み込んだ、ハンカチで、女がぐったりした所を、ランドクルーザーまで引きずって行く。女は、何の抵抗も無く車に投げ入れられた。
 ミゲルは、女を後部座席に寝かせ、股間から徐々に服を脱がせて行く。ガーバーのナイフの刃を出して、服を切り裂く。女は、ぐったりしてミゲルの思う様に犯される。
 10分程すると、米田のレガシーツーリングワゴンが、ロータリーで、横たわってる酔っ払いを、4WDの力で踏み付けて乗り越えて、入って来た。件の酔っ払いは、路上で血を吐き、内臓を破裂させて、即死した様だ。ミゲルは、女を路上へ放り投げて、狙撃手の被る、キャップを付けて、レガシーが、入って来るのを待つ。路上に捨てた女は、レガシーの下敷きになり、ギャッと言って血を吐き、のた打ち回る。
 ミゲルは、レガシーの助手席に座り、米田にラークの今時珍しい銘柄のタバコを、1カートン渡す。
 「コレは?」
 「ハイ、昼間バイパーがお忍びでやって来て、差し入れだとか」
 米田は、ポンと受け取り、ダッシュボードの中に仕舞う。ミゲルが言うには、バイパーは一度米国に帰り、向こうから、無反動バズーガ砲を、2門米軍の軍艦で、陸揚げするとか。米田の首尾が上々なのを、大変喜んでい、ラークを置いて行ったとか。米田は、鼻で笑い、バイパーも相当焦ってるなと笑い飛ばす。
 「で、下に敷いている女は何だ?」
 「ハハハ、遊んでやっただけですよ」
 ミゲルは、軽くいなして、米田と共に、西口駐車場の、ブラックマーケット内に入る。1階が、ブラックマーケット。所謂闇市、地階一階は、米田達の住んで居る、居住区と、屋台が並んだ地区で有った。米田は、先頭に立ち、地下3Fの、高級住宅街へ、赴く。
 地下3階の奥の、元駐車場警備員詰所に、中西グループのアジトが有った。米田は、チンピラが警備する、中西グループのアジトのドアーを3回叩く。中から、角刈りの男が、顔を出して、米田の顔を見て安心して中へ通す。室内は、6畳、4畳、仮眠室の有ったベッドルームが有り、詰所のコントロールセンターの跡地に、中西は、ソファーに座り、胡坐をかいていた。中西は、米田を認めると、破顔して、飲んでいたスコッチの瓶を米田に差し出す。米田はラッパ飲みして、ミゲルに渡す。ミゲルもラッパ飲みして中西へ返す。中西は、何か地図と睨めっこして、赤線で文字を書き込んでいる。
 「なぁ、米田渋谷の宝石店、メリーニに、ダイヤ、ブルーセイントて、物が有るんだが、一枚アレの強奪に手を貸してくれないか?」
 米田は、渋谷の宝石店メリーニなら良く知っていた。何時も奪った貴金属を、売り捌いていた。米田は気が進まないが、メリーニに着いて話した。
 メリーニは、渋谷センター街の外れ、道玄坂の方に有り、常時、中華系ヤクザ、黒白会の、陳・南省率いる、元共産党軍のコマンドが、10数人控えていた。米田は続けて言う。
 「あそこには、他に宝石が唸っていて、店のオーナーは、台湾系の、民信道と言う中年の男だ。民は中国拳法の達人で、とても素手では勝てない、俺の部下だった、山川と言うコマンド崩れの盗賊は、目を一突きされて、失明した程だ」
 「ホウ、俺達はそんなヘマしないぜ」
 中西は、腰に吊って有る、コルトパイソンを、取り出し、脱脂綿で、入念に手入れする。米田は気が進まないが、中西陣営に食い込む為、信用を取り付けたかった。
 「では、作戦は、明後日、午前二時に、襲うとするか、米田、お前は、石水と、決着を付けたいそうじゃ無いか、この仕事が終ったら、存分闘わせてやる」
 米田は、嫌な顔をして上階へ上がる。ミゲルは、擦違い様に、長身の男の肩にぶつかる。男は、180㎝は有るだろうか、革のジャンバーにグレーのスラックス、顔はサングラスに覆われて、良く分からない、面体を隠していた。腰には加藤国広2尺6寸の太刀を、帯び、サングラスをずらしてミゲルを睨む。
 「おう、何時か俺を撃った外人だな?、その顔は忘れネーゼ」
 「オ~、キルユウー、そのソードで俺を斬れるか試してみるかい?」
 米田は、先に歩き去り、何処へともなく、居なくなっていた。ミゲルは、素晴らしい早業で、ベレッタの自動拳銃を抜く。その男、石水は、ニヤリと笑い、ミゲルの右腕をわざと浅く斬る。ミゲルは驚き、後退りする。
 「オイ、白人よ、この勝負預けてくれないか俺もまだ命が惜しいんでね」
 「OK、後で吠え面掻くなよ」
 ミゲルは、後ろを見せずに10メーター程後退して、石水の眼をきつく睨んで立ち去る。
 強盗当日が来た。米田は、いの一番に、メリーニの守備兵に、関ノ孫六、2尺6寸の古刀で、喉元にズブリと、突き入れた。中西グループのメンバー16名が後ろから続く。宝石店メリーニの、厳重なドアロックを、中西の部下、長沢が、プラスチック爆弾で、破壊する。米田はドアノブを回して、中へ突入する。中では、男女7人が酒に酔い、ぐったりとしていた所へ、この乱入騒ぎだ。中西は、コルトパイソンで、守備をしていた、黒白会のメンバーを一人射殺する。守備兵の一人は、弾丸を腰にもろに喰らい、内臓を手で掴み出して、その場でのた打ち回る。逆側の裏口から、石水率いる8名が入って来た。プラスチック爆弾でドアーを、破壊してだ。
 米田とミゲルは、乱交パーティーをしていたと思しき、女達を、一人一人、殴り飛ばし、米田は刀身を逆さにして、女達を打ち据える。ミゲルは、下半身を膨らましながら、一人一人、ポケットに入っていた、ガーバーのナイフで股間を抉る。
 「おい、米田、遊びは良い、奥の方を掃討しろ」
 中西は、メリーニの次の間に入り、コルトパイソンを連射した。奥から守備兵の中国人が、青龍刀を持ち、6人襲って来た。米田は、関ノ孫六で、先頭に居る中国人の、打ち付けて来る、青龍刀を受ける。6人の中国人は、舞踏の様に刀で舞、次々と中西グループのメンバーを薙ぎ倒していく。中西グループは、中西の命令で、一旦入り口に戻り、石水がズイと出て来た。加藤国広の太刀を、スラリと抜き、米田と二人、青龍刀と対峙する。
 米田は、中国人の喉元を狙い、突きを3回連打した。3段突きを躱し切れずに、先頭に居た男は、首に突きを貰い絶命した。
 石水は、2人相手にしていた。右に居る男を狭い室内で、横薙ぎに胴を払い、返す刀で左側の男も斬る。2人は、深手を負い奥の部屋に逃げて行く。血を室内にボタボタと、垂れ流され、生臭い匂いが鼻を付く。残った3人は、タジロギ、石水が気合声をあげる。
 「オウサ~」
 「アイヤー」
 3人の中国人は、裏口から外へ逃げて行き、射殺されて行った。
 中西が、再び中へ入って来た。
 「これで全部片づけたか?」
 米田は、フゥーと息を付き、ラークを出して、1本フィリップして中西にもやる。
 「後は、金庫室に、陳・南省が居るかどうかですよ、陳は中国空手を使う、気を付けて中へ入らないと・・・・・・」
 米田は、関ノ孫六を、鞘に戻す。中西は、きつい目をして石水に命令する。
 「オイ、石水、まずおめぇーが、先に金庫室に突入して行け」
 「ヘイ」
 石水は、加藤国広を鞘へ戻し、奥の金庫室のドアーを、そっと開ける。陳・南省は居た、金庫室の中で、ガタガタと手足を震わせ、金庫の鍵を投げ出し、土下座をして、石水の足元に平伏する。中西と、米田が奥へ入って来た。中西は口を開き言った。
 「オイ、おめぇーが陳か?ブルーセイントを出せ何処に有る?」
