(二)
文字数 1,489文字
「店長。ちょっといいですかい」
「何だい? 足りないかい?」
「数は問題無いですよ。ただ依頼者から追加で妙なメールが届きまして」
「何だとう!? 営業妨害か!」
「いえ。店長がよく言ってたやつですよ。空飛ぶ金魚を引き取って欲しいと」
「……なんだって?」
ぴくりと叶冬の眉が揺れた。
空飛ぶ金魚なんて偶然一致するものではない。秋葉は叶冬と目を見合わせメールがプリントアウトされた紙を覗き込んだ。
そこには『金魚のご相談』という件名と、送信元であるフリーメールのアドレスが印刷されている。
『金魚が溢れて困っています。宙を泳いでる金魚を引き取っていただけないでしょうか。
引き取って頂ければ運賃はこちらで負担します。』
「店長。これって……」
「うん。妙だね」
「でしょう? 溢れてるなら借りる必要ないでしょうに」
「届け先を見せてくれるかい?」
「へえ。こちらですよ」
業者の男性はもう一枚書類を取り出した。
そこには『貸出契約書』と書かれていて、配送先や宛先が書いてある。受取人は佐伯修平。宛先の住所には富が沼町と書かれていた。
叶冬は特に何も感じないようだったが、秋葉には覚えのある場所だった。
「ここは……」
「知ってるのかい?」
「……俺の実家があった街です」
「ええぃ?」
「色々あって引っ越したんですけど、なんで……」
秋葉は大学に入ると同時に引越して一人暮らしを始めた。
これは偶然だろうか。
「じゃあこれはもしやきっとアキちゃんのことかなあ」
プリントアウトされたものは二枚あったようで、もう一枚に目をやると秋葉はぎくりと胸が跳ねた。
『街から去った子に戻って来てもらいたく、興味を引ける大きな催し物を考えています。
これに際して、彼が興味を持っていた金魚でイベントができればと思っております。』
「町おこしにしては『彼』ってピンポイントだね」
「……俺のことだと?」
「だって子供が集団で金魚に興味持つかね。金魚教なのかい、この町」
「いえ……」
「差出人に覚えは?」
「……ないです」
同級生にいた苗字であればまだ分かるが、全く覚えがない。
それに秋葉は金魚を好いているような振る舞いをしたことは無い。むしろ避けて通り、口にも出さなくなっていた。
――それなのに何故今。
妙な一致に気持ち悪さを覚え、ふるっと手が震えた。しかし叶冬は秋葉の手を両手で握り、ずずいっと顔を近づけてくる。
「ようし! 意味不明な愚か者の顔を見に行くとしよう!」
「はい? 店長が直々にいらっしゃるので?」
「面白いじゃあないか。空飛ぶ金魚なんて見たくて見たくてたまらないよ」
はあ、と業者の男性は意外そうな顔をしてぽかんと口を開けた。
出会ったばかりの秋葉でさえ叶冬が地味な作業に東奔西走するタイプだとは思えない。
けれどきっと、金魚のことならどんなことも厭わないだろうとも思った。
「アキちゃん、一緒に来てくれるかい」
「はい。もちろん」
「うむうむ。さすが金魚の少年だ。では金魚の一挙手一投足を説明をしておくれよ。何をしてるか動いてるか動いてるならどこへ向かっているか」
「でもあいつら変わった行動しないですよ。ただ泳いでるだけで」
「変わった行動をする金魚がいるかもしれないだろう?」
「そうですね。はい、分かりました」
叶冬はよし! と叫んでひょいと秋葉を抱き上げた。
「頼んだよ、ナビくん」
「……その前に降ろして下さい」
そんなに細い身体でよくも成人男性を持ち上げられたものだ。
頑張ろうねえ、と叶冬は嬉しそうにしていた。まるでお姫様のように抱きかかえられるのはとても恥ずかしかったが、放してなるものかと強く抱きしめられるのは嬉しかった。
