チャンス♪

文字数 1,051文字

「あふ…」

 いつもの喫茶店の いつもの席。

 今日の葉月ねーちゃんは、何故か眠そうだ。

「デート中に、おネム?」

「はい?!

「─ さっきからしきりに、欠伸を噛み殺しているし」

「あのですねぇ…今ちょっと……大学のレポートで 行き詰まってまして………」

「それで、寝不足なんだ」

 またまた、口に手を運ぶ葉月ねーちゃんの姿を見ながら、僕は思った。

(そう言えば以前 葉月ねーちゃんに、手で隠さず大欠伸したからって 指を口に突っ込まれた記憶が──)

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「ふぁあぁ~」

 手で隠す間もなく、葉月ねーちゃんが漏らす 大きな欠伸。

 何回目かで、ついに噛み殺し損なった様だ。

 目も閉じているし、今がチャンス。

 素早く正面の席から腰を浮かせた僕は、右手の人差し指を突っ込んだ。

 直ぐに閉じる、葉月ねーちゃんの口。

 第一関節あたりに、唇と歯の感覚が伝わる。

 違和感を感じた様子の葉月ねーちゃんは、舌の先で数回 僕の指の先をつついた後に目を開けた。

 驚いて軽く開いた口から、素早く僕は指を引っ込める。

「─ どうかした?」

「な、何で…私の口に指なんか入れるんですか!」

「前のお返し」

 唇を尖らせる葉月ねーちゃんに、僕は顔を寄せた。

「手で隠さないで、人前で大欠伸をする人間は、指を入れられても仕方ないんでしょ?」

「う…」

「ああ。口に指を入れる時は、事前にちゃんと言わないと不味いんだっけ」

 沈黙のにらめっこ。

 葉月ねーちゃんが頬を膨らませた。

「私がシンちゃんの口に指を入れるのは良くても、逆は駄目なんです!」

 いつもの様に、理不尽な物言いだ。

「まさか、他の女の子に こんな事してませんよね?」

「大丈夫。こんな事、葉月ねーちゃんにしかしないし」

「─ どこが、大丈夫なんですかぁ。。。」

 何故か若干、葉月ねーちゃんの機嫌が良くなった。。。

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「ごめん。葉月ねーちゃん!」

 この期を逃さず、僕は謝る。

「もうしないから!!

「許してあげても良いですど…お詫びに 何かしてもらわないとですねぇ」

 葉月ねーちゃんは、立てた右手の人差しで、自分の唇を軽く叩いた。

「今日のデート中は、<葉月ねーちゃん>禁止──」

「え?!

「これにしましょう」

「じゃあ…何て呼べば……」

「<葉月さん>でも<葉月ちゃん>でも<葉月>でも」

「─ じゃあ、葉月」

「なんですか、真一さん♪」

 この呼び方も呼ばれ方も、何か体が こそばゆくなる。

 慌てて僕は、釘を差した。

「これ、今日だけだからね!」

「え~」

「今日だけ!!

「わ・か・り・ま・し・た♡」
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