第11話『ロバの頭の衣装係』
文字数 2,415文字
アダムとニックによると、今朝リクが目を覚ました部屋は、汽車の4号車にある上級寝台110号室という部屋らしい。
この蒸気機関車の内容としては、1号車に最上級寝台 があり、そこには部屋が3つ──ロイヤルスイートが1つに、スイートが2つ。
2号車と4号車が上級寝台。それぞれ6つずつの計12室あり、そこにアントワーヌ以外の従業員が、寝泊 まりしているらしい。
「じゃあ、トニはどこで寝てるの? 」と聞くリクに、アダムが不機嫌そうに鼻を鳴らして、「決まってんだろ! スイートルームだよっ! くそ」と口汚く答えた。
3号車が、先程リクたちがポーカーをしていた、食堂室。5号車にシャワー室。6号車は倉庫。
「倉庫にはあまり近寄りたくはないな」
ニックはげっそりとした顔で言う。
「どうして? 」
リクの問いに、ニックはそのままの表情で、「酷 い有様 なんだ」と答えた。
「ニックが倉庫室に壁を打って、廊下を作ってくれたんだけどよ。それまではサロンに行くのに、みんなでガラクタを飛び越えてたんだぜ」
アダムはリクにそう説明し、ニックには「まじで助かったぜ」と感謝の言葉を贈 った。
「まあ、壁の中はまだ グチャグチャ だけどなあ」
探検好きのリクは、それを聞いて、倉庫がどんなものなのか、寧 ろ興味を持ってしまった。
「さぞかし、たくさんのガラクタがあるんだろうね! 」
そう聞くリクに、アダムとニックは声を揃えて、「そりゃあ、もう! うんざりするほど! 」と答えた。
7号車がサロン室。リクがこの汽車に来て、最初に寝かされていた、立派なグランドピアノがある部屋だ。
「“サロン”って? 」
「そうだなあ。簡単に言えば、 社交場 だな。ここでは従業員や客関係なく、みんなで世間話をしたり、時には酒を飲んだりしているな。まあ、リクの年齢では、酒はまだ早いが」
ニックはそう言って、大きな手で、リクの肩を ポンポン と叩 いた。
8号車が下級寝台。ここはこの汽車に宿泊している客のためにあるという。
「お客様はふつう、良い部屋に泊めるものじゃないの? 」
リクはびっくりして尋 ねた。するとアダムが、チッチッと首を振りながら舌を打った。
「この汽車に乗客してくるお客人は、大抵が、妖精や幽霊といった類 の奴らなんだ。そいつらは一時的にしかこの汽車にいない。いつの間にか乗車してきていて、いつの間にか下車してるんだ。だから、良い部屋を渡しても、掃除の手間が増すだけだろ? それだけ、お客人の入れ替えが激しいんだよ」
リクは目を真ん丸くして、「妖精と幽霊がお客様⁉ 」と驚いた。
9号車が冷蔵室。ここでは約2か月分の食料や飲料を貯蔵している。
「意外とストックが無いんだね」と言うリクに、アダムが溜息を吐 いて、「本当なら1年分は入ってるんだ。うちには大食 らいがいんだよ」と言った。
リクはニックを見上げた。が、その視線に気がついたこの大男は「俺じゃないぞ! 」と必死に否定した。
そしてこの汽車の末端、10号車は電源車 となっている。名前の通り、この汽車の電気の全てを支えている、重要な場所だ。
「ここは定期的な点検が必要なんだ」アダムが言った。
「じゃあ技師がいるって訳だね! 」
「そうそう」
リクの言葉にアダムが頷 いて、肘 でニックを突 いた。
「ニックが? 」
「こいつは最高の技師だぜ。な、ニック? 」
誇 りに満ちたアダムの表情に、ニックは照れくさそうに頬 を掻 きながら、「そうでもないさ。たまたま、分かるってだけだ」と言った。
ところでリクたちは、食堂室から2号車に出て、いちばん奥の部屋の前に辿り着いた。
「ここがメル──“メル=ファブリ”の部屋だ」
アダムが扉を指差して言った。
「ちなみに言っておくが、メルはまあまあ変わってるっていうか、なんていうか──」
「ファブリさんは、妖精なんだ」
アダムの言葉をニックが引き継いで言った。
「妖精! 」
リクが思わず言ったのを、アダムが横目に睨 んで、「いつまで驚いてんだよ。リーレルたちも見てんだろ」と冷たく言った。
「で、でも、まだその。慣れてなくって」
「慣れろよ」
リクの言い訳を、アダムはうんざりした顔で遮 って、「とにかく、メルは俺たちとはちょっと違うから、驚いてやんねえでくれ。良い奴なんだからさ」と言い、「先に行って挨拶 してくる」と扉を開けて入って行ってしまった。
扉の前に残されたリクは、ニックの顔を見上げた。そこには、ニックの温かい焦げ茶色の瞳が待っていた。
不安そうなリクの表情に気がついたニックは、まるで子供を扱う様に、リクの頭を撫 でると、白い歯を見せて笑った。
「アダムはあんなことを言っていたが、リクのペースでゆっくり慣れていってくれればいいんだ。それに──」と、そこまで喋 って、ニックは、今度はクスクスと音を立てる様な、違う笑顔になった。「アダムも、いや、あいつに至っては本当に憶病 でな。最初の頃は、リーレルたちにでさえ悲鳴を上げて失神してたんだ。しかも毎回。笑えるだろ? 」と言った。
「あのアダムが? 」リクは信じられない! と言う様に、首を横に振ったが、ニックは大きな体を小刻みに震わせながら、「あのアダムがだ」と言った。
「あのアダムが! 」
リクは、ツンとした顔のアダムが、情けなく悲鳴を上げて、ドッテーンと床に倒れる様 を想像して、ニックと同じ様にお腹を抱えて笑った。
すると、今まできっちりしまっていた扉がガラリと開き、そこから当のアダムがニュッと不機嫌な顔を覗 かせた。
その顔を見たリクとニックは、はっとして口を結んだが、アダムに、「何ニヤけてんだよ」と叱 られてしまった。
しかしアダムもそれ以上は言及せずに、部屋の方を振り向くと、リクに、「紹介するぜ。当汽車の衣装係、“メル=ファブリ”先生だ! 」と言った。
リクは、アダムの視線の先を見て、息を飲んだ。
「えっ……」
そこにいたのは、何と、ロバの頭をした小人だったのだ!