 陳は、懐から、一つの小箱を手に取り出した。中西は、小箱を受け取ると、中を確認して、ジリジリと近寄って来る陳を蹴飛ばした。
 「オイ、汚ねぇー手で人の足に触ろうとするんじゃねぇ、殺して埋めちまおうか兄弟?」
 米田は、フンッと鼻で笑い、関ノ孫六をスラリと抜く。石水は、横でビクリと反応して、抜き打ち陳の首を跳ねる。ビシャボキリ、と物凄い音を発して首から上が、消失して、首が床に落ちる。中西は、唖然となり、マジマジと石水の顔を見詰める。
 「これで良いんでしょ、兄貴?」
 「まぁ、良いだろう石水、外の見張り頼むぜ」
 中西は、言って手下の長沢に、小箱を手渡す。12名の生き残りの手下達に、中西は、手あたり次第ここにある宝石を、持って行けと、命令する。各々、持って来たズタ袋に、宝石を詰めて行く。米田とミゲルは、早々と引き上げようとすると、中西が声を掛けて来る。
 「二人共ご苦労だった、これからブツの分配をする、新宿のヨドバシカメラ跡の、一軒家へ来てくれ、そこで報酬を受け取ってくれ、時間は2時間後だ」
 「OK、了解したミゲル行くぜ」
 米田は、ミゲルを乗せて、レガシーツーリングワゴンで、新宿へ向かった。
 夜も、明け様としていた。新宿西口ヨドバシカメラの、跡地に建てられた、日本家屋の前に、一台の車が止まる。車種は、スバル・レガシーツーリングワゴンで、その、グリーンと銀のツートンのボディーに朝焼けがほんのりと、輪郭を浮き上がらせていた。
 中から、ミゲルと米田が出て行き、裏門のインターフォーンを押す。キャメラアイのインターフォンで、中から首実検をされ一言、
 「中へ入って下さい」
 と、女の声がし、施錠されていたドアーが、開き、二人は中へ案内される。玄関には、靴が脱ぎ散らかせて有り、計25名分の靴が有り、米田はチッと舌打ちした。
 狭い長い廊下を女の後ろから、着いて行き、廊下の一番奥に有る、人一人通れる分の幅の階段が降りていた。そこから、2階へ上り、南向きの、十畳は有る大広間へ通される。女が襖越しから声を掛ける。
 「お客様をお連れしました」
 中から、中西の声がした。
 「入って貰いなさい」
 襖がスッと聞くと、計30名程の、中西の手下と、上座に、中西と若い女が座り、下座には、手下30名程が酒を飲み、タバコを吹かしていた。米田はスッと入り皆に軽くお辞儀をした。中西は、ニコリとして口を開く。
 「よう、兄弟遅かったじゃねぇか、良く来た、これは昨夜のお礼だ、受け取ってくんない」
 中西は、直径30センチほどある、巾着袋を手下の一人、長沢に手渡し、長沢が米田に手渡す。
 「昨夜は、有り難うごぜーやした」
 米田は、巾着袋を手渡され、二人は末席に着く。
 「よう、兄弟、俺の横に来ねぇい」
 米田は立ち上がり、中西の隣に座る、女の左側に座る。
 「皆、良く知って居ると思うが、コイツが俺の兄弟分の米田だ、仲良くしてやってくんない」
 前から3番目の席に座っていた、石水は、プイと横を向く。皆酒をやっており、米田も一献傾ける事にした。御膳が出て来、酒が運ばれてきた。
 「おう、これは、俺の女房、市江だ、良い女だろ、ここで住まわせてやってんだ、ワハハハ」
 市江は、米田に頭を下げ、酌をする。女の左手薬指に、赤く光るルビーを見た。
 「その指輪は、凄い値打ち物ですね」
 米田は、それと無く訊ねて見た。
 「おう、良く目が効くな、それが時価3億はする、ルビー・レッド・スカイだ、兄弟には、チト高過ぎて、捌けねぇだろ、アハハハー」
 米田は頷き、ミゲルと目を合わす。ミゲルは、酔ったふりをして、ダンスを踊り出し、皆の注目を浴びて、笑い転げる。
 1週間が経った。新宿大ガード下の、駐車スペースに、一台、ランドローバー4WDの、VIP仕様車が、入って来た。駐車スペースには、東光会系瀬川一家の、瀬川一機、瀬川一家の跡取りのR32スカイラインGTRが、止まって居た。見張りに二人、若い衆が着いて居た。この二人が、この騒ぎの発端だった。VIP仕様のランドローバーは、池袋、代沢会・会長の代沢保が、後部座席に乗って居た。ランドローバーは、荒地を乗り越え、R32スカイラインの横に着ける。代沢は、スッとドアーを開けて、ドンッと、地面に降りた。ドアーはその時、R32スカイラインGTRの、コクピット側のドアーを擦る。見張りに立っていた二人組の男達は、代沢に抗議する。
 「オイ、オッサン、ウチの若の車擦って、シカトかよーえーオイ?」
 運転席から出て来た、代沢の護衛の人見と言う男が、言い返す。
 「オウ、悪かったな、スクラップかと思ったよ、まぁこれで堪忍しな」
 人見は、10万円程の束をパッと路上に投げて、二人組は、万札を拾い始めた。
 「じゃー、人見君行くとするかな」
 代沢が、一言も謝らずに、当然と言った顔付で去ろうとした時、見張りの若い衆の手を、人見は足で踏みにじり、
 「ハハハ、コジキ」
 と一言言い残し去ろうとした。手を踏まれた男、錦野は、顔を真っ赤にし、懐からベレッタを取り出して、人見の後姿に狙いを付けて、5発撃ち込む。
 パムドムドントントン。鈍い音を立て人見に銃弾がヒットする。人見は背中から銃弾を浴び、その場に沈んだ。驚いた代沢は、懐から護身用の、ナンブのリボルバーを出して、応戦しようとした時、もう一人の見張り、張元は、コルトの自動拳銃を抜き打ち、代沢目掛けて4発撃つ。3発外れ、1発代沢の眉間に当り、脳漿を撒き散らしてその場に崩れた。
 
 この事を受け、池袋の代沢会、若頭、増根の下に、東光会系瀬川一家から、詫び状が届き、小指の二本入ったホルマリンの瓶が、届けられた。瀬川一家の代表の男、二宮は、ニヤケて口上を述べた。
 「今回の所は、アッシ等の所の若い衆が、とても残念なことをして、悪うござんした、見舞金はこれで」
 二宮が、代沢会を前にして、とても舐めた口上を述べて頭を下げて、ニヤリと笑った。その事が行けなかった。
 若頭増根は、
 「あ~そうですかい」
 一言言って、持って居た、日本刀、菊一文字を、抜き打ち、二宮の右腕を叩き斬る。代沢会の若い衆が、すぐさま止血し、増根は泣きながら帰って行った。
 この事で、代沢会と瀬川一家は、一触即発の状態になった。
 その三日後、東光会のカジノに、一人の、ジェイソンの様な、ホッケーの仮面をした男が、サブマシンガンを持ち、店の中の客を、無差別に撃ち殺した。客42名中、死亡36名、生き残った6名が、必死に応戦して、ジェイソンは、自動2輪カワサキZⅡで逃げて行った。東光会、会長補佐、三浦は、すぐ様、報復の手を伸ばした。東光会から、中西グループに、連絡が行ったのは、30分後で有った。中西は、その頃、新宿西口、駐車場跡地で、メンバーを集めて花札をしていた。
 米田は、西口に、新しく出来た、喫茶店・イエローサブマリン・に居た。ミゲルと共に、街の噂話を収集していた。今話題は、専ら瀬川一家と、代沢会の、抗争に付いてであった。情報屋の、ぺスターと言う男が、仕切りに、米田の傍らに着いて話す。ぺスターは、在日米人の、成れの果てで、元は商事会社の営業をしていたと言う。ぺスターの、話によると、2時間前、カジノが、急襲されて、死者が多数出たと言う。
 東光会の、会長補佐三浦が、討伐命令を、中西グループに下したと言う。米田とミゲルは、目を見合わせ、「ウム」と頷き合う。早々米田は、西口駐車場の、地階三階の、中西のアジトにアジトに向かう。
