第14話 思い出

文字数 800文字

 お日様も暮れかける頃、私たちはもう一度水辺へとやってきた。
 少し、気温も下がってきた。ゆらゆらと波が、こちらに押し寄せた。水面がオレンジ色に染まって、波間に少しの影を落としていた。
「今日はいっぱい歩いたね」
 二人で近くのベンチに腰掛けて、ぼーっと遠くを眺めていた。
「せいちゃん、今日は楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
 せいちゃんが、こちらに顔を向けて、にぱっと笑う。
「聖良も、楽しかった?」
「私も、楽しかった」
 沈みゆく夕日。うねうねと続く波。
 おそろいのヘアピン。食べ歩きに船。空中庭園。
 せいちゃんとの大切な時間。カフェにも行ったな。お買い物もした。お散歩したり、お花見したりもした。お出かけしなくても、いつも、何をしててもずっと一緒だった。
 さあさあと、波音が聞こえる。遠くへ、遠くへと揺れて、水平線にのまれていく。
 私は、左隣に座るせいちゃんをかかえて、そっと抱きしめた。優しくて、あったかい。
「どうしたの、聖良」
 不思議そうに、せいちゃんが私の顔を見ようと振り向く。
「ううん、なんでもないの」
 ブルーのお花が、きらりと光った。
 そろそろ、太陽が沈む。ずっとこうしていたいけれど。帰らないと。







 疲れてしまったのか、帰りの電車では、せいちゃんはぐっすり眠っていた。私は、座席でさっき買ったサンドイッチを食べながら、じっと、せいちゃんの寝顔を見続けていた。
 家に帰りつく。シャワーを浴び、パジャマに着替える。せいちゃんは、シャワーのために一度目を覚ましたけど、またすぐに寝てしまった。すう、すうと、穏やかな寝息が聞こえる。
 抱きかかえて、そっと、ベットに寝かせる。起こさないようにして、私もそろりとベットに潜り込む。
 ぬくぬくとした布団。せいちゃんの感触。あまくて、落ち着く香り。
 大切に、けれどもぎゅっと、力をこめて引き寄せる。
 大好きだよ、せいちゃん。
 こころのなかで、そうつぶやいた。
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