第48話 どうしても別れられなかったからじゃない?

文字数 1,351文字

明美は家を出た。
もうすぐ夕方になるという時間帯だった。
明美はとりあえず行く当てもなくさっきの公園に行き、ベンチに座った。
公園には相変わらず誰もいなかった。
まさに孤独だった。



悲しかった。
明美は自分ばかり頑張っているような気がしていた。
それはもしかしたら勘違いかもしれない。
でも正人が分からなかった。
それでもいい。
そう自分に言い聞かせていた。
本当に?



明美はただ悲しかった。
この感情をどう消化できるのか分からなかった。
親しい友人は何人かいたが皆家庭があり子どももいるので休日の夕飯時に急に訪れて迷惑を掛けるわけにはいかなかった。
だからと言って実家に戻ってもいろいろと詮索されるだけで明美の場所はないことは分かっていた。
明美の場所はあの家しかなかった。
それでもそのまま部屋に戻ることはしたくなかった。



公園を珍しく人が歩いてくるのが見えた。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
怖い。
明美はようやく自分の現状について考えられるようになっていた。
その人影がこっちに歩いてくる。
明美は逃げようと思った。
その時だった。



「ねえ」



それはよく知っている声だった。
正人だった。
怖かった。
さっきまでの許せなかった気持ちをすべて忘れてしまうくらい安心していた。
遅いよ。
その気持ちを隠すように心の中でそう腹を立ててみせたがやっぱり嬉しかった。





「ごめん」



相変わらず、謝っているようにみえなかったが、それでも明美は嬉しかった。
正人は明美の隣に座った。





「さっきの質問、何?」





正人は不器用ながらも明美と向き合おうとしてくれているのだった。
伝わらなくてもいい。
伝えようとしていることが伝わる。
正人を見ているとそう正人が思っているのが伝わってきた。
正人は改めてあの質問について考えてくれたようだった。
明美が家を出てからずっと考えてくれていたのだろうか。





正人は明美が家を出て、明美のいない家にいる意味がないと思った。
自分のことばかり考えて、明美のことを思いやれなかった自分を恥じた。
正人は明美の質問について改めて考えていた。
正人は夫婦の問題はその夫婦にしか分からないけど、もしその夫婦が正人と明美の場合だった時のことを答えようと思った。
それはある意味正人の願いでもあった。





「どうしても別れられなかったからじゃない?」





正人は、夫婦の間に絆があることを信じていた。
もしかしたらそれは時には情という言葉の方が合っているのかもしれない。
子どもと親の関係だけではなく、夫婦の間でもそういう切っても切れないようなものがあると信じていた。
少なくとも正人は明美との関係はそうであると思っていた。
でもそれは明美との関係に限ってのことだと思っていた。
正人にとって、明美との関係は特別だった。
だからといって何を言っても許されるとまでは言わないが、明美に対して正人にはどこかそういう甘さがあった。
それが明美に対する思いやりがない行動になっていた。
正人はそれを伝えないといけないと思っていた。
上手く伝えられないかもしれない。
でも伝えたい。
そう思っていたのだ。

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