第12話 母親からの相談―時間がないからすぐに結婚してほしい!

文字数 1,635文字

紗耶香ちゃんは1週間ほど遅れて東京へ戻ってきた。大学を続けることにしているので前期の試験を受けるためだ。7月末の試験が終わるとすぐに帰省した。

紗耶香ちゃんは試験の準備などが忙しくて、僕は仕事が立て込んでいて、二人が会う機会を作れなかった。8月から9月末までは夏休みとなる。

8月15日に納骨をすることに決まっていたので、僕は帰省した。母親から紗耶香には内緒ということで話があった。

自宅と二子玉川のマンションを処分することで、結婚式の費用や当面の母娘二人の生活には困らないから安心してほしい、ただ、紗耶香と僕をすぐに結婚させたいからこのことは紗耶香には言わないでほしいと言われた。

また、山本家の本家へ行って分かったことを話してくれた。信じがたいことだったが、これも紗耶香には内緒にしておいてほしいと言われた。僕が見たあの恐ろしい夢は本当にあったことなのかもしれないと思った。

「すぐに二人は結婚してほしい」という紗耶香の父親の遺言があったので、結婚式の日取りを決めた。大学の後期日程が10月からなので、式の日取りは9月13日になった。23日で紗耶香ちゃんは21歳になるが、その直前だ。9月の初めに紗耶香ちゃんの引越しをすることになった。

母親は僕の実家の近くに小さな中古住宅を購入して移り住むという。紗耶香ちゃんと僕をその家に案内してくれた。1階に台所、お風呂、トイレ、ダイニングと6畳間、2階に6畳の和室が2部屋ある。

これなら紗耶香ちゃんが帰省しても困らない十分なスペースがある。納骨が終わったら引っ越すと言っていた。それから、母親は看護師の資格を持っているので働き始めるとも言っていた。紗耶香ちゃんはそのまま残って、母親の引越しの手伝いをすると言う。

9月6日に紗耶香ちゃんが僕のマンションへ引越しすることになった。数日前から母親と二子玉川のマンションに来ていて引越しの準備をしていた。電話して引越しの前日に挨拶に行っても良いかと聞くと夕食を用意するのでぜひ来てほしいとのことだった。

夕刻に部屋を訪ねると、すでにダンボールが積まれており、ほぼ荷造りができたとのことだった。もともと通学のための下宿と同じで荷物は多くなかった。僕の部屋は狭いので必要最小限のものにしたと言っていた。

母親の手作りの鶏むね肉の南蛮焼きをいただいた。紗耶香ちゃんは今、母親に料理を習っているところだと言っていた。母親の引越しが終わってからもずっと料理を習っていたと言っていた。一緒に生活を始めたら食事を作ってくれると言う。学校もあるので、無理しないでくれればよいと思っている。

食事の後片付けが済むと、母親が買い物を忘れたからコンビニへ買い物に出かけると言う。僕たちを二人にしてくれるためだと思った。

母親が出ていくとすぐに紗耶香ちゃんが抱きついて来る。華奢な身体をしっかり抱きしめる。

「ずっと会えなくて寂しかった」

「僕もだ」

キスをする。それからただ抱き合っているだけだった。それでも紗耶香ちゃんは気が済んだみたいだ。身体を離すと穏やかな顔をしている。

「明日は引越しだけど大丈夫?」

「準備はできています。でも引越しをしたらすぐに帰ります。金沢で結婚式の準備がありますので」

「お母さんとゆっくり過ごして準備するといい」

「式を挙げたらずっと二人でいられるから」

「はい」

また、抱き合う。玄関の鍵音で二人は離れた。母親が僕の顔を見るので、軽く頷いて合図した。

次の日の午前中に紗耶香ちゃんの荷物を搬出して、午後一番で僕のマンションへ荷物を入れた。量がそれほど多くないので、すぐに片付いた。元々僕の荷物自体が多くないので、片付ける場所も狭いながらも十分にあった。これで結婚式を挙げて、新婚旅行から帰ったら、すぐに二人で生活できるようになった。

午後3時までに後片付けを終えて、母娘は金沢へ帰って行った。8時前には母親の新居に到着すると言う。丁度8時に無事着いたとの連絡が入った。二人とも疲れたのですぐに休むと言っていた。
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