第3話(5)

エピソード文字数 1,955文字

 カー カー カー
 気を引き締めてから、およそ9時間が経過。公園にある時計が18時を示しても、敵は姿を見せない。

「そして……」
「「すぅ、すぅ、すぅ、すぅ」」

 魔王と勇者は、まだ起きない。
『ねえそろそろ代わって? 俺も眠たいんだよ』
 と告げても、揺すっても、ほっぺをムニュっと引っ張っても目覚めない。
 おかげで、俺の神経は衰弱。心身ともにボロボロだ。

「なんなの、コイツら……。どんだけ徹夜に弱いんだよ……」

 暑さ、昼ごはん抜きなんてお構いなし。まさに死んだように眠っている。

「すぴー、すぴー。黒船が放った睡眠弾にやられたぜよー」
「むにゃむにゃ……。あと47階昇れば、最上階(さいじょーかい)にいる睡魔さんを倒せるー……」

 台詞はよく分からんが、まだまだ寝足りないのは分かった。ってあれ? だとしたらこの台詞は、よく分かるんじゃないのか? よく分かんにゃーい。

「……いかん、オツムがヘンになってきてるな。2バカが作ったメモでも読んで、眠気を飛ばしますか」

 俺はジーパンのポケットから、4つに折り畳んでいるメモ用紙を2枚取り出す。
 これらの正体を発表しますと、中にあるのは『チェンジ・マナ』と『金硬防壁』の発動方法。なんでも、持ち主の死去あるいは心臓を食って能力を得た以外――俺のように得た場合は自動的に使い方がインプットされず、その時はこうやって教えないといけないそうな。

『??? なんで直接言わないんだ?』

 おっ。9時間ぶりだね謎の声。
 そうしている、理由はですね――。初代の英雄達は友人に究極奥義の使い方を教えていたら盗み聞きされ、勝手に広められて嫌な思いをしたから。はいバカですね。
 そのため盗み聞きされる心配がない紙でしか内容を伝えられないようになっており、ルールを破ると激痛で三日間は身動きが取れなくなるそうです。ええ超バカですね。

「使用法を覚えたら、戦わないといけなくなる気がして読んでなかったんだが……。スマホの電池も少なくなってきてるし、何より高確率で2人はドジを踏む。しっかりと自衛の方法を学んでおきましょう」

 俺は背筋を伸ばし、一枚目を開いてみる。
 え~と~。なになに~?


《お家に帰ってきたら、まずは洗濯物を取り込む。1階と2階にあるから、あたし忘れちゃいけないよっ》


 これ、注意書きじゃん。
 出発前に、レミアがセンターテーブルに置いてた紙。あれが、『チェンジ・マナ』の使い方だ。

「はぁ……。『金硬防壁』の方を、覚えるとしますか」

 フュルは一枚しか書いていないので、こっちは確実本物だ。
 ん~と。なになに~?


《こう叫べば、いつでも使えるきね! 合言葉はズバリ、『壁起動ぜよ!』》


 あの龍馬オタク、呪文に土佐弁を組み込んでやがる。故郷には申し訳ないが、これはダサいぜよ。

「初代、なんで合言葉だけは変更できるようにしたのさ……。アンタのせいで妙になってるし、真の英雄じゃないから俺は変えられないんだぞ――おや?」
《※『金硬防壁』は意外と肉体先生に負担がかかるき、普通の人間の師匠は一日三十分が限界やね。けど何があても三十分以内にワシらは駆けつけられるき、必配いらんぜよ。 》
「ぁぁぁぁ。誤字脱字を見たら、急激に眠くなってきた……」

 瞼が、重い。これ逆効果だ。

「…………しかし、俺が寝たら危険だかんな……。自動販売機でコーヒーを買ってこよう」

 俺は立ち上がり、ふらり。独りで公園から出る。

『お、おい優星! 単独行動はマズイだろっ!』

 安心ポイントその1。こっちには、おかしいくらい強力な『金硬防壁』がある。
 安心ポイントその2。魔王使いの契約があるため、俺だけ違う世界には行けない――敵が優星だけを運ぼうとしても、優星だけで『戦場空間』には行けない。
 安心ポイントその3。レミアが魔王使いの能力を知りたがり色々試した結果、なんとどこにいても――声が届かなくても、命令さえすれば応じてくれると判明した。つまり……英雄は元々『戦場空間』は察知できるのだが、『察知できずに眠ったままでいる』もしくは『奇跡的に俺だけを運べた』という意地悪極まりないパターンがあっても平気。
 謎の声よ。このようにケガをしない点が3つもある故、危なくないのでござる。

「ついでに言うと敵の狙いは色紙優星だから、爆睡組が不意打ちされはしない。レミアフュル、ちょっくら行ってくるね」

 俺はベンチにヒラヒラ手を振り、九時の方向に歩を進めはじめる。
 80メートルほど直進して右折したら、自販機があるからね。そこでブラックと、彼女達が起きた時用にスポーツドリンクでも買っておいてあげましょう。
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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