朝日 夢莉《あさひ ゆうり》 二

文字数 925文字

「はぁ〜っ」

 ため息。それが白い息になって、空中で消えていく。青々と広がる空に浮かぶ雲は、私のため息みたいに真っ白だった。


 河川敷を通る道路を歩く。人通りはあんまりない。道路には雪が積もっていた。


 流れる川は千曲川といって、県内でも一番おっきな川だ。


「なんだよ? そんなでけーため息ついて」


 後ろから声がかけられる。振り返ると、そこにはじっと私を見つめる、幼なじみの新海(しんかい) 湊翔(みなと)がいた。

 短髪で濃い眉の下には、大きな目と二重の瞼がある。学校の女の子たちから、イケメンとか言われて騒がれてるけど、小さい頃から一緒の私には、そうは見えない。『俺は野球に恋してるんだ』とか、恥ずかしいセリフを言ったりするんだ。

「私、またオーディション落ちちゃった。今回は自信あったのに、やっぱりダンスで失敗したのがダメだったのかなぁ…」


 湊翔は肩をすくめると、小さく息を吐いた。湊翔のため息も、私のため息と同じ、真っ白なため息だった。

「それで落ち込んでたのか。どんまい、どんまい」


 なんか、心がこもってない言い方。思わず膨れっ面になって、横を向いた。湊翔は何もわかってない。オーディションで、私がどれだけ全身全霊で、勇気を振り絞っているか。


「いいじゃん。アイドルにならなくても、ゆーりは充分可愛いし、輝いてるって」


 湊翔が私の頬を人差し指で突いてくる。私のえくぼがある場所だ。可愛いとか、ホントに思ってないくせに。


「私の夢なのっ。私だって、湊翔の夢を応援してるんだから、湊翔も応援してよ」

「わーったよ、悪かった。大丈夫、大丈夫。次は上手くいくって! エラーしたら切り替えが大事なんだぜ? 次に切り替えよう!」


 また、野球と一緒にして。


 でも、湊翔のこのポジティブさは、見習いたい。私は失敗すると、その失敗ばっかり気にしちゃうから。


「うん。次、頑張る」

「おっけー、それでこそゆーりだ」

 湊翔が親指を立てる。キメ顔がなんだかおかしくて、思わず笑っちゃった。


 湊翔は、ホントに明るいなぁ。私も、湊翔みたいだったら、オーディションにも受かるのかな。
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