2.ヤミとおばあちゃん前篇

文字数 1,602文字

それにしても、広い家じゃのう。 他に人の気配がせんな。一人暮らしか
お父さんとお母さんが、家とお金だけは残してくれていたの。 色々あって死んじゃったけど
そうか……
私の家は町はずれの岬にある。 一人で住むには大きすぎる洋館だ。

おじ神様を呼びだしたのは、地下にある部屋である。 魔力を帯びた地脈のすぐ傍である地下ではそういう儀式が行いやすいのだという。


書庫で見つけた本で読んだ。


飯は、……ああ、町に買いにいっとるのか
もう、心を読むの禁止!
お前が隠すのが下手なだけじゃ

感情を魔力に乗せて周囲に発散しすぎじゃからな。

漏れ出る魔力だけでもある程度はわかる。

私、魔法とか儀式は本で読んだだけで、全くの素人なんだもん


そんな器用なことはできないわよ

(巫女でもない素人が、ワシを呼べた時点でそこら辺の有象無象よりは見どころはあるがな)
おじ神様、今なんて? 声が小さくてよく聞こえなかったわ
おじ神様って呼ぶでない……
ふふふ、いいじゃない。小さくなってるのも相まって可愛いと思うけど、ねえそれより今なんて――
可愛いとか不敬じゃと言っとるじゃろ! 教える気が失せた…… もう教えてやらん!
可愛いという言葉に私の手のひらに収まるぐらいの小さな体を震わせていたから、嬉しがっているようにしか思えなかったのだが、どうやら違ったらしい。


ごめんなさい!もう可愛いって言わないから、教えて……!
む、それはそれでなんというか……寂しいというか……
前言撤回、やっぱりこのおじ様可愛い おお、神よ 意志の弱い私をお許しください……
聞こえとるわ!
えへへ、だから謝ったでしょ お許しくださいって 心の中を勝手に読むおじ神様もおじ神様よ

乙女は繊細なんだから

もう好きにしろ

ワシは寝る!

えー、さっきなんて言ったか教えてよー
ガタガタガタッ!
何、この音?!

不意の大きな揺れによろめいて倒れそうになる。


尋常ではない揺れと音。振動がここまで伝わってくる。

玄関のほうからだ。

これは、恐らく——

邪気、魔物じゃな
この館には両親が作った結界が張られている。

私の魔物を引き寄せる力のせいで、できる限り、眠れない夜を過ごさなくても良いように。


だが、ときどきこうして、嫌がらせのように館の外から怪奇現象を起こす魔物もいるのだ。


こういう日は館で大人しくしておくのが、一番よね。

ふむふむ、なるほどな。

——アリス、ちょっと玄関を開けてみてくるのじゃ

?! もしもしーおじ神様、心の中の声聞こえてますよね。

いやよ! 襲われちゃうじゃない

あの魔物はお前に用があるみたいじゃ 何もしなければ、ずっとこのままじゃぞ

神からの命令じゃ、行かなければ願いは叶えてやらん!

鬼ー!アナタは、おじ神様じゃなくて鬼神様よー!
悪態を散々ついた後、おじ神様を肩に乗せて玄関へ向かう。 

神様、どうか私をお護り下さい。





―――その神様が私を危険にさらしているわけだけど……。

ねぇ、本当に開けなきゃダメ?
この魔物との出会いはお前にとて意味のあるもの。

業に溢れたこの世だからこそ我々神は、万物をときに滅ぼし、ときに救うのだ。


――願いを叶えたいならアリス、お前の心を示せ。

願いを叶えるに足る者であることを、私に証明してみせよ。


おじ神様……。



――目を閉じると、声が聞こえる。


「気味が悪い」

蔑む人の声。

脳裏に焼きついた記憶に胸を締め付けられる。

そうだこんな思いをしないため、させないために、私は害しかないこの力を手放そうと決めたのだ。


扉の取っ手に手を掛ける。

ええい、魔物でもなんでもきなさーーーい!
 
アア……ア……
――扉を開け放った瞬間。

私はに飲み込まれた。

苦しい。息が――

身体から力が抜けていく。

お前の覚悟みせてもらった。

魔力を少々食ったぞ。 しばし耐えるのじゃ、アリス!


――ぬんっ!

うぅ……
眩い閃光。闇が晴れていく。

温かい光。

身体から完全に力が抜ける。

意識が薄れていく中、最後に私の瞳に映ったのはおじ神様の大きな背中だった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アリス・グレイウェーブ

15歳


魔物を引き寄せる力と性質を持つ。

この力のせいで、周囲の人間からは忌み子と嫌われている。

力を手放すため、願いを叶えてくれる神様を呼び出そうとする。


おじ神様



願いを叶えてくれる神様。

アリスによって呼び出されたが、力を失っているようだ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色