第58話 巣立ち

文字数 863文字

 今朝も早起きして、ウォーキングしてきました。早起きは三文の徳。お金に換え難い光景を見ました。

 55話に出てきた、シャッターの中にあるかもしれない(つばめ)の巣。やはりあったようだ。先日と同じルートでウォーキング。気にするほどではなかったが、燕の方から気付かせてくれた。例のシャッターまで5メートル手前、左側から勢いよく燕が横切り近くの電線に止まった。今朝はシャッター全開。「あ、ここは……」 と思った瞬間の足先に燕発見。うまい具合にアスファルトの色に同化。カラスには狙われないかもしれないが、危うく私に蹴り飛ばされるところだった。

 どうやら巣立ちの日だったみたい。アスファルトにいた燕は、完全な姿。「今、巣から降りてきたんだ」 と言わんばかりの感じ。こんな光景滅多に見られない。私はもちろん立ち止まり、見守った。私を天敵ではないと知ってか知らずか、数秒後にその子は上手に飛び去った。本物の巣立ち。どうか来年は親になって帰ってきますように……

 わが子の巣立ちは去年終了した。下の子が就職先の関係で四年前、上の子は去年の秋。コロナ禍で外出もままならない昨年のある夏の夜。「ひとり暮らし、したい」 と食後に上の子が言った。私は以前、それとなく気持ちを聞いていた。いつの事やらと(たか)を括っていたが、意外と早く宣言された。上の子の職場は転勤があるものの、今のところ自宅から通えている。「もったいない」 何より先にこう思った。

 食事を終えた夫は、初めて聞く。さて、どう返したか。「いいよ」と、あっさり。子どもが生まれてから、私のことなど眼中にない子煩悩な夫。鮮やかな手放しに舌を巻いた。上の子も「じゃあ、準備始めるから……」と淡々と。なんだこの親子は。別に仲が悪いわけではない。

 上の子がひとり暮らしを始めてから半年あまり経ちました。自宅から電車で三十分ほどの距離ですが、滅多に帰ってきません。たまに帰ってきても、滞在時間は短いです。先日帰ったときの話題は「ゴミ箱の下にGの死骸を発見した」ことでした。綺麗な部屋で暮らしていることを願っています。


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