3.ルワンダへの同行者
文字数 1,583文字
1994年8月1日月曜日、午後6時
ンガラ市場
この日はクリニックでの仕事を早めに切り上げ、アンワルとンガラで買い出しをした。大したものが手に入るわけもなくパン、モンキーバナナにクラッカー、イワシのトマト煮の缶詰などの食料を主に買った。
小さなモンキーバナナはいつでも食べられ重宝した。また、水代わりにビン入りコーラ2ダース、1ダースの空きビンが入った3ケースを積み込んだ。
ミネラルウォーターはサファリ客が泊まる高級ホテルでしか売っていなかった。それに地方で売っているのはビンに入ったコーラ類しかなく、交換用のビンがないとビンを持ち出せなかった。
車中泊となったときのために、マットレスと毛布も積み込んだ。
アンワルと荷物を車両に積んでいるとステイシーとグレイスが声を掛けてきた。
「私たちもキガリに連れて行ってくれるかしら?」 ステイシーが前触れもなく聞いた。
「ベンの許可は取ったの?」
何が起こるかは分からないので誰も連れて行く気はなかった。同行者が増えると、その分リスクも増える。
「ええ、聞いたわ。そうしたらケンに聞けって」 グレイスが横から言った。
『ベンのヤツ、責任を押し付けたな』 思わず舌打ちが出た。
「分かっていると思うけど、ルワンダはまだ内戦状態だ」
言いたいことを理解してくれると期待した。
「ACESの良い宣伝にもなると思うの。NGOでタンザニアから国境を越えてのクロスボーダー・オペレーションをやっている団体はないから注目されると思うわ」
ステイシーが自信を持って言った。
広報担当者としては正しい意見だが、時期尚早だ。
「理由は分かったけど、危険できつい出張になると思う。それは覚悟してる?」
その言葉で、諦めて欲しかった。自分だって無事に戻れる保証はなかった。
「ケン、私たちを見くびらないで欲しいわ。あなたこそ助けが要るかも知れないのよ。その時は私たちが優しくしてあげるから!」
グレイスはそう言って抱っこをするような仕草をした。
一気に力が抜け、何も言えなかくなった。
「あと、キガリには私の親戚がいるから色々役に立つと思うわ」
グレイスが言う。
キガリにはアンワルの父親の運送会社もあるし、これは心強い。
「それにベンも行きたいって」 ステイシーがニヤニヤして言った。
「なんで、それを最初にいわない!?」 思わずムッとなった。
「出る前に済ませたいことがあるって言っていたから」
笑いながらステイシーが言った。
まるで彼らにペテンにかけられたような気分になった。
「ボスも行くというならどうにもならないな。買い物を追加しよう」
アンワルがボソッと言うと、市場に再び向かった。
「分かった。二人の勝ちだ。でも、忠告したことは忘れないでくれ」
どうにか威厳を保ちたかった。
「ありがとう、ケン!」 二人からのキスを両頬に感じた。
「じゃあ、明日は7時出発だ。みんな遅れるなよ」
端から珍道中になる予感がこれからの懸念をかき消してくれた。
事務所に戻り、ベンに確認すると結局チャールズも参加し、モーゼスの運転で2台の車両で行くことになった。
大勢で行って良いものかと心配になるが、単独で行動するより複数の車両の方が万が一の時には安心と、納得するようにした。
BBCの国際放送によると、ルワンダの西隣のザイールへと大量に流出したルワンダ難民への支援が遅れ、コレラなどの感染症が爆発的に流行しているという。死者も数千人と増え続け、悲惨な状態になっていた。
3カ月前のルスモで約25万人もの難民が流入した日を思い返した。準備もなく大混乱の中で対応しただけだが、幸い感染爆発や飢餓の発生もなかった。多くの難民が死亡している今のザイールの状況との違いは一体何なのか。
ザイールで起きていることは、何か得体のしれないことが始まる前触れのような感じがした。
ンガラ市場
この日はクリニックでの仕事を早めに切り上げ、アンワルとンガラで買い出しをした。大したものが手に入るわけもなくパン、モンキーバナナにクラッカー、イワシのトマト煮の缶詰などの食料を主に買った。
小さなモンキーバナナはいつでも食べられ重宝した。また、水代わりにビン入りコーラ2ダース、1ダースの空きビンが入った3ケースを積み込んだ。
ミネラルウォーターはサファリ客が泊まる高級ホテルでしか売っていなかった。それに地方で売っているのはビンに入ったコーラ類しかなく、交換用のビンがないとビンを持ち出せなかった。
車中泊となったときのために、マットレスと毛布も積み込んだ。
アンワルと荷物を車両に積んでいるとステイシーとグレイスが声を掛けてきた。
「私たちもキガリに連れて行ってくれるかしら?」 ステイシーが前触れもなく聞いた。
「ベンの許可は取ったの?」
何が起こるかは分からないので誰も連れて行く気はなかった。同行者が増えると、その分リスクも増える。
「ええ、聞いたわ。そうしたらケンに聞けって」 グレイスが横から言った。
『ベンのヤツ、責任を押し付けたな』 思わず舌打ちが出た。
「分かっていると思うけど、ルワンダはまだ内戦状態だ」
言いたいことを理解してくれると期待した。
「ACESの良い宣伝にもなると思うの。NGOでタンザニアから国境を越えてのクロスボーダー・オペレーションをやっている団体はないから注目されると思うわ」
ステイシーが自信を持って言った。
広報担当者としては正しい意見だが、時期尚早だ。
「理由は分かったけど、危険できつい出張になると思う。それは覚悟してる?」
その言葉で、諦めて欲しかった。自分だって無事に戻れる保証はなかった。
「ケン、私たちを見くびらないで欲しいわ。あなたこそ助けが要るかも知れないのよ。その時は私たちが優しくしてあげるから!」
グレイスはそう言って抱っこをするような仕草をした。
一気に力が抜け、何も言えなかくなった。
「あと、キガリには私の親戚がいるから色々役に立つと思うわ」
グレイスが言う。
キガリにはアンワルの父親の運送会社もあるし、これは心強い。
「それにベンも行きたいって」 ステイシーがニヤニヤして言った。
「なんで、それを最初にいわない!?」 思わずムッとなった。
「出る前に済ませたいことがあるって言っていたから」
笑いながらステイシーが言った。
まるで彼らにペテンにかけられたような気分になった。
「ボスも行くというならどうにもならないな。買い物を追加しよう」
アンワルがボソッと言うと、市場に再び向かった。
「分かった。二人の勝ちだ。でも、忠告したことは忘れないでくれ」
どうにか威厳を保ちたかった。
「ありがとう、ケン!」 二人からのキスを両頬に感じた。
「じゃあ、明日は7時出発だ。みんな遅れるなよ」
端から珍道中になる予感がこれからの懸念をかき消してくれた。
事務所に戻り、ベンに確認すると結局チャールズも参加し、モーゼスの運転で2台の車両で行くことになった。
大勢で行って良いものかと心配になるが、単独で行動するより複数の車両の方が万が一の時には安心と、納得するようにした。
BBCの国際放送によると、ルワンダの西隣のザイールへと大量に流出したルワンダ難民への支援が遅れ、コレラなどの感染症が爆発的に流行しているという。死者も数千人と増え続け、悲惨な状態になっていた。
3カ月前のルスモで約25万人もの難民が流入した日を思い返した。準備もなく大混乱の中で対応しただけだが、幸い感染爆発や飢餓の発生もなかった。多くの難民が死亡している今のザイールの状況との違いは一体何なのか。
ザイールで起きていることは、何か得体のしれないことが始まる前触れのような感じがした。