第11話 歌ってみた<洋楽>アカペラVer.
文字数 2,186文字
記念すべき第1回目の活動。
テーマは、洋楽を<歌ってみた>で配信するというもの。
この段階では、顔出しをしないということらしい。
動画の絵コンテについてはリンちゃんにお願いするというものだった。
ボクはアイドルなら顔出しすると思っていたので、ヒカルと不動先生の提案に驚きを隠せない。
「いきなり顔出しはしない戦略で行く。こういうのはプレミア感が大事だからね。チャンネル登録者数が順調に推移したタイミングで、会場を貸し切り、お披露目ライブをやる予定さ」
ヒカルはこう言うと、動画のアップロードの準備を始めていた。
この歌ってみた動画には、こんなドラマがあった。回想シーンだが順を追って話そうと思う。
不動先生から企画の趣旨が説明された。
「アイドル部、一発目の活動は3人にV Tuberとして<歌ってみた>動画を披露してもらう。著作権問題をカバーするために、歌詞についてはJASRACに利用許諾を取得済み、音源は取得せず、アカペラでセッションをする」
しっかり、藪のような法律をかいくぐって部活動を展開するところに、
ブレインである不動先生とヒカルの明晰な判断力を感ずるところである。
「アカペラということは、誰がボイスパーカッションなどのベースのパートを担当するの?」
ヒイラギさんは、ヒカルに尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「うん、カオルにお願いしようと思ってね」
ボクは思わず、吹き出しそうになった。
何、考えているのヒカル。ボク、ボイスパーカッションなんてやったことないよ。
困ったボクの顔を見て、ヒカルは言う。
「大丈夫だよ、カオル。こんな事のために先生を呼んでいるから。筋のいいカオルならきっとすぐに上手くなるよ」
いや、ならないよ、と否定したかったが、早速講師の先生が登場し、
アイドル3人が企画のことで談笑する中、
ボクは即席の講師のトレーニングを30分間受講したのだった。
普段使わない腹筋をこの短時間で酷使したせいか、練習後の腹筋は乳酸が溜まってとても固い。
ヒイラギさん、レイラさん、リンちゃんが歌う曲は2曲。
カーリー・レイ・ジェプセンのCall Me Maybeとエディット・ピアフのDans ma rueだ。
ボクはCall Me Maybeは分かるとして、Dans ma rueは渋すぎると思っていた。
しかし、ヒカルは自信をもって言う。
「僕たちにとって歌ってみた動画は、この部発足にあたってのデビュー戦だ。目的はただ一つ。情報発信力を高めること。どれだけコンテンツが良かったとしても、メディアで周知されなければ、先細りするんだ。そのためには、僕たちのユニットの個性を前面に押し出す必要がある。出し惜しみする必要はないんだよ。だから、僕は、一山も二山も設けた企画を世に送り出し、彼女たちの存在を周知していくつもりさ。王道のアイドル・デビューパターンでは今やリスナー、ファンはつかない。どういう層に向かって何を届ける、ということを明確にしないと、SNSが隆盛するこのご時世、ファンはつかないんだよ」
なお、動画コメント投稿のところにはこう綴られている。
************************************************
「県下No.1の公立進学校 尾張第一高校でアイドル部が誕生いたしました。
メンバー全員、偏差値70超のハイスペック集団です。
高校の部活から、既成の価値観を批判するエンターテイナー活動を行っています。
私たちもファン層、選んじゃいます。
可愛い、ドジでウブな女性じゃございませんよ。
私たちも意志を持った人間です。
一風変わった、ユニットですがご支援のほど、よろしくお願いいたします。
第一弾は洋楽をアカペラで歌ってみた、動画です。
*******************************
いくらなんでも挑発的に過ぎないか、とボクは思ったが、
アイドルの3人は「いいじゃん」と盛り上がっていた。
アカペラをレコーディングした。
カーリー・レイ・ジェプセンのCall Me Maybeを3人で歌ってみた。
ヒイラギさんは勤め先において、英語で商談をすることもあると言っていたので語学が堪能だ。
“my number”と発音するときのイントネーションが、エキゾチックな感じがあり、
顔出しはしないけど、色っぽい雰囲気が伝わってくる。
レイラさんは、アルジェリア人の血が流れていることも影響しているのであろうか。
英語、フランス語の歌詞にも問題なく発音できていた。
録音中、テンションが上がって、
歌っているときも身振り手振りがオーバーアクションになっていたことが微笑ましい。
ああ、この様子も動画に収めて、アップロードすればいいのにもったいない、と思うボク。
リンちゃんは、フランス語のDans ma rueで頭角を現した。
何て言うか、17歳とは思えず、リンちゃんの歌によって、
この空間がスナックになってしまうようだ。
メランコリックで、でもどこか懐かしい感じがする商店街の裏路地に
まるでさまよったみたいに。
3人はレコーディングの後、「お疲れ様」と言い合い、
今は遠隔でセッションしたけど、機会が合えば、一緒にご飯でも行きたいね、と話していた。
動画のアップロード一週間後、チャンネル登録者数は469人となっていた。