 途中チンピラの3人と会い、
 「ボスが、米田さんの事探してましたぜ」
 「ウム、直ぐ行く・・・・・・」
 地階三階に着くと、中西以下、30数名が、喧嘩仕度しており、マシンガン、アサルトライフル、そして、バズーガ砲まで、車に運び込み、忙しなく走り回っていた。
 そこへ、中西が出て来て、米田を認めて、厳しい顔をして言う。
 「兄弟、今夜、ブクロの代沢会若頭、増根のヤサと、立ち回り先を、見つけ次第襲うぜ、チャカと剣忘れるなよ」
 中西は、広間に皆を集めて、地図を出して説明する。まず、代沢会の有る、池袋の、西池袋に、中西率いる、本陣8名が殴りこむ。そして、米田とミゲルは、増根の、女の住む、祥雲寺裏の、鉄筋のマンション、クレロールに、急襲し、残った者は、池袋最大の組織、大間真一家の、本拠を突く。米田とミゲルは、仕事が終わり次第、大間真一家攻撃に合流し、速やかに急襲し、大間真の首を取る事であった。米田とミゲルは、レガシーツーリングワゴンに乗り込み、M16の弾倉をチェックし、米田は44オートマグショートバレルカスタムの、マガジンを、腰のポーチに4つ用意し吊る。レガシーは、新宿区内を抜け出し、椎名町を、過ぎたのは、30分後で有った。
 一時間掛けて、祥雲寺の裏の土塀に車を止め、マンション・クレロール・の中へ入る。
 クレロールは、核爆発の余波を受けて、壁は鉄筋剥き出しにして、住人は全て、退去している。残った一人、増根の女、良美が、増根の援助を受けて、何不自由のない暮らしをしていた。ミゲルは、車から降りると、マッドポリス時代支給された、2尺のサーベルを、腰に差し、米田も、関ノ孫六二尺六寸を、帯刀し、密かにマンションの入り口付近を見る。入り口には、立ち番をしている、戦闘服を着た、ヤクザ者が一人、シキテンを切っていた。米田は、落ちている、石を、二階の窓目掛けて投げ入れる。ガシャーン。と、激しい音がして、見張りは振り向く。その隙に接近していたミゲルは、サーベルを一閃させて、見張りの男の左胸を突く。西洋のフェンシングの要領だ。男は、突かれたのにも気付かず、右手をバタつかせて、絶命していた。ミゲルは、刀身を拭わず、右手にサーベルを構え、左手に、ベレッタ自動式拳銃を持ち、マンションの中へ、踊り込む。中には人気が無く、薄暗闇の中、スナイパーの様に、獲物を狙う目をして、2階へ上って行く。
 「ミゲル、確か、203号室が、女の部屋だったな、男が居なかったら殺すな、体力の無駄だ」
 ミゲルは、話を聞いているか居無いか米田には、分からず、スイスイと、203号室の前で立ち止まる。
 懐から2本の針金を出して、部屋のロックを解く。中では、女が奥の部屋で本を読んでいた。ミゲルが、中へ入ると、女は悲鳴を上げた。横の部屋からドアーが開き、男が一人出て来て、ミゲルの左脇を狙い、約5メートルの距離で発砲した。銃弾はミゲルの左脇に命中し、ミゲルの反射的に、床に転がる。横合いから首を出した男の首元に、米田が関ノ孫六二尺六寸の名刀を、一刀振り下ろす。米田の足に、その時女がしがみ付いて来た。一刀は、その男の左肩を深く割り、「ぎぇー」と声を発して、床に伏せる。米田はしがみ付いて来た女の首元、うなじへ、孫六を突き入れる。女は、「グエ」と声を発してズブリと首筋を割り、孫六を、右にスッと引く。女の首は、半分千切れかけて、見るも無残に、その美女で有ったであろう女は、顔を歪めて絶命した。
 男は、正に増根で有った。ミゲルは怒りに任せて、床でのた打ち回る増根を、滅多斬りにして、顔の形が分からない程斬り付ける。とっくに死亡した男の死体を、尚も斬り、裂く。米田はミゲルを制止して、関ノ孫六を鞘に仕舞う。懐から、S&Wの大口径のリボルバーを出して、弾薬共に頂戴する。ミゲルは、止血して、平静さを取り戻す。男の懐に、パスポートが入っており、増根純一郎と、記されて有り、それをポケットに仕舞う。ポラロイドカメラで、現場を撮影して、2人は大急ぎで、車に乗り込み、サンシャインシティーの、跡地を占拠している、大間真一家の本拠に急ぎ車を走らせる。
 レガシーツーリングワゴンは、15分掛けて、サンシャインシティーの裏口へ、止まる。裏口と言っても、旧荷物搬入口の、トラックヤード跡地だ。そこには、大間真一家の兵隊、5名程が見張りをしていた。
 屋内では、既に戦闘が始まっていた。米田の、レガシーを、5人の男は認めると、50メーター程の距離を、置いてハンドガンを、放ってくる。米田とミゲルは、M16のスリングを肩に掛けて、腰だめで、5人へ掃射する。
 男達5人は、フルオートの銃弾を浴び、次々に倒れて行く。米田は、死体のポケットを一人一人入念にチェックし、裏口のドアーの鍵束を発見する。2人は、裏口の荷物搬入口の、エレベーターが生きてることに気付き、エレベーターを待つことにする。
 池袋は、1989年の中華大戦の折り、核ミサイル一発、市街地に着弾し、街は一気に吹き飛び、サンシャイン60は、30階から上が吹き飛ばされて、死者を多数出した。
 駅舎は破壊され、そこに居た人々は、一瞬にして核の炎に焼かれ、骨も残さず消えて行ったのである。
 そんな、サンシャインシティーも、自家発電が、生きているらしかった。ここを占拠する、大間真一家は、古くから有る、任侠で、構成員は二百数名、浮浪者や、無宿者が多く、使い物になる戦闘員は60名足らずだった。二人は、大間真の居る28階を目指して、エレベーターに乗る。時折くぐもった銃声や爆発音が聞こえ、ミゲルは、その白人独特の戦闘意欲を喚起されて、ベレッタの、銃身の臭いを鼻に近付けて嗅ぎ、米田の方を向く。米田は、終始無言で、M16A1カービンのトリガーに指を添え、何時でも溜め撃ちが出来る様にしていた。ようやく、10階を超えた頃、ミゲルは口を開いた。
 「米田、このミッションが終ったら、俺は国に帰りたい、ロスアンゼルスに家族が待って居る、ステーツの軍艦に便乗させて貰おうと思っている・・・・・・」
 「ウム、好きな様にしてくれ、アメリカも、核に焼かれてるらしいから、家族の安否が気になるのは無理も無い」
 エレベーターは、20階を超えた所だった、子のエレベーターの上は、補修されて、機能を取り戻しているらしい。新宿や渋谷と違って、何とも技術が進んで居るものだ。
 エレベーターは、27階に着く。一旦下の階に降りて、上に向かう作戦を取る。
 エレベーターが着くと2人は、M16を、腰溜めにして、待ち構える。エレベーターの外は、無人であった。オフィスの跡の様だ。白骨がまだ取り残されて、ミゲルは、蹴躓くいて、白骨を思い切り蹴飛ばす。
 バキャリと、音を残して、壁に頭蓋が当り、粉々に砕け散る。頭骨の中には、まだ毛髪が残っている物も有り、ソバージュの髪が綺麗に残っている物もある。
 そんな、白骨を踏み締め、ジャリジャリと、通路を歩く。米田とミゲルは、非常階段へ上がり、エレベーターホールの壁に隠れて、覗き見る。3人程の兵隊が、奥の部屋の入り口で立って、此方の方を、警戒して見ていた。米田は、銃口を壁の影から突き出して、フルオートで、M16A1カービンを、掃射する。ブーン、と連続発射音を残し、銃口が跳ね上がるのを、腕力で押さえ付ける。左から右へ1掃射すると、3人は血みどろになり、床に倒れて、もがき苦しんでいた。
