第1話 息子の同級生が家に入って
文字数 2,091文字
「お母さん、ただいま」
高校生の一人息子、真治 が帰ってきたらしい。
真治の母である愛実 が笑顔で迎えようとしたとき、
「おばさん、こんにちは。今日もお邪魔します」
そう言って、真治の後ろから謙信 が部屋に入ってきた。
愛実は謙信に向けた自分の笑顔がぎこちないことを認識して、狼狽した。
謙信は息子と同い年で、まだ高校生の少年なのに……。
愛実は二十三歳で結婚した夫の武と、その翌年に産んだ一人息子の真治と三人家族だ。
しかし武が単身赴任中のため、現在は実質、真治と二人暮らしの状態だった。
長くて美しい髪を後ろに流し、きれいな二重まぶたと涼し気でいて優しい瞳、そしてやや肉厚な唇。
愛実は今年で四十歳になるが、街に出れば、通り過ぎる男達の大半が振り返る。
そんな男達の視線には、十代の頃から慣れていた。
この経験から、自分がどうやら、美しい部類に入る女であることが分かった。
男の目は女を映す鏡だから。
しかしそんな愛実も、目の前にいる謙信の自分を捕らえて離さない目で見詰められると、まるで背骨が無くなったような感覚に襲われる。
足元が急激に冷え、立っていられなくなるほどだ。
謙信は真治と同級生なので、まだ十七歳。
長身でシャープな体型。
男子とは思えぬ白くて美しい肌。
目はきれいな二重だが、眼光は鋭い。
高く整った鼻梁は精神力の強さを感じさせる。
三ヶ月ほど前に、初めて真治が謙信を自宅に連れてきた。
謙信は礼儀正しいうえに物腰も柔らかく、知的な雰囲気を醸し出していた。
一人息子の宿命で甘やかされて育ったせいか、すっかり内弁慶になってしまった真治には、友達がいなかった。 そんな真治に、謙信のような素敵な友人ができたことを愛実は喜んだ。
しかし徐々に愛実は、謙信は真治ではなく、愛実を意識していることに気付いた。
初めは何となく、謙信からの視線を感じるだけだった。
だが最近では、真治がスマホのアプリに夢中になっているときなど、露骨に見詰められる。
そんな謙信の視線と目が合っても、謙信の方から視線を外すことはない。
思わず、愛実の方が目を逸らしてしまう。
そんな視線のやり取りを繰り返すうちに、いつしか愛実も謙信を強烈に意識するようになっていた。
「真治のお父さんは新聞記者だったよね。転勤はよくあるのか?」
居間でお互いにスマホに目を落としたまま、謙信が真治に訊ねる。
「結構あるな。でも今回ぐらい長い間、地方に行ってるのは珍しいんだ」
二人のやり取りのとおり、愛実の夫である武は新聞記者で、現在は地方の支局に赴任している。
本社の「地方紙コンテンツスーパーバイザー」という部長級の職に大抜擢された。
職名のとおり、地方紙売り上げ向上のためのスーパーバイズを行う。
新設のポストだが、実際は最高幹部の椅子への約束手形だ。
だから就任当初は、その名誉に夫婦で喜んだものだ。
だが、武が赴任して一年。
寂しさが募るようになってきた。
武はたまに帰ってきても、すぐに次の地方支局へ飛んでいく。
この一年、愛実は武に満足に抱かれていない。
熟れた体が日に日に火照ってくるのを実感している。
謙信が現れたのは、正にそんな時だった。
そして謙信が、まるで目で愛実を犯すかのように、ジットリと自分を見詰め回す日々が始まった……。
愛実は謙信と真治のために、盆にジュースが入ったグラスを載せ、居間に運ぶ。
居間のテーブルにグラスを置こうと前屈みになると、あからさまに謙信が愛実の胸元を覗きこんでくる。
愛実が慌てて洋服の前を片手で抑える。
「おばさん、いつもありがとうございます」
愛実の胸元から目を上げた謙信が、何事も無かったかのように礼を口にする。
一瞬、愛実と謙信の視線が絡み合う。
だが愛実の方が、慌てて目を逸らしてしまう。
「……いいのよ。謙信君にはいつも、うちの真治がお世話になっているし。謙信君は凄く頭がいいって真治から聞いているから、うちの真治に勉強を教えてあげてね」
愛実は取り合えず取り繕った。
息子に、動揺した姿を見られたくない。
ましてその相手は、当の息子と同級生で友人なのだ。
「うるさいな。そういうのいいから、お母さんは向こうに行っててよ」
多感な時期の真治は、愛実が何を言っても生意気に言い返してくる。
そんな一人息子を大切に思いながらも、愛実の意識は謙信の方に向ってしまう。
台所へ洗い物に向かう今この瞬間も、背中に謙信の視線を強烈に感じる。思わず股間の奥がじんわりと温かくなる。
いつからだろう――自分の中で息子の同級生が「あの子」から「彼」に変わったのは。
そして、「少年」から「男」へと変わったのは。
