4夜

文字数 1,382文字

 啓蒙の光は脅威ではありますが、悪いことばかりではありません。


 彼の家は立派なマンションでした。リビングのテレビ横にはオーディオ機器がずらりと勢揃いしています。クラシック音楽を愛好する父親のおかげで、良い音で映画を鑑賞することができるそうです。趣味に没頭することに理解があって助かると、彼は言います。
 ソワソワしながら、自室へと案内してくれました。
「ごめん、片付けたんだけど」
 父親のお下がりのモニターとオーディオとソファを中心に、ブルーレイからビデオテープまで、様々な映画の記録媒体が詰め込まれた部屋でした。彼の頭の中そのものです。
「配信でも観れないものってまだいっぱいあってさ」
 と彼が必死になって言い訳しています。
「夢が詰まってていい部屋だと思うよ」
 彼は電気を消し、再生ボタンを押しました。
『プレイアース』
 とても友好的な宇宙人がやってきて、星間条約が結ばれ、交流が始まります。
 宇宙人たちは人間とその文化に興味津々。技術的に優れた彼らは、母星の文化で地球人の文化を壊さないように配慮しつつ、人間を研究しています。
 そんな彼らは野球に夢中になります。いわく、こんな奇天烈でエキサイティングなゲームは初めてだと。
 彼らはオーナーに憧れ、かつてのスター選手を再現した本人そっくりの人型(シュミプレ)によるチームで、オールスターゲームやチャリティーマッチに参加しました。
 夢のような試合に地球人は熱狂し、彼らもまた、一層野球の虜となりました。
 しかし、冷静な彼らに芽生えた野球への情熱の高まりは、自ら制定した規則を破ってしまう結果になりました。故人に限るとした人型(シュミプレ)のルールに我慢がならなくなったのです。
 そして、MVPを獲得したばかりの選手が事故死します。
 違和感を覚えた記者も、次の日にはすっかり疑惑を忘れてしまいます。
 彼らのもたらした恩恵は大きく、人々には彼らの罪は見えません。
 観客だけが、何かが起こったことを知っています。
 幸せな光景の中に隠された、拭いがたい汚点。
 胸の隅々までざわめきが広がる印象深い映画でした。
 私はそっと袖を握り込みます。
「侵略されているわけじゃないのに、全面戦争を仕掛けてくる相手と同じくらい怖いね」
 振り向くと、その顔が見たかったと言っているかのように彼が目を輝かせています。
「そう、ほんと。全編が快晴のシーンで撮ってるのがすごい効果を出してる。心の中にだけ現れる闇を撮っているっていうか。似たような場面に見えるけど、クレッシェンドのように心に迫ってくるシーンの連続なんだ。宇宙人がやってきて、国連を通して地球と交流を始める大きな話から始まって、観客のごくごく身近まで迫ってくるんだ。宇宙人はよくできた親みたいな存在でさ。でも、欲望を抑えられない時もあって。しかも人は皆平等、みたいな倫理が通用しないっていうか、適応できるのかわからない存在なんだ。あまりに最初のコミュニケーションがスムーズすぎて、問題を見逃してしまったんだ。相手はこっちを研究して、文化的差異をよくわかってから交渉に臨んでいたから、こっちからはギャップを把握しずらいんだ」
「まだうまくまとまらないけど、なんかすごかった」
「ね! 宇宙人とか地球外からのモンスター映画を撮ってきたチームなんだ。企画が通らなくなって、暴力的じゃないストーリーを考える中で生まれたらしいよーー」
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