18.エメトリアへ

文字数 1,102文字

「幸せ~を訪ねてぇ~、わたしわ~行きたい~♪」
 フィアットの屋根の上に寝転んで、沖田が空を見上げてのんきに歌っている。
「いばらぁ~の道も凍てつく夜も~♫」
 見渡す限りの緑の平原と、先に見える森林地帯、その奥の方にはまだ雪の残る山脈が白い峰を連ねていた。
 天気は快晴。ピヨピヨと小鳥のさえずりが聞こえ、気持ちの良い風があたりを吹き抜けていく。
 道の脇で地図とコンパスとにらめっこをしている小坂が沖田を睨みつけた。もちろん、この当時はgoogleマップは存在しないし、車にナビがついていることも希だ。
「おめーもちょっとは手伝えよ」
「だって俺、方向音痴だし」
 沖田がタバコを吹かしながら頬杖付いて応える。
「なんだと、このやろう」
 小坂が沖田を引きずり下ろそうとしたところに、
「ほら、やめやめ、メシできたぜ」
 携帯用の白ガスコンロとフライパンで器用に卵焼きとソーセージを炒め、サニーレタス、トマトと一緒にドイツパンで挟んだ朝食をプラ製の皿に取り分けた吉川が二人の間に割って入る。
 食材は途中の農家で手に入れた物だ。
 後部座席から緑の缶のハイネケンを三本取り出し二人にも配る。
「いいねー昼からビールなんて」
「素敵!」
「けど、飲酒運転にならんかね」
「こんな水みたいな酒で飲酒になるかよ」
「その前に、どこにケーサツがいんだよ」
「いいよ。夕方まで寝てから行こう。なるべく目立ちたくないし、それに、このオンボロ車を探して疲れた」
 AC130ハーキュリーズから落とされ、うろ覚えの知識でパラシュートを開いたまでは良かったが、高度を保ってコントロールすることに失敗し、フィアットから大分離れた場所に各々で着地してしまう。
 無事に平原に着地していたフィアットを見つけ出し、三人が合流するまでかなりの時間がかかってしまった。
 その後、エメトリア方面への田舎道を見つけ出すと、ここまで不眠不休で走ってきたのである。
 途中の農家でまったく英語の通じない老夫婦から採れ立ての野菜と卵をポンドで支払って購入。じいさんから持って行けとわたされたハイネケン一ケースも積み込んである。
 三人はハイネケンをプシリッと開けて一斉にグビリとやった。
「うめぇー!」
 未舗装の道の横に広がる草の上に社座になって座り、三人で吉川特製のサンドイッチをぱくつく。付け合わせの農家のおばあちゃんお手製のピクルスの酸味と塩見が程よくビールがすすむ。
 ひとしきり飲んだり食べたりした後に、草原に大の字になって空を見渡した。
 雲が緩やかに流れていく。
 しばらくすると、吉川、小坂の寝息が聞こえ、沖田も吸い込まれるように眠り込んでしまった。

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