大工の親方と奥さん

文字数 734文字

 翌日、十日に一度の船で、天の子どもは青年のもとを後にしました。

 着いたのは見知らぬ町です。

 天の子どもは、ぽいっと船から降ろされました。

 行く当てなどありません。

 とりあえず、自分にできることはないかと、天の子どもは仕事を探しましたが、何もみつかりませんでした。

 雨が降ってきました。

 夕方の空はどんよりと暗く、冷たい夜を待つばかりです。

 天の子どもは、雨宿りしようと、民家の軒先に(たたず)みます。

 おなかがへってきました。
 天の子どもは、へなへなとその場に座り込みました。

「俺んちの前で何やってる?」

 ひざを抱えて座り込む天の子どもに、誰かが声を掛けました。
 天の子どもが顔を上げると、そこには、いかつい顔の男が立っていました。
 返事の代わりに、天の子どものおなかがぐーっと鳴りました。

「……おめぇ、腹へってんのか?」

 天の子どもが黙ってうなずくと、男は戸を開け、家の中に向かって叫びました。

「母ちゃん! メシだメシ! じゃんじゃん出してくれ!」

 天の子どもは家の中に迎え入れられました。

 乾いた服を与えられ、食卓につかされた天の子どもの目の前に、ずらっとごちそうが並びます。

「あんた旅の人だろう? 遠慮するなよ。旅人には親切にするもんさ。自分や自分の大事な人が旅に出た時、誰かに助けられることもあるだろう。こういうのはお互い様なんだ」

 天の子どもはぺこりと頭を下げると、目の前の料理をぺろっとたいらげてしまいました。

「あらあら気持ちがいい食べっぷりねぇ」

 男の隣で奥さんがからっと笑います。

 男は大工の親方をしていました。

 大工の親方は、天の子どもが行く当てもないとわかると、大工仕事を手伝うよう勧めました。

 こうして天の子どもは大工見習いとして働くことになりました。
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