この蒸気機関車の内容としては、1号車に
2号車と4号車が上級寝台。それぞれ6つずつの計12室あり、そこにアントワーヌ以外の従業員が、
「じゃあ、トニはどこで寝てるの? 」と聞くリクに、アダムが不機嫌そうに鼻を鳴らして、「決まってんだろ! スイートルームだよっ! くそ」と口汚く答えた。
3号車が、先程リクたちがポーカーをしていた、食堂室。5号車にシャワー室。6号車は倉庫。
「倉庫にはあまり近寄りたくはないな」
ニックはげっそりとした顔で言う。
「どうして? 」
リクの問いに、ニックはそのままの表情で、「
「ニックが倉庫室に壁を打って、廊下を作ってくれたんだけどよ。それまではサロンに行くのに、みんなでガラクタを飛び越えてたんだぜ」
アダムはリクにそう説明し、ニックには「まじで助かったぜ」と感謝の言葉を
「まあ、壁の中はまだ グチャグチャ だけどなあ」
探検好きのリクは、それを聞いて、倉庫がどんなものなのか、
「さぞかし、たくさんのガラクタがあるんだろうね! 」
そう聞くリクに、アダムとニックは声を揃えて、「そりゃあ、もう! うんざりするほど! 」と答えた。
7号車がサロン室。リクがこの汽車に来て、最初に寝かされていた、立派なグランドピアノがある部屋だ。
「“サロン”って? 」
「そうだなあ。簡単に言えば、 社交場 だな。ここでは従業員や客関係なく、みんなで世間話をしたり、時には酒を飲んだりしているな。まあ、リクの年齢では、酒はまだ早いが」
ニックはそう言って、大きな手で、リクの肩を ポンポン と
8号車が下級寝台。ここはこの汽車に宿泊している客のためにあるという。
「お客様はふつう、良い部屋に泊めるものじゃないの? 」
リクはびっくりして
「この汽車に乗客してくるお客人は、大抵が、妖精や幽霊といった
リクは目を真ん丸くして、「妖精と幽霊がお客様⁉ 」と驚いた。
9号車が冷蔵室。ここでは約2か月分の食料や飲料を貯蔵している。
「意外とストックが無いんだね」と言うリクに、アダムが溜息を
リクはニックを見上げた。が、その視線に気がついたこの大男は「俺じゃないぞ! 」と必死に否定した。
そしてこの汽車の末端、10号車は
「ここは定期的な点検が必要なんだ」アダムが言った。
「じゃあ技師がいるって訳だね! 」
「そうそう」
リクの言葉にアダムが
「ニックが? 」
「こいつは最高の技師だぜ。な、ニック? 」
ところでリクたちは、食堂室から2号車に出て、いちばん奥の部屋の前に辿り着いた。
「ここがメル──“メル=ファブリ”の部屋だ」
アダムが扉を指差して言った。
「ちなみに言っておくが、メルはまあまあ変わってるっていうか、なんていうか──」
「ファブリさんは、妖精なんだ」
アダムの言葉をニックが引き継いで言った。
「妖精! 」
リクが思わず言ったのを、アダムが横目に
「で、でも、まだその。慣れてなくって」
「慣れろよ」
リクの言い訳を、アダムはうんざりした顔で
扉の前に残されたリクは、ニックの顔を見上げた。そこには、ニックの温かい焦げ茶色の瞳が待っていた。
不安そうなリクの表情に気がついたニックは、まるで子供を扱う様に、リクの頭を
「アダムはあんなことを言っていたが、リクのペースでゆっくり慣れていってくれればいいんだ。それに──」と、そこまで
「あのアダムが? 」リクは信じられない! と言う様に、首を横に振ったが、ニックは大きな体を小刻みに震わせながら、「あのアダムがだ」と言った。
「あのアダムが! 」
リクは、ツンとした顔のアダムが、情けなく悲鳴を上げて、ドッテーンと床に倒れる
すると、今まできっちりしまっていた扉がガラリと開き、そこから当のアダムがニュッと不機嫌な顔を
その顔を見たリクとニックは、はっとして口を結んだが、アダムに、「何ニヤけてんだよ」と
しかしアダムもそれ以上は言及せずに、部屋の方を振り向くと、リクに、「紹介するぜ。当汽車の衣装係、“メル=ファブリ”先生だ! 」と言った。
リクは、アダムの視線の先を見て、息を飲んだ。
「えっ……」
そこにいたのは、何と、ロバの頭をした小人だったのだ!