 米田とミゲルは、匍匐前進して、死体となった、兵隊の近くまで這い寄る。右の通路と左の通路を確認すると、この3人以外は、居なく、無人で有った。
 ミゲルは立ち上がりドアノブを回す。中には、老眼鏡をかけて、何か書き込みをしている。老人は、ミゲルと米田を交互に見て、口を開く。
 「やはり、来たか外国の方と、米田君と言ったね、私は、君達を害そうとは思わん、話をしに来たのかね?」
 その男、米田は、見覚えが有った、以前六本木の、銭湯で一緒に風呂に入った弁天の入れ墨の男である。
 米田はその男、大間真一郎に向かって、口を開いた。
 「大間真の親分さん、そっちが俺を殺そうと思わなくても、俺たちの仕事は、アンタの命をもらい受ける事だ、覚悟はできてますか?」
 大間真は、大きく笑い言った。
 「こんな時代だ、任侠任侠と言っても、皆兵隊の様に戦っている、私利私欲、そして陰謀、そんなこたぁーどうでも良い、俺はこの時代を、終わらせる為に、金銭を集めている。綺麗事に聞こえるかもしれねぇが、米田さん、未来の子供達に明るい平和な国を取り戻してぇーと思わないか?、子供たちの未来、そして地球の回復だ・・・・・・」
 大間真は、机の引き出しを開けようと下に手を伸ばした時、横でミゲルが、M16A2アサルトライフルを、2発、反射的に引き金を引く。大間真は、肩と胸に銃弾を浴びて、1回転しながら後方へ吹き飛ぶ。
 「オイ、ミゲル、誰が殺せと言った」
 米田が、大声でミゲルに怒鳴ると、大間真は立ち上がり、着ていた着流しの上を諸肌脱ぎになる。弁天の入れ墨を赤く染め、向こう側へ振り向く。ミゲルは恐ろしくなり、フルオートで、大間真の弁天に向けて、撃ち込む。大間真は背中に風穴を、開けられ、弁天の入れ墨が赤く染まって行った。
  時は流れて、1993年も、11月になった。中西グループは、池袋の対抗組織を、次々に壊滅し、その構成員を、順々に増やして行った。縄張りも新宿西口から、飛び地で東池袋周辺も吸収して行った。
 その日は良く晴れた、11月の木曜日で有った。西口の、一等席で有る、駐車場地階3階に、テントを移した米田は、朝7時に起床して、洗面室で、貴重なミネラルウォーターで、歯を磨き、トイレで大便を済ませて、中西の住む駐車場管理室へ行く。
 中西は、目覚めて、ヒロポンを一本、いや、この時代は覚醒剤と言った方が通りが良いのか、を一本左腕の静脈に打ち、頭がすっきりとして、米田と朝食のかつ丼を食べる。
 「米田、東口に出来た、ボウリング場にでも行くか?」
 「俺は、一向にかまわんが、兄弟、アンタは暇が有るのか?」
 中西は黙って、頷くと、歩いて二人で遊びに行く事にした。ミゲルは、ガールフレンドと、デートに上野まで行くと言い、米田はミゲルを放って置くことにした。
 中西と米田は、連れ立ち、東口、旧新宿マルイの有った跡地へと赴く。路地を使い、紀伊国屋書店の脇から出ると、後方に2人、前に3人の、男達が立っていた。男達は、ガンベルトに、各々リボルバーの拳銃を、吊っており、米田は前方の3人目掛けて、ダッシュする。その距離6メートル弱、中西は、後ろの二人に抜き撃ちをして、紀伊国屋書店の、中へ逃げ込む。米田は走った、男3人は、米田の変則的なジグザグ走行で、狙いが定められずに、一番右に立っていた男は、関ノ孫六の抜き打ちで、右手を斬られ、目から涙を流す。後方の二人は、1人倒され、中西のコルトパイソンが火を吹く。ドムッ。一発又もや発砲するが、脇に有るラーメン屋の看板に命中し、ネオンの看板が、その脆いステイで吊って有る物が降って来る。
 米田は、前方の二人に対して、横薙ぎに二人に深手を負わせる。一人は、右肩から袈裟に斬られ、もう一人は銃を抜いた時はすでに遅く、左胸を貫かれていた。
 後方に残った一人は、踵を返して逃げて行く。米田は、フゥ~と溜息を吐いて、刀を鞘に納める。中西が、紀伊国屋書店から出て来て、米田と並んで、歩き去る。
 その日の午後3時まで、二人はボウリングをプレイして、中西に、東光会から迎えの車が来て、何処かへ行くらしいと米田は思った。
 「なぁ兄弟、今から吉祥寺に顔出しに行くんだ、俺と長沢が呼ばれててな、又明日遊ぼうぜまたな」
 「ああ、またな」
 米田は一人で、西口駐車場へ帰った。
 中西を、迎えに来たハイラックスサーフは、60㎞巡行で、新青梅街道を走る。後方から一台、黒く塗りつぶしたタンクの、カワサキZ750FXが、走って来る。悪路のギャップを乗り越え乗り越えしながら、そのフルフェイスに、シールドにスモークが入ったライダーは、巧みにハンドルをサバク。
 中野哲学堂前で、ハイラックスサーフの運転手が、タバコを吸うので、パワーウィンドウで、窓を開けて、一息ついていた。信号も何も無いので、一気に道を駆け抜ける。この辺りは、路面が滑らかで、ギャップも少ない。Z750FXは、その時、運転席側に並んだ。シールドを上げ、両手放しの状態で、着ているビンテージのG1ジャケットのポケットから、手榴弾を一個取り出し手早くピンを抜き、また右手でアクセルを開ける。1.2.3、と数えて、4でハイラックスサーフの運転席へ投げ込む。
 ハイラックスの、運転手は、ライダーを見て、目を丸くしていた。次の瞬間、ハイラックスは、物の見事に、木端微塵に吹き飛んでいた。中西の死体は、影も形も無くなっていた、と後で米田は聞いた。只、中西の左手薬指に嵌めていた、ダイヤモンド・ブルーセイント・が現場に落ちていたと言う。
 中西幸吉は。享年37歳で逝った。
 中西が、爆殺されたのと同じ時間帯、西口ヨドバシカメラ跡に建った、日本家屋が、火に巻かれていた。誰かが放った火矢が当り、2階を全焼させる程の、大火になった。その時、中西の子分衆に、守られながら、中西の女房、市江が行方不明になった。
 中西の、子分衆は、必死の捜索をしたが、行方が分からず、家に詰めていた8人の子分はしょげ返り、西口駐車場へ行く。
 市江は生きていた。渋谷駅のバイパーの小屋で、コーヒーを飲み、ケーキを突き、バイパーを睨んでいた。
 「そのルビー、レッド・スカイを渡してくれたら、米国に君を逃がしてやろう、明日の夜、米軍艦で、出立できるよう手筈が整えて有る」
 バイパーは、流暢な日本語で話し、市江は顔に赤見が戻り、興味津々に身を乗り出して聞いた。
 「では、私が米国に渡った後は、誰を宛にしていけばいいのでしょうか?」
 バイパーは、パスポートと、現金10万ドルを、市江に渡して言った。
 「フロリダの、スティーブンて人に、紹介状を書いてあげよう、そこに行けば、仕事に困らない、後、英語はオイオイ覚えて行けば良い」
 市江は、バイパーに指に嵌めて有る、ルビーレッド・スカイを外して渡した。その後、一人の白人青年が小屋に入って来た。市江はその青年を認めて、
 「あら、アナタは確かミゲルさん?」
 「この男が、明日、護衛して横須賀まで送ってくれる、安心したまへ」
 ミゲルは、一礼して、椅子に座った。
次の日の午後8時、市江は船上の人となり、ミゲルも一緒に旅立って行った。
