第１７話

　涼太は、はっと目を覚ますと、白い天井が視界に入って来た。

「涼太……っ！　わかるかい？　お母さんだよ！」

　涼太の母親が、涙を流しながら涼太に話し掛ける。涼太は、その光景を、ぼーっと見つめていた。
　自分は、どうしてここにいるのだろうという疑問が頭をぐるぐると回っている。思い出せたのは、仕事に行こうと立ち上がった瞬間までだった。

「僕……、どうしてここに……？」
「突然倒れたんだよ！　頼むから、もう無理はしないでおくれ……」

　涼太の母親は、ぼろぼろと涙を流しながら、涼太の手を握った。

「僕は、何日眠っていたの……？」
「一か月だよ！　あ！　看護師さんに声をかけないと！　あんたが目を覚ましたことを伝えないと！」

　そう言うと、涼太の母は、涙をぬぐいながら、病室を後にした。
　涼太は、自分の状況をじっくり考える。何か長い夢を見ていたような気がしていた。しかし、靄がかかったように、その夢のようなものは、欠片も思い出せなかった。
　涼太は、ふと首にかかっているペンダントに気付く。しかし、なぜそのペンダントが首にかかっているのか思い出せなかった。
　慌ただしく、看護師と医師が涼太の母親と一緒にやって来た。医師達が、バイタルサインを診たり、どこかに異常がないか診ていく。しかし、どこにも異常はなかった。

「明日にでも、退院できますよ」

　医師は、母親を落ち着かせるような声で、そう言った。

「あぁ、良かった……」

　涼太は、ぼんやりと話を聞きながら、天井を見上げていた。
　ほどなくして、涼太は退院した。そして、ほぼ同時期にカフェを開業した。両親が、金銭の工面を手助けしてくれたのだった。
　あれから、涼太のカフェは、常連がつく程人気のカフェとなった。涼太は今日も、楽しく常連客の話し相手になりながら、カップを拭く。

カランカラン

「いらっしゃいませ」

　涼太は、出入口の方を見た。頭に雷が落ちたような衝撃が走った。頭が「この人を知っている」「彼女を思い出せ」と言っていた。しかし、涼太には思い出せない。
　店に入った彼女は、案内されるがまま席に着く。

「メニューがまだなくて、今はコーヒーとレモネードと手作りケーキしかないのですが、よろしいですか？」

　涼太は、少し申し訳なさそうに言葉をかけた。

「では、レモネードとケーキを」

　涼太は、注文を聞き終えると、レモネードを作り始めた。彼女は、ぼんやりとその光景を眺めていた。

「お待たせいたしました」

　彼女は、ぺこりと頭を下げた。そして彼女は、涼太をじっと見つめた後、言葉をこぼした。

「一体どこで聞いたのかしら……」

　涼太は、その言葉をかすかに聞き取ったものの、意味がわからなかった。

「いかがいたしましたでしょうか？」
「あ、いえ！なんでもないです！すみません！」

　彼女は、慌てて手を振ってなんでもないと言う。
　腑に落ちないながらも、涼太は深入りせずに下がる。
　ちょうど、常連が注文を追加希望したので、涼太の疑問も掻き消えた。