おかっぱ頭の少年

文字数 762文字

 学校の終業チャイムが鳴った。
 そして、担任のくだらないホームルームが終わった。
 今日も絶好の晴天日和だ。
 ぼくは勉強以外なんでも一番じゃないと気が済まないタチだった。
 校内で誰よりも一番先に家に帰り、玄関をあけてランドセルを放り投げ、野球のグローブとバットを持って、自転車にまたがっていつもの空き地に行き、みんなで草野球をするのが楽しくてしかたなかった。
 
 ぼくは帰り道の達人だ。
 自宅へ帰る秘密の近道はもちろんのこと最短ルートはちゃんと熟知していた。
 かけっこは誰にも負けない自信があった。
 高学年になったら陸上部に入部して百メートルランナーになる夢を持っていた。
 とつぜん信号機が赤になった。

「ちくしょう」

 ぼくは足踏みをしながら信号が青になるのを待っていると、見知らぬひとりの少年に背後からぽんぽんと肩を叩かれた。
 ぼくは反射的に訊いた。「きみは誰?」
 少年は黙りこくったまま、
 カセットウォークマンのヘッドホーンを耳にかけていた。
 薄気味悪いおかっぱ頭の少年だった。
「悪いけど、ぼく急いでいるんだ」ぼくは眉間にしわをよせた。「いったい、なんの用だい?」
「きみに、きみの未来の音を聴かせてあげよう」
「はあ?」

 いつの間にか、ぼくはその少年のヘッドホーンを耳にかけていた。
 少年はかちゃんと再生ボタンを押した。

 キイィィィィィィッ!
 ドッカン!
 きゃああああああああっ!

 車が急ブレーキーをかけた音、人が()かれた音、女性が悲鳴をあげた声がはっきりと聞こえた。
 ぼくは総毛立った。
 
「そんな急いで帰るとろくなことがないよ」

 おかっぱ頭の少年は無表情のまま直立不動ですーっと天高く宙を舞い――雲のなかに姿を消した。
 
 
 信号機が青になった。
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