第4話 毒舌、人情、人間パチンコ

文字数 2,076文字

かなり以前から主張しているのですが、毒舌芸(どくぜつげい)は、そんな簡単にできるものではありません。
シャレになるか、ならないのかのギリギリを攻めるワードセンス、「ひどい」と「確かに」の狭間(はざま)を突く説得力、説得力を生み出す清濁併(せいだくあわ)せのんだ体験と教養(きょうよう)と思考能力、毒を扱うにふさわしい態度、表情、所作(しょさ)、フグをさばくのに免許が要るようなもので、「今」という時代に限らず、生半可な技量と覚悟では手を出さないほうが無難です。


本筋とズレますがマツコ・デラックスさんも毒舌とメディアでは扱われ、ある面で上の条件を満たしているのですが、失礼な相手や何か照れている場面では、露悪的(ろあくてき)に子どものケンカじみた言動を(意識的にか反射的になのかは分かりませんが)とるので、プロの芸人さんのそれとは少し違う気がします。

現代を代表する毒舌芸人といえば有吉弘行さんですけれども、氏は上岡龍太郎さんが司会者を務めた「EXテレビ」の公開弟子審査会でオール巨人師匠に弟子入り。

思えばこの頃に大島渚さん、小田実さん、野坂昭如さんなど「朝まで生テレビ」勢など文化人がバラエティー番組に出演することが、特別ではなくなってきた気がします。
検証はしていないのですが。

で、上の方々と政治や湾岸戦争について討論する会もあれば、立川談志師匠や山城新伍さんら演芸仲間とバカをやる企画も多かったです。
あざやかに覚えているのは忘年会だったか新年会だったか、芸人さんらが鍋を囲んで宴会を開始、その中でなぜか談志師匠がなぜか下半身を露出した西川のりお師匠のホーホケキョを割りばしでつまんだこと。くだらないにも程があるよ!笑

上岡龍太郎さんと言えば元漫画トリオの一員。
東の毒舌の王がビートたけしなら西の王はこの方。
「劇場で爆笑を取ると、もの凄い快感を得て、芸人でクスリやる奴はあの味を知らん」との名言なんだか詭弁(きべん)なんだか分からない発言をよく覚えています。

違法アップロードだと思うのですけれども、動画サイトでEXテレビを観たら、『ちびまる子ちゃん』について大意として上岡さんはこんな見解を示しておられました。
「これなつかしんでいるんでしょう。20代とかの若い子がその歳でむかしはよかったと言っているのは、よくない兆候ではないか」
働き方とか生活と仕事のバランスとか、思えばあの頃にはすでに崩れ始めていたんでしょうか。
現代に疲れている方が目立たないけど潜在的に多かったということでしょうか。

他にも大意として「売れている芸人は犯罪者の目をしている」などもあり、上岡さんビートたけしさんはもちろん、出はじめのトガりまくった品川庄司・品川さんもそういう目をしていました。
後に有吉さんから「おしゃべりクソ野郎」とあだ名をつけられることになるのですが笑 有吉さん再ブレイクの切っかけの、世に言う「おしゃクソ事変」です。

高校を卒業して間もない青年が、EXテレビという全国ネットの番組で現役バリバリの上岡さんや巨人師匠と対峙して、緊張しただろうなと想像するのですけれども、有吉さんの毒舌は上岡さんの系譜に連なると樋口は勝手ながら考えます。

直接的に芸の道を教えられたと考えているわけではありません。
人間的なタイプが似ているのかなと。

上岡さんの弟子と言えば最近ご活躍のぜんじろうさん、そして異色(いしょく)の芸人、「人間パチンコ」のテントさんであります。

「人間パチンコ」とはテントさんがパチンコ台になり切るという芸で、リーチが掛かっても当たるのか当たらないのかはテントさんにも分からないらしい。
樋口はテレビでフィーバーしたシーンを観たことが自慢です。当たった瞬間に「あ!」と声が出ました笑
あと手のひらをクモに見立てた「右手VS左手」という芸もありましたね。

上岡さんの凄いところは、ご本人は知的笑いをなさっているのにテントさんのようなナンセンスの極みまで行った芸人さんを可愛がったところです。
ご自身は常識を踏まえて非常識な毒舌、知的な芸を披露(ひろう)なさっていましたが、だからこそ自分と真逆のタイプ、常識に(とら)われない、あるいは常識に背を向けたテントさんが可愛くて仕方なかったのでしょうか。


有吉さんも後輩のあらびきな芸によく笑顔を見せています。

芸人になるより仕方ない人、社会に今一つなじみきれない人が好き、あるいは芸風が違うだけで外れ者という点に我が身を見ているのでしょうか。
そういう考え方自体が昭和的だなとは自分でも思うのですが。

上岡さんは脂の乗り切った58歳というお歳であっさり引退なさりましたが、有吉さんも仕事への執着は薄そう。
というより、人気絶頂の猿岩石時代から仕事がほぼなくなり、一度はどん底を味わった人、自分の意思で人気がどうこうできるものではないことをよく知っているのかもしれません。
だから仕事で手をぬくわけではないのですが。

テントさんが不慮の事故でお亡くなりになったのが2016年。もうそんなに前なんですね……。

節度ある毒を混ぜて爆笑をかっさらい、最後には涙で声を震わせた動画、漫画トリオの相方、横山ノックさんの葬儀で上岡さんが弔辞を読む動画は、100万回再生をこえています。
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