エピローグ

エピソード文字数 3,693文字

 シャンシャカシャンッ♪ シャンシャカシャンッ♪ シャンシャカシャンシャカシャンシャカシャンッ♪
 ピマ彦を警察に突き出したり着替えたり頃合いを見計らって合流したりして、現在は午後の7時過ぎ。俺は高知市内にある『高知中央公園(こうちちゅうおうこうえん)』という場所で、育月と『よさこい祭り』を見物していた。
 よさこい祭りとは勿論、鳴子を手に踊る高知の名物。毎年8月9日~8月12日まで開かれる全国的にも有名な行事で、最終日の今日は後夜祭(受賞チームなどが躍る、締めくくり)が行われている。

「いや~、何度聴いてもいいモンだよね。鳴子の音って」
「そうね。何度耳にしても、鳴子の音色は飽きないわ」

 レミア達には離れた場所で観てもらっているため、今の従妹は素。儚い系とは真反対に位置する声が、鼓膜に当たった。

「何回も来てるのに、気分が高まる。生は最高だわ」

 浴衣姿の育月はうちわで顔を扇ぎ、ゆっくりと会場を眺め回す。
 そうしている彼女は、やっぱり普通の15歳。ピーマン作りと遊ぶこととよさこいが大好きな、どこにでもいる女の子だ。

「ははっ、それを聞けて嬉しいよ。……お前が笑顔で楽しめてて、ホントのホントに嬉しい」

 毎年夏の休日は、買い物→海で遊ぶ→よさこい最終日を見る、となっている。やっぱしラストは一番満喫して欲しいから、こんな表情を見れると頬が緩んでしまうんだよね。

「色々あったから心配してたけど、上手くいってよかった。うん、よかったよ」
「…………ねえ、優星。その事なんだけど」

 ホッとしていたら、育月の黒目がこちらに向いた。

「アンタ、ヘンな男を捕まえた後どこに行ってたの? 警察署に行ってたとは思えないんだけど」
「ぁ~。えーと、ですね……」

 しまった。ついベラベラ喋ってしまい、マズイ展開になってきたぞ。

「ぁー、そのー……。その、ね………………。さ、再犯がないように、きつーく説教してたんだよっ。それで時間がかかったの」
「ふーん。じゃあさ」
「な、なに?」

 ドキドキドキ。次は、なにが待っているのでしょうか?

「あの、魅条魅里って人。そっちの地元の知人で、偶々観光に来てたそうね」
「そうそう、そうなんだよっ。奇跡的な偶然でした」

 魅条さん、上手く説明してくれたんだ。ナイスです!

「へぇー。そっちの地元の知人で、偶々、観光に、来てたんだ」
「……なに? なんでそんなに区切るの?」
「あの人はあの辺りに実家があって、里帰りしてたそうよ。あらぁ? どうなってるのかしら?」

 こっ、コイツ引っかけやがった! これまでどうにか誤魔化してきたけど、それも限界があったか……!!

「魅条って人の虹彩はカラーコンタクトで説明がつくけど、何度考えても拳銃で平然としてたのは妙。達人級に護身術を極めていても、あそこまでにはならないわよ」
「ぅ……」
「優星。アンタは、そうね。非日常的な体験でもしてるんじゃないの?」

 はい、そうでございます。認められないけど、正鵠を射てますっス。

「ねえ、どうなの? そうなんでしょ?」
「か、考え過ぎだってば。大体、非日常ってなんだよ~」
『ピマ彦のところに行って、爆弾で四苦八苦することだな』

 うっさい。出てくんなよ謎の声。

「非、日常? そんなのないってば~」
「ううん、あるわよ。スーパーの駐車場で起きた、あれとかがそう」

 ………………。
 だ、誰か。お望みの金額を払いますから、弁明のプロを呼んできてください。

「前の日のあの出来事は、現実。そうなのよね?」
「な、なにを仰る兎さんっ。ありゃ夢だよ夢っ」
「……はぁ、まだ知らんぷりをするのね。それなら……」

 そ、それなら? なにを、なさるんですか……?

「あれは、夢だった。そうしておくわ」

 育月は俺にデコピンをして、前を向いた。
 ぁ、ぁれ? あれ?