 翌日は、東京レインが降り、道行く人々は皆、雨合羽を着込み、マスクをして歩いていた。米田は、昼前の11時半に、新宿御苑の、脇にレガシーツーリングワゴンを止めて、昨日亡くなった、中西グループリーダー、中西幸吉の、告別式に、参加する為、公園を歩いた。告別式を主催するのは、東光会の、角田会長、そして、新宿を拠点にする、アウトロウから、最近頭角を、現して来た政治屋まがいの人々が、金を出し合い、直径2メートル余りの、額に入った中西の遺影が有り、正直米田は、中西の人気に驚いたので有った。式は、芝生広場の中央で行い、弔辞を、東光会会長補佐・三浦が読んだ。
 「今まで、生きて来て、お前ほどの男は知らねぇ、殺した奴は、きっと見つけ出して仇は討ってやる兄弟、おめぇ程の良い奴は居なかったぜ、地獄で又会おう、アバヨッ」
 三浦が弔辞を読み終えると、列席していた、新宿の女達が、すすり泣く。米田の脇に何時の間にか居た、娼婦スザンヌは、号泣した。中西グループの残された人員60名程は、只呆然と、儀式を見詰めているだけであった。
 ただ一人、米田に鋭い眼光を突き付け、睨んでいる男が居た。石水で有る、石水は密かに米田との決着を決意し、今日の為に、愛刀・加藤国広・を研いできていた。
 告別式が終ると、列席していた600名余りの人々は、東京レインに濡れながら帰って行く。中西グループは、米田の下に集まり、米田を頼りにしている風で有った。
 「オジ貴、今後どうすりゃ良いのですか私等は?」
 一番年嵩の、元柳と言う男が、米田に歩み寄る。米田は、ラークのタバコを、一本出して、火を点けて答える。
 「元柳、お前と石水がグループを、立て直すが良いさ、俺は六本木に帰る、力足らずで申し訳ない」
 米田は、後ろを見ずに歩み去って行く。下の池の畔で、米田は佇んでいた。池の水は、一時枯れたが、ここ数年で又湧いて来たと人づてに、聞いたことが有った。米田は、吸っていたタバコを池の中へ投げて、歩み去ろうとする。後ろから人が歩んでくる足音がした。
 「米田、ちょっと待て、俺との決着を付けずに六本木に帰さねぇぜ」
 そこに、石水が立っていた。
 「何だ石水、決着ならもうとっくに着いて居るだろう、また人が死ぬのが嫌なんだ」
 石水は、問答無用と、怒鳴り、加藤国広二尺余の太刀をスラリと抜く。米田は、仕方なく、関ノ孫六2尺6寸の太刀を抜き、ダラリと右手に持つ。
 「オイ、それがお前の構えか?、まぁ良い、オヤジへの手向けに、お前もあの世に送ってやる、行くぜ、イヤ~」
 米田は、右手を刀柄に添えて、下段の構えを取る。石水は、素晴らしいスピードで、上段からの打ち込みを、米田の頭部目掛けて仕掛ける。
 「トア~」
 米田は、下から掬い上げる様にして、加藤国広の太刀を、左側方へ弾く。加藤国広の太刀にこの時異変が起きて居た。キッと歯を食いしばり、石水は二打目を打って来る、突きだ。米田はスッと、後退し、2歩程引いた後、右足を開き半身になる。石水は、前にツンノメリ、腰砕けになる。
 「まだ、腕の差が分からないか?、次は本気でこっちも打ち込むぜ石水」
 米田は、一括すると、右手で突きに行く。石水は、首を右に傾けて、米田の突きを躱す。米田は、スッと引く。石水は、その合間を見て、大上段に振りかぶり、米田の脳天目掛けて一刀を入れる。その時米田の姿が視界から消えた。振り下ろした太刀は、土に刺さり米田は、その加藤国広の名刀を、峰の部分を強打し、これを真っ二つに折る。米田はこれを見て石水に言う。
 「俺の勝ちだ、もう二度と命を突け狙うな」
 米田は、関ノ孫六を鞘に収め歩み去る。
 「オ、オイ、ちょっと待ってくれ俺も連れて行ってくれ・・・・・・」
 米田には、石水の言葉は届かず、公園の出口から消えて行く。
東京の上空にも、ジェット戦闘機が、現れ始めたのは、1993年も年が押し迫った12月の頭からであった。
 北海道の政府は、近々無法地帯と化している、関東以西の都市部に兵団を送り込んで、民心を安定させ、無頼達を鎮圧せんとまず、関東に、2個師団の陸戦隊を送り込まんと画策していた。
 そんな頃。
 四谷に住む、JCは、北海道に亡命しようと、政府要人に、必死に献金し、働きかけたが、政府の機関の調べで、違法に取得した金品で有る事と、武器弾薬を、違法に国内に持ち込んだとし、これを却下した。
 しかし、JCは、東京に在住する事への身の危険を感じ、母国スコットランドへ、帰国の準備をしていた。JCはまず、四谷に在る家屋、財産を、金貨とインゴットに代え、武器ブローカーの権利を、地元のアウトロウ組織、火流会に引き渡した。
 JCは、この年で、59歳になると言う。日本に来て、早30年、中華戦争前の、前身の正体は、誰も知らない。
 JCは、妻と子供3人を連れ、横須賀に寄港する、英国の駆逐艦に乗り込む手筈を、取り付けた。横須賀までの道中は、JCの用心棒2人に守られ
、車中何も無かった。
 「では、本郷さんに、高橋さん、我々はこれから、この船で、母国に帰ります、何時までもお元気で」
 その時、JCは、号泣し、妻と子供達と、英駆逐艦のタラップに昇り、別れを惜しんでいた。船上の人となった時、一人の白人の男がJCと、その家族に向け、アサルトライフルを、至近距離から、乱射した。JCは、血の海の中でもがき、妻と子も、血みどろになり、絶命した。その白人の男は、その場で腰に吊っていたハンドガンで、自決して果てた。 
 その事件の事は、日本政府は不問に付し、JCの死は、闇から闇へ葬られた。
 空は青く、久し振りに晴れ渡っていた。
 ここ3日程、東京レインの酸性雨に、悩まされ。米田は、昨日、横浜の暗黒街のボス、正・雲海の自宅を襲い奪って来た、黄金を、渋谷のバイパーに預けようと、レガシーツーリングワゴンで、出立しようとしていた。
 妹のヤヨイは、産気付いて、バイパーの紹介で、広尾の、設備が整ったクリニックに、入院していた。米田は、何処からともなく、人に監視されている様な気配を感じ、車を走らせた。後方約500メーター付近に、アーク要塞から着けて来る、黒色のジムニーが気になっていた。米田が、渋谷駅に入って行くと、ジムニーの姿が、消えて居た。
 「フッ、気のせいか・・・・・・」
 米田はひとまず、安心して、渋谷南改札から、井之頭線連絡通路にある、バイパーの小屋へ向かう。
 重いボストンバッグを、左肩に担ぎ、バイパーの部屋をノックして中へ入る。
 バイパーは、居た。奥の簡易ベッドでぐでんと寝ており、米田の顔を見て、「ああ」と声を発する。
 米田は無言でボストンバッグの中身を机の上に広げる。バイパーは、ノソリと起き上がり、気怠そうな目で、机の上を見る。
 「正・海運の所には、有価証券の類が唸って居ると聞いたが、何も無いな?」
 米田は、マルボロに火を点けて、バイパーの顔を見詰めて言う。
 「そんな物はケツ拭く紙にもならないとバイパーも言ってたじゃ無いか」
 「しかし、それは1年前の事だ、これからは、日本政府が、東京の復興にやって来る、その時の為に、必要になってくる」
 バイパーは、細巻き葉巻を燻らせながら、米田の持って来た、宝石、金貨、日本円の札束を、手に取り鑑定する。
 「このダイヤは、結構価値が有りそうだな?」
 「ああ、それは、正・雲海の娘、愛姫が着けていた物で、序にあの娘犯して持って来た物だ」
 「フム、余り、役得を利用するんじゃねぇや」
 「次のミッションは何だ?」
 バイパーに尋ねて米田は、コップにお茶を注ぎ、一気に飲み干す。