そして、いつからだろう――息子の同級生に見詰められる度に、パンテイを濡らしてしまうようになったのは。
高校生の一人息子、
真治の母である
「おばさん、こんにちは。今日もお邪魔します」
そう言って、真治の後ろから
愛実は謙信に向けた自分の笑顔がぎこちないことを認識して、狼狽した。
謙信は息子と同い年で、まだ高校生の少年なのに……。
愛実は二十三歳で結婚した夫の武と、その翌年に産んだ一人息子の真治と三人家族だ。
しかし武が単身赴任中のため、現在は実質、真治と二人暮らしの状態だった。
長くて美しい髪を後ろに流し、きれいな二重まぶたと涼し気でいて優しい瞳、そしてやや肉厚な唇。
愛実は今年で四十歳になるが、街に出れば、通り過ぎる男達の大半が振り返る。
そんな男達の視線には、十代の頃から慣れていた。
この経験から、自分がどうやら、美しい部類に入る女であることが分かった。
男の目は女を映す鏡だから。
しかしそんな愛実も、目の前にいる謙信の自分を捕らえて離さない目で見詰められると、まるで背骨が無くなったような感覚に襲われる。
足元が急激に冷え、立っていられなくなるほどだ。
謙信は真治と同級生なので、まだ十七歳。
長身でシャープな体型。
男子とは思えぬ白くて美しい肌。
目はきれいな二重だが、眼光は鋭い。
高く整った鼻梁は精神力の強さを感じさせる。
三ヶ月ほど前に、初めて真治が謙信を自宅に連れてきた。
謙信は礼儀正しいうえに物腰も柔らかく、知的な雰囲気を醸し出していた。
一人息子の宿命で甘やかされて育ったせいか、すっかり内弁慶になってしまった真治には、友達がいなかった。 そんな真治に、謙信のような素敵な友人ができたことを愛実は喜んだ。
しかし徐々に愛実は、謙信は真治ではなく、愛実を意識していることに気付いた。
初めは何となく、謙信からの視線を感じるだけだった。
だが最近では、真治がスマホのアプリに夢中になっているときなど、露骨に見詰められる。
そんな謙信の視線と目が合っても、謙信の方から視線を外すことはない。
思わず、愛実の方が目を逸らしてしまう。
そんな視線のやり取りを繰り返すうちに、いつしか愛実も謙信を強烈に意識するようになっていた。
「真治のお父さんは新聞記者だったよね。転勤はよくあるのか?」
居間でお互いにスマホに目を落としたまま、謙信が真治に訊ねる。
「結構あるな。でも今回ぐらい長い間、地方に行ってるのは珍しいんだ」
二人のやり取りのとおり、愛実の夫である武は新聞記者で、現在は地方の支局に赴任している。
本社の「地方紙コンテンツスーパーバイザー」という部長級の職に大抜擢された。
職名のとおり、地方紙売り上げ向上のためのスーパーバイズを行う。
新設のポストだが、実際は最高幹部の椅子への約束手形だ。
だから就任当初は、その名誉に夫婦で喜んだものだ。
だが、武が赴任して一年。
寂しさが募るようになってきた。
武はたまに帰ってきても、すぐに次の地方支局へ飛んでいく。
この一年、愛実は武に満足に抱かれていない。
熟れた体が日に日に火照ってくるのを実感している。
謙信が現れたのは、正にそんな時だった。
そして謙信が、まるで目で愛実を犯すかのように、ジットリと自分を見詰め回す日々が始まった……。
愛実は謙信と真治のために、盆にジュースが入ったグラスを載せ、居間に運ぶ。
居間のテーブルにグラスを置こうと前屈みになると、あからさまに謙信が愛実の胸元を覗きこんでくる。
愛実が慌てて洋服の前を片手で抑える。
「おばさん、いつもありがとうございます」
愛実の胸元から目を上げた謙信が、何事も無かったかのように礼を口にする。
一瞬、愛実と謙信の視線が絡み合う。
だが愛実の方が、慌てて目を逸らしてしまう。
「……いいのよ。謙信君にはいつも、うちの真治がお世話になっているし。謙信君は凄く頭がいいって真治から聞いているから、うちの真治に勉強を教えてあげてね」
愛実は取り合えず取り繕った。
息子に、動揺した姿を見られたくない。
ましてその相手は、当の息子と同級生で友人なのだ。
「うるさいな。そういうのいいから、お母さんは向こうに行っててよ」
多感な時期の真治は、愛実が何を言っても生意気に言い返してくる。
そんな一人息子を大切に思いながらも、愛実の意識は謙信の方に向ってしまう。
台所へ洗い物に向かう今この瞬間も、背中に謙信の視線を強烈に感じる。思わず股間の奥がじんわりと温かくなる。
いつからだろう――自分の中で息子の同級生が「あの子」から「彼」に変わったのは。
そして、「少年」から「男」へと変わったのは。
そして、いつからだろう――息子の同級生に見詰められる度に、パンテイを濡らしてしまうようになったのは。