第88話  お互いのはじめて 2

エピソード文字数 2,686文字


 ※


 美優ちゃんと屋上のプレハブ小屋での密会。

 依然として外では雨が振っていた。


 俺はふと窓の外へと身体を向ける。

 何か話さねば、そう思っていると向こうから話題を振ってくれる。

あ、そうだ。蓮くんの小説でね、あのお話めっちゃ好きなのですです《恋人ごっこ》のお話

あっうっ……

あ、あれですね……確かそんな話もありましたね

 その題名を聞いてから、俺は改めて痛感した。

 あのクソ恥ずかしいお話も美優ちゃんが読んでいることに。

ふに? あんまり蓮くん的には印象に残らない話なのですか?
そういう訳じゃなくって、あれを美優ちゃんが読んだという事実に、穴があったら入りたい衝動に駆られまして

 恋人ごっこというのは……


 実はこの話の元ネタは聖奈との遊びのアレンジだったりする。


 題名どおり、恋人のように振舞って……ああもう説明するのも赤面必死であり、平常心がガリガリ削られていく。

ああいった感じのシチュエーションに興味はおありですか?
興味があるというか、読者もこういったシチュエーションとか好きだと、そう思って書いたんですけどね
私は、もし好きな人が出来たら……ああいう《恋人ごっこ》やってみたいです
それは……俺だって。好きな人とやったらきっと……心臓が張り裂けますよ

 ちなみに。この恋人ごっこなのだが、簡潔に説明するとこんな感じだ。


 主人公とヒーローがまだ恋愛に発展する前の話で、二人で恋愛マンガを読みながら、そのシチュエーションを実際にやってみるというものだ。


 この頃の主人公もヒーローも初めての恋だっただけに、二人ともぎごちない動きで、お互い笑いあいながら、恋愛漫画の恋人のように振舞う、といった感じだ。


 まだこの頃の主人公はヒーローに対し恋愛感情は持っておらず……


 おっと、小説の話は程ほどにしないと、延々と語っちまうので注意せねば。

私もきっと、主人公さんのようになっちゃいます

 え? 美優ちゃんがめちゃ顔を赤くしてらっしゃる。


 しかも下から覗き込むように見られてしまっては、こっちまで伝染するじゃないですか!



 あのシーンを美優ちゃんに当てはめると、一瞬で俺の顔が崩壊したのが分かった。


 そんなとき、二人の視線が重なると、すぐさま背中を見せるのであった。

あ、あははっ。やばいです
あひ。わ、私も……あ、あのお話。めちゃ恥ずかしいです

 再び言葉が途切れる。


 そうなると、俺は無性に焦りだす。



 なんとなくこの間が耐えられない俺は、向き直るものの、同じタイミングで振り向いた美優ちゃんと視線が重なった。ジャストタイミングすぎる

あ、あははっ……
ん、ふふっ

 少し眉尻を下げながらの笑顔。多分俺も同じような顔になってるのだろう。


 向こうも俺に気を使ってくれているのが分かる。



 そんで……何か話さないと、って思ってしまうんだ。


 つまらない人間だと思われたくないというか、必死にそういう感情を隠しているというか……

あの、私達。なんとなく似てる気がします
あっ! はい! 俺も今、そう思いました

 本当にそう思った。


 前々から内面的な部分というか、メンタル面ではそっくりな気がする。


 目の前に見える美優ちゃんが、まるで自分を写す鏡のように見える。仕草や、目線とか、今何を考えているのかも……一緒のように感じるんだ。





 ここまで俺の気持ちとシンクロするのであれば……


 もし。もし彼女なら……美優ちゃんになら……


 俺の本当の姿を見せても……受け入れてくれるだろうか。




 いや。ダメだ。無理だって! 


 何を考えてるんだ俺は。



 今こうやって笑顔を見せてくれる美優ちゃんの顔が、正体を知ったときに見せるであろう驚きの顔を想像するだけで、俺の顔はいとも簡単に歪み出した。



 出来るはずない! そんなこと。

どうしました?
あ。いえ。なんでも……ないです
 たまらず顔を手で隠すと、それでも視線を感じたので、再び背中を向けると、完全に頭が真っ白になってしまった。



 俺はあなたと仲良くなりたい。なりたいのに……

 

 この身体が、肉体的にも精神的にも、足枷になってくる。

蓮くん……
 返事すら出来ないでいると「ちょっと変なこと聞いていい?」と聞こえてきた。


 俺は恐る恐る前を向いたが、顔は膝に沈んだままだった。



 そして美優ちゃんはこういった。

あの……蓮くん。私……女の子に。見えますか?

 最初、俺は彼女に何を言われたのか、理解出来なかった。



 ※




 そんな質問に顔を上げると、美優ちゃんまで顔を下にやって、僅かながら震えているようにも見えた。


 女の子に見える? 

あ、いや。美優ちゃんが女の子に見えなければ……お、おかしいでしょ?

 思ったまま口に出すと、更にちぢこまった彼女の姿に、俺は全く意味が分からなかった。



 あなたが女の子じゃなかったら、一体なんなのだ?

 男だって言いたいのか? そう捉えられてもおかしくない言い方だ。


 それなのに。何でそんな思いつめた顔をするのだろうか。

あ、ありがとう……

 そう言って美優ちゃんは立ち上がると「そろそろいこっか」と笑顔を見せてくれるが……


 何となく分かる。その笑顔は必死に今の感情を隠そうとしている。


 あの質問の答えが悪かったのか?


 じゃあ一体どう言えばよかったんだ……

待ってください

 静止するものの、美優ちゃんは振り向かなかった。

俺も聞きたいです。美優ちゃん……俺は……俺は男に見えますか?

 俺は何故こんな質問をしたのか。分からない。



 すると美優ちゃんはゆっくりと振り向いてくれると、視線が重なる。最初はかなり驚いた様子だったが、俺がこれ以上何も言わないでいると、

うん。蓮くんは男の子ですよ
 今度の笑顔はいつもの彼女だった。この笑顔を浴びるとこちらまで笑顔になるのも、いつものことだった。
あの。私。蓮くんともっと……仲良くしたいです
俺も……美優ちゃんとはずっと仲良くありたいです

正直な気持ちを伝えると、思わず美優ちゃんに吸い込まれそうになるが……

男と女に入れ替わるこの身体が、俺の感情にストップをかけるのだった。

 もうこれ以上は……進めない。そんな気がする 

 更に進むのであれば、彼女に全てを話さないと……



 分かってほしい。俺のことを……




 その時だった。外からドアの開く音が聞こえてきた。


 

 俺は咄嗟に美優ちゃんの手を引っ張り、すぐに窓の横に張り付くと、彼女に「しーっ」と言って人差し指を口にあてる。



 誰かが屋上まで来たのだろう。誰が来たのか確認したい所だが

屋上のドアからこの部屋の窓は近すぎる。


 とりあえず、隠れてやり過ごそうと思っていると……

誰だよ。ぶっ壊しやがったのは……
 ん? その声は……竜王さんか?
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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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