ニアミス

文字数 687文字

 一瞬、目の前が暗くなった。目が慣れてくると眼下に白い布がいくつか見える。霊安室の天井から遺体の列を見ているのだ。とりあえず、浮遊霊になったってことだ。全員、顔には白い布がかかっていて、どれが自分のかはわからない。マーカーも消えている。ふわふわと漂っていると、一体の遺体に引き寄せられ始めた。
「遺体は死んでるから、憑依できないはずだよな。なら、あれが自分の肉体ってことか。」
 顔の白い布めがけて、どんどん吸い寄せられている。
 布の中央に黒いしみがある。あれ、何だ。光沢があり、動いているようにも見える。
「ゴキブリ!」
 気が付いたときには、遅かった。僕は、ゴキブリの体に憑依していた。

「無事、入れ替えできました。オスですよ。オス。」
 ゴキブリのオスでそこまで喜ばなくても。
「キャー!」
 女性の叫び声だ。死体でも動いたか?女性は自分のスリッパを脱ぐと、僕のほうに近づいてくる。見覚えのある顔。お袋だ。
「バシーン!」
 何かを叩く音がする。あれは絶対、僕を叩き潰す気だ。ゴキブリは羽を広げて、開いているドアから逃げ出した。黒い弾丸のようにまっすぐ飛んでいく。いままでの動物たちが着陸時に勢いを殺して止まる飛行船なら、こいつらはそのまま突っ込んでいくジェット機だ。エレベータのドアにそって胴体着陸すると、そのまま隅へと素早く移動した。次の瞬間、エレベータが開く。ゴキブリは壁の隙間へと吸い込まれていった。
「オウメ、とにかくギョクジ君じゃないことを祈ろう。」
 エレベータの中から、声が聞こえる。その声を聞きながら、僕はエレベータの機械室の底へと落ちていった。
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登場人物紹介

とりの ぎょくじ(玉子)

中学三年

王女の幼馴染で隣に住む

鉄道オタク

生物の雑学がある

いづみ おうめ(王女)

中学三年

玉子の幼馴染で隣に住む

ヘルパー死神

玉子の担当死神

おっちょこちょい

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