第二話 memory (6)

文字数 821文字

 拝啓 滝川 一颯様

 道端が少しずつ桃色に染まっています。満開だった桜もそろそろ葉桜にかわりますね。
 颯くん、進級おめでとうございます。
 おめでとう、でいいよね。
 まさか留年なんてないでしょう。(笑)
 嘘です。ちゃんとわかっています。
 先日、母が陸上の雑誌を買ってきてくれました。
 高校1500mの新人特集で、期待の新星として颯くんを見つけた時は、とても嬉しかったです。
 そこにはきちんと二年生と記載されていました。(笑)
 久しぶりに見るあなたは、まだあどけなさが残る私が知る颯くんではなく、とても精悍な印象を受けました。
 とっても、かっこよかったです。
 私はこんなすごい人と恋人だったんだなと思うと、なんだが自分が少し誇らしいです。
 すごいのは、颯くんなのにね。
 一年生なのに、県大会で準優勝、二年生では大会記録更新も狙えると記事に載っていました。
 すごいね。本当にすごい。
 もう、この雑誌は私の宝物です。
 あ、保存用にもう一つ買ってきてもらおうかな。
 なにか、マニアみたいですね。
 ううん、マニアでいいや。
 颯くんマニアですね(笑)
 これからも、颯くんの活躍を陰ながら応援してます。
 話は全然変わりますけど、颯くん、キスのこと覚えていますか。
 私のファーストキスだったんだよ。
 前から、たまにアピールしてたのに、颯くんはちっとも気づいてくれないから、デートの帰りに颯くんと別れたあと、結構ふくれっ面になってたんだよ(笑)
 この鈍感者!(笑)
 だから、どうしても最後はキスして欲しかったの。
 最後に颯くんの温もりをもっと近くで、もっと心でたくさん感じたくて。
 キスをお願いしたんだよ。
 いまでもあの日の温もりは忘れません。
 颯くんの優しさを体中で感じました。
 颯くん。愛してます。
 あなたことを世界の誰よりも。
 やっぱり、もう未来には行ってないのでしょうね。
 残念ですけど、今日はここまでにします。
 またお便りしますね。

 かしこ

 新城 夏帆

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