第1話
文字数 1,527文字
仕事を終え、帰宅した私はカップラーメンのお湯を沸かしながらSNSを開いた。笑顔、笑顔、笑顔……綺麗に加工された世界。たまに表示される黒い画面には、イワシの腐ったような目をした私が映る。画面にあふれている笑顔の裏ではみんな苦労してるんだ……なんて邪推する。業務に追われ、いつも終電ぎりぎりに電車に乗り込む私は、もうどのくらい心の底から笑ってないのだろう。人の幸福を素直に喜べない自分を慰めるのにも疲れた頃、ネガティブな発言ばかり垂れ流してたA子の事を思い出した。世界中の不幸を一身に背負っているのだと言わんばかりに連日、愚痴投稿していたA子。まだまだ笑えてた頃の自分がミュートにしたのはいつだったか覚えてない。
「今も世界中の不幸を背負ってるのかな?」ふと興味が湧いた私は一旦ログアウトしてA子のアカウントを表示した。関わりにはなりたくないが、笑顔の写真よりもA子の言葉の方が今の自分を癒してくれそうだった。数日前に投稿された、誰も足跡を残していない文章を辿る。
読んでほしいんだ私の文章を
めんどうなことを頼んでいるのはわかってます。
ばかばかしい、質の低い文章です。
私にとって読まれることは
がんばりを認められるということです。
呪われた運命を生きる私に
いっときの祝福を与えてはくれませんか?
かんしんを集めるのは難しく
らんざつに並ぶ目が潰されそうな程輝く投稿は
解決しますか?アナタの承認欲求。
放っているのはSOS。私を助けて。
さぁ、アナタがヒーローになるのです。
れきしに名を連ね
るーるに守られない私をアナタが救う。
読み終わった私は、こんなポエムを書くほどになったか……と優越感に浸った。私はA子よりは幸せ者だ。何日も足跡の残らない投稿などしたことがない。イビツに口元を歪めた私がスマホ画面に反射する。次の瞬間、新しい投稿が表示された。
私のヒーロー、ちょっと遅かったです。名前が隣り合うのを一足先に待っています。
読んだ瞬間にぞくりと寒気が背中を這い上がった。クーラーの温度を上げる。まるで私が読み終わったのを分かったかのような更新タイミングだった。
A子の発言の意図が気になって慌てて、スマホ画面をスクロールした時、最初に見た発言の仕掛けに気づいた。
頭文字をつなげると、読めば私が呪いから解放される……。
カタリ、と部屋の隅で音がした。振り向いたが特に変わった様子はない。ふわりと生臭い風が頬をなでた。無意識のうちにクーラーの風向きを調節する。でも、クーラーの掃除は昨日したばっかりなのに生臭い臭いなんてするだろうか?
「待ってるから」
耳元でA子の声がした。まるで耳打ちをされたかのように湿った空気がその言葉に合わせて頬にあたった。
「ないないない」
A子の幽霊が耳打ちした光景が頭に広がり、あえて声に出した自分の言葉でうちけした。空耳だったに違いない。1人でいるのが急に怖くなって、お気に入りの音楽をイヤホンで聞いた。頭の中をポップな恋愛ソングが占めていく。
「不器用な僕はカミに願う言葉をカミ、仕方なくカミに描く君のカミを撫でたいと~♪」
カミをあえてカタカナにしてあるサビが特にお気に入りだった。全く違う意味の事柄をカタカナでまとめる言葉遊びをオシャレだと思う。私はリズムに合わせえて口ずさむ。
歴史と轢死なんてそんな連想ゲームがちらつくのを打ち消すように曲に逃げた。
生暖かい風がまた頬を撫でて、A子の言葉が思い出される。
名前が隣り合うのを一足先に待ってます……A子が書いたポエムの文言が頭から離れない。ーー明日も始発で出勤なのに。
「今も世界中の不幸を背負ってるのかな?」ふと興味が湧いた私は一旦ログアウトしてA子のアカウントを表示した。関わりにはなりたくないが、笑顔の写真よりもA子の言葉の方が今の自分を癒してくれそうだった。数日前に投稿された、誰も足跡を残していない文章を辿る。
読んでほしいんだ私の文章を
めんどうなことを頼んでいるのはわかってます。
ばかばかしい、質の低い文章です。
私にとって読まれることは
がんばりを認められるということです。
呪われた運命を生きる私に
いっときの祝福を与えてはくれませんか?
かんしんを集めるのは難しく
らんざつに並ぶ目が潰されそうな程輝く投稿は
解決しますか?アナタの承認欲求。
放っているのはSOS。私を助けて。
さぁ、アナタがヒーローになるのです。
れきしに名を連ね
るーるに守られない私をアナタが救う。
読み終わった私は、こんなポエムを書くほどになったか……と優越感に浸った。私はA子よりは幸せ者だ。何日も足跡の残らない投稿などしたことがない。イビツに口元を歪めた私がスマホ画面に反射する。次の瞬間、新しい投稿が表示された。
私のヒーロー、ちょっと遅かったです。名前が隣り合うのを一足先に待っています。
読んだ瞬間にぞくりと寒気が背中を這い上がった。クーラーの温度を上げる。まるで私が読み終わったのを分かったかのような更新タイミングだった。
A子の発言の意図が気になって慌てて、スマホ画面をスクロールした時、最初に見た発言の仕掛けに気づいた。
頭文字をつなげると、読めば私が呪いから解放される……。
カタリ、と部屋の隅で音がした。振り向いたが特に変わった様子はない。ふわりと生臭い風が頬をなでた。無意識のうちにクーラーの風向きを調節する。でも、クーラーの掃除は昨日したばっかりなのに生臭い臭いなんてするだろうか?
「待ってるから」
耳元でA子の声がした。まるで耳打ちをされたかのように湿った空気がその言葉に合わせて頬にあたった。
「ないないない」
A子の幽霊が耳打ちした光景が頭に広がり、あえて声に出した自分の言葉でうちけした。空耳だったに違いない。1人でいるのが急に怖くなって、お気に入りの音楽をイヤホンで聞いた。頭の中をポップな恋愛ソングが占めていく。
「不器用な僕はカミに願う言葉をカミ、仕方なくカミに描く君のカミを撫でたいと~♪」
カミをあえてカタカナにしてあるサビが特にお気に入りだった。全く違う意味の事柄をカタカナでまとめる言葉遊びをオシャレだと思う。私はリズムに合わせえて口ずさむ。
歴史と轢死なんてそんな連想ゲームがちらつくのを打ち消すように曲に逃げた。
生暖かい風がまた頬を撫でて、A子の言葉が思い出される。
名前が隣り合うのを一足先に待ってます……A子が書いたポエムの文言が頭から離れない。ーー明日も始発で出勤なのに。