 「今日明日には、何も無い、スティーブン少将に、君の事は宜しく言っておくよ」
 「頼むぜ、もう直ぐ、北海道に駐留する、2個師団余りが、東京へ上陸するって噂で持ち切りだ、その時は、戦わなくも無いが、早い所、ステーツに高飛びしたいってのが、俺の本音さ」
米田は、ブラックマーケットで、お昼を摂る事にした。ハチ公前広場に新しく出来た、お好み焼き屋の屋台に入ってみる。席は5席有り、テントで屋根は覆われ、壁はトタン風雨を凌いでいた。店へ入ると米田は、少量持っている日本円を、五百円出してミックス玉を注文する。
 暇潰しに、外の歩行者を見ていると、ボロイ、グレーのジャンパーに、ブルージーンズを履いた見るからに見すぼらしい青年が、米田の隣に座る。米田は、男を無視して、出てきたお好み焼きを、貪り食う。
 男は、サッと懐に手を入れと、米田の右腕にカシャリと手錠を嵌めて言う。
 「北海道、第二連隊直属、北機関の清水だ、米田一佐、強盗殺人罪で逮捕する。同行してもらおう」
 米田は、グイと手錠を持ち上げて、お好み焼きの残りを食べて、清水に目を向けて言う。
 「北機関か、まず、君の階級を言うのが礼儀じゃないか?清水君」
 「ハイ、自分は北機関の、清水一尉であります、ご同道をお願いします」
 米田は、お好み焼きを食べ終えると、もの凄い腕力で、清水の腕を逆ねじにして、左手で懐から44オートマグ・ショートバレルカスタムを、取り出して、清水のこめかみに、突き付ける。
 「ウグ、撃たないで下さい、や、やめて・・・・・・」
 米田は、銃床で、清水を5,6発殴り付けて、清水は頭から血を流し、放心した様な顔になる。
 「オイ、清水一尉、この東京は戦場だ、気を付けて行動するんだな」
 米田は清水のボディーに、ブローを一撃加え、グッタリとなった体を起こし、胸ポケットから手錠を掛けている鍵を取り出して、外す」
 米田は、レガシーツーリングワゴンに乗り急発進させて、車首を広尾二丁目の、住宅街の在った高瀬クリニックへ向かう。
 尾行が又着いていた。警察車両の使う、日産スカイラインGTSだ。米田は振り切ろうとして、わざと悪路を選び、松濤の住宅街に有る、木材が散らばっている地点で、4WDのパワーで木材を乗り越えていく。スカイラインGTSは、木材にスタックして、前進も後退も出来ずに立ち往生していた。
 米田は、バックミラーで見て、ニヤリと笑い、広尾の焼野が原にポツンと建つ、高瀬クリニックの脇の空き地へ、車を突っ込む。
 米田は、車から降りると、今はアウトロウが、経営する、アマンドのケーキを取り出しクリニックの中へ入る。
 受付で来訪を告げると、5分程で中へ案内されて、奥に有る入院ベッドに通される。
 ヤヨイは、グッスリ寝ていた。米田は、ケーキを脇の簡易テーブルに置き、同室でお産待ちの、中年の女に目顔で挨拶する。
 一時間経ってもヤヨイは起きず、ケーキを置いて、高瀬クリニックから出る。
 20分後、アーク要塞に、帰り着き、レガシーで昼寝を貪っていると、一人の戦闘服を着た男がレガシーのコクピット側のドアーを、ノックする。その男は、手にM16A2アサルトライフルを持ち、米田が起きて、窓ガラスを開けると、直立不動で敬礼して、米田の顔をマジマジと見て、口を開く。
 「米田一佐殿、昼前にマッドポリスの警邏部隊が銃火を浴びせて、小競り合いになりました、最近頻繁に、小競り合いが続き、兵士の死者が5名に昇りました、一佐のお考えをお聞かせください」
 その男、新庄敬司は市谷から流れてきて、反マッドポリスの急先鋒で、常に真面目に戦術を、研究している陸曹だった男だ。
 「フム、それは間違いなく、威力偵察だな、近い内に、攻勢が有ると思った方が良い、気を引き締めて掛かれ」
 米田は、訓示を終えると、再び寝ようとして、コクピットでハンドルに足を乗せる。
 新庄敬司は、また情報を提示してくれた。
 「私共の調査の結果、治安部隊のスザータ大佐が近い内に、桜田門の庁舎に入るそうです、スザータ大佐は、左遷されて、特殊部隊・イエローヘル・の司令をしてるそうです」
 米田は急に厳しい目をして答える。
 「イエローヘルって言えば、噂だとマッドポリスの本部のある、厚木の特殊部隊だな・・・・・・」
 「はい、そうです、スザータ大佐は、約30名の特戦隊を率いて、桜田門に入るそうです」
 米田は、もうそれには答えず、ブルーのシューティンググラスを掛けて、椅子をリクライニングさせて、上を向き、寝る体勢を取る。それから、2日間平和な日が続いていた。3日目の朝、それは突然起こった。アーク要塞の周りに、マッドポリスの40数名が包囲した。
  時刻は6時30分、朝駆けの奇襲であった。米田は、地階駐車場で、外の只ならぬ気配で、目が覚めた。1本残っていた缶ビールを出して一気飲みして、車の外へ出る。
 1番最初に異変に気が付いたのは、立哨をしていた、津村と言う准尉で有った。外に4WDの装甲車5台、ジープ5台、消防で使っていた、はしご車1台、他多数の車両がアーク要塞を包囲していた。
 津村は、急ぎ2階で寝起きしている、要塞の防衛軍、三百余名に、敵襲の号令を発して、兵達を起こして行った。守備兵は各々銃やバズーガ砲と言った武器を手に持ち、銃座の配置に着く。米田の下に、連絡将校の、三谷と言う男が降りてきて、2階の指揮を頼んできた。
 「オイ、アーク要塞は、名矢三佐が居るじゃないか、名矢さんを差し置いて、俺が指揮何て出来んよ」
 「名矢さんは今、裏門の警備に行っていて留守なんです頼みます」
 米田は、不承不承上へ上がり、2階の銃座から、下のマッドポリスの陣容を見る。その時、丘の上のホテルオークラの跡地の方面から、迫撃砲が火を噴く。砲はアーク要塞の、上階部分を破壊し、地鳴りの様な音を上げてビルを揺らす。
 「オイ、人数を5人ばかり貸してくれ、迫撃砲陣地を潰してくる」
 その時、一斉にマッドポリスの兵隊達が歩兵になって突撃してくる。
 装甲車は、火炎放射器を、2階へ向け放射してくる。
 米田は、即座に5人のコマンドを連れて、1階の出入り口と、駐車場入り口に、人数を配置して、突入してきたマッドポリスを、迎え撃つ。米田は、M16A1カービンを腰溜めにして、突入してくる兵士達を次々倒していく。
 地階でも宮根と言う、三尉が良く死守して、敵を防ぐ。
 その間1分間に2発程、迫撃砲が、上階へ命中して、民間人が悲鳴を上げて、机や椅子の下へ隠れる。
 米田は、宮根に田村と言う隊員を連れて、迫撃砲陣地の有る、ホテルオークラの、残骸が残る丘の上へ、密かに潜行する。ゆっくり敵が居ないか確認しながら、ホテルオークラの跡地が見える地点に来る。オークラの台地にに、迫撃砲が二門設置され、米田、宮根、田村の3人は、陣地にM16を構えてフルオートで、突撃する。米田は、一旦立ち止まり、手榴弾んを陣地に投げ付ける。
 陣地には、6人の兵が居、3人が手榴弾で吹き飛ばされた。肉がビシャッと飛び散り、3人の手足が宙に飛び、残った3人は呆然となり、只、米田達の射撃の的になるだけであった。
 迫撃砲の爆撃が止むと、一気にアーク要塞の方が有利になり、装甲車2台がバズーガにより大破させられ、この時点で、マッドポリス側は退却していった。