「ぇ? いく、つき?」
「優しさだけが取り柄の、アンタの事だからね。わたし達に、心配かけないようにしてるんでしょ?」
「………………」

 俺は、呆気に取られてしまい――。肯定も否定もできなかった。

「だったら、わたしは追及しない。そこまで空気が読めない女じゃないわよ」
「…………育月…………。助かるよ」
「ふん、寛大な従妹に感謝しなさい。と、いうわけで」

 育月はステージを見つめたまま、携帯電話を突き出してくる。

「その代わりに、ここに書いてる食べ物をあとで買いなさい。ほら確認するっ」
「はいはい。可愛い従妹様は、何をお食べになられるんでしょうかね」

 俺は、後ろ首を掻いて苦笑。軽く戯れてから画面に目をやってみた。


《あんぱん(一番高いヤツ)。
 リゾット(適当に、美味しそうなのを買え)。
 ガム(ミント系)。
 とりのから揚げ(小腹が空いた)。
 うどん(忙しい時わたしがよく食べてる、例のカップ麺)。 》


 ふむ。これなら、『帯屋町(おびやまち)』――近くの商店街にいけば、全て仕入れられるな。

「数があるから、しっかり確認しなさいよ。上からしっかりとね」
「ほいほい。全て揃えますよ」
「アンタは基本的にアホだから、不安ね。もう一度、上からしっかり確認しなさい」
「はいよー。上から、しっかりと確認いたしま――ぁ」

 上から…………上。《あんぱん。リゾット。ガム。とりのから揚げ。うどん。》の上の文字だけを読んだら、


 あリガとう――。ありがとう、になる。


「ああそうそう。急に、面白い話を思い出したわ」

 相変わらず、正面にあるステージを見たままで。育月は唇を開いた。

「ソイツは、去年のクラスメイトなんだけどね。そりゃあもう素直じゃないのよ」
「う、うん……?」
「昔から気に懸けてくれる人が居るんだけどさ、会ったら冷たく当たるんですって。いつも感謝してるのに」

 顔はずっと、前のまま。だけど少しの『緊張』を声に含ませ、舌を動かす。

「ソイツの為にスケジュールを合わせて来て、楽しませるために休日を計画する。ある大きなお祭りの最終日を最高の形で見られるようにって、そこに行く過程でも気を遣ってくれる。しかも別の時は、凶器を持った者から守ってもらった事もある。それなのに、気持ちを態度に表せないんですって」
「……うん」
「この間なんて、『殆ど他人』なんて言ったそうよ。自分が言われたら、相当傷ついてしまうのに」

 段々と、早口になっていく。まるで、この勢いを失ったら二度と語れないかのように。

「ほんとはソイツ、その人が大好きなんですって。ずっと家族でいて欲しい存在、らしいわよ」
「…………うん」
「だからいつか面と向かって言いたいそうなんだけど、ちっとも素直じゃないからね。いつもは食事でコッソリ伝えてて、今日は――ある時は回りくどい方法で、想いを伝えたんですって」
「…………そうだったんだ」

 そう、だったんだ。歓迎会の時、魚料理が『ウツボのステーキ』『カツオの天ぷら』『マヒマヒ(しいら)の南蛮漬け』――生が一つもなかったのは。帰省した際にも『生に近いモノ』さえも出なかったのは、偶々じゃなかったんだ。

「ソイツ、とことんバカでしょ? そんな形だと想いはちゃんと伝わらないのに、そういうやり方しかできないなんて」
「…………」
「ほんと、なにやってんだか。バッカみたい。……ってわたしが思ったっていうのが、面白い話よ。はい無駄話お仕舞い」

 最後は声を上擦らせてピリオドを打ち、彼女は団扇でパタパタ。少しでも手を休めるとオーバーヒートして倒れるんだってくらい、速く扇ぐ。

「………………ふぅ。それにしても、なんだか今夜は熱いわね。熱帯夜というやつかしら」
「…………」
「大豊は、どうなのかしらね? ピーマン、どうなってるのかしら」
「…………伯父さんおばさんが、面倒見てくれてる。それは大丈夫でしょ」

 やっと話せるようになったので俺も口を動かし、すぐに。次の台詞を放つ。

「――どんな形であれ」
「えっ?」
「どんな形であれ、想いを伝えられたのならさ。ちゃんと全部届いていて、その人は嬉し泣きしそうになってると思うよ」

 こうなったら、今日はこちらも特別。数回目元を擦った俺は、育月をそっと抱き寄せた。

「なんでかわからないけど、こうしたくなっちゃったんだ。よさこい祭りが終わるまで、こうさせてよ」
「……まったく、意味不明なヤツね。でもまあ、大サービスで許可してあげるわ…………兄貴」

 俺達は静かに言葉を交わし、以降はレミア達と合流するまで会話をしなかった。


 ――結局、俺らが二人きりで話したのは僅か数分――。


 だけど、俺達の記憶には鮮明に残っている。この夏が終わっても――何年何十年経っても、薄れることさえないだろう。
 元気よく動き回る踊り子さんの姿と、蒸し暑い空気を貫く鳴子の音色と、

 兄と妹の、互いの想いと身体のぬくもりは。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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