如月真琴

文字数 3,824文字

如月真琴の執筆スペースはこちらになります!

他の方は書き込み厳禁ですよ!!

――ここは、山猫館。

由緒正しき殺人旅館。

一見さんを帰さず、リピーターすら帰さない死の館。

そう、全ては人間憎いが祟って私を突き動かす、私のための温泉旅館!

今日も多くの命をチェックアウトさせ、

気持ちのよい朝を迎える――はずだったにゃ。

なのに!! どうして!!
お願いします! ここで働かせてください!

ずっとここに住んでいたいんです!!

シット! 黙らっしゃい!

設定事故にゃ……これは悪い夢なのにゃ……。

私に殺せない命なんて……あるはずがない!

でも、念のため聞いておこう。お前の望みは何だい?

一生ここで暮らしていたい! 住み込みバンザイの覚悟です!
ぐわああああ!!

悪いことは言わない、それだけはやめておけ!

私はその願いを叶えざるを得なくなる……。

お前、それ以外に何か欲は無いのか?

金とか名誉とか性欲とか、色々あるだろ。人間だもの。

ありませんよ! 私だもの!
うおっ、まぶしっ!

まさかお前……ここの女将になるために作られたキャラなのか!?

設定が薄いのも程々にしておけよ……。

女将になる以外取り柄が無いんです、なんて言わないだろうな!?

ほらほら、下界には漫画とか小説とかゲームとか映画とか、娯楽がたくさんあるだろう。ここには何も無いんだ。帰った帰った。

嫌です。私はこの温泉旅館の色んな部分に惹かれて、何やかんや決意とか葛藤の末にここで働きたいって決めたんです。それに取り柄はちゃんとありますよ? こう見えても私、魔人なんですからね! 温泉の香りで男を社会的にブラックアウトさせます!
素晴らしい! 採用だ!

一緒に世の人間たちを駆逐していこうな!!


おっと……名前を聞いていなかったな。何ていう名前だい?

宿利湯乃って言います!
贅沢な名だねぇ!!
◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

はぁ……どこかに私の疲れを癒やしてくれる温泉は無いかしら。

そういえば、ここらへんに秘湯の名所があるんだっけ……。


いっそ、不思議の国にでも連れて行ってくれればいいのに。

あら? こんなところに、あからさまな温泉旅館の門構え……。

幻覚でも見ているのかしら。まぁいいや、お邪魔しましょ。

ガラガラガラガラ……。

Like_Ryuku

っしゃーせー! お客様、何名様ですか?
あ、すみません。ひとりです。

(えっ? ここ温泉旅館だよね? 何このフランクなノリ……居酒屋?)

1名様ですね! しょっしょーお待ち下さい!!
下手なバイトの接客か!

他にお客さんなんて居ないじゃないの!

もう……ここは一体何なのよ。

表に温泉旅館・山猫館って書いてあったけど、本当に合っているのよね?

はい、おっしゃる通りでございます! すごいすごい!

それではお客様、宿泊の方でよろしいですね?

方って何よ……それ以外に無いわよ。

もう、無駄に疲れちゃったわ。早く部屋に案内して。

かしこまりました! それではお客様、宿泊にあたって幾つかの質問がございます。まずはこちらの書類に目を通していただき――よろしければ、こちらにサインをお願いします。
無駄にしっかりしているのね……分かったわ。

ふむふむ……。(まぁ流し読みで大丈夫よね)はいはい、サインっと。

最後に、「私はロボットではありません」の項目にもチェック、お願いします!
二度手間!!
◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

カタッ、カタッ、カタッ……。

無駄に長い手続きを済ませ、ようやく部屋へと案内される。

こんな深夜だからか、それとも季節柄か立地なのか、私以外の利用客はまるで居ない、寂れた温泉旅館。


――そうか、それで。

久しぶりの客だから、女将は気丈に振る舞っているのだろうか。

……もう少し、ノッてあげても良かった、かな。

Like_Ryuku

ねぇあなた、ここで働いてどれぐらいになるの?

寂しかったり、するの?

今日が初仕事です!
ははは、さっきの言葉は忘れてくれ。
温泉暖簾の前で、一旦止まる。

少し温泉も覗いてみようかな、なんて気分になる。

Like_Ryuku

ここ、貸し切りでいいのかしら?
宿屋によっては入れる時間帯が決まっていたり、そもそも有料だったりする。

今は夜遅いし、お湯が抜かれていてもおかしくない。

Like_Ryuku

あっ、お客様! 温泉について興味アリですか!