 翌日、米田は、桜田門の前から、急発進してきた、ハイラックスサーフの、パトロールカーに追われた。国道20号線を、フルスロットルで、レガシーツーリングワゴンは走り、約80㎞で、悪路をジャンプしながら走る。
 隼町、平河町と過ぎ、青山通りに入る。
 「チッ、マッドポリスのパトロールに見つかったぜ、膜しかねーな」
 赤坂警察署前で、予め張っていたで有ろう、ハイラックスのパトロールカーが前を塞ぐ。米田は、脇道に入り、追ってくるパトロールカーを、振り切ろうとする。彼我の距離は、500メートルに離した。急ブレーキングを掛けて、スピンターンをする。パトロールカーは行き過ぎ、Uターンに手間取っている。米田は素早く、車から降り、後部の荷台から、対人地雷3つを出して、レガシーの後輪の後ろへ置く。前から来た、パトロールカーに、44オートマグショートバレルカスタムを、3発連射する。フロントガラスを、カチ割り、横にあった電柱の残骸に激突した。
 ようやく、ハイラックスのパトロールカーがUターンをしてやってくる。米田はコクピットに乗り込み、青山通りに戻る。
 ドガーンバーングシャ。と、の凄い轟音を発して、ハイラックスサーフのパトロールカーは、大破し炎上した。
 米田は、青山通りの、赤坂警察署前に止まり、車両から降り、無煙手榴弾を、3つ、ピンを外して投げ入れる。
 ようやく、バラックから鉄筋への建て直しが終わった赤坂警察署は黒煙を上げて半壊した。
 レガシーツーリングワゴンは、フル加速して逃げて行く。
 30分後、米田は、レガシーを四谷駅前の空地の駐車スペースに停めて、崩れ掛けた駅舎へ入っていく。一番ホームの特等席に陣取る、JCのバラック小屋の中へノックを3回してはいる。
 中には、右頬に深い傷がある、中年の男が、M16アサルトライフルを構え、米田を睨み据える。
「お、お前さんは、中西の兄弟分の、米田じゃねーか、今日は何しに?」
 男の名は、火流会の進藤と言う、米田も何度か顔を合わせて名前くらい知っていた。
 「JCに用が有るのだが、アンタ何故ここに?」
 米田は嫌な予感がして、JCの安否を気遣う。
 「JCなら今頃、本国のスコットランドに、帰ってんじゃねぇーか。俺は、JCからここの商売の権利を買い付け、ここに居る訳だが・・・・・・」
 「ふ~む、JCは国外に逃げたか」
 2人は1分ほど無言で互いを見やり煙草を吹かす。
 進藤は、何かを思い付いたかの様に頭を掻き、米田に語り掛ける。
 「米田さん、ジュクの、宮原さんの所に、このブツを届けてほしいんですが、報酬はこのダイヤモンド1個で頼まれてくれ」
 進藤は、アタッシュケースに入った、コルトの自動式拳銃・通称コンバットコマンダーを、10丁程見せて、1丁油紙から取り出し、米田に手渡す。
 「宮原さんは、こんな古い物で戦争でもやらかす積りか?」
 「良くは知らんが、米軍からの流れ品だ、古くても殺傷能力はピカ一だぜ」
 「宮原さんと言えば、また焼肉の・ポン・での取引か?」
 米田は、グリーンのシューティンググラスを、懐から出して掛ける。こうした方が、米田の鋭い目を他人に見られなくても済む。
 「良く御存知で、このコルトを、現ナマに代えてくれるだけでOKだ、何せアソコは、倅の宗男が最近取り仕切ってるいるからな」
 米田は、アタッシュケースを受け取り、弾薬の束を貰う。計一万発は有ろうか。
 ダイヤモンドを、受取、2往復し、レガシーツーリングワゴンに、取引用の武器弾薬を、バックヤードに積む。
 米田は、マシンを発進させ、新宿へ向ける。又もや黒いジムニーが着いてくる。米田は、フルスロットルで新宿の大ガード下を避けて、靖国通りのゴールデン街の在った跡地の前へ着ける。
 ゴールデン街の、ブラックマーケットは、人で賑わい、すれ違う人並と肩をぶつけながら歩く。隻腕の政一が米田を認めて、近付いてくる。
 「ダンナ、久し振りですね、今日は何の御用で?」
 政一は、鋭い目付きだけを残して、顔を綻ばせる。
 「ウム、また宮原さんに用でな、取引しに来た」
 政一は、無言で頷くと、先に立って、焼肉・ポン・の前まで歩く。中へ入ると、息子の宗男が、日本刀を持ち、白粉で手入れをしていた。客は他に居なく、昼時は、地階には人も寄り付かないと、政一に先程聞いた。
 宗男は、米田を認めると、破顔して、日本刀を鞘へ仕舞う。
 「このダンビラ、ちょっと良いだろう、あー米田?」
 「銘は何て言うのですか?」
 「和泉守兼定って言うんだ、これは板橋に古くから住んでる地主に、借金の抵当で取り上げたのさ」
 米田は、関心し、宗男は何の用で来たのか尋ねる。
 「火流会の進藤ら頼まれて、チャカを持って来た」
 宮原宗男は、フフンと、鼻を鳴らして、
 「それは俺が頼んだブツだ、今若い者を使わす荷を下ろしてくれ」
 隻腕の政一は、宗男から、目顔で合図して貰い外に出る。米田も後ろへ着いて行く。
 10分後、荷は下ろされ、奥のテーブルで二人は商談に入った。宗男は、現ナマ一千万円だして、
 「ちょっと、多過ぎるが、謝礼も兼ねて、の料金だ、進藤に宜しく言ってくれ」
 「OKだ、で、つかぬ事を尋ねるが、近い内戦争でもやらかすのか?」
 米田は、炭焼きのステーキを食べながら聞く。
 「マッドポリスと、北海道に居る、正規軍に備えてるるんだ。オヤジは進駐して来ても逆らうなと言うが、俺等のジュクを守る為、誰かが立ち上がらねぇと、極道のシメシ付かねぇ~からなハハハハ」
 米田は、「そうだな」と、一言いい終えて、ステーキを貪り食う。
 それから1週間ほど経つ。その日は、渋谷のバイパーの小屋で、最近復興してきた街で買った、吉野家の牛丼を、食べていた。バイパーは、ボソリと一言言った。
 「米田、いよいよ厚木のスザータ大佐が、今日の夕方ヘリで桜田門に入るぞ、イエローヘル何十人か連れて・・・・・・」
 「フム、ではアーク要塞の守りは厳重にしておかないとな」
 「いや、まず、新宿周辺を、掃討するとの情報だ。スティーブン少将の麾下は動かないから、陸戦兵は少ない、が、イエローヘルを侮るなよ」
 特殊任務部隊イエローヘルは、JA治安部隊の中でも、選りすぐりの、殺し屋揃いで有った。黄色い装甲車で乗り付け、顔を黄色いペインティングで施し、カーキ色の、戦闘服を着用していると言う。
 その日の夕刻、スザータ大佐と、イエローヘル部隊35名が、桜田門・JA治安部隊東京市庁・に降り立った。
 スザータは、治安部隊員全員を集め言った。
 「私が来たからには、この無法地帯を、そして犯罪者、テロリスト共を鎮圧する、ワルを見つけ次第射殺しろ。
そして、正規軍、ジャパンディフェンスフォースが来る前に東京を制圧して、速やかに正規軍に平和のバトンタッチをするのだ」
 午前中は晴れた。午後2時、俄かに雨が降ってきて、新宿のブラックマーケットの、客足は、落ちてきた。靖国通りに、兵員運搬用バス1台、黄色い装甲車3台が止まる。中から兵士30名程バスから降り立つ。
 装甲車は、ブラックマーケットの立ち並ぶバラックの屋台を、次々に薙ぎ倒して、装甲車は、火炎放射器で、バラックを燃やす。ゴールデン街付近も、同様に焼き払われて行く。
 宮原のグループは、50名程で、必死に抵抗した。しかし、仲間が一人倒れ又一人倒れして行く内に、50名ほどいた人員も、10名程に減っていた。宮原宗男と残党9人は、散開して、この場を逃げて行く。
