ルシファーと副王たち

文字数 2,135文字

最近の学校というやつはほとんど生徒が登校してこねえ。
新校舎の方はまだマシだがこっちの旧校舎はほぼ全滅だ。
学校には来ないで街で悪さばかりしてるらしい。
世の中全体が「この世の終わり」って騒ぐから勉強なんざバカらしくてやってられねえんだろう。
限られた飲料やら食料は国の統制することになった。
こうなってくるといよいよ押し込みやら強盗が多発する。
他にも放火や殺人、強姦とあんまりにも多いもんだから警察も手が回らねえ。
人間は狂ったように我先に自身の安全を図った。
つまり他人から奪うってことだな。
もともと狂ってた人間が更に狂っちまったわけだ。
いや。
これが人間本来の自然な姿なのかもな。


学校を早めに切り上げて帰る途中に血を流して倒れてる奴、警官数人と争ってる連中を見た。
ただでさえ治安が悪い街が無法地帯さながらにになっていた。
「おかえり。友達来てるから部屋にあげといたよ」
家に帰るとお袋がカウンターのキッチンで洗い物をしながら言った。
「おお。サンキュー」
礼を言うとお袋が咳きこんだ。
嫌な咳だ。
「大丈夫かよ?」
「大丈夫だよ。ここんところちょっと調子悪いだけさ」
そういや顔色も良くねえな……
「今日くらい店休めよ」
こんな御時勢でまだ営業しようなんて俺のお袋ながら見上げた根性だと思う。
だが、おかげで俺も家を空けられねえのがネックだ。
「バカ言ってんじゃないよ。貧乏暇なしだよ」
「だったら俺がカウンターに立ってるから上で寝てろって。最近はここらも物騒なんだから丁度いいじゃねえか」
「あんたみたいな無愛想なの一人でカウンターに立たせてたら気になって眠れないって」
「そりゃあそうだな……」
「それに酒も食品もみんな統制されてんだから手に入るうちは稼がなきゃね」
なるほどね。
妙に納得すると二階にある俺の部屋に行った。
「おかえりなさい。ルシファー様」
「おう」
部屋にはマルコシアスとリリスがいた。
「どうしたんだよ?二人そろって」
「副王達が話したいって言ってるわ」
「なにっ」
地獄にいる、俺を補佐する地獄の副王達。
おそらくはこの前のマリアの波動を感知したんだろう。
地獄にいても地球(エデン)のことは見ることも感じることもできる。
「ベルゼブブが代表で話したいって。今繋げる?」
「ああ。いいぜ」
マルコシアスに部屋のドア側に行くように促すと床に座った。
リリスが空間を撫でるように円を描く。
すると真っ黒い穴がぽっかりと開いた。
中で赤黒い炎が噴き上がる。
地獄とつながった。
「ルシファー。お久しぶりです」
「よお。元気そうじゃねえか」
炎を纏ったベルゼバブが現れた。
炎のようにゆらめく銀髪。
氷のように冷たい瞳が笑っている。
「我々も確認できましたよ。新たなる“主”の御力を。どうですか?我々の宇宙創造は?」
「さあな」
無愛想に答えてかた煙草をくわえた。
「あれは偶然発動しただけだ。今はもとに戻ってさっぱりだ。宇宙を創造するどころか空も飛べねえよ」
「なんと……」
「まあ、一度目覚めたんだから時間の問題だろう。そう辛気臭いツラするなよ」
「ミカエルの方は?あちらに取り込まれるようなことは?」
「大丈夫だろう」
ベルゼバブが無言で俺を見た。
「どうした?」
「変わりましたね。地獄にいたときとは雰囲気が違う」
「そうか?」
「万が一、ミカエルの側に取り込まれた場合は地獄を地球(エデン)にぶつけようと副王全員の意見が一致しました」
「なんですって!?」
リリスが後ろで声を上げた。
「万が一のときは俺がかたをつける。余計な世話はいらねえよ」
ベルゼバブは返答しない。
代わりに口の端をつり上げて目を細めた。
「我ら一同、吉報をお待ちしていますよ」
笑顔を見せると赤黒い炎の中に消えていった。
リリスが繋がった穴を閉じる。
「地獄を動かすなんて…… 勝手なことを!」
そして俺を見る。
「どうするの?前に言ってた秘策みたいなのはまだ使わないの?」
「ああ」
そんなもん本当はないんだけどな。
そうでも言っておかねえとリリスは何するかわかったもんじゃねえ。
「そういえばよう」
リリスを見た。
「オマエってなんで悪魔になったんだ?」
「えっ」
「だって散々、天使どもにアダムのところに戻るように言われたんだろう?楽園からなんでわざわざ地獄に来るんだ?」
「それは…… 私はアダムとは合わないし、あなたの方がウマが合いそうだったからよ。あんな箱庭みたいな世界より地獄の方が楽しそうじゃない」
「なるほどね……おまえは?なんで俺に従って主に反逆した?」
今度はマルコシアスに聞いた。
「いや、俺はルシファー様が主に反逆した理由に同調したからですよ」
「ふうん…」
「どうしちゃったんッスか?」
「なんでもねーよ。それよりだ」
タバコを灰皿に押し付けながらリリスとマルコシアスに言った。
「おまえら二人、この店手伝えよ」
「「ええっ!?」」
「どうせ暇だろ?」
二人は顔を見合わせてから半ば合点がいかない顔をしてうなずいた。
女手もいるし雑用係もいるし、これでお袋の奴も少しは寝てられるだろう。
これで店の問題はクリアだ。

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