第9話

文字数 1,493文字

 男を買える店がある。そんな噂は同じ店で働く女から聞いたことがあった。
 化粧台の前で女は笑いながら言った。
「ねえ、麗子ちゃんも行かない? 若い男のあそこって最高よ」
 そういって女は持っている化粧ポーチを立ててみせ、くいっくいっと動かした。
 幸子は苦笑いでその誘いを流したが、まさか一人で利用しようとは。
 薄暗い階段を降りていく。湿った臭いが鼻をついた。
 階段は急で細く、一歩下がるごとにどんどん暗くなる。闇に通じているようだった。
 幸子は自分が際限なく堕ちている最中のような気がして怖くなる。
 何をいまさら。
 幸子は階段の先の古びた店のドアをゆっくりと押した。
 店の様子は、話に聞いていた通りだった。
 細長いカウンターだけの店。カウンターの中に数人の男たちが立っていた。
 幸子はビールを一杯飲んだあと、カウンターの中の男を呼び寄せた。
 一番近くにいる男だった。
 誰でもよかった。
「何か?」
 幸子は男の顔を改めてみる。よくもないけど、悪くもない。
「ねえ、いっしょに外に行かない?」
 男はにやりと笑い、同僚に何かをささやくと、カウンターの中から出てきた。
 幸子は男に手をひかれ、店を出ていく。
 幸子と同じようにカウンターで一人で飲んでいた女が、二人を見送り、鼻で笑った。
 
 確かに男は若かった。
 女なら誰でもいいのだろう。男は硬くなったそこを自在に動かせるのが得意なようで、何度もくいっくいっと動かしては幸子に見せる。
「もう、いいから」
 幸子は苦笑して、それをぐいっと手加減を加えながら抑える。
「あーっ、たまんねー」
 男は幸子に覆いかぶさる。いつもの幸子ならそのままされるがままだった。
 でも、今夜はそうじゃない。
 幸子は男を押し返し、体を反転させ、男の上に位置した。
 男を見下ろす。男はおもしろそうに笑っていた。
 こいつは私を馬鹿にしている。金で男を買う愚かでスケベな女だと思っている。
 若い男の気持ちがわかる。それは幸子が男たちに抱かれながら考えていたことと同じはずだ。
「なに? どうしたの?」
 幸子が動きを止めたことに男が気付く。
「ううん、かわいいなと思って」
 男が顔を持ちあげ、幸子にキスしようとする。
 幸子はその男の動きをゆっくりと制した。
「私がしてあげる。あなたはされるがままになって」
「えー、いやらしいなあ」
 男はそう言いながら脱力する。
 好きなようにしろ。男の体からは諦めがしみだしている。幸子はそれを見ないように目を背ける。
 幸子は男を口と手で弄んだあと、男に両足を抱え上げるように指示した。 
「お客さん、結構変態」
 男は薄っすらと笑っている。しかし、男の中心部は全く萎える様子を見せなかった。
「ほら、早く」
「まんぐり返しなんてしたことないから、恥ずかしいよ」
 男は両足を持ちあげ、秘部を開示した。
 色白できれいな肌をしている男だったが、下半身はなかなかに毛深かった。
 幸子は黒々とした毛に覆われた男のアナルを責めた。
「あああっ」
 男が女のような細い声をあげはじめる。
 男の分身は再びくいくいと息をするように動いた。  
 そこに漲る力は加算されるばかりのようだった。
 男ってなんて馬鹿なの。
 馬鹿で野放図で、愚かだ。それに組みしだかれていた私は、何だったの?
 幸子は男を責めることに夢中になる。
 アナル、ペニス、乳首、耳たぶ(男は耳を舐めるとおかしな声をあげた)、脇の下。
 幸子にいたぶられながら、男は一度も力を失うことなく顔を紅潮させ、何度も噴射した。
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