exist2

文字数 926文字

小学校の頃の記憶はあまり無い。
記憶にあるのは誕生日会。
母親がケーキを焼いてくれた。
私は母が作ってくれるケーキが大好きだった。
見た目がいいわけでも無い、飛び抜けて美味しいわけでもないけど何度でも食べたくなる。
今でも食べたいと思う。そんな特別なケーキ。
誕生日会をしたのも低学年の時に数回。
その後する事はなくなった。
でも、母は必ずケーキを焼いて私の誕生日を祝ってくれた。
それがとても嬉しかった。

春休みやGW、夏休みなどの長期の休み明けの学校は嫌いだ。
周りのみんなは旅行や遊園地、家族で出掛けた話で盛り上がる。
家族で出掛ける事が出来ない私は話に加わる事も出来ず、ただ羨ましくて仕方がなかった。
それでも、やっぱり両親には言えなかった。
仕事があるから、両親は忙しいんだからしょうがない。わがまま言っちゃいけない。
小学生の私もやっぱり“いい子ちゃん”だった。

その時はどんな景色を見ていたのだろう?
どんな景色が見えていたのだろう?
思い出すのは目の前に広がる海。夕陽が沈んでいく海。
綺麗だけどどこか寂しい景色。
私の心の中にもそんな寂しげな景色が広がり始めていたのかもしれない。
でも、その後には星の瞬く夜空。
一番星を発見したり星座を探したり、ワクワクした気持ちも残されていたのだ。
もちろん心の中も。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

母は私を女子校に行かせたかったみたいだ。
中学から大学まで一貫の学校。
もちろん周りの子はみんな近くの中学校に進む。
この時私は初めて母にわがままを言った。
「みんなと同じ、共学の近くの中学校に行きたい」と。
渋々母は許してくれたが、今でもたまにいう事がある。
「だから中学から私学に行ってれば良かったのに」
何かあった時に母の言う決まり文句みたいなものかな。
母の言う通り私学に行ってれば、違う景色に出会っていたのだろうか?
私の歩いてきた道の最初の分かれ道。
私は普通のみんなと同じ道を選んだ。同じ景色を見る事を選んだ。
人それぞれ見える景色が違う事をその時の私はまだ知らなかった。
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