3 ✿ 涙雨と祈り

文字数 1,279文字

回転寿司屋にやってきた、ジョン、ラルフ、マルコ、レイ。


食事の合間、ジョンは「咲良」のことでこう訊ねられたのだった。

なぁ、ジョン。


おまえ、帯刀のお嬢さんに気があるだろ?

えっ…

気絶したあの子を運び出す時、おまえ、泣きそうな顔していたぞ。

あの子が好きなんだろう。

…違うか?

いえ……違いません

やっぱり、そうか。

それを聞いてなぜだか安心した。


それに嬉しい。

どうしてだろうな?

僕も嬉しいや。

ジョン、応援するよ。

自分の気持ち、早く言った方がいいぞ。


日本人と交際するなら、まず告白だからな

海外の人は付き合うさいに告白を前提としていない。


雰囲気を読んで、付き合っているか、そうでないかを分ける場合が多いのだ。

ご家族が入院していますし、忙しい今の状況ではとても気持ちを言い出せません…。


あちらが大変なのに、困らせてしまうのでは…と

それは…おまえの言い訳じゃないか
……。
ジョンは言葉を失った。

少し気を遣い過ぎだよ、ジョン。


おまえは筋金入りの英国紳士だ。咲良さんを困らせるわけないじゃないか。

そうそう。

時間は待ってくれないよ、ジョン。


僕が君なら、今すぐに彼女のもとへ飛んで想いを告げるよ。

次、いつ会えるかなんて分かんねーしな。俺たちの仕事はなー…。

もたもたしていると、誰かがあの子をかっさらっちまうぞ。


あのお嬢さんの目がすごく綺麗でさ。


なんというか、ココが綺麗だなって。

ラルフはトンッと自分の胸を拳で叩く。

心の綺麗な人は、目が綺麗ですからね。


おっと、みなさん。

箸が止まってるけど、食べないの?

おお! いつの間にかマルコの前に、バベルの塔が…
これはピサの斜塔だろ。皿を積み上げすぎだ
僕1人で、こんなに食べるはずが……

嘘つけ。

全部おまえだろうが。

マルコ胃袋は、底なしだな。
3人が和気藹々と食事を続ける中、
(いつか、誰かが、君を…?)

ジョンは心ここにあらずで箸をすすめる。


寿司屋を出て、警視庁に戻っても「咲良」のことばかりを考えていた。

(なんだか落ち着かない…。紅茶でも飲もう)

紅茶カップを、そっと両手で包む。

温かくて、ほっとする…

けれど紅茶の温もりも、時間とともに冷めゆく。


両手で包んでも、温もりを永遠に閉じ込めることはできない。


この温かさは、当たり前に此処にあったものではなかったのだ。

彼女との記憶も、温かな、ただの「思い出」になってしまうのだろうか)

どこでも手に入る、よくある紅茶の1杯のように。

(思い出につく感情は永遠で、1杯の温かさも忘れない。けれど…)

けれども今ここでカップを握る彼は、冷めるまでの時間を憂うのだ。
道中の無事を祈っているわ
別れぎわの、彼女の姿が頭から離れない。

(帰り着いたら、咲良さんの祈りもそこで終わりだろうか)

「祈り」ときて頭に浮かんだのは、夢の中の「修道女」だ。
”大丈夫…大丈夫よ
泣く子どもに語りかけ、薔薇の花冠を編んでいた。

夢に現れた修道女と、咲良さんの雰囲気が…似ている)

それに気付いた途端、心臓が早鐘を打ち始めた。

まさか…
この鼓動が答えなのではないだろうか。
涙雨が止むよ、ジョン
誰!?

声の聞こえた方を振り返るが、そこには誰もいなかった。

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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