追憶の汗(3)

文字数 626文字

「では、いきますよ」

アレスは、そう言う。

ノキルの真剣な眼差しが、兜をすり抜けて、アレスの目を捉える。

アレスは木刀の刃先をノキルに向けた。

アレスは、木刀を一振りして、攻撃をした。

ノキルは、間一髪で、その木刀を受け止める。

アレスとノキルの木刀の刃が交わる。

木刀を持つ、ノキルの両手に、アレスの攻撃の重さが、じーんと伝わる。

アレスは、ノキルが受け止めきれるより早くに、次の攻撃を繰り出す。

その攻撃も、ノキルは全力で受け止めた。

ノキルは、受け止めた勢いを逃すように、一歩、後ずさりする。

アレスは、一歩前進し、その離れた一歩の距離を縮めた。

また一つ、アレスはノキルに攻撃を繰り出す。

ノキルに呼吸を整える間を与えない。

そのアレスの攻撃も、ノキルは歯を食いしばり受け止める。

刃を交える度に、ノキルは後ずさりする。

アレスの猛攻は速度を変えずに繰り返される。

気が付けば、練習場の端まで、ノキルは追い込まれていた。

ノキルの背後には、練習場の敷地内に在る小さな林が在った。

ノキルは、太い幹の木に背を預けた。

次のアレスの攻撃がくる。

ノキルは、アレスの攻撃から逃れるように太い幹を盾にして、木の裏側に身を潜めた。

高鳴る鼓動が、荒い吐息と共鳴して、ノキルの耳の奥で脈打つ。

口呼吸の吐息が兜の内側に充満する。

口の中が乾燥して、喉が貼り付く。

心臓が口から出てしまいそうで、ごくりと唾液を飲み込む。

飲み込んだ唾液で、貼り付いた喉が潤いを取り戻す。

再び、口呼吸で循環して、息を整えていく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み