第1話

文字数 469文字

 能條次郎が死んだ。

 大勢の目の前で。
 有毒なシアンライプ化合物を摂取した際の独特のにおいを漂わせながら床に臥して動かなくなり、三〇分ほどが経過しただろうか。現場にいた者がひとりも欠けることなくこの場に留まっているのは、参列者の中に筒鳥署の警察官がいたからだ。もし警察官がいなかったら、混乱を極めて、参列者の多くは会場の外へでてしまっていただろう。
〝参列者〟――そして〝会場〟という呼びかたをしたのは、現場となった〈筒鳥ホワイトスタジオ〉で、内藤有輝のお別れ会が行われていたからだ。
 内藤は、近々デビュー一〇周年を迎える四人編成のロックバンド〈デッサンゼブラ〉のギタリストだったが、先月上旬に交通事故に遭って急死した。
 会場として選ばれた〈筒鳥ホワイトスタジオ〉は〈デッサンゼブラ〉がデビューライブを行った思い出深いホールであり、会には内藤の知人や音楽関係者が参列していた。

 その場で、能條は死んだのだ。
 突然、
 苦しみながら床に臥して。

 能條もまた〈デッサンゼブラ〉のメンバーであり、彼はボーカルを担当していた。
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