第7話 異世界サバイバル…壊れゆく日常⑤
文字数 4,102文字
しかし、ここは逃げずにホブゴブリンと戦うしかない。春奈にも、それが分かっているので覚悟を決める。
彼女はスキルを使用して、全身にオーラを纏う。次にギュッ、ギュッと、足元の地面を踏み締めながら、四肢に力を入れてゆくと、春奈の身体が次第に熱くなってくる。
スキルの力により、彼女の体内が強化されていく。その効果は、身体中を走る血管にまで及んだ。無限の泉から、際限なく血を汲み上げるような感覚と共に、心臓が唸りを上げて鼓動を刻む。そして、更には血液温度が上昇し、春奈の全身の血が煮え滾った。
オーラのスキルは、主にパワーアップを目的とした肉体強化。その他、身体機能の上昇。さらに、若干の防御力増が付加されるスキルだ。これなら、直撃さえ回避すれば斧相手でもなんとかなる…と思う。
ホブゴブリンが、ズリズリと斧を引摺りながら、ゆっくりと春奈の方にやって来る。その目は、自分より弱い者を見る目付きだ。簡単に狩れる、とでも思っているのだろう。ヤツは春奈を見て、ニヤニヤと嗤っていた。
間近まで迫ったホブゴブリンは、まさに見上げるような巨体だ。発達した筋肉と大きな頭部。がぱっと開いた大口。突き出た牙、太い首、太い手足。
横のサイズは、余裕で春奈の3倍はある。重量にいたっては3倍では済まない、5倍はあるだろう。パッと見に筋肉量が違いすぎる。
こちらを舐めきった相手に、彼女は初撃をお見舞いする事にした。
機敏な動きを見せて、間合いを詰めてくる春奈を見ても、ホブゴブリンはその場に突っ立ったままでいる。そして、その左足に彼女の右足が当たり、ガツンッ! と硬質な音が鳴った。
ホブゴブリンから驚きの声が上がる。春奈の蹴りを、まともに左膝で受けたホブゴブリンは、その威力にガクリとバランスを崩した。
攻撃後、彼女はすぐにホブゴブリンから離れると、そのまま間合いを取りつつ、周囲にいるゴブリン達にも気を配る。
特に後ろ…戦闘中、背後からちょっかいを掛けられたら、堪ったものではない。奴らの様子を見る限りは、今のところそんな気配は無いみたいだが…。
春奈は、ホブゴブリンの持つ右手の斧を警戒しながら、空いている手足にも注意を払う。剣道とかでいう、遠山の目付けというやつだ。あんまり上手くないけど…。
ちなみにウチの実家の流派では、遠山ではなく延山というらしいが…何故そう言うかは、忘れちゃった。昔子供だった私に、お爺ちゃんが分かりやすいように、
と一生懸命に説明をしてくれたのは、覚えているのだけど…。あとウチの父は婿養子だ。などと余計な事を考えながら、タンタンッ! と春奈はステップを刻み、ホブゴブリンに対して有利な位置取りをする。
それと同時に、頭を高速で回転させ攻撃を組み立てていく。そして相手から、正中線をズラすことも忘れない。自分よりデカイ相手に、真正面から打ち掛かるほど、春奈は自信家ではない。
ホブゴブリンが斧を振り上げると、彼女はサッと相手の左側面から、左斜めの背後へと回り込もうとする。
視界から逃げていく春奈。その姿を追いかけて敵は向きを変えると、ぶぉん! と彼女目掛けて斧を振るうが、斧を右手に持った状態では、100年振ってもこちらには届かない。
春奈は思いっきり舌を出す。
挑発されたホブゴブリンが怒りに任せて斧を振り回した。
ぶぉん!ぶぉん!
タンタンッ! とステップを刻み、春奈は斧から一番遠い場所を確保すると、残った敵の左手足に注意しながら、
フェイントを使い、相手の動きを牽制しつつ、春奈はローキックをホブゴブリンの左膝に集中させた。
ドカッ、バシッ!
オーラを纏った彼女のローキックは、ホブゴブリンに対して、それなりに効果があるようだ。
同じ箇所に攻撃を受け続けたことで、ダメージが蓄積していたのだろう。ホブゴブリンは思わず、チラリと意識を下に向けてしまう。
そう叫んだ春奈の右足がグンッ! と跳ね上がる。
苦痛の声を上げ、その場にうずくまるホブゴブリン。
それを目にした春奈は勝利を確信する。だが彼女が喜色を表した瞬間、敵の右手が素早く動き刃が閃いた。ホブゴブリンは春奈の足元を目掛けて、ビュン! と斧を投げ付けてきたのだ。
彼女は、その場でジャンプして斧を避けるが、ズイッ! とそこにホブゴブリンの左腕が伸びてくる。そして、空中で避ける事も出来ない彼女は、そのままガシッ! と左足首を掴まれてしまう。
声を上げて起き上がったホブゴブリン。その動作の結果、春奈は逆さでその場に宙吊りにされる。
あわてて、スカートを押さえる春奈。そして、けたたましい抗議の声が彼女から上がるが、ホブゴブリンはそれを無視して、左腕をぐるぐると振り回し始めた。
ブンブンブンブン!
良いだけ腕を回し勢いを付けたところで、敵はフッと春奈の左足から手を離して彼女を放り投げた。
ドサッ! ズサァー!
春奈の体は地面へと投げ出され、その勢いのまま、
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロー!
と凄い勢いで転がりながら、10メートル程地面を滑っていった。そして、周囲のゴブリン達を掻き分け、ドンッ! という大きな音と共に、グラウンドの土手にぶつかった春奈が止まる。
先程から、戦いの様子をつぶさに見ていた当真。
春奈が投げ飛ばされ、負けそうになるのを見て当真は焦り出す。
その雄姿に、周囲のゴブリン達はどっと沸いていた。当真が見る限り、状況は春奈先生にとって一気に不利となっていく。
ゴブリン達はやんやの喝采を送り、大合唱をし始めた。そんな中、痛みを堪えて春奈先生は起き上がる。そして、キッ! と自分を嘲笑するホブゴブリンを睨み付けた。
ニヤニヤと、小馬鹿にした表情を浮かべながら、ホブゴブリンがゆっくりと春奈先生に近付いていく。
そうすれば、そこで勝負はついていた。なのに、ヤツはわざわざ手首を返した。そして滑らせるように、下手で春奈先生を投げ転がした。
まるで、必要以上に痛め付けない為に、手加減したみたいだ。一体、どうして? 当真がそう考えた瞬間…当真はある事に思い当たった。
1年生女子寮で見た光景が、当真の脳裏をよぎる。ホブゴブリンは、ただいたぶるのを楽しんでいるのではない。
その瞬間、当真の身体が怒りでブルブルと震え出した。握り締めた拳に痛みが走る。噛み締めた顎から、ギリギリと音が漏れた。
私立水上学園中等部専任教諭
生年月日
平成8年8月17日生れ
年齢22才
身長173センチメートル
体重49キログラム
スリーサイズ
バスト
95センチメートル
ウエスト
58センチメートル
ヒップ
88センチメートル
備考
Gカップ
ブラジャー記載数値
(G70)
職業 武術家
肉体系強化スキル オーラ
感覚系強化スキル シックスセンス
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