あれがゲーマーの指だ!(7)

文字数 589文字

 ミスターQは意外と安く買い叩けた、古めかしくも重々しい洋風屋敷の一室で、ひとり物思いに耽っていた。
 荒巻別斗。さきほどのゲーム対決にて、辛酸を舐めさせられた少年。
 ミスターQは越智トオルの顔写真が印刷された紙を破り捨てると、風呂あがりの一杯としてお気に入りのシーバスリーガルに口をつけた。

「荒巻別斗、か」

 ソファに深々と身を沈め、デスクにある呼び出しボタンを押す。ほどなくして、仕事用の堅苦しいスーツでもグラマラスなシルエットを隠しきれない、有能そうな女性がやってきた。

「お呼びでしょうか、ミスターQ」
桜花(おうか)。例の人選、済んでいるだろうな」

 桜花と呼ばれた女性は義務的な笑顔を見せると、

「もちろん、すでに手配済みです」
「して、次のプロゲーマーは?」
「はい、〈アイスマン〉はいかがでしょう」
「ほう、あの男か。よろしい、我々の恐ろしさ、あの少年の脳みそに刻み込んでやれ」
「はっ」

 桜花が去ってしまうと、ミスターQは残ったグラスを飲み干した。
 ソファから身を起こし、窓辺に立つ。閉じていたカーテンの隙間から外を眺めると、黒雲に遮られそうな月が、朧気な明かりを湖面に注いでいる景色がうかがえた。

「荒巻別斗。あの荒巻月斗のひとり息子。ふふふ、これはおもしろくなってきたぞ」

 しばらく見つめていると、やがて月は完全に闇に覆われ、その輝きを潜めてしまった。



第1話『あれがゲーマーの指だ!』終
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