「何だい? 足りないかい?」
「数は問題無いですよ。ただ依頼者から追加で妙なメールが届きまして」
「何だとう!? 営業妨害か!」
「いえ。店長がよく言ってたやつですよ。空飛ぶ金魚を引き取って欲しいと」
「……なんだって?」
ぴくりと叶冬の眉が揺れた。
空飛ぶ金魚なんて偶然一致するものではない。秋葉は叶冬と目を見合わせメールがプリントアウトされた紙を覗き込んだ。
そこには『金魚のご相談』という件名と、送信元であるフリーメールのアドレスが印刷されている。
『金魚が溢れて困っています。宙を泳いでる金魚を引き取っていただけないでしょうか。
引き取って頂ければ運賃はこちらで負担します。』
「店長。これって……」
「うん。妙だね」
「でしょう? 溢れてるなら借りる必要ないでしょうに」
「届け先を見せてくれるかい?」
「へえ。こちらですよ」
業者の男性はもう一枚書類を取り出した。
そこには『貸出契約書』と書かれていて、配送先や宛先が書いてある。受取人は佐伯修平。宛先の住所には富が沼町と書かれていた。
叶冬は特に何も感じないようだったが、秋葉には覚えのある場所だった。
「ここは……」
「知ってるのかい?」
「……俺の実家があった街です」
「ええぃ?」
「色々あって引っ越したんですけど、なんで……」
秋葉は大学に入ると同時に引越して一人暮らしを始めた。
これは偶然だろうか。
「じゃあこれはもしやきっとアキちゃんのことかなあ」
プリントアウトされたものは二枚あったようで、もう一枚に目をやると秋葉はぎくりと胸が跳ねた。
『街から去った子に戻って来てもらいたく、興味を引ける大きな催し物を考えています。
これに際して、彼が興味を持っていた金魚でイベントができればと思っております。』
「町おこしにしては『彼』ってピンポイントだね」
「……俺のことだと?」
「だって子供が集団で金魚に興味持つかね。金魚教なのかい、この町」
「いえ……」
「差出人に覚えは?」
「……ないです」
同級生にいた苗字であればまだ分かるが、全く覚えがない。
それに秋葉は金魚を好いているような振る舞いをしたことは無い。むしろ避けて通り、口にも出さなくなっていた。
――それなのに何故今。
妙な一致に気持ち悪さを覚え、ふるっと手が震えた。しかし叶冬は秋葉の手を両手で握り、ずずいっと顔を近づけてくる。
「ようし! 意味不明な愚か者の顔を見に行くとしよう!」
「はい? 店長が直々にいらっしゃるので?」
「面白いじゃあないか。空飛ぶ金魚なんて見たくて見たくてたまらないよ」
はあ、と業者の男性は意外そうな顔をしてぽかんと口を開けた。
出会ったばかりの秋葉でさえ叶冬が地味な作業に東奔西走するタイプだとは思えない。
けれどきっと、金魚のことならどんなことも厭わないだろうとも思った。
「アキちゃん、一緒に来てくれるかい」
「はい。もちろん」
「うむうむ。さすが金魚の少年だ。では金魚の一挙手一投足を説明をしておくれよ。何をしてるか動いてるか動いてるならどこへ向かっているか」
「でもあいつら変わった行動しないですよ。ただ泳いでるだけで」
「変わった行動をする金魚がいるかもしれないだろう?」
「そうですね。はい、分かりました」
叶冬はよし! と叫んでひょいと秋葉を抱き上げた。
「頼んだよ、ナビくん」
「……その前に降ろして下さい」
そんなに細い身体でよくも成人男性を持ち上げられたものだ。
頑張ろうねえ、と叶冬は嬉しそうにしていた。まるでお姫様のように抱きかかえられるのはとても恥ずかしかったが、放してなるものかと強く抱きしめられるのは嬉しかった。