イントロダクション@魔王軍、募集する

文字数 1,765文字

(ワルキューレの騎行がBGMで流れ出す)
 魔王城ラジオより、魔族、魔物たちに告げる。
 今、我々は君たちの力を求めている。

 ラジオを聞いている諸君ならば知っているだろうが、我々の世界は1000年ぶりに勇者の襲来を受けている。
 地上と裏世界を繋ぐ唯一の交通手段、果ての島にある次元の扉を守護する魔人が倒され、更に扉を開く鍵まで彼らは入手してしまった。
 勇者ハッシーなるパーティの面々は着実に力をつけ、今まさに裏世界の脅威になろうとしている。彼らの成長性を甘く見ていた我が魔王軍にも責任があるだろう。
 故に、我々はここに宣言する。
 魔王軍は勇者たちを撃滅するまで、全力を尽くす事を。
 そして今は非常事態であり、皆様には申し訳ないが様々な制限が掛かる事を今のうちに言っておく。この世界に住む皆さまにはまことにご迷惑をおかけするが、今一度耐えてもらいたい。勇者たちを撃滅して、平和な日々を取り戻そうではないか。

 募集する魔物、魔族の種類は問わない。
 勇者たちを打倒する。その一点の意思が固き者であれば魔王軍は誰でも歓迎する。
 来たれ! 魔王軍へ!
 詳細は魔王軍の志願兵課まで連絡してほしい。
 よろしくお願い申し上げ――プツッ

 ……ここで緊急のダンジョンアップデイト情報です。
 魔王ダンジョン統括センターのジョン・Dさん、よろしくお願いします。

 はい、ジョン・Dです。早速お伝えします。

 勇者ハッシーのパーティがただいま封印の遺跡に侵入したとの情報が入りました。
 彼ら全員は万全の状態であり、襲撃する場合には入念な準備が必要です。決して無理な襲撃はしないように。
 彼らの戦術ですが、まず戦士とモンクが前衛でパーティの盾になり、魔物の攻撃に耐えつつ魔術師が強力な魔術を放つというのが基本戦術となっております。
 僧侶はその間にバフの奇蹟を掛けてパーティメンバーを強化します。なおかつ、蘇生奇蹟の女神の慈悲、全体回復奇蹟の女神の癒しを覚えています。まず僧侶を叩くことがこのパーティを撃滅するには必要かと思います。
 とはいえ、勇者ハッシーの存在を忘れてはなりません。
 彼は戦士や僧侶、魔術師には劣るとはいえどのポジションもそつなくこなす事が出来ます。その上、勇者のみが使える光の魔術があり、それが裏世界の魔物にとって弱点である事が多く、非常に厄介です。
 また盗賊から忍者に転職したものもおり、致命の一撃は喰らってしまうと問答無用で死亡してしまう、恐るべき攻撃です。幸いなことにこのパーティの中では一番HPが低いので、真っ先に狙うのも手でしょう。
 封印の遺跡のトラップは地上のダンジョンとは比べ物にならないほどの苛烈さを誇りますが、忍者の気配探知の前にはあまり役に立ちません。

 勇者と対峙する方々は決して無理はしないでください。もちろん戦いの末に死んだとて、魔王軍の医療部隊が貴方達の魂を深淵より呼び戻して復活させる事をお約束しますが、何度も死ぬと生命力が失われ、やがて魂自体が霧散し深淵の一部となってしまいます。そうなると現世への復活は不可能です。
 大事な事ですので重ねて申し上げます。
 決して無理はなさいませんように。ダメだと思ったらまずは退却することも戦術の一つです。勇者パーティはただ一つだけですが、我ら魔王軍の戦力は豊富です。仲間は貴方の後ろにたくさんおります。それを忘れないでください。
 封印の遺跡に居る方々はみな強いですが、それだけにグループを組まずに単独で挑む事が多く、その為に勇者たちにやられることが多いです。
 今回ばかりはプライドを捨て、勇者を倒すために積極的にグループを組んで戦術的に戦いましょう。特にダークドラゴンさんの闇属性のブレス攻撃と、デッドリーエンジェルさんの呪い付与の歌は強力無比なので、是非とも他の皆さんと組んでください。

 勇者ハッシーのパーティが遺した地図により、今までは次元の扉の場所がわからなかったが故にこちらの世界に来れなかった冒険者たちが続々と侵入しているとの情報もあります。魔族、魔物の方々はくれぐれも油断せず行動し、何かおかしい事があったらすぐに魔王城へご連絡ください。
 以上、ダンジョンアップデイトでした。
 ……ジョン・Dさん、ありがとうございました。
 では引き続きのラジオ放送をお楽しみください。
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登場人物紹介

マオウ


裏世界の魔王。

何を思ったのかラジオDJを始める。

いつも楽しい事や面白い事はないかと探している好奇心旺盛な魔王。

正直魔王という職務にはいささか辟易している今日この頃。

ユミル


魔王の側近、秘書。おとなしそうに見えて辛辣で容赦がない。

ラジオ内では何かと脱線しがちなマオウを補佐して進行を円滑にすることを念頭に置いている。

表向きはマオウの事をそっけなく扱っているが、本当は尊敬している。

勇者ハッシー


異世界に転移させられた可哀想な勇者。年齢は恐らく16歳くらい。

優しく献身的で仲間思い。かつ敵といえどもむやみに殺生するのは好まない博愛的な精神を持つ。

欠点は優柔不断で決断が遅れやすい所。

いきなり中世ヨーロッパ風味の世界に放り出されて勇者として生きる羽目になったうえ、パーティメンバーの言動に振り回されてちょっと疲れ気味。

アゼル


裏世界の前魔王。

プライドが高く、基本的に人間たちを見下している。

かなり好戦的で野心的。表世界への足掛かりを作るべく暗躍し、マオウたちを困らせている。

一方で気に入ったものには甘い。背中に黒い天使の羽根が生えており、かつて天界に居たことを暗示させる。

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