いいですよねぇ、温泉。

日頃の疲れもごっそり落ちるってものですよ!

分かるけど、言い方。もっとプロ意識もって。
後でご案内しますので、今は我慢してくださいね。

――いつでも、待ってますから。

◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

お客様のお部屋はこちらになります!

ごゆっくり、おくつろぎくださいませ!!

わぁ、広いですね! 明らかに個室っぽくありませんが……。

えっと、指定ミスとかではなく?

大体この辺になります!
おいそろそろ女将呼んでこい。
――なんてことがあったが、まぁ漁夫の利? 違うけど、そんな感じ。

どうやら利用客も私だけのようだし、遠慮なくくつろぐことにした。


大の字になって、寝そべると、すぐに眠気がやってくる……。

あぁ、温泉――入ってからにしようかなぁ。

Like_Ryuku

挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。女将です。
タイミング考えテ!!!
え? お客様、何か入用で私をお呼びになりましたよね?
いや、まぁ、そうだけどさぁ……。

あの新入り? の接客がまるで話にならないから、無駄に疲れちゃったよ。

それは大変失礼しました……。

お詫びと言っては何ですが、マッサージでも如何でしょうか?

こう見えても私、3級海技士の免許を会得しておりまして。

そ、そうなんだ……。

じゃあ、ちょっと任せちゃおうかしら。

ちょっと眠気も入っていた私は、仰向けになってマッサージを受けようとする。

――――ん?

Like_Ryuku

(3級海技士の免許って何だ?)
それでは、モールス信号から始めさせていただきますね。
それマッサージじゃないよね!?
ははは、ちょっとしたジョークですよ、山猫ジョークです。

どっと疲れたでしょう。後はお任せくださいませ。

誰のせいで……。
それから、普通にツボ押しマッサージが始まった。

適度な力で疲れが刺激され、とても気持ちよくなってくる――。


でもなんか、ちょっと相手方の体制が変なのか、背中にアレが……。

柔らかい感触が……あれ? そういうマッサージ?

Like_Ryuku

お客様、そういうの好きですよね?
…………。

ごめん、続けて。

色々疲れていたのもあって、否定する元気も湧いてこない。

どうせ誰も見ていないのだし……。

Like_Ryuku

お客様! お湯が湧きましたよ!
空気読んでえええええええ!!
◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

――ややあって、念願の秘湯に。

入ってみて最初に感じたのは、かなり微温に調整されているということ。

一般的な温泉だと肌が焼けてしまう私にとって、とても有り難いサービスだった。

香りもとても心地よく、気を抜くとこのまま寝てしまいそうだ……。

Like_Ryuku

はぁ……生き返る心地だわぁ……。
本当、良い湯加減だなぁ……。

いやぁ、私は良い若女将を持って幸せ者だよ。

えへへ、お湯加減の調整には自信があるんですよ!
おい従業員ども。
なんだとぉ? 私だって温泉に浸かりたいんだ!!
そうだそうだ! 会社員はとっくに定時上がりの時間なんです!
だからって客と一緒に入るパターンは流石に……。

ところで、このお湯の効用って何かしら?

こう……よう……?
一攫千金とか、慇懃無礼とか、そんな感じのアレがあるぞ。
適当すぎるでしょ……。
――まぁ、ひとりで入るよりは楽しいお湯だったことは、間違いない。

疲れが取れたかどうかは、別として。

Like_Ryuku

◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

はー、さっぱりした。

――あら? 自分の部屋ってどっちだっけ?

湯上がり、色々とアバウトな従業員と別れ、自室へと戻る途中。

――なんか、迷子った。というかこんな通路あったっけ?

Like_Ryuku

暗い、通路。

……何だか心細くなってきた。怖いし、一旦戻ろうとして――その帰り道すら、分からない。

やばい、嫌だ嫌だ。こんな訳わからない旅館で迷子になるなんて、最悪すぎる。

Like_Ryuku

確か、こっち――。
適当な階段を探し、下へ下へ。

あやふやに順路を探していくと、どんどん暗い通路に迷い込み――。

Like_Ryuku

――人が、吊られていた。

Like_Ryuku

な、何よここ……どうなってるの!?
みんな、湯当たりしてしまったんです。
――振り返ると、従業員二人が立っていた。

まるで、最初から私がここに居ることを――来ることを、分かっていたみたいに。

Like_Ryuku

お客様、そろそろチェックアウトの時間でございますよ。
えっ――?