 米田は、バイパーの下を訪ねていた。バイパーは数日前、北海道に渡り、政府の動向を見に行っていた。バイパーは言った。
 「来年の正月辺りに、北海道の二個師団が、東京を急襲して、首都奪還することには間違いない。その際マッドポリスも、昨日の様に正規軍と共に、アウトロウ狩りをするらしい」
 米田は、少し考える風な、顔をして、バイパーに、米国行きの話はどうなったかを尋ねる。
 「今年いっぱい、堪えてくれ、君と妹のヤヨイ、そう君の奥方だな、来年の初めに、米空母が横須賀に寄港するから、取り計らってあげよう、君は、優秀なアサシーンだ、向こうでも、暗殺の仕事は多々有る」
 米田は、嫌な顔をして抗弁する。
 「俺はもう、暗殺など、やりたくない、ヤヨイと二人でひっそりと暮らしたい」
 「新宿は、次は西口も潰されるだろう、アーク要塞の守りは、固くしてな」
 翌日、新宿西口は、マッドポリスの、手によって、制圧された、12月も中半になり、米田は、出国の為の荷物整理をしていた。ヤヨイは元気な女の子の赤ちゃんを産み、まだ入院していた。
 そんな或る日。
 夜半から、シトシトと、雨が降り注ぎ、雪に変わって行った。米田は、アーク要塞の警備についていた。午前2時、少しうたた寝をしていると、窓の外で、赤ランプが、光るのを見た。立哨に立っていた、小出と言う兵士が、叫び声をあげた。外から狙撃用ライフルで、頭を一発やられて、血を噴き倒れる。
 その声を聞いて、2階に陣取る警備兵達が、皆起き上がる。目映いばかりのサーチライトが、アーク要塞の窓辺を照らし出す。
 一発、発光弾が上がり、アサルトライフルと、サブマシンガンで、一斉射撃を加えられる。米田は、窓辺の陰から、外を見ると、指揮官らしい軍装の男が立っていた。
 忘れもしない、スザータ大佐の副官、一関次男大尉だ。
米田は、次の瞬間銃弾が至近距離に着弾して身を伏せる。
 兵員達が、各々配置に着き、名矢三佐の指揮の下、突撃隊30名を選抜し、その隊長に、米田一佐が選ばれた。
 銃撃戦が窓辺越しに続き、時折、マッドポリスと、アーク要塞側で、バズーガ砲の火が吹く。その都度、建物は、揺らぎ、コンクリートの塊が降ってくる。
 「選抜白兵隊、マッドポリスには、今夜は特殊部隊が居る、今こそアーク要塞の兵士の底力を見せてくれ、米田一佐どの頼みました」
 名矢三佐は、米田より年上だが、自衛隊の階級は米田の方が上である。名矢三佐は、目を潤ませて、軍刀で有るサーベルを抜いて、地階駐車場の出口の方を指し示す。
 「では、名矢三佐、行ってきます・・・・・・」
 米田は敬礼をし、M16A1アサルトライフルに、着剣し、白兵部隊30名も同じく着剣し、白襷を肩に結び、米田は叫ぶ。
 「準備出来たか?」
 兵士たちは、
「お~う」
 と、大音声で答えて、米田を先頭に、アーク要塞前の、六本木通りに展開している、マッドポリス事、正式名称、JA治安部隊約200名の中へ入っていく。
 30名の抜刀部隊は、正門前に陣取る装甲車に、無反動バズーガ砲を浴びせて、一両破壊して、突撃する。米田は銃剣で、一人刺し、M16の、トリガーを引き、絶命させる。銃剣を引き抜くと、口から血を噴き、内容物を吐き散らかす。米田の周りには、5名の護衛が居る。竹下、山中、元田、佐藤、日山と言った、柔剣道に優れた男達である。他の小隊も同様に白兵に強かった。
 米田は、指揮所を目指して走った。狭い路上に、展開しているマッドポリスは、焦って逃げまとう。一分程すると、体勢を立て直して、白兵を挑んでくる。米田は、銃剣で5人ほど刺す。米田のM16の先に着いている銃剣は、ステイが折れて物の役に立たなくなった。
 指揮所、15メートル程まで接近した。サーベルを抜いた白人兵と米田の部下は、剣撃をし始める。米田はM16を投げ捨てて、関ノ孫六二尺六寸の太刀を抜く。大男の白人の右手をスパッと斬り、前へ進む。次々に襲い来る、マッドポリスの白兵兵を米田は、なるべく太刀を使わずに、蹴りと突きを交えながら突進する。
 指揮所である、マイクロバスの中で、一関大尉が、サブマシーンガンを持ち、味方もろとも白兵部隊を薙ぎ払っていく。米田の右足と、脇腹にも、浅く弾丸がめり込み、血を噴く。白兵部隊の一小隊、宮本二尉の6名が、マイクロバスに、取り付く。味方は半数に減り、15名程生き残っているが、息が上がり、休憩が必要なほどだ。
 白兵部隊の、宮本小隊は、バスの陰に隠れて、一関大尉とハンドガンで撃ち合う。米田は本陣に殺到してくる、増援と闘いながらバスの脇に、やっとのことで取り付く。
 部下の、元田と佐藤は、先程死亡していた。残った4人は、サーベルを引き抜き、まず山中が、サーベルの拵えた日本刀を抜きバスの中の一関へ斬り込む。一関は、サーベルを腰から抜き、山中の一撃を外す。山中の一刀は、バスの機材を破壊して、無線機を使い物にならなくする。一関は、気合声と共に、山中の首を斬る。眼にも止まらぬほどの手練の技だ。山中は首が胴から落ちて、クタリとバスの中で倒れる。一関は、気合声を掛けて、次に控えていた、日山に斬り付ける。日山は、上段で受け損ない、袈裟懸けに、斬り伏せられて、床でのた打ち回る。それを見つめていた、白兵部隊の生き残りは、怯え、バスの中から後退してくる。米田は、関ノ孫六で、8人目を突く。突いた後、右手に持っている、ベレッタ・クーガーで、接近してくる相手を打ち倒す。
 一関大尉がバスから降りてきて、米田を名指しで呼ぶ。
 「オイ、米田一佐、サシで勝負したい、剣でだ」
 米田は、後ろを振り向き答える。
 「オウ、一関大尉、今日こそは命貰ったぜ」
 関ノ孫六を、懐から出した、懐紙で拭い、パッと上段に構える。一関は、サーベルを下段に持っていき、スススと間合いに入ってくる。米田は、ニヤリと笑い、太刀を振り下ろす。
 「たぁーやぁー」
 一関は、懐に入り、浅く米田の脇腹を割く。米田の着ていた、MA1ジャケットが、左脇が裂け、44オートマグの入ったホルスターが、丸見えになる。後ろ向きになった、一関に、その時、米田の振り向きざまの一刀が、首筋を斬る。
 シュッと音がして、一関の首から血が噴出する。米田は、快心の笑みを浮かべて、右側からサーベルを持って、涙を流しながら突っ込んで来る、女兵士を斬る。
 その時、アーク要塞の4階の窓辺から銃弾が閃いた。トン、トントン、狙撃銃の音だ。米田の体に一発食い込み、1メートル程飛んで転がる。白兵部隊の生き残りの兵士達と、マッドポリスの兵達が、4階の窓辺を見る。サーチライトに、ボヤ~と浮かんだ名矢三佐の顔が見えた。
 「くそぅ、指令が・・・・・・」
 生き残った兵達は、米田を囲むようにして太刀を捨てた。
 それから、30分後、アーク要塞は降伏し、民間人全員は助けられた。
 米田の、死体はどこに行ったか?運ばれたか分からないままこの戦いは終わった。
 雪がみぞれに変わって行き、黄色と黒のみぞれが降っていた。 終

                              殺人狂時代終
 

 

 
 
 
 
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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