第壱夜

文字数 486文字

……かぁごめ、かぁごめぇ……

 微かに聞える楽しそうな子供たちの声に、少女はそっと目を開けた。

――ここはどこだろう?

 板張りの床の上に起き上がると、不安げな視線を辺りへとさまよわせる。 …ふと、薄暗い室内にどんと座っている黄色い服を着た大男に視線が止まった。恐る恐る近寄ってみると、それはお寺ならどこにでもあるだろう木で作られた三メートルはある大きな仏像だった。
「…なんだ、お仏像様か……」
 心底ホッとしたのか、少女は胸に手を置いて深く息をはいた。
「でも、お仏像様があるってことは、ここはどこかのお堂の中?」
 腐りかけた柱と所々崩れ落ちた土壁が、何十年という歳月の中でこの場所が一度も人の手入れを受けていないことを物語っていた。
「今にも倒れそう。きっと土台が腐ってるんだ……」
 少し前かがみになった仏像を見上げて、少女は無意識のうちに手を合わせていた。
「でも、ここがお堂の中だとして…なんでこんな所に私はいるんだろう?」
 首を傾げて腕を組むと、少女はここに来る以前の記憶を呼び覚まそうと目を閉じた。
――あれは確か…石段の途中だったはず……。

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