尾張第一高校アイドル部「ボクらのrésistance」滑り出しは上々である。
テーマは、洋楽を<歌ってみた>で配信するというもの。
この段階では、顔出しをしないということらしい。
動画の絵コンテについてはリンちゃんにお願いするというものだった。
ボクはアイドルなら顔出しすると思っていたので、ヒカルと不動先生の提案に驚きを隠せない。
「いきなり顔出しはしない戦略で行く。こういうのはプレミア感が大事だからね。チャンネル登録者数が順調に推移したタイミングで、会場を貸し切り、お披露目ライブをやる予定さ」
ヒカルはこう言うと、動画のアップロードの準備を始めていた。
この歌ってみた動画には、こんなドラマがあった。回想シーンだが順を追って話そうと思う。
不動先生から企画の趣旨が説明された。
「アイドル部、一発目の活動は3人にV Tuberとして<歌ってみた>動画を披露してもらう。著作権問題をカバーするために、歌詞についてはJASRACに利用許諾を取得済み、音源は取得せず、アカペラでセッションをする」
しっかり、藪のような法律をかいくぐって部活動を展開するところに、
ブレインである不動先生とヒカルの明晰な判断力を感ずるところである。
「アカペラということは、誰がボイスパーカッションなどのベースのパートを担当するの?」
ヒイラギさんは、ヒカルに尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「うん、カオルにお願いしようと思ってね」
ボクは思わず、吹き出しそうになった。
何、考えているのヒカル。ボク、ボイスパーカッションなんてやったことないよ。
困ったボクの顔を見て、ヒカルは言う。
「大丈夫だよ、カオル。こんな事のために先生を呼んでいるから。筋のいいカオルならきっとすぐに上手くなるよ」
いや、ならないよ、と否定したかったが、早速講師の先生が登場し、
アイドル3人が企画のことで談笑する中、
ボクは即席の講師のトレーニングを30分間受講したのだった。
普段使わない腹筋をこの短時間で酷使したせいか、練習後の腹筋は乳酸が溜まってとても固い。
ヒイラギさん、レイラさん、リンちゃんが歌う曲は2曲。
カーリー・レイ・ジェプセンのCall Me Maybeとエディット・ピアフのDans ma rueだ。
ボクはCall Me Maybeは分かるとして、Dans ma rueは渋すぎると思っていた。
しかし、ヒカルは自信をもって言う。
「僕たちにとって歌ってみた動画は、この部発足にあたってのデビュー戦だ。目的はただ一つ。情報発信力を高めること。どれだけコンテンツが良かったとしても、メディアで周知されなければ、先細りするんだ。そのためには、僕たちのユニットの個性を前面に押し出す必要がある。出し惜しみする必要はないんだよ。だから、僕は、一山も二山も設けた企画を世に送り出し、彼女たちの存在を周知していくつもりさ。王道のアイドル・デビューパターンでは今やリスナー、ファンはつかない。どういう層に向かって何を届ける、ということを明確にしないと、SNSが隆盛するこのご時世、ファンはつかないんだよ」
なお、動画コメント投稿のところにはこう綴られている。
************************************************
「県下No.1の公立進学校 尾張第一高校でアイドル部が誕生いたしました。
メンバー全員、偏差値70超のハイスペック集団です。
高校の部活から、既成の価値観を批判するエンターテイナー活動を行っています。
私たちもファン層、選んじゃいます。
可愛い、ドジでウブな女性じゃございませんよ。
私たちも意志を持った人間です。
一風変わった、ユニットですがご支援のほど、よろしくお願いいたします。
第一弾は洋楽をアカペラで歌ってみた、動画です。
*******************************
いくらなんでも挑発的に過ぎないか、とボクは思ったが、
アイドルの3人は「いいじゃん」と盛り上がっていた。
アカペラをレコーディングした。
カーリー・レイ・ジェプセンのCall Me Maybeを3人で歌ってみた。
ヒイラギさんは勤め先において、英語で商談をすることもあると言っていたので語学が堪能だ。
“my number”と発音するときのイントネーションが、エキゾチックな感じがあり、
顔出しはしないけど、色っぽい雰囲気が伝わってくる。
レイラさんは、アルジェリア人の血が流れていることも影響しているのであろうか。
英語、フランス語の歌詞にも問題なく発音できていた。
録音中、テンションが上がって、
歌っているときも身振り手振りがオーバーアクションになっていたことが微笑ましい。
ああ、この様子も動画に収めて、アップロードすればいいのにもったいない、と思うボク。
リンちゃんは、フランス語のDans ma rueで頭角を現した。
何て言うか、17歳とは思えず、リンちゃんの歌によって、
この空間がスナックになってしまうようだ。
メランコリックで、でもどこか懐かしい感じがする商店街の裏路地に
まるでさまよったみたいに。
3人はレコーディングの後、「お疲れ様」と言い合い、
今は遠隔でセッションしたけど、機会が合えば、一緒にご飯でも行きたいね、と話していた。
動画のアップロード一週間後、チャンネル登録者数は469人となっていた。
尾張第一高校アイドル部「ボクらのrésistance」滑り出しは上々である。