第26話 栞
文字数 1,355文字
～10月(2年生)、フジイのアパート～
覚えてる？この写真。
(！！)
～アイバが写った例の写真を取り出す。～
うん。
クスッ
(この写真のおかげで生まれたんだよ、「鼓動」も、新しい自分も・・・)
(次の日、朝早く目が覚めたっけ。)
(窓際のテーブル、その上の日記帳、何故か開いてた。)
(差し込んだ陽射しが偶然その日のページを押さえてくれていた。)
(
(神様が言ってる、「さあ、書きなさい」って・・・)
(朝、日記を書いてから出かける・・・変な気分。)
(1枚しか撮らなかった・・・1枚で十分だった。)
(「鼓動」と名づけた。)
(「鼓動」は飾らない光、あなた自身・・・)
(目が合って、心に触れて、背中を押されて・・・えっと、それから・・・)
(人生が動き始めている・・・私の、私たちの・・・)
(こういう日の空って、いっつも青い。)
～同日、レストラン～
ここ、予約したの？
つき合って1年だし。
うん。
(やり過ごしてきた日々、乗り越えていく日々・・・)
(新しい一歩、ゆっくり行こう。)
(2人で歩くの初めてだし。)
(波風は立つもの、だって前に進むんだから。)
(行き止まりなんて多分ない、
あるとすればそれはただの遠回り。)
(今まではお互い見つめ合ってきたけど、
これからは同じ方向を見つめてく。)
(誰か言ってた、後悔しない相手を探すって。)
(本当にそう？それでいいの？)
(私は出逢えた、
後悔しても構わないって思える人・・・)
(そんな風に思える人と一体何人出逢えるんだろう？)
(そもそも出逢える？)
(そんなことはもう・・・)
(あなたに逢った、あなたを好きになった、あなたが好きになってくれた、
それだけでもう・・・)
(こんな気持ち考え出したのはきっと神様じゃない、悪魔でしょ？)
(こういうの正直苦手、だって私には
(でも、あなたの未来には誰にも触れて欲しくない。)
(誰かを好きにならなくても生きていける。)
(でも、やっぱり恋したい、あなたとなら・・・)
(伝えるまでが恋、伝えてからが愛・・・)
(まだ、ほんの入口・・・)
これからもよろしく。
こちらこそ、
よろしくお願いします。
(一緒にいると変わってしまう、涙の数も、その意味も・・・)
～フジイのアパート、午後11時10分～
(言葉にはならない、胸の奥にだけ書きとめた一行・・・)
フジイはアイバを初めて見かけた日のことを思い浮かべる。
(「シャッターボタンに添えた指が一瞬固まった。」)
(私しか知らない。)
フジイはトラウマから解放されたときのことを思い出す。
(「少しだけ夜が好きになった。」)
(2人しか知らない。)
アイバとの将来を思い描く。
(「これからの2人。」)
(誰も知らない。)
～サヤの日記～
10月○日(○)
増えていく
それが今、また一つ・・・
～フジイのアパート、午後11時15分～
フジイはアイバに過去を打ち明けた日のことを思い出す。
(「あのとき唇を噛みしめた理由 。」)
(あなたしか知らない。)
(私は聞かない・・・)
(想い出のリプレイがいつまでも完結しない。)
(「宿命」という名の悲劇。)
(「運命」という名の喜劇。)
(私の中の「陽だまり」は、)
フジイはアイバの顔を思い浮かべる。
(「陽だまり」は
いつまでも消えない。)
～サヤの日記(続き)～
記念日。
