第3話

文字数 1,957文字

メアリーに電話でアポを取ってもらい、ステラさんが運転、クリスティーンの母が同行の元、彼女の姉の旦那さんに会いに向かっている。
「お母さん、どうして今日は運転しないの?」
とクリスティーンが尋ねると、
「それがこの地域の礼儀なの!」
とサングラスを外して笑顔を見せた。
すると、すぐさま、非常に大きなお屋敷が見えてきた。
「え、まさか・・・」
クリスティーンは両手で口を覆った。
「メアリーさん、もしかして、ここがあなたのお姉さんの・・・」
「そうよ、お姉ちゃんの旦那さんはここに領主なの」
「な、なるほど・・・」
クリスティーンは妙な緊張を覚えた。
その娘の様子をみてクリスティーンの母は笑い出した。

一行がお屋敷に到着すると、向こうもいかにもという高齢の男性執事が出迎えにきた。
「ようこそ、いらっしゃいました!」
そして、白い手袋がふわっと屋敷の玄関の方へ向けられた。
「どうぞ、こちらへ」
『こういう紳士の文化も美しく、悪くないな・・・』とクリスティーンは感動した。

お屋敷の中に入ると、メイドさんが出迎えていた。
メイドと言っても日本でイメージするようなオタク文化の格好はしていない。
もっと質素で、どちらかというと看護婦に近い服装である。
「ようこそ、いらっしゃいました」
メイドさんがそのように発した直後に、
二人の小さな子が走ってメアリーの元に走ってきた。
「おばさん、またきたんだね!」
メアリーは見た目的にも年齢的にも「おばさん」と言われるような存在ではないので、
少しムッとした苛立った表情を見せた。
しかし、相手が子供とみるや怒るのをあきらめて、ため息をついた。
「こらこら、二人とも『おばさん』じゃなくて、『メアリーさん』と言いなさいとお母様に言われませんでしたか?」
執事がそのように二人の子供に話しかけると、この年齢の子供にしては珍しく
「はい・・・メアリーさん、ごめんなさい」
と答えた。
クリスティーンは二人の子供も何らかの心理的なダメージを受けていることを察した。

すると階段から主人が降りてきた。
「やあ、メアリー、ようこそ。それからお友達のご家族もようこそ」
メアリーの姉の旦那さんはあまり元気なく、歩み寄ってきた。
「多分、メアリー、君のお姉さんの件だよね?」
「はい」
「私も先週から随分探しているんだが、全然見つからなくて・・・」
クリスティーンの母はその様子を察することなく、率直に尋ねた。
「メアリーさんからご事情を聞いてやってきたこのクリスティーンという子の母です。初めまして。離婚されたのではないのですね?」
メアリーの姉の旦那さんは勢いよく首を横に振った。
「まさか、そんなことはありません!むしろ、私も急に消えてしまって、どうしたら良いかと困り果てて、1週間半が経ちました」
「あれ、1ヶ月ではなくて・・・ですか?」
「はい!まさか、まだ1週間ちょっとですよ」
クリスティーンは首を傾げた。
「メアリーさんからは先月と聞いておりましたが、まだ日は浅いのですね?」
メアリーの姉の旦那さんは力強くうなづいた。
「はい、まだそんなには経っていないですよ・・・」
メアリーの姉の旦那さんはそこでふと上を見た。
「ああ、確かに一週間半前の失踪した時はまだ月は前の月でしたからね」
その場にいた誰もがうなづいた。

メアリーはそこで口を開いた。
「じゃあ、お姉ちゃんは急にいなくなったんですか?」
メアリーの姉の旦那さんはゆっくり何回か首を縦に揺らした。
「うん・・・最後に会話をしたのは確か私がスペインの出張から帰ってきた時だった。確か午前中で、私が車から荷物をおろしている時だった。彼女は大きなトランクケースを持って家から出てきて、うちの玄関の前に止まった車に走って行った。『どこに行くの?』と私が声をかけたら、『今は時間がないから後で』と答えて行ってしまった」
クリスティーンの母が尋ねた。
「タクシーは本人がお呼びになったんですか?」
メイドは口を開いた。
「はい。ご自分でお呼びになったようで、その日の朝、出かける直前に私には『ちょっと出かけてくるから子供の面倒をお願い』とお伝えになりました」
「ちなみにお呼びになったのは本当にタクシーだったのでしょうか?」
「私もタクシーの方を出迎えましたが、だいぶ高齢の運転手でしたし、『よろしくお願いします』って奥様もおっしゃられてましたし、そこは間違いないかと・・・」
「なるほどね・・・」
クリスティーンの母もそれ以上質問が浮かばず、黙り込んだ。
一方、クリスティーンは大人たちがこう話している間に、立ち止まって屋敷のいろんなところを見渡していた。

執事さんが両手を合わせて、
「立ち話では失礼になるので、旦那様、ここはティータイムにしませんか?」
「ああ、時間もちょうど良いし、まずはティータイムとしましょうか?」
一行は、ダイニングへと導かれた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み