願い、或いは
文字数 989文字
君に逢えて良かった。たとえどんな境遇でも、これは幸せのカタチをしている。
方々彷徨い、拒絶の中。どこにも居場所は無かった。このまま迷子でいい、そう覚悟したのに、道が導くまま右脚を前へ。次は左脚を。
「今度こそ」
つまらない言葉が伴走をやめず、意志の無い旅は続く。出口は何処。ゴールは何処。棄権する権利はあるの? 続ける資格は、あるの? 明日を望む勇気が欲しい。
気づけば隣に君がいた。ずっと願っていたけれど、決して叶えきれない夢。諦めて、願って、救われて、嫌気がさして。
『ずっと見てたよ』
光らない太陽も有るのだと知った。君が照らすは袋小路。その眼差しが語るのは夢の先。
決めた。君と一緒に行くよ。夢の終わりまで。
***
「その願い事は、いつから?」
君は聞いた。あまりに難しい質問に苦笑いが浮かぶ。だって。
「覚えていません」
願いは音もなく忍び寄り心に巣食う。そしていつもそこにいたのだと言い張る。故にうたた寝のように曖昧な始まりの境界線。終わりはあんなにも色濃いのに。
君は笑って言った。
「そう。それは幸せなことだね」
「どういう意味ですか?」
「願いは、明日を照らしてくれる。何がしたいか、問い詰めてくる。そして今日を、有意義にしてくれるから」
私にとって、それは否。願いは落胆を意味する禁忌。熱せられた炭火のようにじんわり長く温め続け、覚める頃に痛み出す火傷の跡。冷めた炭は粉々になり足元を囲う堀の中へ。
私にとってそれは、熾したくない夜標。
君は続けた。
「もう、忘れられなくなったね」
敢えて聞かないことにする。
「何をですか」
答えは分かりきっていた。胸の奥で解放しろと訴える言葉。このまま願い続けろと懇願する答え。
だけどもう、始まっている。諦めという名の解毒剤が廻り、君の言葉を薄め遮る。
「ずっと見てたよ」
嘘。
「幸せなことだね」
否。
「忘れられなくなったね」
……それは。
諦め、それが私の唯一の防具。仕方ない、さよなら。ごめんなさい、さよなら。願った私が悪いのだから。
諦め、それは私にとって或いは希望。
「今度こそ」
どれほど真剣に願っても、どれほど長く向き合っても、何より大事に想っても、希望への片想いで終わる。故に希望は諦め、或いは禁忌。
今度は趣向を変えて、見続けようと思います。終わりが待つ夢を、君の隣で。
そうすれば、ようやく得るかもしれません。希望を持たずに済む強さを。
「ずっと、見ていてくださいね」