第3話
文字数 1,335文字
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「これからどうする?」
ハルの足元を歩くマシロが聞いてくる。
「聞き込みだろうな」
街での調査と言えば聞き込みになる。
「でも、そう言ってぐるぐる回っているだけだよ?」
マシロの意見にハルはため息をつく。
「聞きこむ当てがないからな」
言い訳である。
ハルは人付き合いの良いほうではないから、情報収集がはかどらないだけである。
そうして、いつのまにか、街をうろついているだけになっていた。
「朝みたいな騒ぎもないし、消防車のサイレンも聞こえないし」
「そうだな、あの炎人間はあちこちに放火して回っているわけではなさそうだ」
エージェントの本部から炎人間の事件を解決しろ、と指示が出ていた。
緊急を要するので近くにいたエージェントの雷桐とハルがことに当たることになった。
「パワーをオフにして隠れているのかな?」
「そうだろうな、それで今のところ逃走中というわけだ」
超能力のオンとオフを切り替えれば、普通の人間に紛れることもできる。
それが解決を難しくさせているのだろう、と事件のあった周辺部の人混みを見回しながら考える。
「屋上で眺めたほうが良くない?」
「おい、待て」
マシロがハルの肩に飛び乗り、その瞬間に体が浮くような感覚になった。
一瞬後に、ハルはどこかの建物の屋上に立っていた。
風に吹かれてハルは気持ちを切り替えて、自分に起きた事を意識する。
「誰かに見られたらどうする?」
「平気平気、誰もいなかったら」
マシロの瞬間移動のパワーでビルの屋上に来たのだ。
その行動力に呆れながらもハルはシドを優先する。
ビルの端まで行って下を眺める。
ビルの上から見ると人間の姿など砂粒のようにしか見えない。
下を見るのをあきらめて、遠くを眺める。
火事が起きていないか煙を探してみるがどこにも見えない。
高いところなら良いというわけではないな。
ハルは調査のために自分のパワーを選び始める。
ビーイングとしてのパワーは一つではない。
他のビーイングは一つしかなくて、二つ以上持っている者は稀であるらしい。
一方でハルのパワーは複数あってその限界数がどれだけかは数えたことが無い。
その場その場で、無数のパワーのうちから一つを選べばいいのだ。
雷桐もマシロも珍しいパワーを持っているぐらいにしか思っていない。
ハルのほうが考えすぎで過剰評価をしているだけなのかもしれない。
考えたすえに熱感知のパワーを選んで調査を始める。
範囲を拡大すれば何かわかるかもしれない。
街中の熱源とその位置が感覚としてハルの中に認識される。
「熱感知で調べてみたけれど熱源が多いな」
「どれだけ?」
「いっぱいだな」
「普通の熱を感知しているんじゃあないの?」
「言う通りだな、小さいのを除外してみよう」
さっきよりも熱源の数が減ったのをハルは認識する。
「だいぶ減ったがまだ多いな。まだ30ぐらいありそうだ」
「多いねえ、探してらんないねえ」
「今度は動いているのを外していくか」
「今度はどう?」
「4つまでしぼれたな」
「まだ多いような。キャンプファイアーでもやってんのかね?」
「雷桐と手分けして探せばいい」