ほたるの川

文字数 1,203文字

  



 夕飯をすませた一郎は、金魚柄の浴衣を着せてもらった優子と、近くの小川に行きました。



「……うわー、おにいちゃん、みて、ほたる」

 小川のほとりにたくさんのほたるが飛んでいました。

「うえっ、火の玉みてぇだな」

「やだ、おっかなーい」

「バカ。火の玉は人の魂じゃないか。おっかなくなんかないさ。俺たちを見守ってくれてるんだ」

「ふぅ~ん。じゃ、おっかなくないの?」

「ああ。おっかなくなんかないさ」





 ・・おじいさん、孫たちが遊びに来てますよぉ・・

 ・・おう、おう、大きくなったのぉ・・

 ・・ついでに、せがれの様子も見て行きましょうかねぇ・・

 ・・そうするかのぉ、ばあさんや・・



 おじいさんは、一郎のズボンのポケットに。おばあさんは、優子の浴衣の袂に隠れました。




 ・・せがれは相変わらず、嫁の尻に敷かれて、情けないですね、おじいさん・・

 ・・情けないね。それにしても、嫁は、昔のおばあさんを見てるようだよぉ・・

 ・・あらぁ、こんなんでしたかねぇ?・・

 ・・似たようなもんだよぉ・・

 ・・ふふふ……・・

 ・・ハハハ……・・






 ・・孫たちは、布団に入りましたね、おじいさん・・

 ・・おう、明かりを消したよ、ばあさん・・




「あっ、おにいちゃん、みて、ひかってる」

「さっきのほたるだ。くっついてきたんだ、きっと」

「あっ、こっちもひかった」

「……おじいちゃんとおばあちゃんのほたるかもな」

「おじーちゃんとおばーちゃん?」

「ああ、たぶんな」

「おじーちゃんとおばーちゃんのひのたま?」

「ああ。おじいちゃんとおばあちゃんの魂だ」

「おじーちゃ~ん、おばーちゃ~ん」

 優子は蚊帳(かや)の中のほたるに手を振りました。

 すると、ふたつのほたるが、マッチを擦ったときのように、パッ!と明るく光りました。

「あっ、ひのたまみたいにひかった」

「だろ?おじいちゃんとおばあちゃんの魂が返事したんだ」

「うふふ……」

 優子は恥ずかしそうに、夏布団で顔を隠しました。

「おじーちゃんとおばーちゃんがみてる。うふふ……」

 優子はうれしかったのです。おじいさんとおばあさんが会いに来てくれたことが……。

 優子は、ふたつのほたるを手のひらにのせると、

「また、あそびにきてね」

 と言いました。

 すると、ふたつのほたるは返事をするかのように、パッ!と明るく光りました。




 ほたるの淡い明かりに包まれて、一郎と優子は夢の中です。――






 目を覚ますと、ほたるはいませんでした。きっと、ほたるの川に帰って行ったのでしょう……。







 でも、優子の手のひらには、まだ、ほたるの温もりが残っていました。――











   おわり
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