キャバクラ エデンの園

文字数 2,626文字

「では、参りましょう。キャバクラ エデンの園へ」

イエス様も行くんですか?そして何ですか、その名前。

タクシー二台で店に乗り付ける。中で待っていたのは店のママだろう。

「イエス部長お久しぶりです。」

「娘たちは変わりありませんか?」

「ええ皆元気です。」

イエス部長もキャバクラとか結構来るんだ。意外だな、こういうところ来なさそうなのに。
それに引き換えヨセフさんはもう中に入ってるし。私を含め、イエス部長、イスカリオテ、ペテロ、ヨセフ、ヨハネ先輩が来た。

「あっイエス部長お久しぶりです。この間はありがとうございました。」

「娘よあなたの信仰がDVから救ったのです。」

他のキャバ嬢も来てイエス部長にお礼を言っているようだ。

「結婚できそうです。」
「就職できました。」

皆部長にお礼を言っている。キャバクラってこういうところだっけ。私はキャバクラは女の子が酒を注いで男がいい気分になって貢とこだと思っていた。
けれど、女の子の中にはイエス部長に贈り物をする人もいる。

「なんだよ。またイエス部長の一人勝ちかよ。」

キャバクラ先輩・‥…。じゃなかったヨセフ先輩は穏やかじゃない。
気がつくとイエス部長に人生相談をするブースと接客するブースに分かれてしまった。

「これじゃあキャバクラじゃあないな。」

そうぼやいたのは。えっと誰っけ。ああバルトロマイ先輩だ。言いにくい名前だから忘れていた。

「イエス部長。今日も奇跡みたいー。」

キャバ嬢の一人が奇跡をおねだりする。前にもしたのだろうか……?

「人はみな奇跡を見たがります。しかし、辛子の種粒ほどの信仰があればあなたにも奇跡はおこせるのです。」

「おおっー」

みんなイエス節に感謝と感動を隠せない。

「イエス様相談があります。」

「何でしょう。」

「元カレの子供がいるんですが、産んで育てる自信がありません。」

「貴方は産みたいのですか」

「はい」

「それなら、その通りになります。神があなたを祝福されますように。」

「ありがとうございます」

キャバクラとだけあってヘビーな質問が多いな。そういえばなんでここにいるんだろう。

「ああー俺も奇跡とかしてキャバ嬢にモテたいなー。」

あんたは返って家族サービスでもしてろ。と心の中でヨセフ先輩にツッコミを入れた。
というか奇跡をキャバ嬢に使うなよ。神が泣くぞ。

「いつもこれだよ。部長に全部持っていかれるんだよ。だれか俺たちの相手をしてくれる女はいないのか?」
「マリアといいます。今日は来てくれて嬉しいわ。」

「マリアちゃんまた会いに来ちゃったよー。今度俺ともデートしようよ。」
「ヨセフさん、もっと来てくださいよー。」
この人はどれだけの頻度でキャバに入り浸っているのか…‥‥。

ペテロ
「俺はウイスキーの水割りね。新人は?」

「私はコーラを。」

イエス様のお悩み相談で癒された娘たちが元気になってこちらにきた。
「やっぱキャバクラは女の子が来てなんぼだよな。そう思うだろペテロ。」
「おっおう。」

イエス部長は最後の娘の話を聞くとこちらのブースに来た。
キャバ嬢たちが黄色い悲鳴を上げる。チッとヨセフさんが舌打ちしたような。

「それじゃあ。王様ゲームしよう。」

いつのまにかペテロさんが割りばしで作っていたようだ。こういうことは気が回る。

「良いでしょう。」

イエス部長もやる気満々だ。

「王様だーれだ。」

「王は私です。」

そう言ったのはイエス部長。その割りばしを持つ手は神々しく光っているような気がした。
多分気がしただけだろう。

「1番から9番のものは聞きなさい、私は救いではなく災いをもたらしに来たのです。」

一同キョトンとする。災いって何?
「イエス部長そういうゲームではありません。一番と二番が膝枕とかそういうゲームです。」

ヨハネ先輩が説明する。イエス部長は王様ゲームをしたことが無いのだろう。

「いいでしょう。人の子らよ。一番と四番のものは神と隣人を愛しなさい。」

「‥‥…。」

命令が抽象的すぎる。一番はヨハネ先輩、四番はキャバ嬢だ。一体どうやって、この抽象的な命令をクリアするのだろう。

「困りましたね。どうしようかな。」

ヨハネ先輩も困っている。税金の減らし方以上に難しい課題をどうクリアするのだろう。キャバ嬢も、この場で神と隣人を愛する方法を相談している。

「あー王様二人でハグをして、その後神に祈りを捧げる。でクリアでいいですか。」

ヨハネ先輩の提案を聞いたイエス部長は少しばかり微笑むと

「いいでしょう、あなたがたに神の祝福がありますように。」

ヨハネ先輩とキャバ嬢は抱き合い。このエデンの繁栄と皆の平和と神の王国について祈った。
私は新卒で世間知らずだけれど、これは違う。これは王様ゲームではない。ポッキーゲームとか、ラップキスとか膝枕とかそういうゲームのはずだ。

ゲームは進行し二巡目に入る。

「王様だーれだ。」

「よっしゃあああ」

女好きのヨセフ先輩が王様だ。

「二番と七番が俺にキス。勿論口にな。王様だからな。」

どうしよう私が二番で、七番のキャバ嬢も嫌そうにしている。

「ヨセフよ。あなたは自分がしてほしいように他の人にもしなさい。という言葉を知らないのですか。」

イエス部長が口を挟む。

「部長。そういうゲームなんで。」

そう。このゲームは王のいうことは絶対なのだ。イエス部長でも王には従わないといけない。

「真実を言いますが三番の私は、神の子であり。王は神から権威を与えられているということを知らないのですか。」

神の子きたああああ。王よりもはるかに偉い神の一声きたあああ。

「…‥…。」

ヨセフ先輩はがっくりしてしまう。神の威光には王でさえ逆らえない。なにせ創造主なのだ。

「それでは、二番と七番がフルーツの盛り合わせを王様に食べさせる、でいいです。」

ヨセフ先輩は心底がっかりしたようだったが、私とキャバ嬢はイエス部長に救われた。さすが救世主。メシアッ。

次の日は土曜日つまり花の金曜日ということもあり、宴は朝まで続いた。私は終電前に帰ったけれど、ヨセフ先輩は、次の日の始発で家に帰り奥さんに家から閉め出されていたというのは後からマリア先輩に聞いた話…‥…。

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