2.ヤミとおばあちゃん前篇
文字数 1,602文字
私の家は町はずれの岬にある。 一人で住むには大きすぎる洋館だ。
おじ神様を呼びだしたのは、地下にある部屋である。 魔力を帯びた地脈のすぐ傍である地下ではそういう儀式が行いやすいのだという。
書庫で見つけた本で読んだ。
可愛いという言葉に私の手のひらに収まるぐらいの小さな体を震わせていたから、嬉しがっているようにしか思えなかったのだが、どうやら違ったらしい。
前言撤回、やっぱりこのおじ様可愛い おお、神よ 意志の弱い私をお許しください……
ガタガタガタッ!
不意の大きな揺れによろめいて倒れそうになる。
尋常ではない揺れと音。振動がここまで伝わってくる。
玄関のほうからだ。これは、恐らく——
この館には両親が作った結界が張られている。
私の魔物を引き寄せる力のせいで、できる限り、眠れない夜を過ごさなくても良いように。
だが、ときどきこうして、嫌がらせのように館の外から怪奇現象を起こす魔物もいるのだ。
こういう日は館で大人しくしておくのが、一番よね。
?! もしもしーおじ神様、心の中の声聞こえてますよね。
悪態を散々ついた後、おじ神様を肩に乗せて玄関へ向かう。
神様、どうか私をお護り下さい。
―――その神様が私を危険にさらしているわけだけど……。
この魔物との出会いはお前にとて意味のあるもの。
業に溢れたこの世だからこそ我々神は、万物をときに滅ぼし、ときに救うのだ。
――願いを叶えたいならアリス、お前の心を示せ。
願いを叶えるに足る者であることを、私に証明してみせよ。
おじ神様……。
「気味が悪い」
蔑む人の声。
脳裏に焼きついた記憶に胸を締め付けられる。
そうだこんな思いをしないため、させないために、私は害しかないこの力を手放そうと決めたのだ。
扉の取っ手に手を掛ける。
――扉を開け放った瞬間。
私は闇に飲み込まれた。
苦しい。息が――
身体から力が抜けていく。
眩い閃光。闇が晴れていく。
温かい光。
身体から完全に力が抜ける。
意識が薄れていく中、最後に私の瞳に映ったのはおじ神様の大きな背中だった。