ちょ、ちょっとまって!

こんな時間にチェックアウトだなんて、非常識にも程があるでしょう!?

お客様は、当館の企業秘密を知ってしまった。

――申し訳ありませんが、ご退場願います。

そ、そんな……。
――今まで楽しかった思い出は、楽しげだった旅館は。

一体……どこへ消えてしまったというの?



あるいは……全て、偽りだったというの?

Like_Ryuku

私の調合した秘湯に入った男の人は、みんな自ら首を吊ってしまうの。

でも、女性には効果が無い……もっとも、あなたは中性的だから、無意識にここまで歩いてきてしまったのね。

可哀想な人……でも安心して。

湯冷めする前に、介抱して差し上げますからね。

はは、、は……。

言ってる意味が分からない! こ、これも質の悪いジョークなのよね!?

許さないから……今更謝ったって、許さないんだから!!

またのご来館をお待ちしておりますにゃ
その時はじめて、女将の顔をちゃんと見た。

――その頭には、立派な猫耳が……どうして、気付かなかったのだろう。


最初から、全て仕組まれていたのだ――。

Like_Ryuku

◇ ◇ ◇

Like_Ryuku

やりました! これにて完結です!
――満足したかい?
えぇ、それはもう!
じゃあ、契約成立ってことで。
全く、理解に苦しむ1日だった。
おしまい。

Like_Ryuku

そこまで!

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介


「またのご来館をお待ちしておりますにゃ」



リピーターの途絶えた旅館女将

○山猫 名子(やまねこ なご)

性別:女



秘境にそびえるちっぽけな温泉旅館、山猫館の末代女将。

ここに泊まるものは極上のサービスが受けられるという噂。

――けれど、誰もここがどんな旅館であるか語るものの居ないという、曰く付きの旅館であった。

そんなミステリアスな曰くも口コミに乗りつつ、

怖いもの見たさに人々は訪れようとする。

もっとも、旅館は深い霧に包まれ、簡単には辿り着けない仕組みなのだが。


山猫家は見ての通り、ネコ娘の一族である。

一族代々女しか生まれず、人間の男と結婚しても必ずネコ娘の女しか生まれないという、独特の血が流れ継がれていた。


獣耳を持つもの、人と関わり持つことなかれ――。

先祖様の古い教えに従い、山奥の集落でひっそりと暮らしてきた由緒正しい猫一族であった。

子孫繁栄以外に人間の手を借りることなく、

一度結婚した人間ともすぐ縁を切るほど人間を毛嫌いしている。


――そのはずだったが、母は本気で人間に恋をしてしまい、

慣習を破って人間と関わりを持つようになってしまう。

旦那の力も借りて温泉旅館を建てると、人間のために尽くしはじめる。

名子は物心がつくまで、二人が幸せだと信じていた。


ある日、母が命を落とした。旦那の暴力によって。

彼女は日頃脅され、無理やり働かされていたのだ。

「おい、名子。バカな母の代わりに働きやがれ」

吐き捨てる父の喉元を、名子は強く噛み千切った。


一人になった名子は、山猫館の主を襲名するようになる。

人間を幸せにする代わりに、彼らを生きて帰さない――。

それが、山猫名子に与えられた復讐だった。




能力名:注文の多い温泉旅館

自分が対象に尽くす代わりに、対象を自分の言いなりにする能力。

催眠術の一種。相手が一番求めているものを探ることも出来る。

ギブアンドテイク。お代は命で結構。




戦う動機:人間に一矢報いるため。




イラスト:ジュエルセイバーFREE

作者:如月真琴



宿利湯乃(しゅくりゆの)

性別:女性

年齢:22歳

職業:他の旅館の女将見習い


設定:この女将の知り合いで女将を目指している女性。しかし、コミュニケーションスキルと温泉の調合以外のスキルはほぼ0に等しい。


能力:香る湯の花

温泉の調合に役立つ能力。なかなかの色女で香りがいい為、色々な男を虜にしてしまうこともある。虜になった男は悉く精神的に犯される。←色々な意味で……。女性には効果がない。本人は、自覚していない為、なかなか罪な女である。この能力のお陰で他の旅館の女将たちを困らせることも多々ある。


女将を目指す理由:女将に近づくため


作成者:鈴鹿歌音

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色