1.帰省

文字数 1,089文字

はぁ。疲れた。

なんか、疲れたって言葉がこの日のために用意されてたってくらい、神経がすり減りました。

披露宴にご出席なさっていたのですか。
ああ、そう。よくわかりましたね。
シルバーのアスコットタイがよくお似合いです。

これか。これね、オレの一張羅なんです。

子供のころからずっとこういうのかっこいいなって思ってて。

それで、友人の結婚式でいい人見つけてやろうなんて、奮発したんですけどね。今日はそんな気になれなくて。

飲まずにはいられないと(笑)

披露宴のすぐあとに二次会もここでやってて、一応顔出してたんですよ。

そこでも酒はふんだんに用意されてましたけど、抜けてきました。

なにを飲まれますか。
そうだな。なににしよう。こういうところで飲んだことないですし。
旅行でいらしたお客さまには地酒や地ビールをお出しすることもありますが。

いいですね。家飲みはもっぱら発泡酒ですから。

地元でも案外知らないし、地酒なんて飲まないものなんですよね、わりと高いから。

ずっとこちらにお住まいで?

実家があるんで。

今は東京で、何年かぶりに帰ってきたんですけどね、傷心気味ですよ。日本酒なんか飲んじゃったら、しっぽりどころか、ずっぽり酔い潰れそう。

そうしましたら、ライスエールなんていかがでしょう。
へぇ。おもしろいね。飲んでみます。
――お待たせしました。

あ、ほんとだ。瓶にちゃっかり地名がついてる。

……うん。軽めで、香りとか、ビールっぽさがありますね。

麦芽の香りを残すためにアルコール度数を低めに作っているそうです。
ああ、これは飲み過ぎちゃう。さっきの料理にも合いそうだな。
フレンチですか。

そうかな。和テイストな料理もあったから折衷料理かもしれないな。

でも、あんなにたくさんの料理を用意するのにすごくきれいに盛り付けしてるんですよね。

総料理長の腕は確かですから。
うん、確かに、見かけ倒しじゃなくてうまかったです。味の変化とか、こってりとさっぱりのバランスとか。
料理のうまい人は美食家と、シェフがいってました。
バーテンさんもよく飲み歩いたり?
そうですね。最近では、見た目が楽しいお酒とか、お酒にまつわるおもしろいエピソードとか、お客さまとコミュニケーションがとれそうなお酒を探して歩いてますね。

今日はいろいろ飲んじゃお。

宿も用意してくれているし、潰れちゃったらお願いします。部屋の鍵、置いとくんで。

深酒はよくないですよ。初恋の方でもご結婚なされたのですか。

あー、もう、それ聞きます?

けっこうどうでもいいことなんですけどね。なんか、ふに落ちないっていうか、気になっちゃうというか。

私も気がかりなので、伺ってももよろしいですか。
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